2024 Volume 88 Issue 5 Pages 106-111
A theorem of creep strengthening was derived from two axioms of creep for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr-X (X = Nb, Ta, Mo, W) solid solutions on the basis of internal stress concept. The general equation describing the minimum creep rate can be divided into two terms: one term is determined by the creep testing condition and the other term with no dimensions represents the creep strength. In the core-mantle model in dislocation creep, the central core region sustains the internal stress during creep and the peripheral mantle region along grain-boundaries is free from the internal stress. The creep strength for the polycrystalline solid solutions is improved by the enhancement of core intensity and core fraction. The strengthening techniques in high-temperature creep for the polycrystalline solid solutions rely on this simple principle: Enhancing core region renders a material stronger.
多結晶鍛造Ni基超合金は,高温強度および耐酸化特性に優れた高温構造用材料として,航空機用ジェットエンジンおよび火力発電用ガスタービンにおける構成部材として,広く使用に供されている1).近年では,これに加え,環境負荷低減を目的として,先進超々臨界圧火力発電プラントにおけるボイラー管2-4),および,自動車用ターボチャージャーにおけるタービンホイールにまで5),その用途を拡大している.一般的なγ-γ′型鍛造Ni基超合金において,高温強度は,Ni-20 mass% Crを基本組成とするγ母相中における固溶強化,および,高温安定なγ′-Ni3(Al,Ti)相による析出分散強化,により支えられているものと理解されている6-12).鍛造Ni基超合金の高性能化において,クリープ強度の向上は工業的に重要であるのに対し,クリープ強化に向けての合金設計哲学は十分に確立していない.
クリープ強度を評価する指標の1つとして,内部応力(σi)が挙げられる13,14).クリープ試験における負荷応力(σa)の中で,σiはクリープ変形に寄与しない応力成分として定義される.これに対し,σaの中でクリープ変形に寄与する応力成分は有効応力(σe)と称される.すなわち,σa,σiおよびσeの間には式(1)の関係が成立する.式(1)を「内部応力の定義式」と称することとする.
\begin{equation} \sigma_{\text{a}} = \sigma_{\text{i}} + \sigma_{\text{e}} \end{equation} | (1) |
引張クリープ試験機を用いてσiを測定する手法として,ひずみ遷移応力急減試験法(the strain-transient stress-reduction test)が挙げられる15-19).この試験法では,クリープ試験中にσaの中で一部の応力を瞬間的に急減し,応力急減後のひずみ速度を計測する.急減する応力が小さい場合,急減後のひずみ速度は正となり,急減する応力が大きい場合は急減後に負のひずみ速度を示す.応力急減後のひずみ速度が0となる時,急減した応力はクリープ変形に寄与する応力成分でありσeとみなされる.この時,クリープ試験機に残存している応力は,クリープ変形に寄与しない応力成分でありσiとなる.ひずみ遷移応力急減試験法によって実験的に急減できる応力の範囲は,0 MPaより大きくσa以下である.このため,測定されるσi値の範囲は0 ≦ σi < σaとなる.
本研究は,多結晶Ni基超合金のクリープ強化に向けての指針を与えることを見据えて,γ母相を模擬した多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体について,クリープ強度を支配する原理を明らかにすることを目的とする.ここで,5族元素(Nb, Ta)および6族元素(Mo, W)は,γ母相における固溶強化を意図して多結晶Ni基超合金中に高い頻度で添加される20).本研究では最初に,① 5族元素および6族元素を固溶限内で添加したγ単相の多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体についてσiおよびσeに関する公理(議論の前提となる命題)を明確にする(第2章).次に,②公理と定義を起点として議論を展開することによりクリープ強化の定理(公理や定義から導出される命題)を導き出す(第3章).そして,③クリープ強化の原理に基づいて多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体におけるクリープ強度を定量的に評価する(第4章).
本章では,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体について,過去に実施されたσiおよびσeに関する研究を再検証し,σiおよびσeにおける公理を提示する.
2.1 有効応力の公理γ単相の多結晶Ni-20 mass% Cr-X(X: Nb, Ta, Mo, W)固溶体において,最小クリープ速度($\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$)とσeの間に,線形的な関係が成立することが実験的に明らかにされている.中島は,結晶粒径(d)を約200 µmとしたγ単相のNi-20 mass% Cr-X(X: Nb, Ta, Mo, W)固溶体について,温度1073-1273 K,応力15-100 MPaにおいてクリープ試験を行い,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を示す時点において,ひずみ遷移応力急減試験法によりσiを系統的に調査した21,22).中島が実験に供した8種類のNi-20 mass% Cr-X固溶体における合金組成を,溶体化熱処理条件および結晶粒径とあわせてTable 1に示す.なお,X = Nb, Ta, Mo, WにおけるXの最大添加量は,溶体化温度におけるγ母相中へのXの固溶限内において,可能な限り大きくとるように企図している.
