森林計画学会誌
Online ISSN : 2189-8308
Print ISSN : 0917-2017

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1版
針葉樹人工林の針広混交林への誘導―古典的な森林経理学からみた研究課題―
國崎 貴嗣
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ジャーナル フリー HTML 早期公開

論文ID: A20240401

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2版: 2024/06/26
1版: 2024/06/24
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特集「社会の要請に森林計画学はどのように応えるか」

総 説

針葉樹人工林の針広混交林への誘導

―古典的な森林経理学からみた研究課題―

國 崎 貴 嗣1,*

Transformation from conifer plantations to mixed-species stands:

Research challenges associated with the perspective of classical forest

management planning

Takashi Kunisaki1,*

DOI: https://doi.org/10.20659/jjfp.A20240401

*連絡先(Corresponding author)E-mail : kunisaki@iwate-u.ac.jp

1 岩手大学農学部(020-8550 盛岡市上田3-18-8)

Faculty of Agriculture, Iwate University, 3-18-8 Ueda, Morioka, 020-8550, Japan

Ⅰ.はじめに

針葉樹人工林(以下,人工林とする)由来の針広混交林に関して,我が国で20世紀に注目された研究対象の一つは,1970年代後半から1990年代にかけて研究された不成績造林地であった(豪雪地帯林業技術開発協議会,2000)。不成績造林地は適地でない立地への造林,初期保育の不足・欠落など様々な原因に由来するものの,植栽木により成林しないという課題であった。これを踏まえ,不成績造林地について精力的に研究が展開され,針広混交林化や広葉樹林化を指向した林相改善技術が確立された(豪雪地帯林業技術開発協議会,2000;小谷,2004;横井,2006;長谷川,2007)。一方,1990年代に入ると,公益的機能を重視した持続的な森林経営について世界的に注目されるようになり(Fujimori, 2001;西川,2004),我が国でも森林の有する多面的機能の発揮に資する育成複層林への期待が高まった(森林基本計画研究会,1997)。そこで,成林した人工林の水土保全機能や生物多様性保全機能を向上するために,人工林を針広混交林に誘導する技術が研究され始めた(長池,2000;杉田,2005;大原,2007;鈴木,2007)。また,2003年以降,多くの府県で手入れ不足人工林の改善に向けた超過課税による森林整備が導入され,複数の県で人工林の針広混交林化が計画的に推進された(林野庁,2014)。これと並行する形で,人工林を針広混交林に誘導する育林技術が加速的に研究され,林分レベルの管理技術の要点が整理された(例えば,新山ら,2010;五十嵐ら,2014;佐藤,2021)。さらに,2019年度から導入された森林経営管理制度の市町村森林経営管理事業では,森林環境譲与税等を財源としながら,人工林の自然林への誘導を意図した複層林化が指向されるなど(森林経営管理法研究会,2018),人工林の針広混交林化(以下,混交林化とする)は,引き続き,我が国の主要な森林施策の一つとして注目されている(佐藤,2021)。

広域に作用する水土保全機能や生物多様性保全機能を高度に発揮させるにあたっては,林分の集合体としての森林を適切に空間配置することが重要である(中村,1999;Fujimori, 2001;山浦,2004;鈴木,2007;恩田,2008)。つまり,森林管理により水土保全機能や生物多様性保全機能を発揮させるには,林分レベルのみならず,景観レベルでの管理技術(森林や林分の時空間的配置の計画技術)が必要である(井上,1974;中越,1995;木平,2003;西川,2004;光田ら,2009)。混交林化について,先述のとおり,林分レベルの管理技術の要点は整理された。しかし,景観レベルでの管理技術に関わる混交林化研究はほとんど行われておらず,混交林化の技術確立に向けて,森林計画学的な研究が必要である。

