原著論文
制度・分野ごとの縦割りを超えた包括的な
支援体制構築に関する意識調査
~地域共生社会の実現を目指して~
Survey on Attitudes Toward Building a Comprehensive Support System that Transcends Vertical Divisions by System and Field
-The Realization of a Community-Based Society-
山元 沙織1 坂本 幸介1 川畑 めぐみ1 福井 泉恵1 冨田 嘉博1
谷道 美佳1 小野 淳二2
Saori Yamamoto1 Kousuke Sakamoto1 Megumi Kawabata1 Izue Fukui1
Yoshihiro Tomita1 Mika Tanimichi1 Junji Ono2
1特定医療法人財団博愛会 博愛居宅介護支援センターささおか
2特定医療法人財団博愛会 博愛会病院
1Medical Treatment Corporate Foundation HAKUAIKAI
Home Care Support Center SASAOKA
2Medical Treatment Corporate Foundation HAKUAIKAI
HAKUAIKAI Hospital
要旨
本研究では、介護支援専門員と相談支援専門員の、「地域共生社会」や「他分野との協働」に対する意識の違いを分析し、包括的な支援体制の構築に向けた課題を明らかにすることを目的とした。結果、《連携経験のある分野》では、「保育・教育分野」(高齢者2.1%VS障がい者38.5%)、《支援において最も価値を置いていること》では、「法令順守」(高齢者37.7%VS障がい者6.7%)、「意思決定支援」(高齢者44.9%VS障がい者73.3%)、「関係機関との連携」(高齢者50.7%VS障がい者80.0%)(p<0.05)、《地域共生社会と包括的相談支援の構築に向け取り組めること》では、「地域に向けた勉強会や啓発活動の実施」(高齢者39.1%VS障がい者6.7%)に有意差を認めた。両分野で支援に価値を置いている部分が異なることを互いに認識しておくことが、包括的支援体制を構築する上で、一つの課題になると考える。
キーワード:介護支援専門員 相談支援専門員 地域共生社会 包括的支援 多職種連携
戦後の日本では縦割り行政という言葉に象徴されるように、問題別、対象別に社会福祉制度が整備されていったことで、公的機関の支援者は自分が担当する業務の範囲内だけでアセスメントと支援を行うようになり、その結果、生活全体や世帯全体に対する視点が弱くなり、政策的に進められる連携は高齢者福祉、児童福祉等、各分野内での連携にとどまるものであった(菱沼,2022)。
高齢化や未婚率の上昇による核家族や単身世帯の増加によって世帯が縮小し、家族が課題に対応する機能は低下している。また、急速な人口減少や人々の意識の多様化などを背景に地域のつながりは弱まっている(厚生労働省,2023)。
現在、日本は、もはや子どもから高齢者まで誰でもがケアラー(家族介護者)になり得る「大介護時代」を迎えている(牧野,2023)。また、ケアラーの多くが地域の中で孤立し、日常生活や自身の心身に大きな負担と不安を抱え、人生の見通しがつかずにひっ迫した状況にあっても、SOSが出せずに潜在している(牧野,2020)。また、8050問題など、世帯の中で複合的な課題を抱え、高齢者、障害者、児童、低所得者といった従来のカテゴリー別の支援体制では捉えきれなくなっている事例も散見される(鶴田,2021)。
高齢者介護における問題の中には、介護保険の枠で捉えられない問題も存在し、介護支援専門員が単独で対処することは困難である場合もある。そのような問題に対しては、各種サービス事業者、在宅介護支援センター、市区町村といった複数の職種・機関による連携が不可欠とされている(吉江他,2004)。こうした状況に対して国は、平成29年度社会福祉法改正により、分野別、年齢別に縦割りであった支援を本人中心の「丸ごと」の支援とし、個人やその世帯の地域生活課題を把握し、解決していくことができる包括的支援体制の構築を市町村の努力義務とした。
