2025 Volume 89 Issue 6 Pages 217-223
The electrochemical properties of Cu electroplating with supercritical CO2 (Sc-CO2) emulsion mixed into the plating solution are reviewed. A rotating disk electrode (RDE), capable of operating under high pressure, was prepared for the electrochemical evaluation by convection voltammetry and electrochemical impedance spectroscopy (EIS) measurements. In the mass transfer process, it was confirmed that the mixture of Sc-CO2 and plating solution promoted the transport of Cu ions by convection. In the electrode activation reaction process, in addition to the increase in polarization resistance due to the adsorption of the polyethylene glycol (PEG) complex, Sc-CO2 was found to increase the polarization resistance and further suppress deposition.
近年の高性能半導体チップでは,配線の微細化に伴う抵抗の増加を避けるため,従来のドライプロセスによるAl配線に代わり,電解めっきによるCu配線が用いられている.また,More than Moore技術として期待される3Dや2.5D実装技術においても,チップやインターポーザ上の微細配線や,TSV(Through Silicon–Via)の形成に対してCu電解めっきが用いられる[1,2].特にTSVの製造でキーとなるビア内へのCu埋め込みでは,ボイドレスの埋め込みを達成するため,優先的にビア底からCuを成膜可能なボトムアップ成長型の電解めっきが用いられる.このようなめっき液には,Cuイオンと抑制剤や促進剤などの有機添加剤を含むめっき液が用いられ,ビア内部への添加剤の供給速度の違いを利用してボトムアップ成長が実現されるが[3],ビア径の微細化や高アスペクト比化の進展に伴い,ビア底へのCuイオンの供給が滞り,埋め込みが困難となりつつある.
一方,超臨界CO2(Sc–CO2)をめっき液に混合してエマルション化させることで,従来のめっきプロセスでは得られなかった様々な機能を付与できることが報告されている[4-13].特に,超臨界流体特有の性質として,イオンの輸送と密接に関連する溶液の粘度を所望の方向に変化させることも期待され,実際にこの方法により,めっきのスローイングパワーやレベリング性が向上し,微細な凹部にもボイドレスの埋め込み膜を形成できることが実験的に説明されている[11-13].但し,Sc–CO2が電解めっきの電極反応機構に及ぼす影響は必ずしも十分明らかにはなっておらず,実用化に向けたプロセス制御に対してはこれらの解明が望まれる.本論文では,Cu電解めっきに超臨界CO2エマルションめっきを用いた場合の電極反応機構について,我々の研究事例である電気化学的測定に基づき考察した結果について紹介する.
CO2の臨界点は温度31.2℃,圧力7.38MPaで,それ以上の温度と圧力で超臨界状態となる.超臨界状態のCO2は,表面張力がゼロで液体のように密度が高く,気体に近い低粘度というユニークな性質を有する.但し,CO2は極性が小さいため,CuSO4などの金属塩をイオン化して溶かすことはできず,Sc–CO2自体も水に溶けることはない.曽根らは,金属イオンと界面活性剤を含む電解質水溶液に超臨界CO2を分散・エマルション化させた電解めっきを用いて,多機能な金属電着が可能であることを示した[4-13].ここで,エマルションとは相互に親和性の低い液体の一方が,他方に分散している状態をいい,Sc–CO2の場合は,界面活性剤でミセルを形成することで水溶液中に分散する.めっき液中に分散されたSc–CO2ミセルは,基板への吸着・脱離を繰り返し,結晶成長が抑制されるため,核生成が比較的優位となる[9].したがって,この方法を用いると,得られる析出物の結晶粒径が微細化するため,緻密な金属膜を形成でき,ピンホールなどの欠陥が発生しにくくなる[8,9].さらに,Fig.1に示したように,この方法により,微細な凹状ビアに対する埋め込みにも有効であることが報告されている[11-13].これらのことから,Sc–CO2エマルションめっき法は,従来のめっき法では得られなかった機能を提供できることが示唆される.