木平(2003)は2000年代前半時点の森林計画学について,古典的な森林経理学,数理モデルをそなえた森林計画学,第3世代としての森林計画学に整理した。1990年代以降,景観生態学(中越,1995;武内,2006;日本景観生態学会,2022),エコシステムマネジメント(柿澤,2000;森,2012),保持林業(柿澤ら,2018)などの新たな学問分野が発展したことを踏まえると,本特集の主眼は,第3世代としての森林計画学の論考にあると想定される。しかし,本総説では,あえて古典的な森林経理学,具体的にはその一部を構成する森林組織計画(今田,2005)の観点から国内の混交林化研究の知見を総括する。つまり,森林組織計画の観点に限っても,混交林化に向けて森林や林分の時空間的配置に関する様々な技術開発研究の必要性を具体的に指摘できることを示す。そのため,第3世代としての森林計画学で注目すべき景観生態学,エコシステムマネジメント,保持林業,土地の共用と節約の考え方については,それぞれ日本景観生態学会(2022),森(2012),伊藤(2018),光田(2020)の解説を参照して頂き,これらの観点による混交林化研究の必要性を,読者各位で考えて頂けると幸いである。また,本総説は国内での研究事例に限定した内容となっているが,国外でも人工林の混交林化に関する研究はKenk and Guehne(2001)をはじめ多く見られ,これらについてはCannell et al.(1992),Brockerhoff et al.(2009),Bravo-Oviedo at al.(2018)を参照頂きたい。

Ⅱ.森林経理学における森林組織計画

1.森林組織計画とは

森林経理学は,森林経営の目的を達成するための森林施業計画を立案する理論・方法を研究対象とする応用科学であり(井上,1974),「森林組織化-森林収穫規整」,「空間的組織化-時間的組織化」,「基本構造計画-実施過程計画」という2分野が三対に結合して構成されている(今田,2005)。これらの前半である森林組織化,空間的組織化と基本構造計画に該当するのが森林組織計画である。調査→評価→予測→計画→実行→照査を計画期間ごとに繰り返すのが森林計画という田中(2020)の定義を参考にすれば,初回計画期間での収穫規整に先立ち,数千haの事業区の長期計画として,調査から計画までを前もって取りまとめたのが森林組織計画にあたる。事業区を対象とした森林経営では,目標林型に達した森林,つまり組織化された森林を最初から取り扱える場合は少ない。そのため,木材生産機能の発揮を主目的とした森林経営であっても,経済原則と福祉原則をバランスさせつつ,保続原則を満たせるように森林を組織化する,すなわち事業区内の森林を目標林型に誘導することが求められる(井上,1974)。こうした森林誘導には数十年かそれ以上の長期を要することから,目標および目標への道筋を見失うことがないよう,森林組織計画をあらかじめ立てることが望ましい(今田,2005)。

2.森林組織計画の混交林化研究への適用可能性

さて,県の超過課税による森林整備事業や市町村森林経営管理事業の混交林化は,事業区を対象とした木材生産機能の発揮を主目的とする森林経営とは異なる。そのため,混交林化研究の知見を森林組織計画と関連づけて総括することに疑問を抱く読者もおられるだろう。確かに,森林組織計画は水土保全機能や生物多様性保全機能ではなく,木材生産機能の発揮を主目的とした森林計画立案のための理論として構築された(今田,2005)。一方で,森林経理学は経済原則だけでなく,合自然性原則や環境保全原則など福祉原則とのバランスを図りながら保続原則を満たすように計画する学問であり(井上,1974),その前半である森林組織計画は木材生産機能と他の多面的機能をバランスさせる具体的手段を有する(今田,2003)。すなわち,次章から述べるように,森林組織計画は,目標林型を設定し,目標林型と現在の森林との違いを明確にした上で,いかなる方法で目標林型に誘導するかを具体的に立案する手段を提供する。この手段は,木材生産機能以外の多面的機能の発揮を主目的とする森林にも適用可能である。そこで本総説では,景観レベルでの管理技術を指向する手がかりとして,森林組織計画に着目しながら既存の混交林化研究の知見を総括し,混交林化の管理技術確立に向けた今後の研究課題を提案する。

なお,森林組織計画では,計画策定過程として調査,森林基本組織計画,森林細部組織計画,現地表示という4段階を踏む(今田,2005)。本総説では,これら4段階のうち,森林基本組織計画と森林細部組織計画に則して知見の総括と今後の研究課題(表-1)を提案していく。

