Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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ISSN-L : 0021-4876
Special Issue on Superfunctional Nanomaterials by Severe Plastic Deformation
Incremental Feeding High-Pressure Sliding (IF-HPS) Process for Upscaling Highly Strained Areas in Metallic Materials with Enhanced Mechanical Properties
Yoichi TakizawaZenji Horita
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2025 Volume 89 Issue 1 Pages 10-21

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Abstract

This paper presents an overview of the recent development of incremental feeding high-pressure sliding (IF-HPS) process for grain refinement of metallic sheets with enlarged areas. The IF-HPS process is a method of severe plastic deformation (SPD) under high pressure without increasing the machine capacity. The IF-HPS process combines an incremental feeding technique with the high-pressure sliding (HPS) process so that a severely deformed area can be extended. Development of the IF-HPS process includes the use of flat-type anvils instead of groove-type anvils, which makes it easier to enlarge the SPD-processed areas. The development is also described in terms of the sliding mode and the feeding pattern, where the former is determined by the sliding distance and the numbers of the reciprocation of the sliding and the latter by the feeding distance and the feeding direction. The application of the IF-HPS process is made to metallic materials such as a Ni-based superalloy (Inconel 718), a Ti-6Al-7Nb alloy (F1295) and commercially available Al alloys (A1050, A3105, A5052 and A5182). It is shown that the grain refinement is successfully achieved so that superplastic elongation more than 400% is attained in the Ni- and Ti-based alloys, and the room-temperature tensile strength is well enhanced in the Al alloys. It is then demonstrated that the IF-HPS process is promising to extend the SPD-processed area without increasing the machine capacity. Furthermore, a new approach is suggested for material design, such as the hybrid materials composed of conventional and fine-grained materials and functionally graded materials.

Mater. Trans. 64(2023)1364−1375に掲載済

1. 緒言

近年,材料の成形性や材料強度を向上させることができる結晶粒微細化技術が注目されている.結晶粒微細化された材料は超塑性特性の発現[1]や強度向上[2, 3]をはじめ,水素透過能[4, 5],水素貯蔵性[6],生体親和性[7],電気伝導度[8]の向上などに効果的であることがMaterials Transactionsの特集号[9]およびそれらを総括するレビュー論文[10]にて報告されている.

結晶粒微細化された材料の特性は,適切な熱処理を組み合わせることによって任意に制御することができる[11-14].例えば,高温下で使用される超合金のような難加工材料に対しては成形時のみ成形性を向上し,後工程の熱処理によって強度を回復させ,製品使用段階では高強度な状態で利用するといった活用法が想定される[15].しかしながら,いかに結晶粒を超微細化するかは大きな課題となる.

結晶粒をサブミクロンもしくはナノレベルに超微細化する技術として,材料内部に大量のせん断ひずみを導入する巨大ひずみ加工(SPD: Severe plastic Deformation)法が知られている[16-18].具体的なSPD法として,金型の屈曲部を試料が通過することでひずみを導入するECAP(Equal Channel Angler Pressing)法[19],圧延後の試料を重ねて圧延前の試料厚さに戻し,繰り返し圧延を行うARB (Accumulative Roll Bonding)法[20],試料を上下金型で高圧挟持し,上下金型を相対的に回転させてひずみを導入する高圧ねじり (HPT: High-Pressure Torsion) 加工法[21-23],上下金型を相対的にスライドさせてひずみを導入する高圧スライド(HPS:High-Pressure Sliding)加工法[24]が挙げられる.

特に高圧下でひずみが導入できるHPT法やHPS法は高度な拘束条件下で加工できることから,高強度あるいは延性に乏しい難加工性材料に対しても適用可能であり,他のSPD法よりも優れた利点であるといえる[25-30].

HPT法は円板状もしくはリング状試料,HPS法では矩形状試料が加工できるが,試料は小さなものに限られる[31].一般的にはHPT法で直径10 mm,HPS法で10 × 100 mm程度である.いずれも実用サイズとしては不十分であり,HPT法やHPS法を実用化する上で大型化は重要課題となる.

