環動昆
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研究奨励賞受賞論文
シロアリのピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体に関する研究
板倉 修司
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2004 年 15 巻 1 号 p. 19-30

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抄録
解糖系によってグルコースから生じたピルビン酸塩はピルビン酸デヒドロゲナーゼ (PDH) 複合体によりアセチル-CoAへ変換される. さらにアセチル-CoAはTCA回路で二酸化炭素へ酸化される. PDH複合体はミトコンドリアマトリックスに存在し, 好気的生物の細胞内で普遍的に働いている酵素複合体であるにもかかわらず, シロアリにはPDH複合体は存在しないといわれてきた. 代替手段として, 共生細菌によりピルビン酸塩から生成した酢酸塩をシロアリが利用するという次のような経路が提唱されてきた. 先ず, シロアリ組織の細胞質においてグルコースから生成したピルビン酸塩がシロアリ腸内へ輸送される. ピルビン酸塩は腸内の細菌類により酢酸塩へと変換される. 次に, 酢酸塩がシロアリ組織へ運ばれ, 細胞質でアセチル-CoAへ変換される. さらにアセチル-CoAはミトコンドリア内へ輸送されTCA回路により二酸化炭素へ酸化されるという経路である.
本研究では, [2-14C]-ピルビン酸塩から生成する [14C]-アセチル-CoAを定量することで, シロアリからPDH複合体活性を初めて検出した. PDH複合体はリン酸化と脱リン酸化されることで活性が制御されている. このPDH複合体のリン酸化と脱リン酸化の阻害剤としてジクロロアセトフェノンとフルフェナジンがそれぞれ有効であることを見出し, 活性型PDH複合体活性の測定を可能にした. その結果シロアリのミトコンドリアでは約50~60%のPDH複合体が活性型に保たれていることが明らかになった. さらに, 酸素電極を用いて各種呼吸基質の酸化時におけるシロアリ組織ミトコンドリアによる酸素消費速度を測定した. 十分なPDH複合体活性とミトコンドリアによる高いピルビン酸塩酸化速度を示した高等シロアリNasutitermes walkeriではピルビン酸塩がすばやく代謝され, 低いPDH複合体活性が検出された下等シロアリCoptotermes formosanus (イエシロアリ) ではシロアリ組織で酸化されるよりも多くのピルビン酸塩が生成していることが示された.
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© 2004 日本環境動物昆虫学会
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