2024 Volume 88 Issue 9 Pages 210-215
Freeze-dry pulsated orifice ejection method (FD-POEM) is a promising approach of fabricating spherical refractory alloy or composite powders for laser powder bed fusion (L-PBF). However, due to the weak particle strength induced by their intrinsic pore characters, the FD-POEM powders were likely crushed during the powder recoating process. Taking MoSiBTiC alloys as an example, in this work, plasma spheroidization (PS) treatment was utilized to strengthen the FD-POEM powders. The MoSiBTiC powders were completely melted and rapidly solidified during PS, leading to the evolution of mesh-pore to a fully dense structure. Correspondingly, the PS powders displayed an increased sphericity of 0.98, while showing a significantly decreased particle size of 53.1 µm. Moreover, the laser absorptivity of PS powder was reduced because of the decreased multiple reflections via the smooth powder surface. Microstructure evaluations illustrated that the PS MoSiBTiC powders mainly consisted of the elemental (Ti, B, and C)-supersaturated Mo phase, as well as small amounts of Mo5SiB2, TiC, and Mo2B, indicating the occurrence of in-situ alloying during PS. Furthermore, the internal and inter-particle microstructures of PS powders were highly homogeneous, attributing to the uniformly dispersed elemental powders of FD-POEM powders. The results of this work suggest that the combination of FD-POEM and PS is an effective approach of fabricating refractory powders for L-PBF.
Mater. Trans. 64 (2023) 1119-1124に掲載
高温下で優れた機械的特性を有する耐熱性金属間化合物は,多くの産業分野での利用が期待されている[1, 2].MoSiBTiC合金は,高い融点と高温下での優れた機械的特性を有していることから,航空宇宙産業への応用が期待される耐熱材料の1つである[3, 4].しかし,鋳造や粉末冶金といった従来の手法では,実用的な複雑形状の耐熱部品を製造することは困難である.この点で,積層造形(Additive manufacturing: AM)はこれらに代わる有効な手法と考えられている[5, 6].レーザ粉末床溶融結合法(Laser powder bed fusion: L-PBF)はAM技術の1つである[7, 8].L-PBFプロセスは,レーザを用いて粉末を局所的に溶融,凝固させ,1層ずつ3次元構造を作製する手法である[9].従来の製造方法と比較すると,L-PBFは複雑な構造を直接製造できること,製造にかかる時間を大幅に短縮できることに加え,幅広い金属,合金に適用できることなど,多くの利点がある[10-13].L-PBFは,複雑形状の耐熱性金属間化合物を作製する新たな手法として注目されている[14, 15].
L-PBF造形体の品質は,造形条件と粉末特性に大きく影響されることが知られている.造形条件がL-PBF造形体の気孔率,微細組織,機械的特性に及ぼす影響は広く研究されている[7-10].しかし,粉末特性の影響については未だ解明されていない点が多い.粉末特性は,粉末床の質,溶融池の状態,完成した造形体の品質に影響を及ぼすと考えられている[5, 16-19].そのため,L-PBFには球状で適切な粒子径を持ち,十分なレーザ吸収性を示す粉末が求められる[16, 20, 21].L-PBFに用いられる粉末は,主にガスアトマイズ法[22-25],水アトマイズ法[22, 26],プラズマ回転電極法[27, 28]によって作製される.しかし,耐熱性金属間化合物は融点が高いため,これらの従来の手法を用いて粉末を作製することは困難である.近年,MoSiBTiC粉末を製造するための新しい技術が研究されている.Zhouら[5, 29]は,L-PBF用のMoSiBTiC粉末を高エネルギーのボールミル処理と篩い分けによって作製した.しかし,プロセス中に混入したZrO2と粉末の低い流動性が原因となり,造形体内部に欠陥が存在していた.Higashiら[30, 31]は,鋳造材を粉砕して作製した粉末にプラズマ球状化処理(Plasma spheroidization: PS)を行うことで,サテライトのない球状MoSiBTiC粉末を作製した.しかし,鋳造粉末の化学組成が不均一だったため,粒子ごとに異なる微細組織が形成された.
我々のグループでは,原料を溶融させずに複合材料や耐熱性金属粉末を作製する手法として,凍結乾燥パルス圧力印加オリフィス噴射法(Freeze-dry pulsated orifice ejection method: FD-POEM)という新たな粉末作製法を考案した[21, 32, 33].FD-POEMにより作製した粒子は均一な元素分布,狭い粒度分布,高いレーザ吸収率を示す.しかしながら,FD-POEM粉末はメッシュ状の多孔質構造であることから強度が低く,粉末を敷設する際に容易に破壊する.そこで本研究では,FD-POEM粉末を強化するため,PS処理の超高温急冷プロセスを利用した.PS処理が粉末の形態,粒度分布,化学組成,レーザ吸収率に及ぼす影響を調べた.また,PS処理中のFD-POEM MoSiBTiC粉末の微細組織の変化についても調査した.
MoSiBTiC粉末の作製にはFD-POEM法を用いた[32].原料粉末には,d50がそれぞれ1.0 µm, 0.57 µm, 4.3 µm, 0.67 µmのMo, Si, MoB, TiC粉末を用いた.これらの粉末の分量は,65Mo-5Si-10B-10Ti-10C(mol%)の公称モル組成を用いて決定した.原料粉末を濃度が10 vol%となるように脱イオン水に加え,273 Kで超音波を用いて十分に分散させた.その後,スラリーをオリフィスから噴射し,液体窒素中に滴下した.最後に凍結乾燥を行い,球状MoSiBTiC粒子を得た.
2.2 FD-POEM粉末のPS処理PS処理のキャリアガスには,体積比8:1のAr/H2混合ガスを用いた.ガスの流量は45 L/min,プラズマ出力は35 kWとした.酸化のリスクを低減するため,得られたPS FD-POEM粉末をキシレン中で超音波洗浄した.
2.3 評価作製した粉末の外観を,光学顕微鏡および画像操作ソフトウェア(WinROOF, 三谷商事㈱)を用いて観察・解析を行った.また,粉末の微細組織を走査型電子顕微鏡(SEM; JSM-6010 LV, 日本電子㈱),透過型電子顕微鏡(TEM; HF-2000EDX, ㈱日立製作所)および電子プローブマイクロアナライザー(EPMA; JXA-8530F, 日本電子㈱)を用いて観察した.粉末のレーザ吸収率を,紫外可視近赤外分光光度計(V-670, 日本分光㈱)を用いて測定した.粉末の相構造を,X線回折法(XRD; D/Max-2550 PC, ㈱リガク)を用いて解析した.
Fig. 1(a)にFD-POEMによって作製された球状MoSiBTiC粒子の外観を示す.粉末の真球度は~0.94と高い値を示した.また,Fig. 1(b)に示すように,FD-POEM粉末の粒度分布は狭く,ガウス分布に従っていた.粒径を測定した結果,d10, d50, d90の値はそれぞれ82.2 µm, 115.7 µm, 154.9 µmであった.

