抄録
AIがブームになっている.第1次,2次に続き,今回の第3次ブームのAIの中核には大量のデータを基にした帰納推論機能がある.帰納推論とは多くの事象から一般的,普遍的と考えられる規則や法則を導き出すものだが,得られた規則や法則が必ずしも「真」とは限らない.またコンピュータは意味を扱えないため,推論結果に対する意味の付与や論理の構築は人間の役割となる.その際,たとえば効率重視の視点に立つのか,人間尊重の視点に立つのかで目指すシステムが異なる可能性がある.もちろん本学会の問題意識は後者であるが,人間中心システムの理念自体が必ずしも明確でないため,満足の行く意味づけ・理論付けができない恐れがある.これは本学会の特色を曖昧にするだけでなく,人間中心という崇高な理念を粗雑に扱う原因になりかねない.今こそ人間中心の理念を深耕し,システムとしての要件や特性を明確化する必要がある.これは学術的進展や,それに伴う本学会の発展に寄与するだけでなく,今後,一層,拡大・浸透するであろう情報システムと,それを通じて人間や組織・社会の健全な発展を促す力にもなると期待される.その際に考慮すべきは,人間中心システムであることに対して合理性を持たせることがある.合理性を無視した人間中心の主張は単なる啓蒙活動に留まる可能性があるからである.