Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
Online ISSN : 1880-6880
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ISSN-L : 0021-4876
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Effects of Grain Size and Tensile Direction on Strain Rate Sensitivity of Tensile Properties in Pure Titanium Cold-Rolled Sheet
Hidenori TakebeKohsaku Ushioda
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2025 Volume 89 Issue 1 Pages 132-141

Details
Abstract

ASTM grade 1 titanium sheets with the strong TD-split type basal texture and grain sizes ranging from 9 to 152 µm were subjected to tensile tests at tensile speeds ranging from 0.1 to 100 mm/min to investigate the strain rate dependency, while considering anisotropy. The yield and flow stresses at each strain level increased proportionally with the logarithm of the strain rate. The slope of these proportionalities, namely, the strain rate sensitivity index of m decreased with increasing grain size and tensile angle to rolling direction, θ. However, in the high-strain region, the larger the grain size, the higher the index m. Meanwhile, uniform elongation decreased with an increase in strain rate except for a θ value of 90°, where uniform elongation was roughly constant. However, the highest uniform elongation was observed in relatively large grain-sized specimens when θ changed from 0° to 45°. There was an average reduction in local elongation with increasing strain rate and grain size; however, an inversed trend was observed with increasing grain size in specimens with a grain size of 9—36 μm when θ was 45°.

1.緒言

純チタン冷延薄板は他の金属材料に比べて比強度が高く,耐食性にも優れることから航空機,熱交換器,自動車の排気系などの部品や建材などに広く用いられている.また,近年では燃料電池セパレータなどの水素関連設備でもニーズが高まっている.これらの用途では薄板の成形加工から使用中までに様々なひずみ速度での変形が発生する.例えば,成形加工においてはひずみ速度10-1-102/s程度で変形が加えられ,自動車の衝突時には102/sを超える速度で変形が生じている.このように,材料は幅広いひずみ速度で変形にさらされることから,材料強度や延性のひずみ速度依存性を把握することは構造設計および材料選定において非常に重要である.

引張特性に着目すると,ひずみ速度依存性に関する研究は種々の金属材料で行われている[1-17].ひずみ速度103/s程度までは流動応力がひずみ速度の対数に比例することが知られている[1-6].また,クリープ変形の構成式と同様に,流動応力をひずみ速度のべき乗則で整理している報告も多い[7-10].一方,103/sを超えるような高ひずみ速度域では,低ひずみ速度域での関係から外れて流動応力が急激に増加しており,これは律速過程が低ひずみ速度域での林立転位の切り合いにおける熱活性化過程から格子振動(フォノン)や伝導電子の散乱による粘性抵抗に遷移するためと理解されている[1112].すなわち,転位はフォノンや伝導電子との相互作用を有するが,転位の移動速度が遅い(ひずみ速度が遅い)場合には林立転位間の移動に要する時間よりも林立転位を通過するための待機時間の方が圧倒的に長く,林立転位の通過,すなわち転位の熱活性化過程に律速されると考えられる.一方,高ひずみ速度域では林立転位を通過するための待機時間に対して,林立転位間の移動に要する時間を無視できず,その結果フォノンや伝導電子の散乱による転位の移動抵抗の寄与が高まり,特異なひずみ速度依存性を示す.このことから,高ひずみ速度域に関する研究も多くなされている[4, 5, 10 11 13-15].

純チタン薄板の引張特性に着目すると,Huangら[16]は,ひずみ速度が大きいほど応力は増加し,全伸びも増加する結果を示している.Zhengら[10]は,結晶粒径が小さいほどひずみ速度依存性が小さいことを報告しているが,板厚50 μmの箔を用いた研究であるため板厚と結晶粒径の相対値と関連するサイズ効果の影響を考慮する必要がある.他にも純チタン薄板での報告はある[6, 9, 15, 17].さらに,一般的な純チタン薄板では集合組織が発達するため,ひずみ速度依存性に面内異方性を考慮する必要あるが,ひずみ速度依存性に及ぼす結晶粒径と面内異方性の両方を考慮した報告は,著者らの知る限りにおいてない.

そこで,本報では低ひずみ速度範囲を対象として,引張特性のひずみ速度依存性,さらにはそれに及ぼす結晶粒径と面内異方性の影響を明らかにすることを目的とした.

2.実験方法

2.1 供試材

板厚4 mmの工業用純チタンJIS1種熱延板(Fe: 0.028%,O: 0.058%,C: 0.007%,N: 0.004% %: mass%)を出発材に,まず冷間圧延で板厚2.5 mmとし,大気中で700℃,5 minの中間焼鈍を行った.その後, ショットブラストおよび3%HF+5%HNO3水溶液による酸洗によって脱スケールし,さらに,板厚0.5 mmまで冷間圧延を行った.これらを,結晶粒径の調製のために580-800℃,1 h,Arガス中放冷の真空焼鈍を行い,冷却時の残留応力差を解消するために追加で500℃,1 h,炉冷の真空焼鈍を行った.