Fig.2には,Sc–CO2エマルションめっきに用いられる装置の概略図を示した.Sc–CO2をめっき液に混合するためには,まず,CO2ボンベに接続されたバルブを開き,系全体をCO2ガスで置換した後,昇圧ポンプで圧力容器内の圧力を臨界点以上に上昇させる.この状態で,50℃に加熱した容器内のCO2が超臨界状態になり,さらに圧力容器内のめっき液を撹拌することで,Sc–CO2がエマルション化して溶液中に分散される.この状態を保ったまま,容器内の陽極と陰極に通電すれば,Sc–CO2エマルション電解めっきが可能となる.
Sc–CO2エマルション電解めっきの流体力学的効果を確認できる対流ボルタンメトリによる測定を行うため,高圧下で使用可能な回転ディスク電極(RDE)を構築した.本装置は,Fig.2に示される装置の圧力容器の陽極と陰極に代え,作用電極,対極,参照電極を導入して構築したものである.作用電極としては,回転可能なCu円板,対極および参照電極としては,表面にIrO2をコーティングしたTi電極を用いた.なお,この参照電極の電位は,Irの酸化還元反応に関連し,めっき液に対して,50℃で0.5V vs. SCEであった.めっき液には,流体力学的挙動の影響を強調するために,あえて希薄なCuSO4水溶液を用いた.具体的なめっき液組成は,CuSO4:0.2mol/L,H2SO4:1.3mol/L,塩化物イオンCl–:60mg/L,ポリエチレングリコール(PEG)(1000MW):20µmol/Lである.PEGは界面活性剤とは異なるが,CO2と水に対する相溶性があり,界面活性剤と同様に界面張力を下げる効果がある[14].
Fig.3は,RDEの回転速度をパラメータとして測定した対流ボルタモグラムである[15].Fig.3(a)はSc–CO2を混合しない大気圧でのめっき液のボルタモグラム,Fig.3(b)はSc–CO2を5vol%混合した10MPaでのボルタモグラムを示す.ここで,横軸は電位掃引前に測定した自然電位からの電位差つまり過電圧ηを表している.これらの図から分かるように,Sc–CO2を混合した場合,混合しない場合に比べて電流密度Jは全回転数で増加した.この結果は,Sc–CO2の混合・エマルション化が濃度分極を低減する効果を持つことを示唆している.ここで,Sc–CO2を混合する効果をより詳細に探るため,限界電流密度とRDEの回転数の関係を調べた.RDEを作用電極として使用する場合,そこに流れる電流の限界電流密度Jlimは,通常,以下のLevichの式に従うことになる.
$$ J_{\mathrm{lim}} = 0.62nFD^{2/3}_{0} \nu^{-1/6} C_{0} \omega^{1/2} $$ | (1) |
ここで,nはCu2+イオンの還元で移動する電子数,Fはファラデー定数,D0はCu2+イオンの拡散定数,νはめっき液の動粘度,C0はCuのバルク濃度,ωはRDEの角速度である.この式が意味するように,限界電流Jlimは角速度の1/2乗,金属イオン濃度,拡散定数の2/3乗に比例し,めっき液の動粘度の1/6乗に反比例する.Fig.4は,Fig.3から求めた限界電流密度と角速度の1/2乗の関係を示す図である[15].なお,Fig.3で限界電流が観測できない場合は,過電圧0.4Vでの電流密度がプロットされた.この図より,実験で得られた限界電流密度が,超臨界CO2の混合にかかわらず,角速度ωの1/2乗に比例して増加することを表している.Sc–CO2を含まない実験線の傾きは,一般的に知られているD0とνの値から計算した値と概ね一致していた.一方,Sc–CO2を混合した場合は,混合しない場合に比べ,直線の傾きが2倍以上大きくなった.Sc–CO2を混合した場合のRDE高速回転時の限界電流密度が観測できていないことから,実際の直線の傾きは厳密には正しくなく,さらに大きくなる可能性がある.