これらのニーズに応えるべく,当グループはHPT法やHPS法に逐送 (Incremental Feeding) 技術を組み合わせたIF-HPT法[32]やIF-HPS法[33, 34]を開発した.

逐送技術をSPDに適用した例として,Hohenwarter[35]やIvanisenkoら[36]はHPT法とねじり押し出し技術を組み合わせた工法を提案し,長尺ロッド試料への適用可能性について述べている.一方,HPS法は逐送技術の組み合わせが多様で,IF-HPS法による長尺シート材[37]への適用だけでなく,ロッド[38-43]やパイプ[44]へ適用可能なMulti-pass HPS (MP-HPS)法が挙げられる.いずれの逐送技術においても装置容量を大型化せずに試料サイズが大きくできるということが強みとなる.

本論文では,SPDによる加工面積が拡大できるIF-HPS法の開発について詳述する.IF-HPS技術の開発要件としては次の3点が挙げられる. (1) 試料表面を平滑に維持したまま試料の逐送を可能とする平らなアンビルを用いること,(2) 導入ひずみ量はスライド距離と往復スライド回数によって制御すること,(3) フィードパターンは送り量と送り方向によって決定すること.

本稿ではIF-HPS法について,Ni基超合金(インコネル718),Ti合金(F1295: Ti-6Al-7Nb),Al合金 (A1050, A3105, A5052, A5182)に適用した例を示して,解説する.

2. HPS法とIF-HPS法の原理

2.1 HPS法

HPS法の模式図と断面図をそれぞれFig. 1(a), Fig. 1(b)に示す.HPS法では,U字型の上下アンビルの中央にプランジャ(押棒)を配し,アンビルと押棒間にシート状もしくはロッド状の試料を配置する.試料はアンビルと押棒を介して高圧下で挟持される.HPS法によるひずみ導入量εは式(1)で表され,押棒のアンビルに対するスライド量(移動量)Xに比例し,これを試料厚みtで除した量の相当ひずみが導入される.

  
$$ \varepsilon=\frac{X}{\sqrt{3}t} $$ (1)
Fig. 1 (a) Schematic illustration of high-pressure sliding (HPS), (b) cross sectional view [15]. (online color)

筆者らはHPS法を,Al-3%Mg-0.2%Sc, A2024, A7075といったアルミニウム (Al)合金,AZ31マグネシウム(Mg)合金,F1295(Ti-6%Al-7%Nb)のチタン(Ti)合金,インコネル718ニッケル(Ni)基超合金に適用し,結晶粒を超微細化し,微細粒材料の特徴である超塑性現象の発現を確認している[30, 45-48].

HPS法では,試料とアンビル間の滑りを抑制するため高圧クランプ下で加工する必要があり,対象材料の強度が高いほど,クランプ力は大きくなる[49].例えばインコネル718の場合,4 GPa以上のクランプ圧を必要とすることから当グループが開発した500 ton容量のHPS装置でも10 mm × 100 mm程度の面積が限界となる.このサイズでは実用化できる製品が限られ,さらなる大型化が望まれる.しかし,装置製作費用は莫大なものとなり,また使用される金型も大型化するなどコスト的に現実的ではない.そこで,当グループは装置を大きくする代わりに,IF-HPS法を考案・開発して,試料サイズの大型化を図った[34].

2.2 IF-HPS法

IF-HPS法では,HPS加工後にスライド方向と垂直方向に指定距離をフィード(試料送り)し,続いて未加工部に次のHPS加工を行う.この操作を繰り返すことで,ひずみ導入領域を拡大することが可能となる.Fig. 2にIF-HPS法の(a)模式図と(b)断面図,(c)フィードパターンの一例を示す.後述するように,フィードパターンは1次元方向ないし2次元方向に拡大することができる.これによって装置を大型化しなくても,HPS加工部の大面積化が実現できることになる.