2.2 組織観察

組織観察は,板面法線方向(ND: Normal Direction)と圧延方向(RD: Rolling Direction)に垂直な板幅方向(TD: Transverse Direction)から光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscopy)を用いて行った.SEM観察は日本電子㈱製JSM-7000Fを使用し,電子線後方散乱回折(EBSD: Electron Back Scattering Diffraction)による結晶方位解析を行った.EBSD測定は,加速電圧15 kV,ステップサイズ0.2-3 μm,倍率200-500倍で板厚0.5 mm×圧延方向長さ0.5-14 mmの領域で行った.観察試料はエポキシ樹脂に埋め込み,#120-#1500のエメリー紙によって湿式機械研磨を施し,その後,コロイダルシリカ懸濁液を用いた機械化学研磨を行った.最後に,3%HF+5%HNO3水溶液で腐食して,観察に供した.

2.3 引張試験

引張試験には,㈱島津製作所製5 kNオートグラフを使用した.引張試験片はJIS13Bサブサイズ試験片(平行部幅6.25 mm,平行部長さ32 mm,標点間距離25 mm)とし,圧延方向と引張方向のなす角θが0°,45°および90°となるように採取した.また,引張速度を0.1-100 mm/minとし,破断まで試験を行った.この時の均一変形中のひずみ速度は,約5×10-5〜10-2 /sであった.

3.実験結果

3.1 ミクロ組織

Fig.1に焼鈍後の光学顕微鏡写真を示す.いずれもα単相の等軸組織であり,焼鈍温度が高いほど粗粒であった.結晶粒径は約9 μm(580℃焼鈍)から約152 μm(800℃焼鈍)の範囲に制御できた.

Fig. 1 Optical micrographs of pure titanium sheets, annealed at (a)580°C, (b)660°C, and (c)800°C.

Fig.2に焼鈍後の(0001)極点図を示す.いずれもα相のc軸がNDからTDに傾いたSplit-TD型のBasal(B)-textureであった.しかし,粗粒の方が強く配向しており,粒成長に伴って集積度が増したと考えられる.Fig.3に結晶粒径36 μm材の各引張方向におけるIPFを示す.引張方向の主方位は,θ=0°では⟨$ 2\bar{1}\bar{1}0 $⟩.θ=45°では⟨$ 130\bar{1}\bar{3}11 $⟩,θ=90°では⟨$ 110\bar{1}\bar{1}14 $⟩となっていた.

Fig. 2 (0001) pole figures of pure titanium sheets, annealed at (a)580°C, (b)660°C, and (c)800°C.(online color)
Fig. 3 Inverse pole figures of tensile direction of pure titanium sheet with grain size of 36 μm. (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.(online color)

3.2 降伏応力および降伏点伸びのひずみ速度依存性

まず,本報では引張特性のひずみ速度依存性をLindholmらが報告[4]した式(1)で評価した.なお,べき乗則での整理においても同様の傾向が得られることを確認している.

  
\begin{equation} \sigma = \sigma_0 + m \cdot \log \dot{\varepsilon} \end{equation}(1)

ここで,σは降伏応力および流動応力,σ0は単位ひずみ速度1 /sでの応力,mはひずみ速度感受性指数,$ \dot{\varepsilon} $はひずみ速度である.

Fig.4に降伏応力とひずみ速度との関係を示す.降伏応力は,不連続降伏をした結晶粒径9 μm材および12 μm材では下降伏応力を,連続降伏した粗粒材では0.2%耐力とした.いずれの結晶粒径,引張方向においてもひずみ速度と降伏応力は高い相関を示し,ひずみ速度の増加に伴い降伏応力は増大した.Fig.5に,式(1)のひずみ速度感受性指数mおよび単位応力σ0の結晶粒径および引張方向依存性を示す.mおよびσ0は,引張方向θに関係なく,ばらつきはあるが,結晶粒径が大きいほど小さくなった.また,引張方向θが大きいほど大きくなった.なお,参考までにべき乗則で整理した場合のmTable1に示す.Fig.5と比較すると,各引張方向において結晶粒径および引張方向依存性は定性的に一致している.

Fig. 4 Relationship between the yield stress and the logarithm of the strain rate along tensile directions of (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.
Fig. 5 (a)Strain rate sensitivity, m and (b)unit stress, σ0 in eq. (1) for yield stress as a function of grain size.
Table 1 Strain rate sensitivity exponent of yield stress in the case of power law expressed by d(logσ)/d(log$ \dot{\varepsilon} $).

