日本救急医学会雑誌
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症例報告
血中鉛濃度をコントロールし得た散弾銃銃創・鉛散弾遺残の1例
乙供 茂山田 康雄上之原 広司斎藤 俊博岩本 一亜佐藤 公尊菊地 秀
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キーワード: 鉛中毒, キレート剤
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2007 年 18 巻 12 号 p. 815-819

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抄録

患者は76歳の男性。猟に出かけ車内で休憩中, 後席同乗者の散弾銃が暴発し右腰部に被弾。腹部単純レントゲンで体内に約170個の散弾と銃創付近の右腸骨陵粉砕骨折を認めた。腹部CTにて右腸骨周囲・回盲部後腹膜・右臀部・上行結腸内・腹腔内に散弾を多数認めたため緊急手術となった。小腸に2か所の貫通穿孔を認め上行結腸穿孔も疑われたため, 穿孔部縫合閉鎖・回盲部切除を行った。さらに銃創を中心とした皮膚切開を加え, 周囲の皮下・筋肉内・右腸骨周囲より約70個の散弾と弾丸を構成するプラスチック片などを摘出した。散弾の全摘出は不可能と判断し, 約100個はそのまま遺残した。鉛散弾遺残による鉛中毒が危惧されたため血中鉛濃度を測定したところ19μg/dl (正常上限20μg/dl) であった。キレート剤であるCaNa2EDTAを静脈内投与した。投与終了後に再度血中鉛濃度を測定したところ8μg/dlまで減少していたため, キレート剤の継続投与は行わなかった。第50病日に再度血中鉛濃度を測定したところ, 再上昇していたため, CaNa2EDTA内服を開始した。受傷より1年が経過した時点でキレート剤内服を中止し, その2か月後, 4か月後に血中鉛濃度を測定したが上昇は認めなかった。鉛中毒は量-影響関係が明らかである。受傷直後, キレート剤投与中, 投与中止後までの経時的血中鉛濃度の測定は, キレート剤を用いない場合の鉛中毒量へ達するまでの期間の予測や今後の鉛中毒症例の管理に有用である。散弾銃銃創症例においては, 臓器損傷可能性の慎重な評価と鉛散弾全摘出が前提となるが, 鉛散弾遺残の症例においては厳重な血中鉛濃度のフォローが必要と考えられた。

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© 2007 日本救急医学会
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