(a) SEM image and (b) particle size distribution of the MoSiBTiC powders produced by FD-POEM.
Fig. 2およびFig. 3の粉末表面および断面SEM像が示しているように,FD-POEM粉末はメッシュ多孔質構造を有していた.Fig. S1に示すように,メッシュ孔の特徴はX線CT画像でさらに確認された.FD-POEM粒子の体積と原料粉末の実際の体積から気孔率を計算した結果,90.51%と求められた[32].このようなメッシュ状の多孔質構造は,FD-POEMプロセス中に氷の結晶が生成し,それが昇華することで形成された[32].多孔質粉末は強度が低いため,外観観察を行っている最中に破壊した.そのため,Fig. 1(a)に白い矢印で示すような小さな粒子の破片を観察した.Fig. 2(b)に示すように,Mo, Si, Ti元素はFD-POEM粉末の表面に均一に分布していた.これは,調製したスラリー中に原料粉末が十分に分散していたためである.

(a) SEM image of a FD-POEM powder; (b) the enlarged view and corresponding EDS mappings taken from the red box in (a).

(a) Low- and (b) high-magnification cross-sectional SEM images of the FD-POEM powders.
Fig. 4(a)に示すように,PS粉末の真球度は0.98とFD-POEM粉末よりも高い値を示した.また,ガスアトマイズ粉末にしばしば見られるサテライト粒子は存在しなかった.さらに,PS処理後は粉末表面が滑らかになり,表面起伏が多い粉末はほとんど存在していなかった.Fig. 4(b)はPS粉末の粒度分布を示しており,FD-POEM粉末と同様に狭いガウス分布に従っていた.d10, d50, d90, はそれぞれ38.2 µm, 53.1 µm, 76.4 µmであり,PS処理により粒子径が減少することがわかった.

(a) SEM image and (b) particle size distribution of the PS MoSiBTiC powders.
PS粉末の体積は90.33%減少し,PS処理中にFD-POEM粒子が高密度化したといえる.FD-POEM粉末の気孔率は実験の条件により変化するため,PS粉末の粒径は噴射方法やスラリー濃度を変えることで制御できる可能性がある.
Fig. 5に示すPS粉末のSEM像およびEDSマッピングから,Mo, Ti, Siは粉末表面に均一に分布していることがわかり,FD-POEM粉末の均一な元素分布(Fig. 2)が有効に働いたと考えられる.

(a) SEM image of a PS MoSiBTiC powder, and corresponding EDS mappings of elemental (b) Mo, (c) Ti, and (d) Si.
Fig. 6にPS MoSiBTiC粒子の断面画像を示す.多孔質のFD-POEM粉末がPS処理によって完全に緻密化したことがわかる.これは,FD-POEM粉末が高温(3000-10000 K)のプラズマを通過した際,瞬時に融解した後に表面張力によって球形に収縮することで,急冷(~106 K/s)中に緻密な構造になったと考えられる[34].このような緻密な粉末を作製することで粉末の強度が大幅に向上し,L-PBFのリコーティングにおいて均一に粉末を敷設することが可能になると考えられる.