Ⅲ.森林基本組織計画からみた研究課題

1.林分の目標林型の設定

森林基本組織計画では,事業区内を複数の作業級(団地)に分画するに先立ち,各作業級における林分の目標林型を設定する。針広混交林については,樹齢構成(同齢,異齢)と林冠層での混交の有無から,四類型(同齢混交林,同齢複層混交林,異齢混交林,異齢複層混交林)に区分できる(表-2)。同齢とは異なるコホート間の樹齢の差が概ね10年以下,異齢とはそれが概ね20年以上の状態を指す。また,針広混交林とは本来,林冠層で針葉樹と広葉樹が共存し,かつ広葉樹が材積率で25~75%を占める林分を指すことから(井上,1974),上層が針葉樹植栽木で下層が侵入広葉樹という二段林を,ここでは複層混交林と呼んで区別する。今後10年程度の表土流出防止機能の発揮だけが目的ならば,若齢・壮齢人工林について異齢複層混交林を林分の目標林型とすることもできるものの,混交林誘導伐(強度間伐)から10年ほど経過すると,異齢複層混交林内の侵入広葉樹の成長が停滞し始める(城田ら,2012;小山ら,2013;國崎,2022)。その結果,異齢複層混交林の林型を維持するにも,追加の伐採を繰り返すことが必要になる。ゆえに,水土保全機能や生物多様性保全機能を長期的に発揮させるにあたり,途中の目標林型として異齢複層混交林を位置付け,最終的な林分の目標林型としては針葉樹が高齢・老齢期に達した異齢混交林を位置づけるのが望ましい(國崎,2016b)。

本総説では,水土保全機能や生物多様性保全機能を向上するために,人工林として成林した林分を,林分の目標林型としての針広混交林に誘導する場面に注目する。それゆえ,下刈り・除伐の時期に多数侵入した広葉樹を潔癖に除去できなかった不成績造林地(豪雪地帯林業技術開発協議会,2000;横井,2006;長谷川,2007)などの同齢混交林や,下刈り・除伐の終了後の林冠閉鎖前に広葉樹が侵入した同齢複層混交林(國崎・三石,2003;Kunisaki and Kunisaki, 2004;國崎,2009)については議論の対象外とする。

平均本数密度が268本/haの82年生スギ(Cryptomeria japonica)林には,わずかな本数ながら,林冠層に達する広葉樹が認められた(山川ら,2009)。また,密度管理によりカラマツ(Larix kaempferi)林の収量比数を0.6以下に維持すれば,林齢80年生以降に広葉樹が林冠層に到達し始めることがシミュレーションから推定された(岩崎・渋谷,2013)。これらのことから,定期的に間伐が繰り返された80年生以上の高齢林であれば,一部の広葉樹が林冠層に到達する場合があると考えられる。また,先述の岩崎・渋谷(2013)によるシミュレーションでは,林分葉量の少ないカラマツ林(堤,1989)が100~110年生時に,林冠層での広葉樹混交率が本数で30%前後に達することから,130年生前後など,さらなる高齢化を図れば異齢混交林に誘導できる可能性がある。その一方で,本数密度が152本/haの180年生,192本/haの240年生のヒノキ(Chamaecyparis obtusa)林2林分には,林冠層を含めて広葉樹が多数侵入し,階層構造も発達していたものの,広葉樹の材積混交率はそれぞれ15,12%であった(鈴木ら,2005)。よって,スギやヒノキなど着葉量の多い人工林(堤,1989)の本数密度が150本/ha以上ある状態で,広葉樹の材積率が25~75%を占める異齢混交林に発達させるには,針葉樹が240年生以上の老齢林を目標とする必要があるかもしれない。こうした高齢・老齢林の混交状態に関する研究は,植栽針葉樹種に関係なく少ないことから,さらなる事例報告が求められる。

2.育林方式の選定

育林方式とは,いわゆる森林作業種(井上,1974)であり,作業級内の単位林地を対象に,伐採面の特徴(伐採面の形状,面積規模,配置)を考慮しながら,伐採種(皆伐,漸伐,残伐,択伐)と更新種(天然更新,人工造林)を組み合わせた類型である(今田,2005)。つまり,育林方式は主伐後の更新を区分した概念であり,森林細部組織計画において育林プロセスを設計する際の主軸となる。さて,人工林由来の異齢混交林を林分の目標林型とする場合,人工林内に広葉樹を植栽する場合はありうるものの(小山ら,2013),更新種の主体は天然更新である(佐藤,2021)。よって,育林方式の選定で課題となるのは,基本的に伐採種と伐採面の特徴である。