Fig.6に結晶粒径9 μm材の応力-ひずみ曲線を示す.細粒材では降伏点伸びが確認され,降伏点伸びは,ひずみ速度が速いほど減少した.この傾向は,引張方向θによらず確認された.

Fig. 6 Nominal stress–strain curves of the pure titanium sheet with the average grain size of 9 μm at tensile speeds of 0.1–100 mm/min and tensile directions of (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.

3.3 流動応力および引張強度のひずみ速度依存性

Fig.7にひずみ量5%,Fig.8にひずみ量20%および30%での流動応力とひずみ速度の関係を示す.なお,3点以上のデータが得られない結晶粒径の結果は未記載とした.両図から,流動応力はひずみ速度の対数と良好な直線相関を示していたが,ひずみ量が大きくなると直線性が悪くなった.

Fig. 7 Flow stress at a strain of 5% as a function of the logarithm of the strain rate and tensile directions of (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.
Fig. 8 Flow stresses at strains of 20% and 30% as a function of the logarithm of the strain rate along tensile directions of (a) 0° and (b) 45° with respect to the rolling direction.

Fig.9に流動応力のひずみ速度感受性指数mとひずみ量の関係を示す.ひずみ量10%未満ではθによらず,mは結晶粒径が小さいほど大きくなった.しかし,ひずみ量10%以上では結晶粒径が大きいほど大きくなり,結晶粒径依存性が逆転した.このことから,mはひずみ量,および結晶粒径の組み合わせによって挙動が変化することがわかる.参考までに,Table2に結晶粒径91 μm材を代表例にしてべき乗則の場合のmを示す.Fig.9と比較すると,各引張方向において結晶粒径および引張方向依存性は定性的に一致している.

Fig. 9 Strain rate sensitivity, m in eq. (1) as a function of true strain along tensile directions of (a) 0° and (b) 45° with respect to the rolling direction.
Table 2 Strain rate sensitivity exponent of flow stress at each strain in pure titanium sheet with grain size of 91 μm in the case of power law expressed by d(logσ)/d(log$ \dot{\varepsilon} $).

Fig.10に単位応力σ0とひずみ量の関係を示す.σ0はおおよそひずみ量に伴って増加し,細粒ほど大きくなった.ただし,θ=45°では,ひずみ量15%以上で粗粒ほど大きくなった.また,θ=90°では他に比べてひずみ量に対するσ0の増加は小さかった.

Fig.10 Unit stress, σ0 in eq. (1) as a function of true strain along tensile directions of (a) 0° and (b) 45° with respect to the rolling direction.

3.4 延性(均一伸び,局部伸び)のひずみ速度依存性

Fig.11に均一伸びとひずみ速度との関係を示す.まず,均一伸びは,θ=90°を除き,ひずみ速度に関係なく粗粒材ほど良好な傾向にある.しかし,θによってその特徴は少し異なった.θ=0°(Fig.11(a))では,結晶粒径12 μm以下の材料ではひずみ速度が速いほど均一伸びが単調に低下した.ただし,結晶粒径36 μm以上の材料では,ひずみ速度に対して単調減少ではなく,極大を示した.また,その時のひずみ速度は結晶粒径によって異なり,結晶粒径が大きいほど遅くなった.θ=45°(Fig.11(b))では,θ=0°と同様の傾向であったが,結晶粒径36 μm材でも単調減少となった点は異なった.また,ひずみ速度が遅い場合に細粒側で細粒ほど均一伸びが高くなる傾向も確認された.θ=90°(Fig.11(c))では,均一伸びは結晶粒径によらず著しく低く,結晶粒径およびひずみ速度依存性による影響は最大で3%と非常に影響が小さかった.

Fig.11 Relationship between the uniform elongation and the logarithm of the strain rate along tensile directions of (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.

Fig.12に局部伸びとひずみ速度の関係を示す.局部伸びは,突合せ法にて算出した全伸びから均一伸びを差し引くことで求めた.引張方向や結晶粒径に関係なく,マクロ的にはひずみ速度が速いほど局部伸びは低下する傾向であった.また,既報[18]では局部伸びは結晶粒径が大きい方が低くなる傾向にあったが,本研究においても概略,同様の傾向が確認された.ただし,一部では,逆の結果も確認された点は注意を要する.特に,逆の傾向はθ=45°(Fig.12(b))で顕著であり,結晶粒径が9-36 μmでは結晶粒径が大きい方が局部伸びは大きくなった.

Fig.12 Relationship between the local elongation and the logarithm of the strain rate along tensile directions of (a) 0°, (b) 45°, and (c) 90° with respect to the rolling direction.