以下では,Sc–CO2混合による直線の傾きを増加させる要因について考察する.Sc–CO2が存在してもCuのバルク濃度は変化しないので,式(1)とFig.4の直線の傾きが明らかに増加していることから,Sc–CO2をめっき液に混合することでCu2+イオンの拡散定数D0が増加し,めっき液の動粘性係数νが減少すると考えられる.Cuと硫酸を含む溶液中のCuイオンの拡散定数と溶液の粘度との関係は,AJ Arviaらにより詳細に検討されており,RDEを用いた電気化学的手法により,以下の関係が得られている[16].
$$ D_{0} \mu/T = 2.23 \times 10^{-15} $$ | (2) |
ここで,μはめっき液の粘度[Pa・s],Tは温度[K]である.この関係式は,溶液粘度が8–520Pa・s,温度が18–41℃の広い範囲で成立することが確認されている.本研究のSc–CO2エマルションめっきでもこの関係が成立すると仮定すると,D0 = 1.9 × 10–9 m2/s,ν = 3.6 × 10–7 m2/s が得られ,Sc–CO2を混合しない場合に比べ,拡散定数は倍以上,動粘度は1/2以下に減少すると予想される.この結果は,前述したTSVの形成において極めて大きな意味を持つ.すなわち,Sc–CO2をめっき液に混合することにより,イオンの拡散係数を高め,溶液の粘性を著しく低下させる効果により,ビアホールのアスペクト比が数十以上であってもCu2+イオンがホール底部に輸送されやすくなり,その結果,従来のめっきでは不可能な高アスペクト比でのビアフィルを実現する可能性を有する.
3.2 超臨界CO2が電極活性化反応に与える影響本節では,高圧RDE装置により流体力学的定常状態に制御されたボルタンメトリと,電気化学インピーダンス分光法(EIS)から得られた結果をもとに,Sc–CO2を混合しためっき液中での電極表面へのCu電着の反応機構の解明を試みた.めっき液には電極の活性化反応に関わる電流応答を得るため,前節とは逆に,物質移動の影響を最小限にできる高濃度のCuSO4溶液を用いた.具体的には,CuSO4:1.0mol/L,H2SO4:0.5mol/L,塩化物イオンCl–: 60mg/L,PEG(1000MW):2–100µmol/Lを含む水溶液を試験液として使用した.
Fig.5は,PEG濃度をパラメータとして測定した対流ボルタモグラムである[17].この図は,RDEの回転速度が100rpmのときの結果を示している.Fig.5(a)は,Sc–CO2を混合しない従来のめっき液のボルタモグラムであり,Fig.5(b),Fig.5(c)は,圧力10MPaで,Sc–CO2濃度がそれぞれ10vol%,30vol%とした場合のボルタモグラムを示す.Fig.5(a)に示すように,Sc–CO2濃度が0の場合,分極曲線はPEG濃度によって変化し,濃度増加に伴い電流密度が全体的に減少し,曲線の傾きの逆数で表される分極抵抗は大きくなった.また,実験では,RDEの回転速度によって分極曲線が変化し,回転速度が速くなると分極抵抗が大きくなることが確認された.これらの結果から,PEGはCu電着の抑制剤として作用し,電極表面への供給が拡散律速であることが示唆される.一方,Fig.5(b)に示すように,10vol%のSc–CO2を混合するとPEG濃度によらず分極曲線の勾配が小さくなり,分極抵抗が大きくなることが確認された.Sc–CO2濃度を30vol%に増加すると,分極曲線の勾配はさらに小さくなるが,50vol%まで増加しても,分極曲線はFig.5(c)とほぼ同じであった.PEGはCu電着の抑制剤として知られるが,溶液中のSc–CO2はPEGの効果に加え,さらに抑制効果を付与するものと考えられる.めっき液に分散されたSc–CO2ミセルは,電極や析出物の表面への吸着・脱着を繰り返し,金属の電着を抑制することができる[9].つまり,CO2濃度の上昇に伴う分極抵抗の増加は,これらのミセルの電極表面への吸着/脱着によるものと推測される.CO2濃度が30vol%以上で分極抵抗の変化が見られないのは,この濃度領域ではミセルによる電極表面の平均被覆率が飽和しているためと考えられる.
