日本救急医学会雑誌
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症例報告
常習飲酒者に生じた特発性腸腰筋出血に対しビタミンK投与が奏効した1例
高須 修中根 智幸中村 篤雄冬田 修平高宮 友美山下 典雄坂本 照夫
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2009 年 20 巻 7 号 p. 367-373

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抄録

常習飲酒者に生じた腸腰筋出血を伴うショックに対し,ビタミンK投与が奏効した 1 例を経験した。症例は48歳の男性。約 3 週間食事を摂らずに飲酒を続け,頻回の嘔吐と全身倦怠感,突然の視力障害を主訴に近医を受診。意識障害と瞳孔異常,血液検査値の異常を認めたため救命救急センターに転送となった。搬入時意識レベルGlasgow Coma Scale 11(E3V4M4),呼吸数25/min,脈拍49/min,血圧60/40mmHg,体温33.3°C。瞳孔径7.0mmで対光反射は消失していた。動脈血でpH 6.748,HCO3 2.6mEq/l,BE -33.9mEq/lと代謝性アシドーシスを認め,anion gapの開大と乳酸値の上昇を伴っていた。肝は腫大し,AST 5,210 IU/l,ALT 779 IU/l,LDH 3,720 IU/l,CK 35,110 IU/l,Plt 6.1万/mm3,prothrombin time(PT)41%と異常を認めた。脚気心を疑いビタミンB1の投与を行ったが,ショックと無尿が持続し,人工呼吸管理下に持続血液濾過透析を開始した。アシドーシスの改善に伴い瞳孔異常は消失したが,第 2 病日に気道や消化管からの出血が出現。貧血の進行と遷延するショックに対し第 4 病日に腹部CTを施行し,左腸腰筋出血を診断した。血小板減少(0.7万/mm3)に対する血小板輸血では止血が得られなかったが,ビタミンK欠乏に伴うPT延長を疑いmenatetrenone 20mgを投与したところ,30分後には顕性の出血が軽減し,投与 4 時間後のPT値は前値56%から99%へ上昇した。その後出血傾向は消失し,循環動態は改善。第14病日までに人工呼吸と持続血液濾過透析を離脱し,第32病日に後遺症なく転院となった。本症例は,ビタミンK欠乏による凝固障害が,腸腰筋出血という稀で重篤な出血の原因と考えられた。常習飲酒者に原因不明のショックや貧血の進行を認める場合には,ビタミン欠乏に伴う病態を常に念頭に置くとともに,稀ではあるが,出血源の一つとして腸腰筋出血など深部組織への出血を考慮する必要がある。

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© 2009 日本救急医学会
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