4.考察

本章では,強度および延性のひずみ速度依存性について,結晶粒径と引張方向の影響に関する議論を行う.議論では,すべり変形として柱面⟨a⟩すべり({$ 10\bar{1}0 $}⟨$ 11\bar{2}0 $⟩),底面すべり((0001)⟨$ 11\bar{2}0 $⟩),錐面すべり({$ 10\bar{1}1 $}⟨$ 11\bar{2}3 $⟩および{$ 11\bar{2}2 $}⟨$ 11\bar{2}3 $⟩),さらに引張変形で報告されている双晶変形({$ 10\bar{1}2 $}⟨$ 10\bar{1}1 $⟩および{$ 11\bar{2}2 $}⟨$ 11\bar{2}3 $⟩)を考慮した.

4.1 強度のひずみ速度依存性

降伏応力およびその後の流動応力は,Fig.4およびFig.7Fig.8に示すように,結晶粒径や引張方向によらずひずみ速度の増加とともに高くなった.これは良く知られているように,転位の移動抵抗が熱活性化過程によるためと考えられる[19].しかし,これらのひずみ速度依存性の指標であるひずみ速度感受性指数mは,Fig.5(a)やFig.9に示すように,ひずみ量,結晶粒径や引張方向の影響を受けていた.本節では,これらについて議論する.

4.1.1 降伏応力のひずみ速度依存性に及ぼす結晶粒径および引張方向の影響

降伏応力のひずみ速度感受性指数mFig.5(a))は,結晶粒径が小さいほど大きく,θが大きいほど大きくなった.これについては,前報[20]と同様に不連続降伏の場合を結晶粒微細化強化(式(2)),連続降伏の場合を転位強化(式(3))として考える.なお,著者らの過去の調査[21]では,降伏時の双晶変形の寄与はほとんどなかったことから,降伏応力はもっとも活動しやすいすべり系である柱面⟨a⟩すべりによる現象で支配される.

  
\begin{equation} \sigma_{\mathrm{y}} = \sigma_{\mathrm{o}} + M \cdot \sqrt{\frac{2 \cdot G \cdot b \cdot \tau_\mathrm{gc}} {\pi \cdot \alpha}} \cdot d^{-0.5} \end{equation}(2)

  
\begin{equation} \sigma_{\mathrm{y}} = \sigma_0 + M \cdot \beta \cdot G \cdot b \cdot \sqrt{\rho} \end{equation}(3)

ここで,σyは降伏応力,σ0は母相の降伏応力,MはTaylor因子,Gは剛性率,bはBurgersベクトルの大きさ,τgcは転位が粒界から発生するための臨界せん断応力(CRSS),dは結晶粒径,ρは転位密度,αおよびβは転位の性質によって決まる定数である.また,本項ではGb,αおよびβは一定とした.式(2)は転位のpile-upモデルから導出される式であり,τgcは隣接粒での転位のすべりを発生させるために必要な応力であるため,転位の移動抵抗があり,熱活性化過程に依存するパラメータである.そのため,ひずみ速度依存性を有している.また,式(3)におけるρは後述するようにひずみ速度が増加することで増加するパラメータと考えられ,ひずみ速度依存性を有する.降伏応力が式(1)に示したようにひずみ速度の対数に比例するとすれば,式(2)および式(3)から,mは式(4)および式(5)で表される.

  
\begin{equation} m = \Delta \sigma_{\mathrm{o}} + M \cdot \sqrt{\frac{2 \cdot G \cdot b} {\pi \cdot \alpha}} \cdot d^{-0.5} \cdot \Delta \sqrt{\tau_{\mathrm{gc}}} \end{equation}(4)

  
\begin{equation} m = \Delta \sigma_0 + M \cdot \beta \cdot G \cdot b \cdot \Delta \sqrt{\rho} \end{equation}(5)

ここで,Δσ0はひずみ速度変化によるσ0の増分,Δ$ \sqrt{\tau_{\mathrm{gc}}} $はひずみ速度変化による$ \sqrt{\tau_{\mathrm{gc}}} $の増分,Δ$ \sqrt{\rho} $はひずみ速度変化時の$ \sqrt{\rho} $の増分である.式(4)および式(5)においてΔσ0には結晶粒径の影響はないため,第2項によって結晶粒径の影響が生じていると考えることができる.式(4)の第2項はd-0.5に比例しており,mは結晶粒径が大きいほど小さくなる.一方,式(5)の第2項には結晶粒径の変数はないが,転位密度の増加速度は結晶粒径が小さいほど速いため[22,23],結晶粒径が小さいほどΔ$ \sqrt{\rho} $は大きくなり,mが大きくなると推察される.以上より,結晶粒径が大きいほどmが低下することを説明することができる.