結果として得られた,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$とσeの関係をFig. 1に示す22).1173 Kにおいて得られた40個のプロットは,固溶元素Xの有無,Xの種類,および,Xの添加量によらず1本の直線で整理され,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$とσeの間には式(2)に示す関係が成立する.また,1273 Kにおける8個のプロット,および,1073 Kにおける6個のプロットも,1173 Kの場合と同様にそれぞれ同じ傾きを有する1本の直線で整理される.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = C\,\sigma_{\text{e}}{}^{n} \end{equation} | (2) |
ここで,Cは温度に依存する定数,nは材料系に依存する定数であり,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体の場合にn = 4となる.多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体において「$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$はσeの4乗に比例する」という命題が成り立ち,これを「有効応力の公理」と称することとする.
Plots of $\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ vs. σe for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr-X (X = Nb, Ta, Mo, W) solid solutions with the grain diameter of approximately 200 µm (black symbols), where the creep tests were carried out at temperatures between 1073 and 1273 K22). The data for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr-3.25 mass% Mo solid solution with the grain diameters between 20-200 µm at 1073 K are included (red symbols)24,25).
1073-1273 KにおけるC値をFig. 1から読み取り,これをまとめたものをTable 2に示す.d ≈ 200 µmとした多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体において,Cの単位はs−1 MPa−4となる.1073 Kから1273 Kまで温度が増加するのに伴い,C値は2.41 × 10−12から8.81 × 10−11 s−1 MPa−4まで単調に増加することが見て取れる.
内部応力の概念に基づいて,クリープ強度のd依存性を説明したモデルとして,転位クリープにおけるコア・マントルモデルが広く知られている23).寺田は,dを20-200 µmの範囲にて6段階に調整したγ単相の多結晶Ni-20 mass% Cr-3.25 mass% Mo固溶体について,温度1073 K,応力29.4 MPaにおいてクリープ試験を行い,各dの$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を示す時点において,ひずみ遷移応力急減試験法によりσiを調査した24,25).$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$のd依存性を説明するにあたり寺田が提案した,転位クリープにおけるコア・マントルモデルの概念図をFig. 2に示す24,25).このモデルでは,1つの結晶粒はコア領域とマントル領域から構成されると考える.ここで,結晶粒の内部に位置するコア領域は,クリープ中にσiを保持することができる領域と定義される.これに対し,結晶粒界近傍のマントル領域は,σiを保持することができない領域と定義される.また,マントル領域の幅(δ)は1.5 µmとなる.
Schematic illustration showing the core-mantle model in dislocation creep24,25). In the model, a grain consists of the core and mantle regions. The central core region sustains the internal stress during creep, while the peripheral mantle region along grain-boundaries is free from the internal stress. The width of the mantle region is denoted as δ.
d ≦ 3 µmではコア領域は存在せず,σi = 0 MPaとなる.d > 3 µmにおいて,コア領域の体積率(f(core))は,直径(d − 2δ)の球体の体積を,直径dの球体の体積で除することにより,式(3)にて与えられる.
\begin{equation} f_{\text{(core)}} = \left(1 - \frac{2\delta}{d}\right)^{3} \end{equation} | (3) |
各dにおけるσiをf(core)に対して整理したものをFig. 3に示す24,25).なお,転位クリープにおけるコア・マントルモデルでは,σiを保持することができるのはコア領域のみであり,このためf(core) = 0においてσi = 0となる.σiとf(core)は,原点を通る1本の直線で整理され,式(4)にて与えられる比例関係が成立することが見て取れる.
\begin{equation} \sigma_{\text{i}} = \sigma_{\text{i(core)}}f_{\text{(core)}} \end{equation} | (4) |
ここで,σi(core)はFig. 3に示すようにf(core) = 1.0における内部応力であり,コア領域における内部応力に相当する.すなわち,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体において「σiはf(core)に比例する」という命題が成り立ち,これを「内部応力の公理」と称することとする.
Plots of σi vs. f(core) for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr-3.25 mass% Mo solid solution with the grain diameters between 20 and 200 µm, where the creep tests were carried out at 1073 K under a stress of 29.4 MPa24,25). The value of f(core) is derived from the equation; $f_{\text{(core)}} = (1 - \frac{2\delta}{d})^{3}$, where d is the grain diameter and δ is the width of the mantle region.
