日本救急医学会雑誌
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症例報告
妊娠中に肺動静脈奇形により重篤な意識障害を来した1例
田中 純哉井上 卓也杉木 大輔岩下 寛子山田 浩二郎宮之原 利男池上 敬一
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2007 年 18 巻 9 号 p. 665-670

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抄録

症例は21歳の女性。15歳時に肺動静脈奇形 (以下PAVMと略す) を指摘され, 近医にて繰り返し経カテーテル的塞栓術を受けていたが, 第1子妊娠に伴い, 放射線被曝の影響等を考慮し, 積極的な検査や治療は控えられることとなった。第2子妊娠中より血痰, 呼吸苦, 情緒不安定, 下肢の脱力などの症状が出現した。出産後は上記の症状に加え, 一過性の意識消失発作もみられるようになったが, 精神科疾患と診断され, 精神科病院に入院加療中であった。出産約1か月後, 突然の意識消失と呼吸停止を来し, 入院先から紹介され転送となった。来院時, 意識レベルはGCS: E2V2M4, 胸部CTでPAVMを認め, 頭部MRI拡散強調画像では多発性脳梗塞を認めたため, PAVMを介した血栓飛散による脳梗塞と判断し, エダラボン, ヘパリンナトリウムによる急性期脳梗塞治療を行った。その後, 意識レベルはGCS: E4V4M6まで徐々に回復したが, 入院42日後に突然心停止となった。蘇生を試みたが十分な心肺機能の回復は得られず, 心停止から4日後に死亡した。心停止の原因は特定することができなかったが, PAVMが原因と推測された。肺動静脈瘻は, 右左シャントによる呼吸器症状と, 脳への血栓飛散による中枢神経症状を特徴とする。また, 女性では妊娠によって症状が増悪することが知られており, 妊娠を契機とした呼吸障害や意識障害の出現に注意する必要がある。逆に妊娠中の意識障害ではPAVMを鑑別する必要がある。臨床医のPAVMに対する認識は十分とは言えず, 今後広く啓発していく必要があると考えられた。

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© 2007 日本救急医学会
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