Fig.6は,Fig.5から近似して得られるTafel曲線の転移係数と交換電流密度のSc–CO2濃度依存性を示している[17].なお,Fig.5には,溶液抵抗によるiRドロップが含まれるが,Tafel近似の際には補正によりキャンセルした.Tafel曲線は,以下の式で表される.
$$ i = i_{0} \exp \left( \pm \alpha F \frac{\eta}{RT} \right) $$ | (3) |
ここで,i0,α,F,ηはそれぞれ交換電流密度,転移係数,ファラデー定数,過電圧である.Fig.6(a)に示すように,Sc–CO2を混合しない場合の転移係数は 0.45–0.50であり,硫酸銅水溶液からの電着に関する過去の報告[18,19]とよく一致した.一方,Sc–CO2を混合すると,転移係数は0.32–0.40に低下した.転移係数は,電荷移動過程における過電圧の寄与の度合いを示すパラメータであり,転移係数が小さいほど,印加電位に対するエネルギー障壁の低下が小さいため,還元反応が起こりにくいことを意味する.この現象は,Sc–CO2混合の特徴と言える.Fig.6(b)は,交換電流密度のSc–CO2濃度依存性を示しているが,図に示すように,PEGの添加で交換電流密度は1/100以下に著しく低下し,Sc–CO2濃度による変化は比較的小さかった.これらの結果は,PEG添加による分極抵抗の増加は,交換電流密度の減少により説明でき,Sc–CO2混合による分極抵抗の増加は,これに転移係数の減少が加わったものといえる.
Fig.7は,PEG濃度をパラメータとしてEIS法で測定したナイキストプロットである[17].これらのEISスペクトルは,RDEの回転数100rpmで測定された.Fig.7(a),Fig.7(b)は,Sc–CO2を混合しない大気圧下でのナイキストプロットであり,Fig.7(c),Fig.7(d)は,圧力10MPaで,Sc–CO2濃度をそれぞれ10vol%,30vol%とした場合のナイキストプロットである.なお,EIS測定は,定電位印加電圧:–0.1V,摂動振幅:10mV,掃引周波数:100kHz–50mHzで実施した.Fig.7に示すように,得られたスペクトルには,ある実数部を起点として,高周波領域と低周波領域で2つの連続した容量性ループを持つことから,これらのスペクトルは,容量成分と抵抗成分で表される2つの反応がつながっていることを意味する.金属イオンが順次反応によって反応中間体を経て金属に還元される場合,反応中間体は電極表面に吸着され,その吸着状態は印加電位によって変調され,変調が時定数となるため,別のインピーダンス,すなわちファラデーインピーダンストレースが発生する.その結果,Fig.7に示すような2つの容量ループは,ファラデーインピーダンスのような時定数の小さい速い反応と時定数の大きい遅い反応が同時に起こっていることを示唆する.この挙動は,Sc–CO2の有無にかかわらず,また Sc–CO2の濃度が変化した場合にも観察された.PEGとCl–を含むCu電着におけるこれら2つのループは,すでに他の研究者によって詳細に検討されている[18,20].すなわち,一方の容量ループは,式(4)で表される電荷移動反応によるCu2+錯体のCu+錯体への還元に関連し,他方のループは,式(5)で表される吸着したCu+錯体と電子の反応によるCu表面へのCu原子の生成に関連する.
$$ \mathrm{Cu}^{2+} + e^{-} \leftrightarrow \mathrm{Cu}^{+} (ad) $$ | (4) |
$$ \mathrm{Cu}^{+} (ad) + e^{-} \leftrightarrow \mathrm{Cu} $$ | (5) |
Fig.7(a),Fig.7(b)に示すように,Sc–CO2を混合しない場合,PEG を含まない溶液では容量ループの直径は 0.1Ω cm2 以下と極めて小さい値であり,PEG を含む溶液では 5–6Ω cm2 となった.Fig.7(c),Fig.7(d)に示すように,Sc–CO2を混合した場合,CO2濃度が10vol%になるとループの直径は一旦小さくなる.また,CO2濃度が30vol%まで増えると,ループの直径は再び大きくなった.この傾向は,高周波と低周波の容量性ループの両方で同じであった.ここで,高周波側の容量ループの始点は試験液のバルク抵抗Rsolを示し,低周波側のループの終点は全反応に寄与する抵抗成分の総和を示す.したがって,2つのループの直径の和が分極抵抗に相当することから,Sc–CO2濃度の増加に伴い分極抵抗も高くなると言え,Fig.5に示した分極特性の挙動とも一致する.