次に,mの引張方向依存性を議論する.式(4)および式(5)において,第1項はMと柱面すべりの臨界せん断応力が関与するため,Mによって引張方向依存性が存在する.また,第2項では,Mに加えてτgcにも引張方向依存性があることがわかっている.したがって,Mτgcについて考える.Mは結晶学的に決まる値である.著者らは同様の材料において,柱面⟨a⟩すべりのMθが大きいほど大きくなることを報告した[20].これはmθ依存性と同じ傾向である.一方,τgcθが大きいほど小さくなることを報告したが[20],そのひずみ速度依存性は不明である.柱面すべりのMθ依存性と実験的事実から推察すると,τgcのθ依存性はθが大きいほど大きい,もしくはθが大きいほど小さい場合にはMθ依存性に比べてその影響が非常に小さいと推察される.

また,降伏点伸びはFig.6に示したように,引張方向に関係なくひずみ速度が大きくなるほど小さくなった.この点について,議論する.Tanakaらは,転位強化と結晶粒微細化強化は加算則が成り立たず,競合関係にあることを報告している[23].そのため,強化機構は降伏点伸びを示す場合には降伏時は結晶粒微細化強化に,また加工硬化時には転位強化に律速されており,降伏点伸び中に結晶粒微細化強化から転位強化への強化機構の遷移が生じていると推察されている.したがって,降伏点伸びが生じている際は,局所的な変形領域先端で変形が進行しており,一定応力で変形が進むことから,変形部(転位強化)と未変形部(結晶粒微細化強化)の強度が釣り合っていると考えられる.そのため,局所変形部には結晶粒微細化強化と釣り合うだけの塑性ひずみが導入され,その大きさは降伏点伸びの大きさに対応していると理解できる.したがって,降伏点伸びのひずみ速度依存性は,結晶粒微細化強化と転位強化におけるひずみ速度依存性の違いに起因していると推察される.すなわち,ひずみ速度が増加すると,両強化量は増加するものの,その程度は転位強化量(具体的には転位密度の増加)の方が大きく,少ないひずみで両強化量が等しくなるため,降伏点伸びはひずみ速度の増加に伴い減少すると理解できる.

4.1.2 流動応力のひずみ速度依存性に及ぼすひずみ量,結晶粒径および引張方向の影響

流動応力のmはひずみの関数であり,以下のa)-d)に記載する特徴を有していた.まず,a)結晶粒径が小さい場合,ひずみ量の増加に伴ってほぼ一定もしくはやや低下した.一方,b)結晶粒径が大きい場合(36 μm以上)には,ひずみ量に対して単調に増加した.また,結晶粒径が大きい場合には,c)ひずみ量10%以下では結晶粒径が小さいほどmは大きく,θが大きいほどmは大きく,d)ひずみ量10-15%を超えるとmは結晶粒径が大きい方が大きくなった.本項では特徴a)-d)に関して議論する.

流動応力のひずみ速度依存性は,本報のような低速のひずみ速度領域では林立転位の切り合いを考えることにより式(6)で表され,mは式(7)で表される.

  
\begin{equation} \dot{\gamma} = \rho \cdot b \cdot L \cdot v \cdot \exp[-(E- \tau \cdot L \cdot b^2) / k \cdot T] \end{equation}(6)

  
\begin{equation} m \propto M \cdot k \cdot T /(L \cdot b^2) \end{equation}(7)

ここで,$ \dot{\gamma} $はせん断ひずみ速度,bはBurgersベクトルの大きさ,Lは林立転位の間隔,νはDebye振動数,Eは林立転位との切り合いの活性化エネルギー,τはせん断応力,kはBoltzmann定数,Tは絶対温度,MはTaylor因子を表す.ただし,本報では温度が一定であり,Lは1/$ \sqrt{\rho} $に比例することから,定数を除外するとmは式(8)で表される.

  
\begin{equation} m \propto M \cdot \sqrt{\rho} / b^2 \end{equation}(8)