近年、介護支援専門員と他業種との連携について、相談支援専門員(植戸,2020)、訪問看護師(泉宗他,2013)、保健師(齋藤他,2007)、薬剤師(杉原他,2018)、医師(三上他,201
3)、などとの事例が多く報告されており、以前に比べると他職種との連携に対する意識は向上している印象がある。しかし、それらは対象者にかかわる一部の職種が連携したものであり、患者中心の「丸ごと」の支援がなされた事例の報告は見当たらなかった。成瀬ら(2018)は、医療・保険・福祉に関わる多職種を対象に、在宅ケアにおける多職種連携の困難について意識調査を実施した結果、「他職種とコミュニケーションをとる上での困難」「サービス提供上の困難」「チームとして機能する上での困難」が挙がったことを報告している。また、清水(2022)は、高齢、障害の各領域におけるケア会議とそのケア会議に関わっているケアマネージャーを対象に、「多問題家族」を対象とした包括的ケアマネジメントの具体的展開プロセスを調査したところ、多問題家族全体への支援計画策定が明確にされないまま、個別支援がなされていることや支援ネットワーク(チーム)における中心的存在が曖昧であったことを課題として報告している。また、地域共生社会において人々の複雑・多様なニーズに対応する包括的な支援を構築するにあたっては、‟断らない相談支援”、‟参加支援”、‟地域づくりに向けた支援”を一体的に行っていくことも求められている(大部,2021)。
少子高齢化の時代を迎え、高齢の障害者(子)と、要介護状態の高齢者(親)が同居するケースも増えている。その中で、具体的な課題としては、知的障害者(主に、ダウン症者)の加齢に伴って、多発していく認知症の問題がある。その支援に入る場合、高齢者の親自身が安心して治療や介護を受けるためには、高齢分野の相談援助職が障害分野の関係機関につないでいかなければならない。ところがその際に、知的障害の特性についての理解が不十てなために、適切なアセスメントが出来ない場合がある。また、知的障害福祉の制度やサービスについての知識がないために、つなぐべき先がわからなかったり、親に間違った情報を提供してしまったりすることもあるかもしれない(植戸,2020)。よって、包括的相談支援の構築が推進され、高齢者分野の介護支援専門員と、障がい者分野の相談支援専門員を含む多職種の連携がよりスムーズとなることは喫緊の課題であると考える。そして、そのためには包括的相談支援に関わるすべての職種が、地域共生社会の理念、目的、実現に向けた役割について正しく理解し、効率よく協働していくことが重要である。これまで、各職種における包括的相談に関する意識や他職種との連携の必要性について調査した研究としては、主任介護支援専門員を対象に、包括的ケアマネジメント実践のためのネットワーク構築における役割における認識を調査し、地域支援ネットワークの構築をその役割として認識していることを報告したもの(大沼他,2015)、介護支援専門員のネットワーク構築状況について調査し、具体的な連携状況を報告したもの(柿元他,2015)、相談支援専門員を対象に、多職種との連携に関する現状や認識についてグループインタビュー方式で調査し具体的内容を報告したもの(根本,2010)、訪問看護師を対象に、介護支援専門員との連携の困難性と課題について調査し、情報共有への努力や工夫が課題であることを報告したもの(依田他,2014)などが散見されたが、各職種における包括的相談支援に関する意識や他職種との連携の必要性に関する調査結果について、他の職種と同時かつ同調査内容にて比較検討したものは見当たらなかった。将来的には、包括的相談支援に関わるすべての職種について、包括的相談支援や他職種との連携に関する認識を明らかにし、比較検討していく必要があるが、今回は、その足掛かりとしてわれわれの職種である介護支援専門員と、在宅支援において協働することが多い相談支援専門員の2職種に着目し、それぞれにおける地域共生社会に対する意識の違い、他分野と協働することや仕事において重視していることの違いについて明らかにし、制度・分野ごとの縦割りを超えた包括的な支援体制構築のための課題を明らかにしたいと考えた。本研究結果をもとに、介護支援専門員が中心となって、縦割りを超えた勉強会の開催などを実施することで、包括的な相談支援体制実現に向けての足掛かりになると考える。