伐採種のうち,皆伐では針葉樹がすべて伐採されるため,混交林に誘導できない。また,漸伐と残伐は,本来,天然下種更新における母樹としての機能を残存木に持たせる主伐であるのに対し(井上,1974),混交林化において伐採後に残存した針葉樹は,侵入広葉樹の母樹として機能しない。ゆえに,混交林化を指向する際の伐採種は択伐となる。混交林化を指向する伐採は,強度間伐,混交林誘導伐など様々に呼ばれているものの,本総説では,混交林化を指向する伐採をすべて択伐と一括して表現する。

異齢混交林を林分の目標林型とし,択伐-天然更新を選定した場合,伐採面の特徴をどのようにすれば良いか。従来から,点状択伐を人工林全域に対して行うのが一般的であるものの,スギ,ヒノキ林に対する本数択伐率が40~50%に止まると,広葉樹を侵入・成長させるための林内光環境の改善効果は高くない(相浦・大宮,2010;島田・野々田,2010;小谷,2011b;城田ら,2012;國崎ら,2015;Noguchi et al., 2016)。よって,着葉量の多いスギ,ヒノキ若齢・壮齢林を点状択伐により異齢混交林に誘導するには,本数択伐率40~50%の択伐を10年前後の間隔で繰り返すことが望ましい(Spake et al., 2019;國崎,2022)。しかし,択伐を何度も繰り返すと,択伐作業時の撹乱によって低木層の発達が阻害される(岩切ら,2019)。こうした点を鑑み,宮城県内のスギ若齢林を対象に,材積択伐率67%という超強度な点状択伐を5年間隔で二回だけ施す混交林化試験を行い,異齢混交林誘導への有効性を実証した研究もある(Negishi et al., 2020;Seiwa et al., 2021)。ただし,このような超強度な点状択伐に関する試験は,異なる立地環境,林齢のスギ林や他樹種の人工林では未実施である。また,ヒノキ若齢林では強度択伐時における残存木の外傷に伴う樹脂流出(渡辺ら,2008)や,強度択伐後の水ストレスに由来する立枯れ(佐藤ら,2012)など,強度択伐がもたらす負の影響が報告されている。よって,林分レベルの混交林化技術の確立にむけて,各地でSeiwa et al.(2021)と同様の研究が行われることが望ましい。

一方,スギ若齢林に形成された林冠ギャップがギャップ下の光環境を改善し,広葉樹の侵入機会を提供することから(小谷・高田,1999;小谷,2004),伐採を面的にまとめる帯状・群状択伐は異齢混交林への誘導に有効である可能性が高い(山川ら,2009)。まず,侵入広葉樹が繁茂する区域を面的にまとめれば,追加の択伐時の伐倒方向を工夫することで,低木層へのダメージを少なくできる。また,列状間伐による林内光環境の改善期間は,同じ間伐率で施された点状択伐の場合より持続する(Noguchi et al., 2016)。よって,帯状・群状の伐採面を持つ伐採種として択伐を位置付けることの意義は大きいと考えられる(杉田ら,2003;伊藤,2018;近藤,2023)。実際,森林・林業基本計画では育成複層林への誘導が以前から重視されていること(近藤,2023),市町村森林整備計画のゾーニングによっては公益的機能発揮のために複層林施業を適用する必要があることに加え,森林整備事業には更新伐も含まれることから,今後,帯状・群状択伐の適用事例が増えていくと予想される。ただし,2列や3列の植栽列を伐採する列状間伐や林冠木の樹高程度の幅による帯状択伐では,雑草木の繁茂により,目的樹種の優占度が低い,または成長が芳しくない事例が報告されている(今ら,2007;小山ら,2013;佐藤,2021)。このため,混交林化にあたっては択伐区域の幅や面積に留意する必要がある。帯状・群状択伐の類型は多様である反面(Fujimori, 2001;溝上,2007),異なる類型の帯状・群状択伐が林分構造や成長に及ぼす影響については不明な点が多く(山川ら,2009),帯状・群状択伐が人工林内に侵入した広葉樹の生残・成長に及ぼす影響について,異なる立地環境,樹種,林齢の人工林を対象とした研究が必要である。