式(8)から,a)-d)の挙動について考える.まず,a)結晶粒径が小さい場合,ひずみ量の増加に伴ってほぼ一定もしくはやや低下した点について考える.ここでは,結晶粒径が小さいために双晶変形は抑制される[24,25]ことからすべり変形のみを考慮する.結晶粒径が小さいほど降伏時点の転位密度は高い.そのため,ひずみ量の増加に伴う$ \sqrt{\rho} $の増分は比較的小さいと考えられる.また,降伏時は柱面すべりであるが,転位密度が高い状態ではa+c転位({$ 10\bar{1}1 $}⟨$ 11\bar{2}3 $⟩および{$ 11\bar{2}2 $}⟨$ 11\bar{2}3 $⟩)も徐々に活動する.Tsukamotoらは結晶粒径10 μm以下の純チタンのθ=0°引張において,真ひずみ15%での転位密度を評価し,a+c転位の割合が約10%であることを報告している[26].a転位とa+c転位の割合を考慮した平均のBurgersベクトルの大きさは,a転位で0.295 nm,a+c転位で0.553 nmとすれば0.321 nmとなり,a転位のみの場合に比べてb-2は約85%に低下する.したがって,ひずみ量の増加に伴って徐々にb-2が低下する.Table3に各すべり系のTaylor因子(Schmid因子の逆数)を示す.θ=0°ではa+cすべりのMは柱面すべりとほとんど同じだが,θが大きくなると徐々に柱面すべりよりも小さくなる.したがって,θが小さい場合にはa+c転位割合の変化によって,θが大きくなるとさらにMの低下の影響も生じて,mはほぼ一定もしくはやや低下したと考えられる.次に,b)結晶粒径が大きい場合(36 μm以上),ひずみ量に対してmが単調に増加した点について考える.結晶粒径が大きくなると,双晶変形の影響を考慮する必要があり,双晶変形のひずみ速度依存性についても理解しておく必要がある.Fig.13に15%変形後のミクロ組織を示す.ひずみ速度が速いほど,変形双晶が多く確認される.これはひずみ速度が速いことですべり変形のみで塑性ひずみを担うことができず,緩和機構として双晶変形が生じやすくなるためと考えられる.この結果はChichiliらの報告[15]とも一致する.したがって,ひずみ速度が速いほど,結晶粒径が大きいほど双晶変形によって動的微細化が進行することで転位密度の増加が促進される.ただし,双晶変形によって塑性ひずみの一部が担われるため,幾分かの転位密度の増殖を抑制する効果も双晶変形にはあると考えられるが,実験事実からはその効果よりも転位密度の増殖効果の方が大きいと考えられる.また,双晶変形は塑性ひずみの一部を担うことで過度な転位密度の上昇を抑制しつつ,高ひずみ域まで転位密度の増加促進を持続させているとも考えられる.すべり変形の点では結晶粒径が大きいほど降伏時点での転位密度が小さくなり,ひずみ量の増加に伴う$ \sqrt{\rho} $の増分が比較的大きく,かつa転位が主体であることからa+c転位の活動も比較的抑制され,単調に増加すると考えられる.以上より,結晶粒径が大きい場合には双晶変形とすべり変形の両面で,mが単調に増加すると考えられる.

Table 3 Relationship between Taylor factor of each slip system and tensile angle in specimen with grain size of 9 μm.

Fig.13 Optical micrographs of pure titanium sheets with an average grain size of 36 μm under tensile speeds of (a) 0.1 mm/min and (b) 100 mm/min at a strain of 15% along the rolling direction.

次いで,c)結晶粒径が大きい場合(36 μm以上),ひずみ10%以下では,結晶粒径が小さいほどmは大きく,θが大きいほど大きくなった点について考える.ここまでに転位密度の点から,細粒ほどmが大きいことを述べた.しかし,結晶粒径が大きくなると双晶変形による動的微細化効果を考慮する必要がある.双晶変形による動的微細化効果は結晶粒内に変形双晶がn個発生した場合に結晶粒径が初期粒径の1/(n+1)倍となると仮定すると,10%程度のひずみ量ではTable4に示す通り,初期粒径が小さいほど動的微細化後の結晶粒径も小さい.また,ひずみ量が10%までは転位密度も増え続ける状態(Δ$ \sqrt{\rho} $が増加する状態)であり,mは結晶粒径が小さいほど大きくなったと考えられる.また,Table1に示したようにθが大きいほど,Mは大きくなるため,Mによってθの増加に伴いmが増大したと考えられる.

Table 4 Grain size refinement by twinning deformation as a function of strain at different tensile speeds of 0.1 mm/min and 100 mm/min in titanium sheets with initial grain sizes of 36μm, 91μm, and 152μm

最後に,d)結晶粒径が大きい場合(36 μm以上),ひずみ量10-15%を超えるとmは結晶粒径が大きい方が大きくなった点について考える.ひずみ15%を超える範囲での動的結晶粒径と初期粒径との関係は確認できていないが,初期粒径が大きいほど大きいと仮定すると,初期粒径が小さいほど早期に転位密度が高まり,ひずみ量の増加に伴う$ \sqrt{\rho} $の増分は比較的小さくなると考えられる.また,ひずみ量がさらに増加するとa+c転位が活動するようになり,b-2の低下も発生することでmは減少に転じる.加えて,前述のように結晶粒径が大きいほど双晶変形による転位密度の増加促進効果が高ひずみ域まで継続することで,高ひずみ側では結晶粒径が大きい方がmは大きくなると考えられる.

