2025 Volume 89 Issue 3 Pages 161-167
Laser powder bed fusion (L-PBF) has been utilized to prepare a high-strength titanium alloy builds using 0.3 mass% MXene-decorated Ti-6Al-4V alloy particles produced by an electrostatic self-assembly. The MXene/Ti-6Al-4V powder mixture had similar spherical morphology and powder size, while showing higher laser absorptivity as compared with the Ti-6Al-4V powders. Under high-energy laser irradiation, MXene was fully decomposed and uniformly dissolved into the Ti matrix. Microstructure observations illustrated that the MXene/Ti-6Al-4V build was completely consisted of ultrafine carbon-saturated martensite structures. Consequently, the MXene/Ti-6Al-4V build exhibited a high tensile strength of ~1.4 GPa, attributing to the refinement of martensitic structure and the solid solution strengthening of carbon. These findings of this study may broaden the potential application of MXene and pave up the way towards the fabrication of advanced titanium parts via L-PBF.
Mater. Trans. 64(2023)1169-1174に掲載
チタン(Ti)合金は,低密度,高強度,高耐食性などの優れた特性から,航空宇宙,自動車,医療分野において注目を集めている[1].しかし,低い硬度と不十分な耐摩耗性は,その用途を広げるため改善すべき主要な課題である[2-4].この点から,強化材や固溶元素を組み込むことが効果的な手段と考えられる.例えば,セラミックス粒子(BC4[5, 6],BN[7],TiC[8],ZrN[9],Y2O3[10],Al2O3[11],やSi3N4[12])は,Ti合金の強化に広く使用されてきた.しかし,均質なセラミックスナノ粒子の分散や強固なセラミックス-金属界面結合を達成することは困難である.格子間元素(炭素,窒素,酸素など)は,粉末冶金法を用いてTiマトリックスへ固溶し,固溶強化効果を示す[13].しかし,残念ながら,粗大なTiC粒子が生成され,その結果,荷重下でTiC-Ti界面にクラックが形成されることが報告されている[14].
レーザ粉末床溶融結合法(L-PBF)は,コンピュータ支援設計ファイルを使用して3次元に金属部品を製造することを可能とする技術である[15-17].L-PBFの本質的な特徴は,高価な工具や熱処理を使用せずに,複雑なカスタム部品を直接製造できる点にある[18].さらに,L-PBFは凝固速度が速い(~104-108 Ks-1 )ため,作製された部品は超微細組織,非平衡相,高内部応力といった多くのユニークな特性を示す[19].そのため,L-PBFは従来の材料と比較して優れた機械的性能を示すことが知られている[20].