Fig. 2 (a) Schematic illustration of Incremental Feeding HPS (IF-HPS), (b) cross sectional view, (c) Incremental feeding pattern for consecutive 1st, 2nd, 3rd, ・・・passes [33]. (online color)

IF-HPS法では溝のない平坦なアンビルを使用し,板状試料に溝による段差を発生させないようにする必要がある.HPS法では通常,上下アンビルと押棒間に2つの試料をそれぞれセットするが,IF-HPS法では長尺試料を金型内に逐次送り込むという工法上,試料送りは上下どちらか一方とすることで利便性を高めることになる.

Fig. 2は,押棒の上側に試料を配置する場合の断面図である.IF-HPS法に用いる平坦なアンビルは,Fig. 2(b)に示すように直接試料と接触してひずみを導入する部分(当圧部)と,その両側に傾斜を設けた部分(傾斜部)で構成される.当圧部は板状試料に直接接触し,傾斜部はHPS加工時に試料が追従して変形し,圧力がかかることで小規模ながらひずみが付与される.アンビルの平坦部,すなわち当圧部は滑りを抑制するため粗面としており,これが試料に転写することから前者は粗面部(Rough部)となり,後者は,Rough部両側の平滑斜面に試料がこすれるように接触することで光沢部(Shiny部)となる.Rough部は効率よくひずみが導入され,Shiny部についても後述の硬さ測定結果およびひずみ分布シミュレーションの結果から,少なからずひずみが導入されることが確認できている.

ところで,Fig. 3に示すように,HPT法やHPS法によってひずみを導入する場合,ある一定のひずみ量を超えると硬度や組織は飽和する[50, 51].つまり,導入されるひずみ量が閾値を超えると,同様の微細組織が得られることを示唆しており,IF-HPS法の試料送りによる連続加工では,Rough部だけでなくShiny部においても均一にすることができる.

Fig. 3 Vickers microhardness plotted against equivalent strain for samples processed by HPT at room temperature through N = 1, 5 under 1 GPa and through N = 0.75 - 5 under 6 GPa, including as-received sample [29]. (online color)

次に,スライド様式(モード)についてであるが,スライド量はスライド距離と往復スライド回数によって決定される.なお,往復加工では通常,高圧クランプしたまま前後双方向にHPS加工が行われる.単一方向加工では試料形状が変形し,加工中にクラックが発生しやすいことから,後述するように,クラックを抑制しつつ導入ひずみ量の増加が期待できる往復加工の適用が推奨される[52].本稿では,HPS加工条件を次のように簡易表記する.X15-1Pはスライド距離15 mmでの単一方向への1パス加工,X7.5-2Rはスライド距離7.5 mmでの往復加工(往路,復路で計2パス),X5-3Rはスライド距離5 mmでの往復を含む3パス加工(1.5往復加工)を表し,いずれも合計スライド距離は15 mmとなる.

3. IF-HPS法の有効性

3.1 平型金型の使用とスライド量の影響

前述したように,IF-HPS法では板状試料を可能な限り平坦にするため,溝のない平坦なアンビル(平型アンビル)を使用する.従来HPS加工に用いる溝があるアンビル(溝型アンビル)と比べ,平型アンビルの方が試料の拘束力が小さく,ひずみの導入量は少なくなる可能性がある.そこで,溝の有無がひずみの導入に及ぼす影響を調べるため,平型アンビルと溝型アンビルを用いた単一パス加工試験を行った.