本実験により求めた,dを20-200 µmの範囲にて6段階に調整した多結晶Ni-20 mass% Cr-3.25 mass% Mo固溶体における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$-σeのデータを,Fig. 1中に赤いプロットにて示す.温度1073 Kにおいて得られた6つのプロットは,d ≈ 200 µmの多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体により得られた1073 Kにおける直線上に位置する.この結果から,式(2)に示す関係は,d ≈ 200 µmの時だけでなく,dが20-200 µmの範囲において成立するものといえる.
本章では,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体について,「内部応力の定義式」および「有効応力の公理」を起点として議論を展開し,クリープ強化の定理を導出する.まず,式(1)を式(2)に代入することにより,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を与える式として式(5)が得られる.なお,Fig. 1に示すようにn = 4である.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = C(\sigma_{\text{a}} - \sigma_{\text{i}})^{4} \end{equation} | (5) |
ここで,Cの自然対数(Table 2に示す)を,絶対温度(T)の逆数に対してプロットしたものをFig. 4に示す.1073-1273 Kの3温度におけるCの自然対数は,1/Tに対し1本の直線で整理され,その傾きからクリープの活性化エネルギー(Qc)は204 kJ/molと見積もられる.この値は,Niの自己拡散の活性化エネルギー(285 kJ/mol26))に比べ28%小さいのに対し,Ni中におけるCrの相互拡散の活性化エネルギー(201 kJ/mol27))に極めて近い.このように,Cは熱活性化項$\exp(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT})$を含むことから,式(6)のように表記される.
\begin{equation} C = A\exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right) \end{equation} | (6) |
ここで,Aは材料定数,Rは気体定数である.式(6)を式(5)に代入すると式(7)となる.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = A\exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right)(\sigma_{\text{a}} - \sigma_{\text{i}})^{4} \end{equation} | (7) |
Plots of ln C vs. 1/T for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr solid solutions. C is the constant in the equation; $\dot{\varepsilon}_{\text{m}} = C\,\sigma_{\text{e}}{}^{4}$, where $\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ is the minimum creep rate and σe is the effective stress.
「内部応力の公理」に基づいて,式(7)中のσiに式(4)を代入すると,式(8)が得られる.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = A\exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right)(\sigma_{\text{a}} - \sigma_{\text{i(core)}}f_{\text{(core)}})^{4} \end{equation} | (8) |
式(8)において,σaを括弧の外に出すことを企図して式(9)とし,
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = A\exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right)\left\{\sigma_{\text{a}} - \sigma_{\text{a}}\left(\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}}\right)f_{\text{(core)}}\right\}^{4} \end{equation} | (9) |
これを経て式(10)が得られる.これが,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を表記する一般式である.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = A\,\sigma_{\text{a}}^{4}\exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right)\left\{1 - \left(\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}}\right)f_{\text{(core)}}\right\}^{4} \end{equation} | (10) |
式(10)中の$A\,\sigma_{\text{a}}^{4}\exp(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT})$は,材料系に依存するパラメータ(A, Qc),クリープ試験条件(T, σa)および気体定数(R)から構成される.したがって,クリープ試験条件を定めれば,$A\,\sigma_{\text{a}}^{4}\exp(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT})$は定数となる.
多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を表記する式(10)は,クリープ試験条件により定まる定数項$A\,\sigma_{\text{a}}^{4}\exp(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT})$,および,クリープ強度を示す無次元項$\{1 - (\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}})f_{\text{(core)}}\}^{4}$,から構成される.無次元項の中に含まれる$(\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}})$およびf(core)は,共に0から1の範囲の値を呈する.同一のクリープ試験条件において,より低い$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を得るためには,σi(core)のσaに対する比として与えられるコア領域の強度$(\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}})$を高め,あわせて,コア領域の体積率f(core)を高める,ことが必要となる.以上の結果から,「クリープ強度はコア領域の強度と体積率を高めることにより上昇する」という命題が,「クリープ強化の定理」として導出される.このように,クリープ強化は,「Enhancing core region renders a material stronger」という原理に従う.
本章では,「クリープ強化の原理」に基づき,クリープ強度について定量的な評価を行う.多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を与える式(10)において,f(core)は式(3)により与えられ,この結果として式(11)が得られる.
\begin{equation} \dot{\varepsilon}_{\text{m}} = A\,\sigma_{\text{a}}^{4} \exp\left(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT}\right)\left\{1 - \left(\frac{\sigma_{\text{i(core)}}}{\sigma_{\text{a}}}\right)\left(1 - \frac{2\delta}{d}\right)^{3}\right\}^{4} \end{equation} | (11) |
式(11)において,クリープ試験条件によって定まる定数項$A\,\sigma_{\text{a}}^{4}\exp(-\frac{Q_{\text{c}}}{RT})$は,Ni基合金における標準的な使用温度である温度1173 K,および,降伏応力以下の低い応力である負荷応力30 MPaの場合を例にとると,1.31 × 10−5 s−1と見積もられる.