MXeneは2011年に発見され,新しい2次元材料として注目を集めている.なかでもTi3C2Tx(Tx は表面官能基)は,広く研究されているMXeneの1つである[21].高いヤング率(333±30 GPa)と高い破断強度(17.3±1.6 GPa)[21],溶液加工が可能で,電気伝導性/熱伝導性に優れていることから[22],MXeneは触媒,エネルギー貯蔵,電磁波吸収・遮蔽などの分野で広く使用されている[21,23].本研究では,L-PBFによる高性能Ti合金を開発するためのフィラーとして,MXeneを選択した.第一に,MXeneはその優れた総合特性から,複合材料の理想的な強化材と考えられている[24,25].例えば,Zhouらは数層のMXene強化Alマトリックス複合材料を作製し,MXeneの添加によりアルミニウムの引張強度が約66%向上することを見出した[26].第二に,従来の強化材(TiCなど)は通常,ボールミリングプロセスによって金属粉末と混合されるため,粉末のサイズや形態が制御できず,L-PBF造形体の内部欠陥につながる.対照的に,MXeneは豊富な表面官能基を持つため,粉末の特性を変えることなく,静電自己組織化[20]によって金属粒子上に容易に付着させることができる.第三に,MXeneの熱分解温度は約1500Kであり[27],これはTiCの融点(3430K)よりはるかに低い.L-PBFのような高温製造プロセスでは,MXeneは炭素原子や酸素原子に分解されTiマトリックスに固溶し強化する可能性がある.本研究では,ヘテロ凝集法によりTi-6Al-4V合金粉末の表面にMXeneシートを付着させた.MXene添加がTi-6Al-4V合金の粉末特性,L-PBF加工性および機械的性質に及ぼす影響を調べた.その結果,MXeneの添加による合金の微細組織の変化と強化メカニズムが明らかとなった.
Ti3C2Tx MXeneコロイドは,他で報告されている手法と同様に,選択的エッチングによってTi3AlC2 のAl原子を除去することによって合成された[26].MXene/Ti-6Al-4V混合粉末を以下に示すヘテロ凝集法により作製した.まず,一定量のMXeneを水に希釈し,超音波処理と機械的攪拌を1.8 ks行った.次に,ガスアトマイズしたTi-6Al-4V粉末をMXeneコロイドと混合し機械的撹拌を1.8 ks行った.MXeneの割合は粉末全体の0.3mass%になるように調整した.スラリー混合物を液体N2にゆっくりと注いだ.最後に,凍結した粉末を227 Kの真空雰囲気で259.2 ks間乾燥させた.
2.2 L-PBFによるMXene/Ti-6Al-4V造形体の作製Ti-6Al-4VおよびMXene/Ti-6Al-4V造形体は,波長1070 nmのレーザ光源を持つレーザ溶融装置(Concept Laser Mlab R)を用いて作製した.最適化された造形パラメーター(レーザ出力:95 W,層厚:25 µm,ハッチ距離:90 µm,スキャン速度:800 mm s-1 )を使用した.
2.3 特性評価透過型電子顕微鏡(TEM; HF-2000EDX,㈱日立製作所),原子間力顕微鏡(AFM; SII Nanocute,㈱日立ハイテク),走査透過電子顕微鏡(STEM; JEM-ARM200F,日本電子㈱),および電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM; JSM-6500F,日本電子㈱)を使用して,粉末および造形体の特徴を評価した.粒度分布の測定には,He-Neレーザ光学式粒度分布測定装置(HELOS & RODOS,Sympatec社)を用いた.X線CT(ScanXmate-D225RSS270,コムスキャンテクノ㈱)により,造形体の内部欠陥分布を評価した.X線回折(XRD; SmartLab 9 kW,㈱リガク)により構成相の同定を行った.試料の炭素含有量は,元素分析装置(CS844,LECO社)を用いて,ガス融解と赤外スペクトルを組み合わせた方法により測定した.ビッカース硬度測定には,微小硬度計HM-200(㈱ミツトヨ製)を用い,荷重980 mNにて測定した.引張試験には,放電加工機を用いて作製したドッグボーン形状の試験片を用いた.引張試料の測定部分の幅,長さ,厚さはそれぞれ2 mm,15 mm,1.5 mmとした.初期ひずみ速度を1.10×10-3 s-1とし,室温で引張試験を行った(Instron 5982).
Fig. 1(a)に銅グリッド上のMXeneのTEM像をに示す.MXeneはシート状で,幅方向の平均サイズは1µm未満であった.制限視野電子線回折(SAED)パターン(Fig. 1(a)の挿入Fig. )から,MXeneの六方晶対称性が確認できる.MXeneシートのAFM像をFig. 1(b)に示す.MXeneシート上のランダムな黒い斑点は,MXeneの選択的エッチングによって生じた気孔であり,明るい領域は不純物ナノ粒子である.対応する高さプロファイル(Fig. 1(c))は,~3.5 nmの厚さを示し,MXeneが非常に薄いという特徴を示している.さらに,MXeneは-42 mVの負のゼータ電位を示したが,これは選択的エッチングプロセスによって誘起された表面基(例えば, -O,-F,-OH )に起因するものである[28,29].

