2012 年 23 巻 4 号 p. 163-169
症例は68歳の女性。基礎疾患に関節リウマチがあり,長期のステロイド内服患者である。動悸を主訴に来院し,心電図では発作性上室性頻拍を認めた。不整脈の薬物治療後も収縮期血圧の上昇が得られなかった。再度の病歴聴取で腹痛を訴え,身体所見では腹膜刺激症状を認めた。腹部超音波検査および腹部骨盤CT検査では腹腔内の腹水貯留と下部腰椎から仙骨前面にかけて膿瘍形成を認めた。血液検査では汎血球減少を認めた。汎発性腹膜炎と診断し緊急開腹術を施行したところ,混濁した腹水の貯留と,仙骨前面には腹腔側が自壊した膿瘍を認めた。術前画像所見と併せて化膿性脊椎炎の膿瘍が腹腔内に穿破したことによる汎発性腹膜炎と診断した。手術は膿瘍腔の開窓とデブリードマンおよび腹腔内の洗浄ドレナージを行った。抗菌薬は易感染患者の敗血症性ショックであることを考慮して広域抗菌薬と抗methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)薬の併用で開始し,原因菌がEscherichia coliと判明後にはその感受性からセフォペラゾン・スルバクタムへ変更して4週間継続した。本症例は先行する医療行為を認めず,尿路感染症の症状なども認めないことより,腸内細菌が血行性に感染した可能性が考えられた。通常,化膿性脊椎炎は発熱や局所の疼痛を主訴に発症することが多く,汎発性腹膜炎での発症は稀である。易感染患者では化膿性脊椎炎も汎発性腹膜炎の一因となり得ることから注意が必要である。