日本救急医学会雑誌
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症例報告
ギプスによる外固定を契機に発症した重症肺血栓塞栓症の1例
梶岡 裕紀内藤 宏道萩岡 信吾杉山 淳一岡田 大輔岡原 修司森本 直樹
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2012 年 23 巻 12 号 p. 851-855

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抄録
肺血栓塞栓症は整形外科術後など下肢の外固定後に比較的発症頻度の高い疾患である。我々は外固定を起因に発症した若年重症肺血栓塞栓症を経験したので報告する。症例は39歳の男性。近医にてアキレス腱皮下断裂に対してロングレッグギプス外固定にて自宅療養中であった。その3週間後に段階的に増強する労作時呼吸困難が出現し,受診当日には突然の安静時呼吸困難と胸痛が出現したため当院に救急搬送された。来院時,頻呼吸を認め,内頸動脈をわずかに触知可能であり,著しい不穏状態であった。経胸壁心臓超音波検査,心電図検査にて右室負荷所見を認めたため,肺血栓塞栓症と診断した。極度の循環虚脱状態であったため,直ちに経口気管挿管とX線透視下に経皮的心肺補助装置の導入を行った。さらに続けて肺動脈造影検査を行い,両主肺動脈に血栓塞栓子を認めたため,血栓破砕術,溶解療法を施行した。その後は抗凝固療法を中心に加療を行った。循環動態はしだいに安定し,第3病日に経皮的心肺補助装置を離脱し,第4病日には人工呼吸管理を離脱した。第14病日にアキレス腱縫合術を施行し,第29病日に独歩退院となった。The American College of Chest Physicians(以下ACCP)のガイドラインでは,外傷における下肢の外固定の際には抗凝固療法を行う必要性については議論の余地があるとされている。アキレス腱皮下断裂に対する外固定における血栓症発症頻度は,整形外科領域において下肢静脈血栓症と肺血栓塞栓症の発症頻度が高いとされる人工股関節置換術後と同程度であり,人工股関節置換術同様に抗凝固療法は必要とする報告もある。肺血栓塞栓症発症時には早急な処置が必要なのは勿論のこと,外固定時には早期手術,抗凝固療法を含めた肺血栓塞栓症の予防を検討する必要があると考えられる。
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© 2012 日本救急医学会
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