2003 年 12 巻 3 号 p. 71-94
組織の組織や管理機能に端を発している事故や不祥事が昨今多発している.これら組織事故の背景には効率性のみに注意が傾き,安全性がないがしろにされている現象が見られる.本論文では,組織事故に対してシステム思考が有効であることを前提とし,安全性を軽視すると結果的に組織の存続そのものを危ぶませる事故が発生する過程を考え,これを事前に予防するアプローチを試みる.組織が安全文化を創造し醸成するためには,情報に立脚した文化,正義の文化,柔軟な文化,学習する文化を企業文化内で育む必要があるとJ.T.Reasonは提唱している.彼の説明によれば,安全文化は報告に立脚しており,この意味でいかに正確に安全に関した情報が適切に伝達されるか(報告する文化)に帰着される。
本論文では,マルチエージェントシミュレータswarmを用いて,多主体複雑系の概念を用いながら組織内のインシデントレポート伝達過程をPC上で実装し,エージェントベースドシミュレーションにより,安全な組織の設計のための指針を考察することを目指す.