抄録
Guillain-Barré症候群(GBS)は,先行感染に遅れて1-3週間後に四肢の筋力低下,深部腱反射の消失などの症状が出現するが,先行感染による急性炎症反応亢進は軽度であることが多い。一方,critical illness polyneuropathy (CIP)は敗血症,多臓器不全,呼吸不全,SIRSからの回復期に,人工呼吸器からの離脱困難,四肢の筋力低下,腱反射の消失の症状を呈する。重複する感染症の程度によって,両者の鑑別は比較的容易であると考えられる。今回,先行感染があったが,敗血症性ショックからの回復期に四肢の運動障害,意識障害を呈し,CIPとの鑑別に苦慮した軸索型GBSの一例を経験したので報告する。症例は64歳の男性で,2週間前より発熱がみられ,内服薬が処方されていたが,症状の改善がみられず重症肺炎と急性腎不全を合併したため,当院へ緊急搬送された。敗血症性ショックを合併し,抗生物質,人工呼吸管理と持続血液濾過透析などの治療を行った。入院9日目より酸素化能の改善がみられ,ショックから離脱したが,人工呼吸器の圧補助を下げることができなかった。そこでGBSを疑ったが,髄液検査ではタンパク細胞解離はなかった。末梢神経伝導速度では運動神経の軸索型障害がみられた。後日判明した入院4日目のマイコプラズマ抗体価は2560倍であったため,マイコプラズマ肺炎による運動神経障害(acute motor axonal neuropathy; AMAN)型GBSと診断した。CIPは敗血症などの重症急性疾患の治療中に発症し,全身状態の改善とともに症状が改善する。しかし,GBSでは神経障害の回復には血漿交換や大量ガンマグロブリン投与が確立しており,本症例のように敗血症治療後に人工呼吸器からの離脱困難や四肢筋力の低下などのCIPを疑う症状がみられた場合には電気生理学的検査などを行い,GBSを除外する必要があると考えられる。