抄録
IIIb型膵損傷は発生頻度が低く,とくに小児症例は少ない。また,手術適応や手術術式に関する標準的治療方針は確立されていない。今回我々は膵切除術を施行せずに腹腔ドレナージ術のみで治癒した小児IIIb型膵損傷を経験したので報告する。症例:5歳の男児。自転車で走行中に転倒し,腹部を打撲した。腹痛と嘔吐があり,近医を受診したところ,経過観察との判断により帰宅した。その後,発熱と腹痛が増強したため,受傷2日後に再度近医を受診した。腹部造影CT検査で膵尾部断裂所見があり,後腹膜腔に液体貯留を認めたため,膵損傷に対する治療目的で当センターへ紹介された。画像所見よりIIIb型膵損傷と診断し,腹膜刺激症状を認め,血液検査上も炎症所見が高度であったため,膵尾部切除術の適応と判断し緊急手術を実施した。術中所見では,少量の腹水と後腹膜・膵臓に発赤を伴う軽度の炎症性浮腫を認めた。また,後腹膜腔より網嚢内に浸出液の漏出を認めたが,腹腔内の炎症や癒着はほとんどなく,周囲の鹸化も認めなかった。後腹膜腔に限局する炎症が主体と判断し,膵切除術は施行せず,腹腔内洗浄・ドレナージ術のみを施行した。術後6日目のドレナージ排液中のアミラーゼ値は178,300 U/lと高値であったが,炎症所見および腹部所見は経日的に改善した。23日目には腹部CT検査で仮性膵嚢胞形成を認めたが,55日目の腹部CT検査では自然に縮小した。また,35日目に施行したMRCPにて主膵管途絶像を認め,IIIb型損傷が確認された。術後58日目に自宅退院となった。結語:小児IIIb型膵損傷は,膵切除を施行せずに治癒したとする報告が散見され,手術適応・術式の選択にさらなる検討が必要と考えられる。