2.方 法
2.1 調査手順
2023年1月から2月にかけ、F県F市のC区介護支援専門員連絡協議会に所属している高齢者分野109名(40事業所)と同C区の障がい者相談支援事業所に所属している障がい者分野34名(20事業所)に、質問紙調査を実施した。高齢化率は全国29.1%(総務省,2023)に対しF市22.0%(福岡市,2021)であり、全国に比べて過疎化や高齢化が進んでいる状況に当たらない。またF市は人口165万人規模(2024年8月時点)の大規模都市であるため、介護サービスや福祉サービスに関しても全国的な充実度と遜色なく、全国の介護支援専門員や相談支援専門員の業務内容と大きな差はないと判断した。
質問紙調査の依頼文・質問票、返信用封筒のセットを上記60カ所の相談機関に郵送し、各相談機関の回答者が無記名で回答した質問票を、返信用封筒に入れて調査者に返送する方法をとった。
2.2 調査内容
今回使用した調査票は、平成30年度に福岡市が市内の自治協議会会長を対象に実施した調査票(福岡市,2018)の質問項目のうち、自治協議会が民間事業者や商店街、NPOと連携した事業、取り組みについて尋ねた質問項目を参考に、研究者間で協議して作成した。
質問項目は、主任介護支援専門員注1、もしくは主任相談支援専門員注2の資格(以下主任資格)の有無、高齢者分野、障がい者分野それぞれの業務内容に対する認識、他分野との協働経験、自身の業務に関する意識、協働包括的な支援体制、地域共生社会に対する意識を問う質問内容とした。実際に使用した質問紙を本論文の末尾に添付する(付録1-1、1-2)。
2.3 分析方法
質問紙調査の項目のうち「これまで自身の分野のみの支援では、立ち行かなかった事例を経験したことがあるか」「これまで他分野に繋いだ、もしくは他分野と協働で対応した事例があるか」「どの分野に繋いだ、もしくは協働で対応したか」「支援において最も価値を置いていること」「地域共生社会」「包括的相談支援」に対して貴事業所はどのような取り組みができると思うか」「今後取り組むとしたら、何が支障となると思うか」「地域共生社会」「包括的相談支援」の構築に向けて何が必要だと思うか」について、χ²検定を用いて高齢者分野と障がい者分野の差について分析した。
2.4 倫理的配慮
調査に際し、①回答は無記名による②調査への協力は回答者の自由意志による③回答は統計的に処理し相談機関や個人は特定されない、以上3点を文書で説明し、回答の返送をもって調査協力の承諾を得たものと見なした。本研究は博愛会病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号22H05)。
3.結 果
3.1 回収状況と主任資格の有無
回収数は高齢者分野68名(26事業所)回収率63.3%、障がい者分野15名(10事業所)回収率44.1%であった。主任資格は高齢者分野では43.5%が有しており、障がい者分野では33.3%が有していた。
3.2 事業所規模や地域共生社会などに関する質問
回答を得た高齢者分野26事業所の職員数の内訳は1人が30.8%、2人が15.4%、3人以上が50.0%、無回答が3.8%だった。対して、障がい者分野の10事業所では1人、2人がともに40.0%、3人以上が20.0%であった。併設サービスを有する事業所は、高齢者分野が80.8%、障がい者分野100%でともに通所系が最も多かった(高齢者分野71.4%、障がい者分野100%)(表l)。
表1 回答者の所属する事業所規模(事業所単位で集計)
「地域共生社会」について、高齢者分野60.0%、障がい者分野71.4%の者が積極的に担っていきたい、または担っていきたいと回答した。「地域共生社会」という言葉を知っている者は、高齢者分野が63.8%、障がい者分野が73.3%で、知らない者は高齢者分野が5.8%、障がい者分野が6.7%であった(図1)。包括的相談支援の必要性については、必要であると回答した者が高齢者分野62.3%、障がい者分野80.0%、やや必要であると回答した者が高齢者分野24.6%、障がい者分野6.7%であった(図2)。