Fig. 4は,Ni基超合金インコネル718に対し,(a)平型アンビルと(b)溝型アンビルを用いた単一パスHPS加工後の応力-ひずみ曲線を比較したものである.平型アンビル[34]を使用した場合の全伸びは10 mmと15 mmスライドでそれぞれ220%と710%であったのに対し,溝型アンビル[30]を使用した場合は,同一スライド条件でも770%と670%となった.その差は,スライド距離が10 mmの場合に顕著であるものの,スライド距離が15 mmの場合には違いはみられなかった.なお,平型アンビルは直接接触する部分の幅が10 mmでその両側は傾斜した状態となっている.また,単一パス加工は,4 GPaのもと,スライド距離5 mm,10 mm,15 mmで行い,互いに影響を及ぼさないよう30 mm離して行った.一方,溝型アンビルは,幅10 mm,長さ100 mm,厚さ1 mmの試料に対応した溝を有しており[37],この溝内に試料を配置し,5 mm,10 mm,15 mm,20 mmのスライド距離で加工を行った.

Fig. 4 Stress-strain curves of tensile specimens extracted from samples processed using flat-type and groove type anvils for sliding distances of 5, 10 and 15 mm. All tensile specimens were deformed at 1073K with initial strain rate of 2 ×10-2 s-1 [34, 37]. (online color)

平型アンビルで加工した試料の外観写真をFig. 5(a)に示す[34].いずれも,幅10 mmのRough部と,その両脇にはShiny部が形成されている.Rough部はアンビル平坦部の滑りを抑制するために意図的に粗面としている面性状が転写されている.Shiny部はRough部両脇の平滑面に試料がこすれるように接触することで形成されている.後述の硬さ測定とひずみ分布シミュレーションで示すように,ひずみはRough部で主に導入されており,Shiny部ではひずみ量が小さい.スライド距離が長くなるほど,試料はスライド方向端面からより顕著に張り出した状態となっている.

Fig. 5 Appearance of specimen after processing for sliding distance of 5, 10, and 15 mm, (b) Hardness variations along line delineated at center of sheet sample in (a) [34]. (online color)

Fig. 5(b)はFig. 5(a)の白線に沿って内部硬度の変化をプロットしたものである.Rough部の硬度はそれぞれのスライド距離で一定であり,スライド距離が長くなるにつれて高くなっている.Shiny部では徐々に未加工部の硬度へと変化している.すなわちShiny部にもひずみは導入され,強度は直接当圧部から減少していることが確認できる.

Fig. 6(a)は,インコネル718板材において,5 mm,10 mm,15 mmのスライド距離にて単一パス加工した際のひずみ分布をシミュレーションした結果である.このシミュレーションは,Scientific Forming Technologies CorporationのFEM解析ソフト「DEFORM」を用いて実施した.

Fig. 6 FEM simulation showing (a) strain distributions throughout sliding areas and (b) strain variations across width of sliding areas after sliding distances of 5, 10 and 15 mm [34]. (online color)

Fig. 6(b)は,断面におけるひずみの分布を示す.このシミュレーションでは,アンビルは剛体としており,弾性変形は考慮していない.導入ひずみはスライド距離が長くなるほど大きくなるが,直接当圧部ではどの条件でも一定である.また,Shiny部分にもひずみが発生し,未加工部へと減少している.試料内に導入されるひずみ量は硬さに比例することを前提にすると,ひずみ分布は,当圧部より外側へ変化する領域も含めて硬さ変化に類似している.すなわち,FEMシミュレーションによれば,ひずみ分布は硬度変化と定性的に一致していることが示される.

3.2 試料送り量の影響

Fig. 7(a)はインコネル718の2パス目加工後の試料外観を示す.写真上方側の1パス目のShiny部を2パス目のRough部が覆い,その両側に新たなShiny部が形成されている.Fig. 7(b)は同条件で行ったインコネル718のFEM解析結果である.試料の変形状態はFig. 7(a)と概ね同じであり,ひずみ量の分布は重なり部が最も高い.Fig. 7(c)は2パス加工を行ったインコネル718の断面硬度分布を示す.1パス目のみと2パス目のみの部分に対し,重なり部の硬度が最も高くなっている.