Ti-6Al-4V粒子のSEM像をFig. 2(a)に示す.Ti-6Al-4V粉末はほぼ球形で,滑らかな表面を示した.Fig. 2(b)は,表面近傍のTi-6Al-4V粒子の断面のSTEM像とEDSによる元素マッピングである.粒子表面には,ガスアトマイズプロセスによって形成された酸化物層が存在していることから[30],水中でTi-6Al-4V粒子が正電荷を帯びる原因であると考えられる[2].

Fig. 3(a)は,作製したMXene/Ti-6Al-4V複合粉末の形態を示す.MXeneシートが薄片であることから,MXene/Ti-6Al-4V複合粉末は,元のTi-6Al-4V粒子と同様の球形状と粒径を有していた(Table 1).高倍率のFE-SEM像(Fig. 3(b))とEDS分析(Fig. 3(c))により,MXeneシート(Fig. 3(b)の矢印)は,凝集することなく粒子表面に均一に被覆されていることが示された.これは,正電荷を帯びた金属粒子と負電荷を帯びたMXeneが,混合過程で静電引力を介して自然に引き寄せられたものと考えられる.

Fig. 4は,Ti-6Al-4V,MXeneおよびMXene/Ti-6Al-4V粉末のレーザ吸収率を比較したものである.MXeneシートの高いレーザ吸収率(82.9%)により,Ti-6Al-4V粒子のレーザ吸収率は1070 nmで70.6%から77.6%に増加した.これは,Ti-6Al-4V粒子にMXeneが均一に被覆されたためである.したがって,MXene/Ti-6Al-4V混合粉末の球状モルフォロジー,レーザ吸収率の増加などの優れた粉末特性は,L-PBF加工性向上に役立つと考えられる.

MXene装飾がL-PBF加工性に及ぼす影響を比較するために,Ti-6Al-4VとMXene/Ti-6Al-4Vの両方の造形体を同一のL-PBF条件で作製した.得られたL-PBF造形体の断面外観をFig. 5に示す.Ti-6Al-4V造形体と比較すると,MXene/Ti-6Al-4V造形体では,100µm未満の球状の気孔がいくつか観察された(Fig. 5(b)の黒矢印).これらの気孔は,キーホールまたは溶融プール内に閉じ込められたガスから誘起されたガス孔であると考えられる[31].Wangら[32]は,熱還元中にMXeneの官能基である-Fや-OHが除去されると主張している.したがって,高温のL-PBF下でMXeneの表面基の分解が起こり,CO2 -,F2-,またはH2Oがトラップされた気孔が形成された可能性がある.MXene/Ti-6Al-4V造形体では,少量の内部欠陥が形成されたとはいえ,アルキメデスの原理から求めた相対密度は99.1%(すなわち気孔率は0.9%)と高い値を示した.

X線CT画像を再構成することにより,L-PBF造形体の気孔率情報をFig. 6に可視化した.カラフルな斑点は,1-250µmまでの異なる直径の気孔を示す.気孔はランダムに分布していることがわかる.Ti-6Al-4VとMXene/Ti-6Al-4Vの気孔率は,それぞれ0.051%と0.054%であった.また,MXene/Ti-6Al-4Vでは,120µm以上の大きな気孔の数が増加することがわかった(Fig. 6).L-PBF中の高温下では,MXeneの表面基が分解して大きな気孔が形成される可能性がある.また,使用したアルキメデスの原理とX線CT分析との間の空隙率の乖離は,CT分解能(1-250µm)の下での小さな気孔の存在に起因する可能性がある.MXene添加がTi-6Al-4VのL-PBF加工性に及ぼす影響を結論づけるには,パラメータを変えたさまざまな造形体を用いてさらに調査する必要がある.

Fig. 7にTi-6Al-4V合金とMXene/Ti-6Al-4V造形体のXRDパターンを示す.Ti-6Al-4V造形体と同様に,MXene/Ti-6Al-4V造形体の相はα/α’-Ti相が支配的であった[33].β-TiまたはTiC相は,MXene/Ti-6Al-4V造形体では検出されなかった.Ti-6Al-4V造形体とMXene/Ti-6Al-4V造形体の格子定数は,ブラッグの法則を用いてXRDプロファイルから計算した[34].MXene/Ti-6Al-4V造形体のc軸格子定数(4.663Å)は,Ti-6Al-4V造形体の格子定数(4.650Å)よりも大きかった.MXene添加による格子膨張の理由については後述する.