(a) Low- and (b) high-magnification cross-sectional SEM images of the PS MoSiBTiC powders.
さらに,急速な温度変化を伴うPS処理を行ったにも関わらず,ほとんどのPS粉末の内部には目視できるマイクロクラックは存在していなかった.また,内部に気孔が存在する粉末は僅かであった.さらに,PS粉末の内部および粒子ごとの微細組織は非常に均一であり,これは機械的な粉砕とPS処理により作製した粉末とは異なっていた[30, 31].これは,破砕によって作製した粉末と比較してFD-POEM粉末の組成が均一であることに起因している.
3.3 PS MoSiBTiC粉末のレーザ吸収率Fig. 7(a)にFD-POEM粉末とPS MoSiBTiC粉末のレーザ吸収率を示す.PS粉末のレーザ吸収率はλ = 1070 nmで72.2%であり,FD-POEM粒子(~87.1%)よりも小さかった.これは,粉末の表面状態が変化したためである.Fig. 7(b)の模式図で示すように,FD-POEM粉末内部の多孔質部でレーザの多重反射が起こり,その結果吸収できるレーザの量が増えたと考えられる.一方,PS粉末の平滑な表面ではレーザがすぐに外部に反射してしまい,吸収できるレーザの量が減少したと考えられる.しかしながら,72.2%のレーザ吸収率は,L-PBFによる金属部品の積層造形に十分な値であるといえる.

(a) Laser absorptivity of the FD-POEM and PS MoSiBTiC powders; (b) the schematic of different laser absorptivity between FD-POEM and PS powders.
Fig. 8にFD-POEM粉末とPS MoSiBTiC粉末のXRDパターンを示す.PS粉末の主成分はMo(JCPDS#42-1120),少量のMo5SiB2(T2)(JCPDS#65-8686),Mo2B(JCPDS#25-0561),およびTiC(JCPDS#65-5408)であり,原料であるMoBとSiのピークは観察されなかった.この結果は,PS処理中の超高温プラズマによって原料粉末がその場合金化したことを示唆している.

XRD pattern of the FD-POEM and PS MoSiBTiC powder.
Fig. 9(a)にPS MoSiBTiC粉末の高倍率SEM-後方散乱電子(BSE)像を示す.PS粉末は主に明るいコントラストの粗大領域(赤色矢印),暗いコントラストのナノ粒子(黄色矢印),微細な共晶組織(緑色矢印)から構成されており,Fig. 9(b)に示すEPMA分析の結果から,それぞれMoリッチ,Tiリッチ,Siリッチであることがわかった.TEMを用いて詳細に微細組織を分析した結果をFig. 10に示す.制限視野電子回折(SAED)パターンから,Mo-リッチ相,Si-リッチ相およびTi-リッチ相はそれぞれMo相,T2相,TiC相と同定された.

(a) High-magnification BSE image and (b) corresponding elemental EPMA mapping of the cross-section of the PS MoSiBTiC powder.

TEM image of the PS MoSiBTiC powders. Inserts show the SAED patterns of Mo, T2 and TiC phases taken from the red, green, and yellow spots, respectively.
T2相,TiC相の含有量は鋳造MoSiBTiC合金のものよりはるかに低かった.これは,PS処理の急速な凝固段階において非平衡の(Ti, B, C)過飽和固溶体が形成されたためである[30, 31].さらに,TiC相の大きさは~100 nmであり,原料TiC粉末の粒径(~670 nm)よりも小さかった.この結果は,耐熱性のTiC粒子が溶解,析出し,PS粉末中にナノTiC粒子が分散したことを示唆している[29, 33].
PS処理がFD-POEMで作製したMoSiBTiC粉末の粉末特性と微細組織に及ぼす影響を調査した.以下に結論をまとめる.
(1) FD-POEM粉末はPS処理中に完全に溶融/凝固し,高密度化した.その結果,粉末のd50は115.7 µmから53.1 µmに減少し,真球度は0.94から0.98に増加した.さらに,FD-POEM粉末中に原料粉末が均一に分布していたことで,PS粉末の内部および粒子ごとの微細組織は非常に均一であった.
(2) PS処理により,粉末のレーザ吸収率は波長1070 nmにおいて87.1%から72.2%に低下した.
(3) XRD,SEM,EPMAおよびTEMによる解析の結果,PS MoSiBTiC粉末は主に(Ti, B, C)が過飽和に固溶したMo相,少量のT2相,TiC相,Mo2B相で構成されており,PS処理中にその場合金化が起きたことを示唆している.
以上の結果から,FD-POEMとPS処理の組み合わせは,MoSiBTiC粉末を作製する効果的な手法であるといえる.
本研究の一部は,JST-MIRAIプログラム(助成番号:JPMJMI17E7)およびJSPS科研費プログラム(助成番号:JP22H05272)の助成を受けた.また,EPMAおよびTEM分析において技術協力をいただいた東北大学の小林耕成博士および宮崎隆道博士に謝意を示す.

The X-ray CT images of a MoSiBTiC particle. The dark areas inside the particle were pores.