図1 「地域共生社会」という言葉を知っているか
図2 「包括的相談支援」を必要と思うか
「地域共生社会」「包括的相談支援」に対して所属事業所としてどのような取り組みができると思うかについて「地域に向けた勉強会や啓発活動の実施」が高齢者分野39.1%、障がい者分野6.7%と高齢者分野が有意に少なかった(p<0.05)(表2)。「地域共生社会」「包括的相談支援」の構築に向けて今後取り組むとした場合の支障や、何が必要かの問いについては高齢者分野、障がい者分野ともに有意差がなかった(表3)。
表2 「地域共生社会」「包括的相談支援」に対してどのような取り組みができるか
(複数回答可)
表3 「地域共生社会」「包括的相談支援」の構築に向けて何が必要だと思うか(複数回答可)
3.3 他分野との協働に対する意識や業務において重視していること
これまで自身の分野のみの支援では、立ち行かなかった事例の経験については高齢者
分野60.9%、障がい者分野80.0%で有意差がなかった。また、他分野と協働で対応した事例についても高齢者分野69.6%、障がい者分野86.7%と有意差がなかった。繋いだ分野もしくは協働対応先分野については、「保育・教育分野」が高齢者分野2.1%、障がい者分野38.5%と、高齢者分野が有意に少なかった(p<0.05)。連携の結果、やや課題解決に至ったケースを含めると高齢者分野95.8%、障がい者分野100.0%が課題解決に至ったと回答した(表4)。
表4 他分野との連携経験を有する率と、連携先分野の内訳 および連携の成果
支援において最も価値を置いていることは「法令順守」が高齢者分野37.7%、障がい者分野6.7%と高齢者分野が有意に多く(p<0.05)、「意思決定支援」については高齢者分野44.9%、障がい者分野73.3%、「関係機関との連携」については高齢者分野50.7%、障がい者分野80.0%と高齢者分野が有意に少なかった(p<0.05)(表5)。
表5 支援において最も価値を置いていること上位3つ(重複回答)
3.4 自由記述
他分野との連携成果(表4下段)別に、連携の具体的内容に関する自由記述内容を表6に示した。包括的相談支援の必要性(図2)別に、その理由に関する自由記述内容を表7に示した。
表6 他分野との連携の成果別、連携の具体的内容に関する自由記述
表7 包括的相談支援の必要性別、その理由に関する自由記述
4.考 察
過去の研究では、包括的相談支援に関する意識や他職種との連携の必要性に関する認識について、医療・福祉・保健分野の単独の職種を対象に調査した報告は確認できたが、複数職を同時かつ同調査内容にて比較し、職種による違いを検討したものは見当たらなかった。そこで本研究では、今後様々な職種について調査を行うための足掛かりとして、まずはわれわれが属する高齢者分野の介護支援専門員と、在宅支援において協働することの多い障がい者分野の相談支援専門員を対象に、包括的相談支援に関する意識や他職種との連携の必要性に関する認識について同時かつ同内容にて調査し、職種の違いによる差を明らかにすることとした。
4.1主任資格の保有率について
まず、本研究において、主任資格を有する者の割合は、高齢者分野で43.5%、障がい者分野で33.3%であった。厚生労働所によると、全国的には、高齢者分野で24.4%(2022年)、障がい者分野で2.2%(2019年)と報告されている。障がい者分野で主任資格の研修が開始されたのが2018年であり、2年経過時点でのデータであるため、現在はさらに主任資格の保有率は増加している可能性が高いものの、本研究の対象者は、全国と比較して主任資格の保有率が明らかに高いと考えられる。この原因として、主任資格を持つものは各事業所の責任者となっているケースが多く、事業所の代表として責任を感じて質問紙に回答をしたため、回答率が高くなった可能性があることが考えられる。主任資格の保有の有無と、他業種との連携、または包括的相談支援に関する考え方について報告した研究は見当たらなかったが、やはり主任資格を保有するものは、他業種との連携経験や、包括的相談支援に対する知識が深く、考え方も変化している可能性があると考えられる。主任資格の保有率が高かったことが、調査結果にどの程度影響を及ぼしたかは不明であるが、本研究結果については、各分野の業務にある程度習熟した者に関する結果としてみる必要があると考えられる。
