抄録
非右利き,左半球損傷,発語失行のない失語症者2例(症例A,B)にみられた文法障害の特徴を情景画叙述から得た発話資料をもとに統語面と形態面について定量的に分析し,検討した.症例Aには統語的単純化がみられ,また,名詞単語への依存,述語連鎖数の縮小,助詞の省略・誤用といった形態面の障害も多く,統語面と形態面の両方に顕著な障害がみられた.一方,症例Bには統語的単純化がみられたが,形態面の障害は助詞の誤用がいくらかあるほかは顕著な障害が認められず,障害は統語面に優位であった.以上の結果をTissotら(1973)の失文法下位分類に基づいて検討し,症例Aは統語と形態のどちらか一方に優位な障害を示さなかったことから,このようなタイプをTissotらの分類にはない1類型として提起した.また,症例BはTissotらの“統語障害が優位なタイプ”に相当すると考えられた.さらに,これら2例の障害の発現機序について考察を加えた.