抄録
電離放射線に被ばくすると、臓器・組織の放射線感受性、線量、線量率、被ばく後の経過時間などに依存して、様々な影響が生じる。放射線の発見から一世紀の間、循環器の放射線感受性は低いと考えられてきた。しかし、原爆被ばく者における循環器疾患の死亡リスクが、従来考えられてきたよりも低い線量で増加することが2010年に報告された。これが主な契機となって、2011年に国際放射線防護委員会(ICRP)は、初めて循環器疾患を組織反応(線量応答関係にしきい線量を伴うことを仮定する非がん影響)に分類して、しきい線量を勧告した。本稿では、ICRPの2011年勧告の経緯と概要、放射線への被ばくによって循環器に生じる影響に関する最近の科学的知見とそれを踏まえた課題、放射線防護分野における議論と国内外での最近の動向、放射線治療の観点からの課題について、解説する。