4.2 他分野との連携について
今回の調査結果から高齢者分野、障がい者分野に有意差がみられたものは5つであった。1つ目は他分野と協働で対応した連携先について(表4)、「保育・教育分野」は障がい者分野で有意に多かった。高齢者分野は65歳以上、老年期という括りで捉えることが可能であるが、障害者は「幼少期」、「学童期」、「青年期」、「中年期」「老年期」というそれぞれの段階に応じた支援が必要となってくる(城戸他,2015)。制度や支援に関わる年代の違いがあることが、理由の一つとして考えられる。高齢者分野は主に要介護者(要支援者)を支援しているが、その利用者に関わる家族および世帯は様々である。配偶者、子や孫など広範囲であり、独居で子供らと疎遠、子供の引きこもりや障害、孫の不登校といった直接介護保険制度には該当しない課題やニーズを抱えるケースも担当する場合がある。高齢の親と50代の子どもの引きこもり問題は「8050問題」と称されるが、今後は「7040問題」も増加していくことが予想される(藤松,2019)。ただ、要介護者(要支援者)が入院・入所や死亡等にて支援が終結になると、その後の家族支援も中止にならざるを得ない。そのため、介護支援専門員が支援を行う中で、利用者に関わる家族についても、アセスメントの視点を持ち、必要であれば継続した支援などを受けられるように他分野・他機関へと繋ぐ働きかけが実践できなければならないと考える。この点からも「保育・教育分野」への関心と学習および連携は介護支援専門員も意識して今後取り組むべきものと考える。
4.3 支援においてもっとも価値を置いていること
2~4つ目は、支援において最も価値を置いていることについて(表5)、「法令遵守」は高齢者分野で有意に多く、「意思決定支援」「関係機関との連携」は障がい者分野で有意に多かった。
介護支援専門員と相談支援専門員の各制度については、根拠となる法律、資格取得のための研修内容や、基礎資格などが異なる。まず、根拠となる法律は、介護支援専門員が介護保険法、相談支援専門員が障害者総合支援法である。介護保険法は、我が国における少子高齢化を背景として、2000年より施行されている。消費税を増税することで、介護費の増加に対応する案もあった中、当時の厚生省は、保険制度への変更を選択した。これはサービスの量と、そのためにそのくらいの保険料を負担していただくかは、最終的には国民の選択、判断を求める、という考えによるものである(堤,1999)。一方、障害者総合支援法も、障がい福祉にかかるその前身となる障がい者自立支援法は、様々な議論のある中で障害者制度を介護保険制度に整合させ成立した(三谷他,2011)。サービスの必要量を決定する際に、介護保険制度における要介護度に似た障がい程度区分という基準を使用することや、サービス利用料の負担が1割負担であることなど、その内容は介護保険法と似ている。ただし、介護保険法が2000年の施行以降、一貫して続いているのに対し、障がい者総合支援法の施行は2013年、その前身の障害者自立支援法は2006年、自立支援法制定のきっかけとなった支援費制度は2003年施行(三谷他,2011)と、目まぐるしく法律が変わっている。そのことが、相談支援専門員において「法令遵守」への価値の置き方に何らかの影響を与えている可能性があると考える。
資格取得のための研修内容として、手嶋(2012)は、相談支援専門員の研修修了者を対象に、充実させたほうが良いと思う研修内容について調査している。その結果、意思決定支援につながる権利擁護の項目について、初任者研修で20項目中6番目、現任者研修で20項目中3番目に度数が高かったことを報告している。介護支援専門員の研修について、同様の調査を行った研究は見当たらなかった。研修内容として、介護支援専門員の理念に関する内容は含まれているが(永杉他,2007)、意思決定支援に関する内容が含まれていることは確認できなかった。少なくとも、相談支援専門員において、意思決定支援につながる権利擁護に価値を置いている者が多いことは推察された。