以上より,流動応力のmに及ぼすひずみ量,結晶粒径および引張方向の影響は,細粒側では転位運動の熱活性化過程とTaylor因子Mに起因した異方性によって説明ができた.また,粗粒側では,それらに加えて双晶変形のひずみ速度依存性に起因した転位密度増加促進によって説明が可能であった.

4.2 延性のひずみ速度依存性に関する考察

4.2.1 均一伸びのひずみ速度依存性に及ぼす結晶粒径および引張方向の影響

Fig.11において,均一伸びは既報[18]のように粗粒材の方が良好な傾向を示すが,ひずみ速度の増加に伴い,細粒側では均一伸びは単調に減少し,粗粒側ではひずみ速度に対してピークを示した.以下ではこれらの点について議論する.Fig.14-Fig.16に,種々のひずみ速度で引張変形した時の真応力-真ひずみ曲線および加工硬化率を示す.ここで,塑性不安定(くびれ)開始発生条件を示す式(9)によれば,真応力-真ひずみ曲線と加工硬化率の交点におけるひずみが均一伸びとなる.

  
\begin{equation} \sigma = \mathrm{d} \sigma / \mathrm{d} \varepsilon \end{equation}(9)
Fig.14 True stress–strain curves and work hardening rate at tensile speeds of 0.1–100 mm/min along the rolling direction of the sheets with the grain sizes of (a) 12 μm, (b) 36 μm, and (c) 91 μm.
Fig.15 True stress–strain curves and work hardening rate, dσt/dε at tensile speeds of 0.1–100 mm/min and tensile directions of 45° with respect to the rolling direction of the sheets with the grain sizes of (a) 12 μm, (b) 36 μm, and (c) 91 μm.
Fig.16 True stress–strain curves and work hardening rate, dσt/dε at tensile speeds of 0.1–100 mm/min and tensile directions of 90° with respect to the rolling direction of the sheets with the grain sizes of (a) 12 μm, (b) 36 μm, and (c) 91 μm.

θ=0°(Fig.14)および45°(Fig.15)では,加工硬化率に結晶粒径およびひずみ速度依存性があった.すなわち,結晶粒径が小さい(9 μm, 12 μm)場合には,いずれの引張方向でもひずみ速度が速いほど加工硬化率は低く,真応力が増加するため均一伸びが低下していた.しかし,結晶粒径が36 μm以上に大きくなると,ひずみ速度が速くなることで加工硬化率が増加し,均一伸びは増加し特定のひずみ速度で最大値を示すことは特筆に値する.ただし,ひずみ速度が約5×10-2/s(引張速度100 mm/min)と速くなりすぎると,加工硬化率が早期に急激に低下し,均一伸びが減少した.θ=90°(Fig.16)でも結晶粒径が小さい場合にひずみ速度が速いほど加工硬化率が低く,結晶粒径が大きくなるとひずみ速度とともに大きくなる傾向はあったが,その差は小さかった.θ=90°の加工硬化率では結晶粒径やひずみ速度に依存した大きな差はないが,ひずみ速度が速いほど真応力が高くなるため均一伸びは低下した.以上のように,均一伸びのひずみ速度依存性は加工硬化率の変化によって生じており,加工硬化率が結晶粒径およびひずみ速度に依存することに起因することがわかる.

純チタンの加工硬化率は双晶変形に大きく影響されており,双晶変形は結晶粒径が大きいほど[24,25],ひずみ速度が速くなるほど発生しやすくなる[15].また,既報で述べたようにθが小さい場合では,結晶方位の点でも双晶変形が発生しやすい[27].まず,細粒材では,引張方向に関係なく,ひずみ速度が速いほど加工硬化率が低下していた点について考える.ひずみ速度と転位密度の関係を式(10)に示す.

  
\begin{equation} \dot{\varepsilon} = \rho \cdot b \cdot v \end{equation}(10)

ここで,$ \dot{\varepsilon} $はひずみ速度,ρは転位密度,bはBurgersベクトルの大きさ,vは転位の移動速度である.ひずみ速度が増加すると,転位の移動障壁は高くなり,転位の移動速度は低下すると考えられる.また,bは転位密度にもよるがa転位がすべてa+c転位に変化したとしても2倍に満たない変化しか生じない.本報では,ひずみ速度を10倍以上変化させており,ひずみ速度の増加で転位密度が増加していることが示唆される.したがって,ひずみ速度が速い場合には同一ひずみ量において転位密度がすでに高い状態となっている.そのため,ひずみ速度が速い方が遅い場合よりもひずみ量に対する$ \sqrt{\rho} $の増分は小さく,ひずみ速度の増加に伴い加工硬化率が低下したと考えられる.

