抄録
目的:外傷性頭蓋内血腫の除去ならびに減圧後反対側に血腫を形成した例をtraumatic delayed contralateral hematoma (TDCH)と呼称することとし,自験6例および文献的検討によりその術前診断ならびに治療方針について考察した。結果:A) 診断;TDCHを形成する症例は以下のような特徴を有した。(1)受傷部位,頭蓋単純撮影:定型例は側方部を打撲し,同部の線状骨折と反対側の一次血腫を有する。自験例では,正中部を打撲し,正中線上の骨折,または冠状縫合の離解を含む両側にまたがる骨折を有する例が多かった。(2)来院時神経症状:多くの報告で,受傷直後または急速に昏睡に陥る重症頭部外傷とされ,自験例でも全例JCS 100以上で,3例はlucid intervalを認めなかった。(3)初回CT:多くの例で受傷3時間以内に施行されている。自験例では全例に一次血腫と反対側の外傷性の変化がみられた。diffuse injuryを含む一次血腫と反対側の外傷性変化はTDCH形成を予測する重要な所見と思われた。B) 治療;(1)初回手術は大部分の報告で受傷4時間以内に行われ,術中の著明な脳の膨隆が特徴的で自験例でも5例に認められた。(2)第2回手術は可及的早期に行うべきで,その決定には初回手術終了直後のCTが有用であると思われた。C) 転帰;GOSに従った転帰は約半数がSD以下と不良で,合併する脳実質損傷がその原因となっていると思われる症例も存在した。転帰の改善には,可及的早期にTDCHを除去することが必要であると思われた。結論:(1)受傷3時間以内のCTで外傷性頭蓋内血腫を認め,反対側の外傷性変化を伴い,意識障害が強く,一次血腫と反対側または両側にわたるか正中線上の線状骨折を認めるなどの条件を示す例はTDCHを形成する可能性がある。(2)TDCH形成をもっとも確実に診断できるのは手術直後のCTである。(3)TDCH形成例の転帰を改善するためには可及的早期にTDCHを診断,治療することが必要である。