Fig. 7 (a) Appearance of sheet sample after 1st + 2nd passes, (b) strain distributions simulated by FEM after 1st + 2nd passes and (c) variation of Vickers microhardness with distance along lateral direction perpendicular to sliding direction after 1st + 2nd passes for Inconel 718 [33]. (online color)

1パス部,2パス部および重なり部からそれぞれ切り出した引張試験片の応力-ひずみ曲線をFig. 8(a)に示す.重なり部では,1パス目や2パス目のそれぞれ単独加工部では得られなかった400%を超える超塑性伸びが得られている.加工領域が重なり合ったことでひずみが蓄積され,結晶粒微細化が進み,超塑性伸びを発現するに至ったものと考える.

Fig. 8 (a) Stress-strains curve of tensile specimens extracted from regions corresponding to 1st pass, 2nd pass and 1st + 2nd passes [33]. (b) Elongation to failure plotted against sliding distance for 1st, 2nd and 1st + 2nd passes. All tensile specimens are for Inconel 718 Ni-based superalloy and are deformed at 1073 K with initial strain rate of 2 × 10-2s-1 [34]. (online color)

Fig. 8(b)はスライド量と破断伸びとの関係を示したものである.1 パス目および2 パス目のみの部分はスライド量に応じて同様の伸びを示している.重なり部では,5 mmスライドでの優位性はみられないものの10 mmスライドでは単一パスの15 mmスライドと同等の伸びを示している.

次に,チタン合金のF1295(Ti-6Al-7Nb)では重なりが超塑性に及ぼす影響を調べた.Fig. 9に応力-ひずみ曲線を示す.インコネル718合金の結果と同様に,1パス目と2パス目に比べて重なり部の全伸びが最も大きく概ね600%に達したが,1パス目と2パス目部の全伸びは小さい値となった.

Fig. 9 Stress-strain curves of tensile specimens extracted from regions corresponding to 1st pass, 2nd pass and 1st + 2nd passes. All tensile specimens are for F1295 Ti-based alloy and are deformed at 1073K with initial strain rate of 2 × 10-2s-1 [33]. (online color)

3.3 SPD加工部の大面積化(インコネル718への適用例から)

Fig. 10(a)は100 mm × 100 mm × 1 mmのインコネル718シート材を4 GPaにてX15-1PのIF-HPS加工を行った際の試料外観写真である.Fig. 8(b)で示したように,15 mm加工で400%以上の超塑性伸びが得られることから,この加工では重なり部を設けずに試料送りを行っている.Rough部の両側にはShiny部が形成され全体として縞模様を呈している.Fig. 10(b),Fig.10(c)に示すように,硬さはShiny部,Rough部に関係なくほぼ一定であるが,厚みついてはRough部とShiny部の境界で薄くなる傾向にある.これは,平らなアンビルによって高圧がかかる部分から外側に材料が流れ出たためと考えられる.しかしながら,この厚みの違いは超塑性現象を利用することで均一な厚みに修正することができる.実際に,後述するカップ成形試験で超塑性加工を適用し,表面が滑らかになることを確認している.また,IF-HPS加工後の試料が十分柔らかい場合には圧延によって塑性変形させ,厚みばらつきは小さくできると考える.

Fig. 10 (a) Appearance of Inconel 718 sheet sample after 8 passes of IF-HPS process where sliding and feeding were repeated with feeding distance same as flat-area width of flat-type anvil. Hardness and thickness variations along traces of lines made after extraction of their measurements. (b) Initial and (c) ending sides of processed sheet [34]. (online color)

IF-HPSの最初と最後のパスにあたるFig. 10(a)の①と⑧から切り出した引張試験片の応力ひずみ曲線をFig. 11に示す.どちらの部位も,Rough部とShiny部から引張試験片を切り出している.いずれの試験片も400%を超える超塑性伸びが得られ,IF-HPS加工によって試料全域で超塑性状態に改質できることが確認される.

