日本救急医学会雑誌
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症例報告
Backwash ileitis による回腸穿孔を来した潰瘍性大腸炎の1例
小嶋 聡生森 眞二郎中村 英司山下 典雄疋田 茂樹坂本 照夫増田 淳也
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2013 年 24 巻 2 号 p. 99-104

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抄録

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis: UC)は炎症性腸疾患であり,炎症が大腸に限局することが特徴の一つであるが,稀に回盲弁を越えて炎症が波及することがあり,backwash ileitis(BI)と呼ばれている。しかしながら,重症型潰瘍性大腸炎の増悪時に内視鏡検査にて回腸末端部を観察することは少なく,手術時に初めてBIと診断されることが多い。今回,潰瘍性大腸炎の治療中に汎発性腹膜炎を併発し,手術にてBIによる回腸穿孔と診断された症例を経験した。症例は26歳の男性。7年前に潰瘍性大腸炎と診断され,内服加療していたが自己中断していた。今回,再度症状の増悪を認め,重症型潰瘍性大腸炎と診断され,ステロイド療法を導入された。ところが,16日目に左側腹部痛が出現し,腹部単純X線写真で遊離ガス像を認めたため,消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断され,当院へ搬送された。手術所見で回腸末端から約40cmにわたり,多発性に回腸穿孔を認めていたため,穿孔した回腸のみ部分切除した。病理組織検査ではUCに特徴的なcrypt abcess,cryptitisが確認され,UCの所見として矛盾のない所見であった。術後も腹痛,下血が継続したために,初回手術より7日目にUCに対して全結腸摘出術を施行した。病理組織検査所見で小腸と大腸の病変が病理組織学的には同様の所見であり,BIの診断で矛盾がないことが証明された。今回,BIによる回腸穿孔を来した重症UC症例の術式として,切除範囲の決定は難しい判断を要した。自験例では救命を優先し,小腸の部分切除にとどめ,結腸を温存した。しかし,病因結腸温存による術後下血や腹痛の持続を考慮すると一期的に結腸全摘術まで行うべきであったと考えられた。

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