なお,伐採面の特徴としての帯状・群状択伐区の森林内配置については,後述する森林細部組織計画における林分配置の目標林型および森林作業法の節で研究課題を提案する。

3.作業級の分画

目標林型を設定し,育林方式を選定すると,森林基本組織計画で次に取り組むのは作業級の分画である。つまり,目標林型と育林方式に対応させながら,事業区内を複数の森林(保続の単位としての団地)に区分する(今田,2005)。木材生産機能の発揮を主目的としない混交林化では,団地としてまとめて混交林化を推進しなければならない制約はおそらく生じない。このため,作業級の分画という視点は不要に見えるかもしれない。しかし,後述するように,気象条件や過去の土地利用履歴といった広域に作用する要因は混交林化に強い影響を及ぼす。ゆえに,林分レベルより広域な森林景観レベルで混交林化研究を総括しておくことは重要である。

標高の違いは気温や降水量の違いに加え,優占樹種にも強く影響する(小島,1975;堤,1994;小谷,2004;小谷,2009)。積雪寒冷地では,標高の違いが積雪深や冠雪害の発生しやすさに影響し,気象環境が厳しすぎる高標高域(地域で異なるものの800~900m以上)を除けば,標高が高い立地ほど人工林内のコシアブラ(Chengiopanax sciadophylloides),ブナ(Fagus crenata),ミズキ(Cornus controversa),ミズナラ(Quercus crispula)といった高木種が増え,侵入広葉樹全体の本数密度も高い(和田ら,2009;小谷,2009;小谷,2011a)。これに対し,積雪寒冷地でない西日本では,標高が高いほど侵入落葉樹の稚樹密度が増加するという三重県内での事例(島田・野々田,2010)や,侵入する樹木本数密度に与える標高の影響は認められないという九州地方の事例(齊藤ら,2006)など,異なる結果が散見される。標高の違いが混交林化にどのように影響するのかという観点での研究が,より多くの地域で必要である。

地質の違いが二次林の樹種組成に強く影響し,これらの要因が二次林皆伐後に造成された人工林内の侵入樹種の本数密度に強く影響する事例が報告されている(Sugita et al., 2008)。また,前植生が草地と広葉樹二次林で異なる場合,人工林内に侵入した樹種の常在度や種の豊かさが異なる(Ito et al., 2004)。つまり,前植生が草地であるスギ林では,それが広葉樹二次林だった場合に比べ,侵入広葉樹の常在度や種の豊かさが低くなるため,生物多様性に配慮した林分管理が若干難しくなる可能性が指摘されている(Igarashi and Masaki, 2018)。さらに,拡大造林地と再造林地のスギ林を比較すると,侵入広葉樹の種の豊かさは再造林地で低くなる(Igarashi et al., 2016)。このように,過去の土地利用履歴の違いは混交林化に強く影響するものの,研究事例が限られるため,さらなる研究が求められる。

Ⅳ.森林細部組織計画からみた研究課題

1.育林プロセスの設計

前章で扱った森林基本組織計画は作業級の分画に関わる計画であるのに対し,本章で扱う森林細部組織計画は作業級内部を組織化するための計画にあたる(今田,2005)。さて,森林細部組織計画で最初に設定するのが育林プロセスである。育林プロセスとは,目標林型への育成に必要な育林作業を,林木の成長全過程を考慮して,適切な時期に配置した一系列であり(今田,2005),従来,育林技術体系や施業体系と呼ばれてきたものと基本的に同じである。

