2022 年 50 巻 2 号 p. 66-69
【要約】 披裂軟骨脱臼は気管挿管の合併症や喉頭外傷によるものが報告されているが,喉頭鏡を用いた経口気管挿管による発生頻度は0.023~0.11%程度とされ,歯科麻酔科領域における報告例や間接声門視認型ビデオ喉頭鏡による報告はない.今回,間接声門視認型ビデオ喉頭鏡(McGRATHTM MAC;以下マックグラス)による経鼻気管挿管後の左側披裂軟骨前方脱臼が認められ,自然に治癒した症例を経験したので報告する.
患者は43歳の女性.身長155cm,体重40kg,BMI 16.6であった.下顎角過形成症および下顎左側第一大臼歯の欠損の診断で,全身麻酔下に両側下顎角形成術およびインプラント埋入術が予定された.喉頭展開後の気管チューブの挿入は1回でスムーズに行っており,気管挿管による披裂軟骨の前方脱臼は,気管チューブが披裂軟骨を圧排したのではなく,マックグラス挿入時に深く挿入されたマックグラスのブレード先端が輪状軟骨後面を圧迫する機序が考えられた.本症例における披裂軟骨前方脱臼の治療は,甲状披裂筋の能動的な運動を促すとされる息こらえ,発声および嚥下による音声訓練を行って,自然に整復され治癒した.披裂軟骨脱臼の陳旧性症例では,関節周囲に瘢痕形成などの不可逆的変化が起こる可能性があるため,早期の耳鼻咽喉科受診が望ましい.