2025 年 46 巻 2 号 p. 101
現代医療を取り巻く環境は日々進化し続けており,医療技術や医療機器の高度化は目覚ましい進展を遂げている。こうした急速な変化の中で,医療専門職にはより高い専門性に加え,状況を的確に判断し,安全かつ確実に対応する「実践力」がこれまで以上に求められるようになってきた。すなわち,知識の習得や技術の修得だけでは不十分であり,現場で適切にそれらを発揮できる能力,すなわち「医療プロフェッショナル」としての実力が問われる時代となってきた。このような背景に応える教育方法として,近年注目されているのがシミュレーション教育である。
シミュレーション教育は,臨床現場を再現した環境において,安全かつ実践的な学習を行うことが可能であり,学習者が失敗を恐れず試行錯誤を繰り返す中で,自らの判断力・対応力・協働力を高めていく教育手法である。特に講義中心の学習では習得困難な実践力を,模擬環境での体験学習により自発的かつ繰り返し身につけることができる点は,シミュレーション教育の特徴であり大きな魅力である。また,「失敗から学ぶ」「繰り返し学ぶ」といった経験は,患者の安全が最優先される実臨床においては難しく,こうした学びの機会を提供できるのもシミュレーション教育の重要な価値である。
なかでも手術医療の分野では,刻一刻と変化する患者の状態に即応するためには,冷静な判断力やチーム間の緻密な連携が不可欠であり,そのための教育として,手術室を再現した環境で行われるシミュレーションは極めて有効である。これは単なる技術習得にとどまらず,急変時対応力や危機管理能力といった臨床現場での即応的判断力を鍛える貴重な機会となる。
加えて医療においては個々のスキルのみならず,チーム医療におけるノンテクニカルスキル(Non-technical Skills: NTS)の重要性も広く認識されている。コミュニケーション能力,リーダーシップ,意思決定,そして状況判断といった要素は,プロフェッショナルとしての成熟に欠かせない資質であり,シミュレーション教育はこれらの育成にも大きく貢献する。現在では,シミュレータを活用した一次・二次救命処置訓練に加え,チームトレーニングとしての応用も進んでいる。また模擬患者(Simulated Patient: SP)を活用した教育も急速に広がりを見せており,特に卒前教育においては臨床推論やコミュニケーション能力の訓練として高く評価されている。
医療専門職の実践力を育む教育手法の探究は,手術医療を支える本学会の使命ともいえる。だからこそ,本特集では「医療プロフェッショナルの実践力を磨くためのシミュレーション教育の魅力」というテーマで企画し,シミュレーション教育に積極的に取り組まれている先生方に,教育の基本概念から具体的な実施方法,実践報告に至るまで,多岐にわたる内容をご執筆いただいた。
本特集が,手術医療に携わる教育者をはじめ,広く医療専門職の教育に関わる方々にとって,実践力向上のための新たな考え方や取り組みを得る一助となり,日々の教育実践においてぜひ参考としていただきたいと考える。