日本救急医学会雑誌
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総説
放射線事故・災害への初期医療対応
谷川 攻一
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2009 年 20 巻 2 号 p. 45-59

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抄録

放射線災害・事故として想定されるものは,放射線発生装置の取り扱い事故から,ダーティーボム(dirty bomb)や核兵器爆発などのテロリズム,そして原子力発電所での臨界事故まで多種多様である。その身体影響は単なる被ばくから放射性物質汚染を伴う外傷や爆傷,核兵器爆発での熱線による熱傷など幅広い。医療対応においては,放射線による被ばくそのものが負傷者の受傷直後の致命的要因とはならないこと,除染を行う診療担当スタッフへの二次被ばくの危険性は極めて小さいことから,放射性物質の汚染拡大防止の原則を遵守しつつ,救命優先の原則が適応される。一方,事故・災害発生時には,情報量は少なく,かつ錯綜する。放射性物質によるものなのか,化学物質あるいはそれ以外の危険物質が関与するものなのか,正確な実態把握は困難である。したがって,政府・自治体・関連諸機関そして医療機関が共通の指揮命令系統(Incident Command System)のもとで,CBRNE(chemical,biological,radiation,nuclear,explosion)のすべてのハザードに対応できるよう態勢の整備が必要である。1995年の地下鉄サリン事件を契機として,災害拠点病院では化学テロリズムや化学災害を想定した整備が行われた。一方,被ばく医療においては主として原子力事業所に近い医療機関や地域ネットワークの整備が進められてきた。“いつでも,どこでも,最善の医療が受けられる”という救急医療の原則を緊急被ばく医療にも当てはめるとすれば,今後はHospital All-Hazard Emergency Preparednessとして,災害拠点病院や救命救急センターの放射線事故・災害への対応能力の充実・強化が求められる。

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© 2009 日本救急医学会
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