混交林化を指向する場合,択伐をどのような林齢で施すのが妥当かを知ることは,育林プロセス設計上,極めて重要になる。例えば,20~33年生のスギ,ヒノキ林に材積択伐率50%以上の点状択伐を施しても,択伐から5~6年で林内相対光量は伐採前の水準に戻る傾向にある(Seiwa et al., 2012;Noguchi et al., 2016)。林分の発達段階における若齢段階(Fujimori, 2001)では,樹高成長を始めとする地上部器官の成長が旺盛で,強度に択伐しても5年程度で林冠閉鎖するからである(Fujimori,2001;正木,2018)。スギ,ヒノキ若齢林内の林床植生や低木層に関する研究によれば,初回の林冠閉鎖以降,林齢が概ね40年生以下では林床植生や低木層が未発達になりやすいものの,概ね50年生以上になると広葉樹を含めた林床植生や低木層が回復し始める傾向にある(清野,1990;小谷・高田,1999;Ito et al., 2003;Nagaike et al., 2003;齊藤ら,2006;山川ら,2009;菅原・國崎,2011;五十嵐ら,2014;Spake et al., 2019)。こうした回復傾向の要因として,一つには択伐による林内光環境の改善が影響する(國崎 2016a)。その一方で,最近択伐されておらず,林冠が閉鎖したヒノキ若齢林でも40年生以降に下層群落高が増加し始めることが報告されている(清野,1990)。後者に関しては,林分葉量の減少(清野,1990),葉群クラスター化などの樹冠構造変化(Mizunaga and Fujii, 2013)に加え,枝葉の接触摩耗により樹冠間に空隙が生じるcrown shyness(Fish et al., 2006)や林冠基底高の上昇による側方光の透過(Fujimori, 2001)など,様々な仮説があるものの,林冠構造と関連づけた混交林化研究は少ない。

また,いかなる択伐率で択伐すべきかも,育林プロセス設計上,欠かせない情報である。択伐を施すと,その直後から広葉樹が侵入し始める(野々田ら,2008;島田・野々田,2010)。ただし,その侵入期間は3~6年であることが多い(野口ら,2009;相浦・大宮,2010;Taki et al., 2010;小谷,2011b;Spake et al., 2019)。侵入期間が概ね6年以下であることや侵入期間の林分間差には,択伐率,択伐前後の林冠混み合い度の変化や林内光環境の変化,および林床植生や低木層での競合などが密接に関係していると考えられる(Noguchi et al., 2016;正木,2018;Spake et al., 2019;佐藤,2021;Seiwa et al., 2021)。また,侵入広葉樹が林冠層より下層で生残できたとしても,林冠閉鎖に伴い,広葉樹の成長は減退する(岩崎・渋谷,2013;小山ら,2013;國崎,2022)。これらの現象を定量的に予測できることは育林プロセス設計上,極めて重要であり,異なる立地環境,樹種,林齢の人工林を対象とした研究が,さらに必要である。

加えて,択伐をどのような林齢で,いかなる択伐率で施すべきかを自由にシミュレートできる環境があれば,育林プロセスを設計しやすくなる(今田,2005)。択伐率は択伐前後の林内光環境の変化に強く影響するとともに(河原,1988),林冠混み合い度と林内光環境との間にも密接な関係が認められる(安藤・宮本,1971;複層林施業研究班,1983;野々田,1985;外館・野呂,1991;片倉ら,1995;國崎ら,2009;小山ら,2009;Yamamoto et al., 2015;相浦ら,2017)。また,主要な落葉広葉樹における光量と稚樹の樹高成長量の関係については石田(2000)により樹種別に定量的に整理されている。よって,様々な樹種について林齢の違いに応じた択伐率と林冠混み合い度との関係をモデル化できれば,林内光環境については林冠混み合い度を説明変数とした既存のモデル(安藤・宮本,1971;複層林施業研究班,1983;野々田,1985;外館・野呂,1991;片倉ら,1995;小山ら,2009;相浦ら,2017)で推定できるとともに,推定した光環境下における樹種別の樹高成長量については,冷温帯に限られるものの,石田(2000)のモデルで推定できる。超過課税による森林整備や市町村森林経営管理事業に携わる行政関係者や,混交林化を指向した択伐を設計する林業技術者からすれば,システム収穫表(Konohira, 1995;松本ら,2011)のような,コンピュータ上で手軽に操作できる混交林化のための林分成長モデルが開発されることへの期待は非常に大きい。こうした期待の声の一部は,筆者が日頃面会する岩手県などの行政関係者や,各種技術者研修に参加した林業関係者から異口同音に聞くところである。数理モデルをそなえた森林計画学(木平,2003)を構築してきた学問分野として,当学会員の活躍が求められていると言えよう。