Fig. 11 Stress-strain curves at (a) initial and (b) ending sides of processed sheet. All tensile specimens were deformed at 1073K with initial strain rate of 2 × 10-2 s-1 [34]. (online color)

さらに,IF-HPS加工した板から直径30 mmの円板を切り抜き,超塑性による成形性を調べた.この円板を大気中1073Kで成形速度0.1 mm/sにてカップ成形を行ったところ,Fig. 12(a)に示すように問題なく成形できた.同条件でも受領材では,Fig. 12(b)に示すようにカップ底部に多数のクラックが発生し,フランジ部は破断した.このことから,インコネル718はIF-HPS加工によって超塑性成形が可能な状態に改質できることが示された.

Fig. 12 Appearance of circular disks (left) extracted from IF-HPS-processed sheet (upper) and as-received sheet (lower) [15]. Appearance after cup-shape forming (right) for IF-HPS-processed sheet (upper) and as-received sheet (lower). (online color)

3.4 スライドモードと試料の端の影響(アルミニウム合金への適用例から)

HPSおよびIF-HPSでは原理的に往復加工が可能であり,導入できる相当ひずみ量は次式によって示される.ここで,nは総パス数,xは単一パスのスライド量である.

  
$$ \varepsilon=\frac{nx}{\sqrt{3}t} $$ (2)

加工中に試料と金型間に滑りが発生しなければ総スライド量nxは,式(1)のXと等しくなる(すなわち,Xnx).インコネル718のHPS(またはIF-HPS)加工についてはn=1にて行ったが,後述するようにNi基超合金のインコネル718よりもAl合金はクラックが発生しやすいことから,Al合金では往復加工を適用した.Xが同じであればnが異なっても同じ特性が得られるか確認するため,A1050, A3105, A5052, A5182の4種類のアルミニウム合金で,IF-HPS加工を実施した[52].

Fig. 13(a)とFig. 13 (b)は,それぞれA1050合金とA5052合金に対し4つの異なるスライドモードでIF-HPS加工を行い,室温で引張試験した時の応力-ひずみ曲線である.A1050合金とA5052合金の応力-ひずみ曲線には明らかな違いが確認できる.A1050合金では,引張強さは160-170 MPa,全伸びは0.37-0.44の範囲で,スライドモードによる違いはほとんどなくほぼ同じであった.A5052合金の応力-ひずみ曲線はスライドモードに大きく影響され,X15-1PでHPS加工した試料の引張強度は700 MPaと最も高い値となり,X3-5Rで加工した試料の引張強度は320 MPaと最も低い値となった.X15-1PとX3-5Rで得られた全伸びは,それぞれ最小で0.12,最大で0.27であった.

Fig. 13 Stress-strain curves of (a) A1050 and (b) A5052 processed by IF-HPS under 2 GPa for total sliding distance of 15mm including those in fully annealed and as-received states [52]. (online color)

Fig. 14Fig. 15は,それぞれA1050,A5052を (a) X3-5Rと(b) X15-1PのスライドモードにてIF-HPS加工を行った際のTEM組織である.いずれの図も,左は明視野像,右は暗視野像であり,中央は制限視野回折(SAED)パターンを示し,矢印で示す回折ビームで暗視野像を観察している.Fig. 14に示すA1050では,いずれのスライドモードでも結晶粒径はほぼ1 µmで結晶粒界は明瞭であり,スライドモードの違いによる組織の変化はみられない.このような観察結果は,高純度Al(99.99%)に大量ひずみを加えても強度や組織が変化しないという過去の報告と一致している[50].一方,Fig. 15に示すA5052については,A1050とは異なり結晶粒界が不明瞭で,X3-5Rの場合,結晶粒径は1 µm以下となり,X15-1Pでは~100 nmまで超微細化されている.Fig. 13(b)で示された引張強度の違いはこの組織の違いを反映したもので,X3-5Rではアンビルと試料間で滑りが発生し,したがってひずみの導入量が不十分であったためと考える.

