日本救急医学会雑誌
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症例報告
低速度押しつぶし頭部外傷-low velocity, crushing head injuryの6例-
宮田 圭三上 毅三國 信啓沢本 圭悟上村 修二森 和久浅井 康文
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2012 年 23 巻 9 号 p. 415-420

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抄録

静的圧縮力による頭部外傷は,crushing head injury(以下CHI)「押しつぶし頭部外傷」と呼ばれている。致死的な外傷がない場合には,重篤な意識障害がなく,頭蓋骨の歪み変形による頭蓋底骨折,そして合併する脳神経麻痺症状が特徴であるが,比較的稀な病態である。本論文では当施設で経験した低速度CHIの6症例の臨床経過と放射線学所見の特徴につき検討したので報告する。症例は男性5例,女性1例で,年齢は11か月~62歳であり,5歳以下の小児は2例であった。受傷機転は,成人全4例は労働に関連した頭部単独外傷であり,小児例は交通事故で胸部外傷を合併していた。搬入時意識は,成人例ではGCS13が2例,GCS15が2例で,小児では2例ともGCS 10であったが,全例数時間後に意識清明に回復した。鼻出血5例,耳出血は全6例,髄液漏は4例に認めた。脳神経麻痺は5例に認めた。全例に気脳症を認め,3例は脳底槽周囲の頭蓋内空気を認めた。4例に斜台付近を貫通する横断性の中頭蓋底骨折を認めた。視束管骨折は2例,頸動脈管骨折は2例に認めた。1例に視神経管開放術,2例に頭蓋内血腫除去術,1例に硬膜形成術を施行した。最終転帰は,成人3例で脳神経麻痺が残存したが,小児2例は後遺症なく治癒した。CHIは稀な病態ではあるが,受傷形態や臨床所見は特徴的で,頭蓋底の歪みや骨折の分布により様々な脳神経症状を来す。静的圧迫が主体の乳幼児の交通事故や成人の労災事故では,CHIを念頭に置いた病態把握や画像診断が必要である。

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© 2012 日本救急医学会
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