EISスペクトルから推定される電極反応の等価回路化は,反応機構を理解する上で有用である.Fig.8はFig.7のナイキストプロットからフィッティングして得られた等価回路を示し,Fig.9は,Sc–CO2濃度に対する等価回路のそれぞれの素子定数の変化を表している[17].なお,CPE(Constant Phase Element)に対しては,CPEのインピーダンスから算出される見かけの静電容量C’で示した.主要な物理量として,R1,R2,C’1はそれぞれ溶液のバルク抵抗,電荷移動抵抗,二重層容量を表し,R3,C’2は,ファラデーインピーダンスに関連する抵抗成分,容量成分に相当する.Fig.9(a)に示すように,溶液のバルク抵抗R1は,Sc–CO2濃度の上昇に伴い増加するが,これは,すでに報告されているように,溶液中に分散しているSc–CO2ミセルが抵抗値上昇の原因であると考えられる[4,5].一方,電荷移動抵抗R2は,Sc–CO2の混合により一旦減少するが,30vol%以上で大きく増加し,Fig.6(a)に示した転移係数の挙動と一致した.
以上の結果より,Sc–CO2をめっき液に混合した際の析出反応時の電極表面状態について考察する.まず,Kellyらは硫酸銅めっき液におけるPEG添加の効果を報告し,塩化物イオンが存在するとCl––Cu+–PEG錯体がCl–側を基点に電極表面に吸着し,電荷移動に利用できる表面サイトをブロックすると結論付けた[18,21].この結果,交換電流密度が低下して分極抵抗が増加する.一方,PEGに加え,Sc–CO2を混合すると,交換電流密度に加え,転移係数も併せて低下して分極抵抗がさらに増加する.転移係数の増加要因としては,式(4)で表される素過程の還元反応が起こりにくくなっているためであると考えられる.これは,界面にPEGを纏うSc–CO2ミセルが,基板表面に吸着しているCl––Cu+–PEG錯体上に吸着し,より複雑な錯体を形成することで,溶液中のCu2+イオンの接近を阻害し,結果としてCl––Cu+–PEG錯体の形成に必要な活性化エネルギーが増加するためと推定される.なお,この推定モデルからは,Sc–CO2の混合により,二重層厚さが増加することが予測されるが,これは,Fig.9(b)に示す二重層容量C’1がSc–CO2濃度の増加とともに減少する結果とも一致する.Sc–CO2エマルションめっきでは,ピンホールなどの欠陥がない緻密な析出膜が得られることが特徴として示されているが[8,9],これは,上記の通り,PEGなどの抑制剤の効果に,さらにSc–CO2による還元反応の抑制効果が加わるためと考えられる.また,この抑制効果は,Josellらが提唱する電解めっきのビア埋め込み機構において[3],ビア外部のフィールド面での析出抑制をより顕著にするため,ビア底部から優先的に析出・成長させるボトムアップ成長にも有効と思われる.
本論文では,緻密でピンホールなどの欠陥が生じにくく,微細ビアに対する埋め込みにも有効とされるSc–CO2エマルションCu電解めっきに対して,高圧下で動作可能なRDE装置を構築し,対流ボルタンメトリおよびEIS測定により電気化学的評価を行った結果について紹介した.Sc–CO2とめっき液の混合により,物質移動過程においては,イオンの拡散定数の増加とめっき液の粘度低下のため,対流によるCuイオンの輸送が促進されることが確認された.一方,電極活性化反応過程においては,Sc–CO2が,PEGの効果であるCl––Cu+–PEG錯体の吸着に伴う分極抵抗の増加に相まって,Sc–CO2ミセルが吸着してより複雑な錯体を形成することで,溶液中のCu2+イオンの接近を阻害し,さらに分極抵抗を増加させるものと考えられる.これらの結果は,Sc–CO2エマルション電解めっきが,微細なビア埋め込みなどの半導体工程への適用に有効であることを支持するとともに,本法の実用化に向けたプロセス制御に対する理論的裏付けとなり得る.