さらに、背景取得の要件として、介護支援専門員は、特定の国家資格(医師、看護師、薬剤師など)を要する業務に5年以上かつ900日以上の実務経験、または生活相談員等の相談援助業相談業務に5年以上かつ900日以上の実務経験が条件となっている。一方相談支援専門員は、特定の資格による要件はなく、相談支援業務の実務経験3年以上で、研修の受講資格が得られる。よって、相談支援専門員は、全員が相談支援業務を有しているという点が、介護支援専門員と異なる。相談支援業務は、相談内容に応じて、様々な専門家と連携し、課題の解決に取り組む必要があることが想像に難くない。その違いが、「関係機関との連携」により価値を置くことにつながっている可能性があると考える。
4.4 「地域共生社会」「包括的相談支援」の構築について必要と思うこと
最後に5つ目は、「地域共生社会」「包括的相談支援」の構築について必要と思うことについて(表3)、「地域に向けた勉強会や啓発活動の支援」が介護支援専門員で有意に多くみられた。高齢分野において、地域に基盤を置いたケア(コミュニティケア)が強調されている。このことに関して、介護保険制度では、地域包括ケアシステムの推進がいわれ、33)主任介護支援専門員は個々人の生活を支えるだけでなく、「地域作り」や「地域の社会資源の再構築・開発」などの地域支援も役割の1つとなっているため日頃から意識していることが、影響していると考えた。
また、「地域共生社会」について、積極的に担っていきたい、または担っていきたいと回答した者は高齢者分野60.0%、障がい者分野71.4%、「包括的相談支援」について、必要と感じている、またはやや必要と感じていると回答した者も高齢者分野86.9%、障がい者分野86.7%といずれの分野でも高率に必要性を認識していることが明らかになった。自由記述の結果を見ると、高齢者分野、障がい者分野に共通して、多方面からのアプローチが行え、複雑な問題にアプローチできるようになることを挙げたものが多かった。一方、高齢者分野では、孤立しがちな高齢者を地域で支えることができる、という点に必要性を見出している者が最多であったのに対し、障がい者分野では、そのような理由を挙げている者は少なかった。この理由として、障がい者分野のサービス利用者の一部は学齢期に該当する者であり、教育機関に通っているため孤立した状況にないケースも多いためと考える。
5.結論
本研究結果より、高齢者分野と障がい者分野の2職種において、「法令遵守」、「意思決定支援」、「関係機関との連携」ついては支援における価値の置き方が異なることが明らかになった。またこの違いには、両職種の根拠となる法律や、資格取得の方法、研修内容の違いが影響している可能性があると考えられた。さらに、包括的相談支援については両職種とも同様に必要と考えている者が多かった。他職種連携チームの一業種として、お互いが協働していくうえで、互いに支援において価値を置いている部分が異なっている部分があることをあらかじめ認識しておくことが、よりスムーズな協働に向けての課題であると考える。
6.本研究の限界と今後の課題
本研究では、施設あてに質問紙を郵送する手段をとった。在籍する職員分の数を送付したが、回答者のうち、主任資格を持つ者の割合が全国データよりも高く、本研究結果は全国の介護支援専門員、相談支援専門員の意見に比べ、主任資格を持つ者の意見がより強く反映されており、その影響が出た可能性がある。今回は、高齢者分野、障がい者分野の2職種に限定して調査を実施したが、包括的相談支援における多職種連携チームを構成する職種は他にも多数存在し、今後は、それらの職種との比較調査も実施していく必要があると考える。
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付録1-1 質問票(前半)
付録1-2 質問票(後半)
注1 介護支援専門員更新研修修了かつ5年以上の実務経験を経て、主任介護支援専門員研修資格が得られる
注2 現任者研修修了かつ3年以上の実務経験にて主任相談支援専門員研修受講資格が得られる。