Fig. 14 TEM micrographs for A1050 after processing through sliding modes of (a) X3-5R and (b) X15-1P. Bright-field images (left), dark field images (right) and SAED pattern (insets) where arrows indicate diffracted beams for dark-field mages [52].
Fig. 15 TEM micrographs for A5052 after processing through sliding modes of (a) X3-5R and (b) X15-1P. Bright-field images (left), dark field images (right) and SAED pattern (insets) where arrows indicate diffracted beams for dark-field mages [52].

ところで実用上,クラックなしで加工できることは重要課題となる.表面観察によれば,A5052のX15-1P加工では,Fig. 16(a)に示すように,1パスでクラックが発生し,さらなる後続加工によってクラックは進展した.Fig. 16(b)は,X7.5-2R を2 GPa で 5 回連続加工した後のクラックの発生状況を示している.加圧力を1 GPa に下げると,このようなクラックの発生はなくなるが,Fig. 13(b)で述べたような滑りが発生するため,引張強さは低下する.A1050では,X15-1Pで加工した場合,スライド方向のシート端部に小さな亀裂が発生した.このように,引張強さとクラックの発生を加味した加工条件の最適化が必要となる.X3-5RやX5-3Rのような往復加工によりひずみを徐々に蓄積させることが考えられる.この際,局所的に大きなひずみ勾配を生じさせないようにすることが重要となる.

Fig. 16 Appearances of A5052 alloys sheets (a) after processing for 1 pass through sliding mode of X = 15-1P and (b) after 5 consecutive processings through sliding mode of X = 7.5-2R under 2 GPa. Cracks are indicated by arrows. Trace after extraction of tensile specimen is seen in (b) [52].

A1050合金,A3105合金,A5182合金に対して,IF-HPS加工を1 GPaのもと,スライド速度10 mm/s,X5-2Rにて行った.各試料の応力-ひずみ曲線をFig. 17(a),Fig. 17 (b),Fig. 17 (c)に示し,引張強度や延性の均一性を調べた.引張試験片は,図内の1,2,3,4と印した4か所から切り出した.なお,試料送りはシートの右から左へ行っており,すなわちHPS加工はシートの左側から開始したことになる.試料送りとHPS加工は4と表示した位置まで繰り返した.

Fig. 17 Stress-strain curves of (a) A1050, (b) A3105 and (c) A5182 after processing by IF-HPS under 1 GPa for total sliding distance of 10 mm through sliding mode of X5-2R. Appearances of processed sheets in insets with four positions where tensile specimens were extracted [52]. (online color)

応力-ひずみ曲線は,応力レベルが低かったA3105合金とA5182合金の位置1を除き,切り出し位置にかかわらず全ての合金でほぼ同じとなった.すなわち,A3105とA5182では,最初の加工領域を除けば,IF-HPS加工試料は引張強度と延性が均一であることを示している.A3105とA5182の位置1で低い値となったのは,1パス目加工が試料端部で行われたことで周囲からの拘束効果が不足し,ひずみが完全に導入できなかったためと考える.

筆者らによる有限要素法(FEM)を用いたシミュレーションでも[34],インコネル718のIF-HPS加工で同様の傾向を報告している.なお,A1050では試料が軟らかいために,この試料端の影響が現れなかったと考える.この傾向は試料が硬いほど顕著になり,飽和値に達するにはより多くのひずみを導入する必要がある.したがって,IF-HPS加工は試料端から離して開始することが勧められる.