クリープ強度に及ぼすコア領域の強度と体積率の影響を定量的に評価するために,δを1.5 µmとした時の$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$を,式(11)に基づいて,σi(core)およびdに対して計算した.その結果をFig. 5に示す.σi(core)は0-29.5 MPaの範囲について,また,dは1-104 µmの範囲について,評価を行っている.なお,d ≦ 3 µmの領域では,結晶粒はすべてマントル領域となるため,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$は一定としている.多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$は,σi(core)またはdが小さい時に10−5 s−1オーダーの高い値を示す.$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$はσi(core)およびdの増加に伴い単調に減少し,σi(core)およびdが共に高い領域において,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$は1.0 × 10−11 s−1以下と6桁以上も低い値を示す.
Three dimensional diagram of $\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ against σi(core) and d for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr solid solutions crept at 1173 K under a stress of 30 MPa.
Fig. 5において,σi(core)が一定となるx断面における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$とdの関係,および,dが一定となるy断面における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$とσi(core)の関係を,Fig. 6(a)およびFig. 6(b)にそれぞれ示す.σi(core) = 5-29 MPaにおける$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$-d曲線(Fig. 6(a))を見ると,σi(core) ≦ 15 MPaではdの増加に伴う$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の減少幅は1桁程度以下と小さい.これに対し,σi(core) ≧ 20 MPaではdの増加に伴う$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の減少幅は拡大し,σi(core) = 29 MPaにおいてdの増加に伴う$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の減少幅は6桁となる.d = 10-300 µmにおける$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$-σi(core)曲線(Fig. 6(b))を見ると,d = 10 µmではσi(core)の増加に伴う$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の減少幅は1桁以下と小さい.これに対し,d ≧ 100 µmではσi(core)の増加に伴う$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の減少は,高σi(core)側において顕著となる.
$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ vs. d (a) and $\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ vs. σi(core) (b) for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr solid solutions crept at 1173 K under a stress of 30 MPa.
Fig. 5を上部方向から見下ろした時における$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の等高線図を,Fig. 7に示す.σi(core)およびdが共に高い領域において見られる$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の低い領域(谷)は,y軸と平行な方向に伸長していることが見て取れる.Fig. 7に示す$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$の等高線図から,多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体の場合,σi(core)がσaの半分に相当する15 MPa以下では,dを数百µmにまで高めても,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$は10−6 s−1オーダーにまでしか低下しない.これに対し,σi(core)をσaの80%を超える25 MPa以上にまで高めると,dを数百µmとすることにより,$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$は10−8 s−1オーダー以下にまで急激に低下することが見て取れる.σi(core)を高めることは,クリープ強度を高めるための必要条件であるといえる.
Contour map of $\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$ against σi(core) and d for the polycrystalline Ni-20 mass% Cr solid solutions crept at 1173 K under a stress of 30 MPa.
本論文では,γ単相の多結晶Ni-20 mass% Cr-X(X = Nb, Ta, Mo, W)固溶体における,有効応力および内部応力に関する公理に基づいて,クリープ強化の定理を導出した.有効応力の公理は「最小クリープ速度は有効応力の4乗に比例する」,また,内部応力の公理は「内部応力はコア領域の体積率に比例する」という命題としてそれぞれ与えられる.最小クリープ速度を表記する式は,クリープ試験条件により定まる定数項,および,クリープ強度を示す無次元項,に明確に分離できる.無次元項に着目することにより,「クリープ強度はコア領域の強度と体積率を高めることにより上昇する」という命題が,クリープ強化の定理として導出される.クリープ強化は,「Enhancing core region renders a material stronger」という原理に従う.多結晶Ni-20 mass% Cr系固溶体における最小クリープ速度を,コア領域における内部応力(σi(core))および結晶粒径(d)に対して定量的に評価した.σi(core)およびdが共に高い領域において最小クリープ速度の低い領域(谷)が存在し,谷はd軸と平行な方向に伸長する.σi(core)を高めることは,クリープ強度を高めるための必要条件である.
定数
C定数
d結晶粒径
f(core)コア領域の体積率
n最小クリープ速度の有効応力指数
Qcクリープの活性化エネルギー
R気体定数
T絶対温度
δマントル領域の幅
$\dot{\varepsilon}_{\text{m}}$最小クリープ速度
σa負荷応力
σe有効応力
σi内部応力
σi(core)コア領域における内部応力