抄録
鈍的気管損傷の診断において,CT上での気管損傷を示唆する所見を明らかにするため,過去の気管損傷症例のCT所見を検討した。過去4年間の頸胸部鈍的外傷症例で,1)頸部皮下気腫,2)胸部単純X線で縦隔気腫か深頸部気腫,3)頸部側面単純X線で深頸部(咽頭後)気腫のいずれかが認められ,4)頸胸部造影CTを施行し,かつ気管損傷診断法のgold standardとされている気管支鏡か解剖で気管損傷の有無を確定した症例を対象とした。気管支鏡か解剖で気管損傷を確認した症例群と,気管損傷を認めなかった症例群とでCT画像所見(気管に接した気腫像,気管輪郭の不整像と不連続像,気管周囲の異常低吸収域像の有無とこれらの所見の位置関係)を比較検討した。対象症例16例中5例が気管損傷と判定された。気管損傷例全例に気管輪郭の不整像か不連続像,同部に一致した気管周囲の異常低吸収域像とこれらの像から連続する顕著な気腫像のすべてを認めた。気管損傷なしと診断した11例では,気管に接した気腫像が8例(73%),気管輪郭の不整像と不連続像が5例(45%),気管周囲の異常低吸収域像が2例(18%)にみられたが,気管周囲の低吸収域像は,気管の不整像や不連続像と一致しなかった。気管損傷を示唆するCT所見のうち,気管輪郭の構造破綻を表す気管輪郭の不整像や不連続像(直接所見)は合成像も多く特異度に欠けた。損傷部周囲結合組織の挫滅とそこからの気漏を表す気管周囲の異常低吸収域とそこから連続する気腫像(間接所見)は,診断価値が高いと考えられた。