日本手術医学会誌
Online ISSN : 2759-9868
Print ISSN : 1340-8593
ISSN-L : 1340-8593
報 告
手術室移転を機に医療機器の駆動用ガスを中央配管の窒素からコンプレッサーの圧縮空気に変更した眼科手術の導入
原 幸治
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 46 巻 1 号 p. 71-73

詳細
Abstract

現在多くの大規模医療施設で眼科手術装置の駆動用ガスに窒素が使用されている。手術部門の建て替えに伴い駆動用ガスをそれまで中央配管システムから供給されていた窒素から,手術室内に設置したコンプレッサーから供給される圧縮空気に変更した。コンプレッサーの導入により建設費が抑制されただけでなくランニングコストも掛からなくなった。眼科医や患者にとって不都合は生じていない。駆動用ガスを窒素からコンプレッサーを用いた圧縮空気に変更することは安全面でも機能面でも全く問題なく,経費削減のための有用な選択肢となり得る。

はじめに

私達の施設は手術室の老朽化と部屋数の不足を解消するため,2023年8月に急性期治療に特化した診療棟を新たに建設し,手術部門もそこに移転した。ハイブリッド手術室2室を含む全17室からなる手術部門の設計にあたり,建設費を削減するため各手術室内に窒素配管を設置しないことを決めた。

1. 眼科手術における問題

これによりそれまで中央配管システムから供給される窒素ガスで駆動していた全ての手術機器は電動式機器への変更か窒素ガスボンベへの移行が必要となった。ほとんどの機器はスムーズに変更できたが,眼科手術で使用する超音波白内障/硝子体手術装置は医療ガスでのみ駆動することに加え,多量のガスを必要とする手術があることが問題となった。窒素などの圧縮ガスは,(1)硝子体切除カッターの駆動,(2)シリコーンオイルなど粘性液体を眼内注入する際のシリンジの駆動,(3)超音波で破砕した角膜などの吸引のために必要である。当初の計画では窒素ガスボンベの使用を想定していたが,手術中にボンベを交換することを極力避けるためにはガス容量が7,000 L(ボンベ内容量47 L)の最大サイズのボンベが必要であることが分かった。これは重量が約60 kgもあり,台車を使用した手術部エリア内の運搬や手術室内でのボンベの交換は安全面から手術室の看護師では難しいと判断した。手術室外に窒素ガスマニホールドを設置することも検討したが新たに工事が必要なことや眼科の手術室を固定しなければならなくなることから断念した。

2. 圧縮空気の利用

そこで私達は,保有するアルコン社製コンステレーション®ビジョンシステム(K-CON-VIS LXT)とDORC社製EVA AU-8000®白内障・硝子体手術装置の添付文書1,2)に駆動用ガスとしてそれぞれ圧縮空気と圧縮ガスと記載されていることを確認し,コンプレッサー(アネスト岩田社製SLP-151EFD M6®)を用いた圧縮空気を利用して眼科装置を稼働させることを計画した。それぞれの装置のメーカー立会いの下,接続のデモンストレーションを行った。接続には特殊な部品を必要とせず容易であった(図12)。各眼科装置のメーカーから,装置は空気を用いた検証テストが行われたこと,空気と窒素ガスに違いは無いこと,ガス圧を適正範囲に自動調整し,適正圧でなければ装置が作動しない設計になっていること,手術室内の空気が長期的に装置に悪影響を及ぼさないことを確認し,コンプレッサーを室内に設置して眼科装置を使用する運用に決めた。コンプレッサーが生成した圧縮空気の装置間の流れと空気や窒素の圧縮ガスが関係する眼科装置の機能を模式図に示す(図3)。圧縮空気が装置の駆動に使用されタンク(20 L)内の圧縮空気が任意に設定した容量以下になるとコンプレッサーが作動し,手術室内の空気を取り込んでタンク内容量が再び100%になる。コンプレッサーには除湿機能が備わっており乾燥空気が手術装置に供給される。コンプレッサーの製造元は作動時間が5,000時間毎にメンテナンスすることを推奨している。手術時間の中でコンプレッサーの作動時間は短時間であるため,年間の手術件数が非常に多い施設でも数年に一度のメンテナンスで良いことになる。購入費は一台当たり数十万円程度である。使用開始後は窒素ガスを購入する必要が無くなりランニングコストはほとんど掛からない。カタログによると毎分130 Lの空気が装置から上方に排出されることになっており吹き出し口に実際に手を当てると弱い風を感じるが,手術室の壁の近くに置くことで層流換気システムへの影響は無視できると考えている。私達の施設では装置を手術室の排気口付近に置いている(図4)。また,騒音値は46 dB(カタログ値)で日常生活レベルであるため意識下で手術を受けている患者であっても不快に感じることは無い。コンプレッサーを使用した運用を開始して9か月が経過したが,眼科医からの評判は良く,中央配管システムから供給される窒素ガスを使用していた時と同様に不都合は生じていない。

図1  眼科手術装置の接続部
図2  コンプレッサーの接続部
図3  眼科手術装置の機能における加圧ガス(空気/窒素)の役割(矢印はガスの流れ)
図4  手術室内の配置 右奥の装置がコンプレッサー,手前が眼科手術装置

3. 結論

手術部門の建て替えに伴い新手術室では中央配管システムからの窒素供給をやめた。コンプレッサーを用いた圧縮空気で眼科装置を稼働させている報告はこれまでない。眼科手術では装置の駆動ガスとしてほとんどの施設で窒素ガスが使用されていると思われるが,病院経営改善のための経費削減が求められる中,安全面や機能面で窒素ガスと全く変わりないコンプレッサーによる圧縮空気の利用は建設費だけでなく維持費も削減できるため今後有用な選択肢であると言える。

文献
  • 1)   日本アルコン株式会社.コンステレーションTMビジョンシステム添付文書.医療機器承認番号:22200BZX00923000.2018年5月改定(第6版).
  • 2)   アールイーメディカル株式会社.EVA NEXUS眼科手術システム添付文書.医療機器承認番号:30500BZI00003000.令和5年4月(第3版).
 
© 2025 日本手術医学会
feedback
Top