2006 年 17 巻 7 号 p. 256-261
次亜塩素酸ナトリウム(SHC)を含むトイレ漂白剤飲用後の消化器障害の報告は多い。しかし,急性呼吸促迫症候群(ARDS)の報告はまれである。症例は72歳の女性。SHCを含むトイレ漂白剤を自殺目的で飲み,近医にて処置後,本院へ搬送された。来院時,口腔などの発赤と両肺野に水泡性ラ音を認めた。気管挿管下での人工呼吸管理を開始したが,入院8時間後にはPaO2/FIO2は185mmHgと低下し,胸部X線上両肺野の浸潤影を認めた。ARDSに対しシベレスタットナトリウムの投与を開始し,第8病日には人工呼吸器を離脱できた。SHCは誤嚥による直接的な腐食による化学性肺炎からARDSを起こす可能性があるだけでなく,塩酸や塩素ガスを発生しARDSを起こす可能性がある。さらに,SHCそのものが肺組織内の還元型グルタチオンを枯渇させARDS引き起こす可能性もある。SHC飲用例ではARDSの発症に十分な注意が必要である。