抄録
2016年1月の社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の開始に先立ち, マイナンバーを取り扱うこととなる国の機関やすべての地方自治体で制度導入のためのシステム整備が一斉に実施された. システム投資の増大や厳しい財政事情等を背景に,地方自治体の情報システムについては, ①特定ベンダーへの依存を回避し費用の削減につなげる情報システムのオープン化, ②パッケージシステムを採用する場合に費用の増高要因となる団体独自のカスタマイズの抑制(標準化), ③自治体クラウドの導入による情報システムの共同化等が推進されているが,通常地方自治体は様々な情報システムを個別に発注し整備しているため, その現状を網羅的に明らかにしたものはない. マイナンバー制度導入に伴うシステム整備は,すべての地方自治体が同種の情報システム改修を同時期に,全国統一的なプロジェクトとして実施する極めて稀有な事例であり,地方自治体の業務情報システムのオープン化,標準化及び共同化の現状について全国の地方自治体を対象とした調査データを用いて分析できる貴重な機会である. 本稿では,全国の地方自治体から報告されたデータをもとに,改修が必要となった業務システムのうちすべての地方自治体で情報システムの利用が行われており,団体間の事務処理内容の差異が少ないと想定される地方税関連システムを対象に, オープン化,標準化及び共同化の現状を明らかにする. また,情報システム改修を受注した事業者名のデータをもとに全国の地方自治体におけるベンダーの受注状況を明らかにし,地方自治体の情報システム市場における受注ベンダーのシェアと標準化の遅れとの関係について分析する.