日本救急医学会雑誌
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頭部外傷直後のストレスホルモン応答と生命予後との関係
黒田 雅人渡瀬 淳一郎二宮 典久山本 啓雅呉 教東杉野 達也鵜飼 卓
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2001 年 12 巻 5 号 p. 237-244

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抄録

頭部外傷急性期のストレス反応として,大量のカテコールアミンが血液中に分泌されていることは以前から指摘されているが,いわゆるストレスホルモン全般についての検討報告は少ない。今回われわれは,頭部外傷患者におけるストレスホルモンの分泌量およびそれらの相互関係について調べ,ホルモン分泌動態と生命予後との関連について検討を行った。受傷後すみやかに当院救急医療センターヘ直接搬送された,他部位損傷を含む頭部外傷症例27例(男性22例,女性5例)に対して,病院到着時最初に確保された輸液路から,輸液・投薬がまったくなされていない段階で採血を行い,カテコールアミン,成長ホルモン(GH),副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),抗利尿ホルモン(ADH),コルチゾール(CSL)を測定し,それらの相互関係を調べた。また,対象症例を頭蓋内出血の有無と1か月後の生命予後によって4つのグループに分類し,そのグループ毎のホルモン分泌量について比較検討を行った。アドレナリン(AD)とGH, ADH, CSLとの間には正の相関関係を認めた(相関係数は各々r=0.769, p<0.0001; r=0.911, p<0.0001; r=0.409, p<0.05)。また頭部外傷死亡群では生存群に比し,ADの血中濃度が増加しているのに対し,ACTHは減少していた(各々p<0.05)。さらにADとACTHの比(AD/ACTH ratio)をとると,その値は死亡群において全例9以上であり,生存群では全例8以下であった。よって,頭部外傷症例において,輸液・投薬などの治療を受けていない受傷後早期の段階で調べられたACTHの分泌は,他のストレスホルモンと異なり,ADによって示されると考えられる交感神経系の反応と並行せず,AD/ACTH ratioの値が頭部外傷患者の1か月後の生命予後を予見している可能性があると考えられた。

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