4. IF-HPS技術の利用性

これまでIF-HPSの有効性について述べてきた.IF-HPS法は設備の大型化を伴わずにシート状試料の結晶粒超微細化領域を拡張できる技術である.Fig. 18にフィードパターンの例として,(a)-(c)は1次元方向への拡張,(d)-(f)は試料の長手方向と横方向の送りを組み合わせた2次元方向へ拡張するパターンである.Fig. 19(a)は帯状材料へ,Fig. 19(b)はシート状材料にIF-HPS法を実用化するイメージ図である.IF-HPS法によれば理論上半無限に加工領域を拡張できることから,帯状シートでの連続加工が最も効果的に大面積化に繋がる.Fig. 20はIF-HPS加工によって2方向に加工領域を拡大したインコネル718シート材の例である.2方向へひずみ領域を拡大できることは,これまでに提案された試料送りを備えるSPD技術[35, 36]と比較して優位といえる.従来のSPD加工に対するIF技術の大きな利点は,全域を網羅するために繰り返し時間を要するが,莫大な費用を伴う大型装置や金型の製作を不要とすることにある.

Fig. 18 Illustration of IF-HPS process for upsizing SPD processed large sheet by feeding (a)-(c) in lateral direction and (d)-(f) in lateral and longitudinal directions without increasing machine capacity [34]. (online color)
Fig. 19 Schematic illustration for continuous IF-HPS process (a) located between uncoiling and coiling stages and (b) sit in sheet flowing line.(online color)
Fig. 20 Appearance of IF-HPS processed Inconel 718 sheet after extending to lateral and longitudinal directions. (online color)

当グループはこのアイデアをHPT法にも適用し,IF-HPT法[32] を開発した.Fig. 21は,円状(またはリング状)アンビルでのHPT加工と試料送りを繰り返してSPD加工領域を拡大するIF-HPT加工のイメージ図である.

Fig. 21 Feeding pattern for IF-HPT process to enlarge SPD-processed area. (online color)

さらに,IF-HPS加工やIF-HPT加工は,いずれもFig. 22(a)やFig. 22 (b)の模式図で示すような選択的(飛び地的)加工にも適用することができる.この場合,試料送りは目的に応じて任意に行われる.例えば,ブロー成形を行う場合,SPD加工した部位は成形性が向上し超塑性の発現が期待される.選択的HPT加工後のブロー成形によって,Fig. 23に示すような凸状のドーム(または凹状の穴)を局所的に成形できることになる.

Fig. 22 Examples of selective local processing using (a) IF-HPS and (b)IF-HPT. (online color)
Fig. 23 Examples of selective local processing using (a) IF-HPT and (b)subsequent convex-like formation using superplasticity [32].

5. 結言

高圧ねじり(HPT)加工や高圧スライド(HPS)加工のような高圧下での巨大ひずみ (SPD) 加工は,機械的特性だけでなく様々な機能特性の向上が可能となるが,適用できる試料サイズが小さいためにその応用は限られている.本論文では,SPD加工領域を拡大する試料送り技術とHPS(またはHPT)加工法を組み合わせることの重要性について紹介した.このように,逐送HPS(IF-HPS)加工と称する複合技術は,SPD加工領域が拡大できる可能性があり,実用化が期待される.

IF-HPS加工の開発には,まず,シート状試料を可能な限り平坦かつ滑らかに仕上げるために,従来の溝型アンビルではなく平型アンビルを使用する必要がある.次に,超微細粒(UFG)組織を形成するには,スライドモード,すなわちスライド距離と往復回数の最適化を図る必要がある.また,UFG組織の形成には,フィードパターン,すなわち送り量と送り方向を制御する必要がある.

平型アンビルの幅よりも少ない距離で試料を送ると,加工領域が重なるために,より多くのひずみ導入によってUFG領域が形成される.総スライド量が同じ場合でも,スライド距離を短くし,往復回数を増やすことでクラックの発生を低減することができる.これは特にAl合金で重要となる.

本研究は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「平成28-30年度戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)」のもとで実施されたものである.また,研究の一部は科学研究費基盤研究(A) (19H00830)の助成を受けて行われた.本研究を遂行するにあたって,巨大ひずみマテリアル国際研究センター(IRC-GSAM)のHPS装置と関連設備を使用した.ここに記して謝意を表する.

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