Fig. 8にL-PBF造形体の微細組織を示す.Ti-6Al-4VとMXene/Ti-6Al-4Vはともに完全に針状組織からなり,これはα’-Tiである[35].L-PBF処理中,Ti-6Al-4V合金ではβ相が優先的に生成した.その後,β相はせん断型変態によりα’相に変態した[36].これはL-PBFの高い冷却速度(~104-108 K s-1 )に起因する[37].Ti-6Al-4V材と比較すると,MXene/Ti-6Al-4V材はより微細なマルテンサイト組織を有している.これは,MXeneからの固溶炭素に起因した結晶粒微細化効果によるものであると推測される[38,39].しかし,Fig. 7のXRD回折パターンと同じように、 MXene/Ti-6Al-4V造形体では残留MXeneや析出物は観察されなかった.

Fig. 9(a)にMXene/Ti-6Al-4V造形体のTEM像を示す.微細なマルテンサイト組織から構成されており,またFig. 9(b)のEDSマッピングから明らかなように,Ti,Al,V,OまたはCは,偏析することなくマトリックス中に均質に分布していた.Table 2にTi-6Al-4VおよびMXene/Ti-6Al-4V粉末または造形体の炭素含有量を示す.L-PBF造形体は,出発粉末と同様の炭素含有量であった.Fig. 8とFig. 9の組織評価から,MXeneはL-PBFプロセス中に完全に分解し,Tiに溶解したと考えられる.一般に,炭素のような格子間原子は,α-Ti の c 軸格子定数の増加を引き起こす[8,40].したがって,Fig. 7 の MXene/Ti-6Al-4V 造形体の c 軸格子膨張は,炭素原子の固溶に起因している可能性がある.

Ti-6Al-4V造形体とMXene/Ti-6Al-4V造形体のビッカース硬さは,それぞれ391 HVと418 HVであった.Ti-6Al-4V造形とMXene/Ti-6Al-4V造形体の公称引張応力-塑性ひずみ曲線をFig. 10(a)に示す.得られた極限引張強度(UTS),0.2%オフセット降伏強度(YS),および塑性伸びをTable 3にまとめた.Ti-6Al-4V造形体のUTSとYSは,それぞれ1286 MPaと1179 MPaであった.MXeneの添加により,MXene/Ti-6Al-4V造形体のUTSとYSは,それぞれ1389 MPaと1309 MPaに増加した.Fig. 10(b)に示すように,MXene/Ti-6Al-4V 造形体は,Ti-6Al-4V 合金や Ti 基複合材料よりも高い UTS を示した[41-47].また,Ti マトリックス複合材料(TMC)と比較して最も高い UTS を示した[8,48-52].これは,微量の MXene 添加による優れた強化効果によるものであり,この強化は微細な α’-Ti 構造の形成と,格子間の炭素原子による固溶強化によるものである.今後,強度と延性の優れたバランスを得るために,精密な熱処理とMXene濃度の制御を行う予定である.

L-PBF法により,高い強度を有する新規なMXene/Ti-6Al-4V材料を開発した.均一なMXene/Ti-6Al-4V混合粉末をヘテロ凝集によって作製した.MXeneシートが超薄膜であるため,MXeneで装飾されたTi-6Al-4V粉末は,Ti-6Al-4V粉末と比較して,同様の球状形態と粒度分布を維持しながら,より高いレーザ吸収率を示した.L-PBFプロセス後,微細なアシキュラーα’-Ti構造からなるMXene/Ti-6Al-4V造形体が得られた.微細組織解析の結果,MXeneシートはレーザ照射により完全に分解し,Ti-6Al-4Vに溶解して炭素固溶合金を形成した.Ti-6Al-4V合金のビッカース硬さ,YSおよびUTSは,MXeneの導入によって向上した.例えば,YSは1179 MPaから1309 MPaに増加した.この研究により,MXeneがTi合金の効果的なナノ炭素源として利用できることが示された.
本研究は,日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域研究(A)(番号:22H05273)の助成を受けた.TEM観察に際しては,東北大学の小林恒誠博士および宮崎孝道博士の技術協力を得た.