抄録
1987年4月から1989年3月までの2年間の帝京大学医学部附属病院精神科時間外救急外来受診患者390名のうち,精神科医が診察し身体的救急処置を必要と判断,救命救急センターへ診療を依頼し入院となった症例は10名であった。全10例が当院精神科外来通院中の再来患者で,全例が薬物・毒物による自殺企図であった。うち9例は精神科医の処方による薬物を過量服薬し,残り1例はparaquatの致死量服毒であった。3例は,いったん内科医に処置を仰いだものの,内科病棟の処置や観察が十分に可能な観察室が満床のため救命救急センターに入院した。全10例のうち,過去にわれわれが直接治療に関与した自殺企図の既往のある者は4例を数えた。救命救急センターでの在院期間は,嚥下性肺炎の重症化例と死亡例を除いた8例は1日から4日と短期間であった。転帰に関しては,精神科外来通院5例,精神科病棟転科3例,関連精神病院転院1例,死亡退院1例であった。一方,同期間に精神科救急外来から救命救急センター以外の各科に診療依頼された症例は9例あった。内訳は,内科6例,脳神経外科2例,皮膚科1例であった。内科への6例のうち3例は自殺企図例で,2例は過量服薬にて内科病棟へ,1例はトイレ洗浄剤の服毒で精神科病棟へ入院した。内科への自殺企図以外の3例と,脳神経外科,皮膚科に診療依頼となった3例はいずれも外来処置のみにて帰宅した。精神科救急外来から他科に診療依頼した自殺企図患者の自殺手段は,全例で過量服薬・服毒であり,精神科医が専門家による身体的治療の必要を判断した場合,救命救急センターあるいは内科のどちらに依頼するかは明確な基準はないものの,最終的には救命救急センターに依存している状況が明確であった。また救命救急センターには,当院精神科からの診療依頼にて入院するよりもはるかに多数の自殺企図患者が入院しており,リエゾン精神科医による迅速なケースワークと精神科合併症病棟の整備が望まれる。