一方,結晶粒径が大きい(36 μm以上)場合には,ひずみ速度が速くなると加工硬化率は増加するものの,さらにひずみ速度が速くなると急激な低下を早期に生じるようになる.これは双晶変形が大きく関与していると考える.ひずみ速度が速くなると双晶変形が活発に発生し[15],双晶境界が粒界の役割を果たし,転位密度の増加が促進される.したがって,双晶変形が発生すると,高い加工硬化率となる.しかし,特定のひずみ速度以上で双晶変形が発生しやすくなりすぎると,早期に転位密度が高まり,ひずみ量に対する$ \sqrt{\rho} $の増分が小さくなり,急激な加工硬化率の低下を早期に生じるようになり,均一伸びがむしろ低下したと推察した.また,θ=90°では,結晶粒径91µm材を例にすると,観察される双晶変形のSchmid因子は{11-22}双晶で0.35(θ=0°で0.43),{10-12}双晶で0.26(θ=0°で0.41)であり,結晶方位に起因した双晶変形の抑制効果が非常に大きく,本研究範囲の結晶粒径およびひずみ速度では,加工硬化率の変化が非常に小さかったと考えられる.

4.2.2 局部伸びのひずみ速度依存性に及ぼす結晶粒径および引張方向の影響

Fig.12に示したように局部伸びは,ひずみ速度,結晶粒径,引張方向の影響を種々受けている.Mizunumaらは,局部伸びがひずみの拡散性,すなわち塑性不安定状態における局所変形部とその周辺との強度差に起因した局所変形の進行の起こりにくさに支配されており,局部伸びは実用的に式(11)で表されると報告している[28].

  
\begin{equation} \varepsilon_L \propto \frac{\Delta P}{P} + \frac{\beta}{\gamma} \cdot \frac{r}{r + 1} \end{equation}(11)

ここで,Pは荷重,ΔPはひずみ速度変化時の荷重増分,βおよびγは材料によって決まる定数,rr値(Lankford値)である.Pはネッキング時の荷重であり引張強度に相当し,ΔPはひずみ速度変化時の増分になるため,mの大きさに比例する.式(11)に直接的な変数としてのひずみ速度はないが,ひずみ速度の増加に伴って変形応力が増加,すなわちPが増加する.したがって,ひずみ速度の増加に伴って局部伸びが低下すると考えられる.また,結晶粒径の影響はやや複雑であり,ボイドのサイズおよびその成長・連結の抑制効果[29]と,Pおよびmに与える影響もある.加えて,r値は既報[18]でも示した通りθが大きいほど高くなるため,θが大きいほど局部伸びを向上させる寄与が大きいと言える.さらに,硬質第二相の存在は悪影響を及ぼすことが知られており[30],介在物や硬化層などは明瞭な低下を生むと考えられるが,本報では確認されていない.以上のように定性的には理解できるものの,定量的な議論にはより詳細な検討が必要である.

5.結言

引張特性のひずみ速度依存性とそれに及ぼす結晶粒径および引張方向の影響を,ひずみ速度5×10-5〜5×10-2 /s,結晶粒径9-152 μmの範囲で,圧延方向と引張方向のなす角θが0-90°の場合について調査し,以下の結論を得た.

  • (1)   下降伏応力および0.2%耐力のひずみ速度依存性は,結晶粒径が小さいほど大きく,θが大きいほど大きくなった.また,流動応力のひずみ速度依存性は,結晶粒径が12 μm以下の場合には,θに関係なく,ひずみ量に対してほぼ一定の値を示した.一方,結晶粒径36 μmでは,θ=0°のみひずみ量の増加に伴ってひずみ速度感受性は高くなるが,その他の方向ではほぼ一定であった.結晶粒径91 μm以上では,いずれの引張方向でもひずみ量に対してひずみ速度感受性が高まった.
  • (2)   均一伸びのひずみ速度依存性は,θ=90°を除いて細粒の場合には,ひずみ速度が速いほど単調に減少し,粗粒では最大を示すひずみ速度が存在した.また,θが小さいほど広い範囲の結晶粒径で均一伸びがひずみ速度に対して最大を示した.θ=90°では,均一伸びに対する結晶粒径およびひずみ速度依存性は確認されなかった.これらの挙動は,引張変形中の変形双晶の形成と深い関係にあることが明らかとなった.
  • (3)   局部伸びのひずみ速度依存性は,ひずみ速度が速いほど低下する傾向を示した.ただし,結晶粒径が大きな場合にはひずみ速度に対して,局部伸びは最大値や最小値を示す場合もあった.
  • (4)   降伏応力および流動応力のひずみ速度感受性は転位運動の熱活性化過程によって説明することができた.一方,粗粒側のひずみ速度依存性は,双晶変形挙動に支配されていると推察された.

文献
 
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