日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
腸管穿孔による後腹膜膿瘍が左側腹部から下腿に波及したために生じた壊死性筋膜炎の1例
喜屋武 玲子升田 好樹今泉 均鬼原 史名和 由布子江副 英理浅井 康文
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 16 巻 3 号 p. 109-114

詳細
抄録

消化管穿孔による後腹膜膿瘍が,大腿輪を経て左側腹部から下腿に波及したために生じた壊死性筋膜炎のまれな1例を経験した。症例は65歳の女性。左側腹部から大腿部にかけての疼痛と皮膚壊死を認めたため壊死性筋膜炎を疑い,当院高度救命救急センターに搬入された。搬入時,呼吸,循環動態は安定していたが,左躯幹から大腿部,外陰部の浮腫,紫斑,硬結,皮膚壊死を認めた。搬入後直ちに,躯幹から下肢にかけての皮膚の壊死部分を筋膜上までdebridementし人工真皮にて被覆した。術中,左鼠径靭帯下部に便の付着と後腹膜方向の交通部があった。開腹したところ結腸脾湾曲部の後腹膜腔への穿孔があり,後腹膜腔には膿瘍が充満した状態であったため,結腸左半切除を行った。穿孔部結腸の病理組織検査では憩室や悪性所見はなかった。術中,術後にわたりショック状態や臓器不全に陥ることなく順調に経過し,第5, 10病日に人工真皮による被覆を行い,さらに第20病日と32病日には,autograftによる植皮術を施行し欠損部を被覆した。下肢壊死性筋膜炎の原因として後腹膜腔への腸管穿孔は非常にまれであるが,原因の一つとして常に可能性を念頭に置く必要がある。本症例では早期かつ広範に壊死した皮膚や皮下組織,筋膜を徹底的にdebridementし,その原因となった腸管に対して処置し得たことが,その後の敗血症の発症や,臓器障害への進展を防止できたと考えられた。

著者関連情報
© 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top