抄録
我が国の消費者教育は,21世紀に入り大きな転換点を迎えた。すなわち,消費者基本法の下,消費者教育は消費者の権利の一つに掲げられるとともに,消費者基本計画においては「学校や社会教育施設における消費者教育の推進」が消費者政策の重点に挙げられ,内閣府・文部科学省間の連携の強化,消費生活センターと教育委員会との連携の強化,「出前講座」の専門家育成,消費者教育の基盤整備,消費者教育の体系化などが具体的な施策として提示された。本研究では,これらのうち「出前講座」の専門家育成を推進するために展開されてきた「市民講師育成講座」に焦点を当て,この間,内閣府が実施してきた諸研究を集約・分析して市民講師育成の現状をとらえるとともに,今後,本格的な開発が求められる市民講師育成プログラムについて,「技能編」の試案作成を行うことにした。その結果,市民講師育成の現状については,都道府県レベルでは当該講座がある程度実施されているものの,確立されたマニュアルがないことから内容や時間は多様であることが改めて理解され,今後の各自治体の取り組み姿勢によっては,格差が一層拡大することが懸念された。また,市民講師育成講座で優先的に取り扱われるべき講座の企画・運営に関する技能の育成機会が乏しいことも明らかとなり,その問題の解決に寄与することをも念頭に置きつつ,実践的な市民講師育成講座「技能編」プログラムを開発することができた。ここで提案したのは「消費生活講座の受講経験はあるが講師経験はない者」20名を対象にした2日間(うち技能編は第2日目の6時間)の講座であるが,今後は,多様なレベルの講座に対応したプログラムの考案・整備が急がれる。