混交林化のための林分成長モデルの開発にあたっては,上記の内容以外に,林床植生や低木層での競合に関するサブモデルの開発も欠かせない。地表撹乱の有無が目的樹種の侵入や雑草木の繁茂に及ぼす影響(杉田ら,2008;石橋,2015;伊藤ら,2018)や,低木層と林床植生との対応関係(國崎,2004;山岸ら,2022)など,森林利用学や造林学分野に近い課題が多いため,これら分野と森林計画学分野の研究者が連携する研究の展開も今後必要である。

2.林分配置の目標林型の設定

育林プロセスを設計した後には,育林プロセスと関連づけながら,作業級内における林分配置の目標林型を設定する。なお,今田(2005)では,育林プロセスの設計に続く計画項目を「保続生産システム(森林作業法)の設計」としているものの,その次の計画項目である「生産林分・付帯設備配置計画」を先に検討した方がわかりやすい。つまり,この生産林分・付帯設備配置計画こそが林分配置の目標林型の設定に該当するので,林分配置の目標林型を先に設定し,それに向けて作業級を誘導するための仕組みとして森林作業法を設計すると考えた方がわかりやすい。

天然更新に基づく混交林化にあたっては,人工林内に広葉樹の種子が供給される必要がある。そのため,広葉樹の種子供給源となる広葉樹林の作業級内配置を最初に検討することが重要である。種子散布型によっては100m以上の長距離散布が実現する場合もあるものの,基本的には母樹のある広葉樹林からの距離が遠いほど,散布種子数は少なくなる(酒井ら,2013)。その結果,広葉樹の種子散布型,生活型や耐陰性によって違いはあるものの,樹種別の稚樹密度も広葉樹林からの距離との間に有意な負の相関を示す場合が多い(Fujimori, 2001;小谷,2004;Utsugi et al., 2006;國崎・小川,2009;Gonzales and Nakashizuka, 2010;Igarashi and Masaki, 2018)。そして,広葉樹林からの距離が概ね50m以上になると,人工林内の侵入広葉樹の本数密度はかなり低い傾向にある(島田,2006;五十嵐ら,2014;吉川・國崎,2014)。よって,広葉樹林を多く含む針葉樹作業級を対象に,混交林化を指向することが望ましい(谷口,2007)。木材生産機能の発揮を主目的とした森林組織計画であれば,作業級内に残存する広葉樹天然生林は人工林への林種転換の対象になりやすいものの,混交林化においては,残存広葉樹林は積極的に残すべき対象である。人工林主体の作業級に広葉樹林を残存させる場合,付帯設備における保全設備または補助生産設備として位置付けるのが妥当である(今田,2003)。すなわち,保全設備であれば保護樹帯,補助生産設備であれば予備林(井上,1974)として広葉樹林を位置付ける。さて,近隣の人工林において択伐がすぐに施されるとは限らないため,付帯設備として残存された広葉樹林は,長期にわたって種子供給源として機能することが求められる。しかし,人工林主体の作業級に残存する広葉樹林は,0.01haオーダーの林分や尾根筋や沢筋などに狭い帯幅で残された林分,岩石が露出する区域に残された林分など,パッチ状林分である場合も少なくない(清和,2013)。0.01haオーダーの広葉樹林では,隣接林分からの被圧により林分材積成長量が顕著に低くなる場合がある(國崎ら,2007)。加えて,人工林主体の作業級に残存するパッチ状の広葉樹林は,従来から林業の育成対象としても,保全の対象としても見なされずに放置され,つる植物が林冠木を覆う低質林分になっている状況もしばしば見受けられる。こうした状態で,種子供給源として長期的に機能する樹種組成や構造を有するのか不明である(清和,2013;石田ら,2014;小山ら,2017)。ゆえに,断片化した広葉樹林を含む人工林主体の作業級を対象に,パッチ状の広葉樹林の林分動態や隣接人工林への広葉樹の侵入状況に関する研究も必要である(山浦,2007;山浦・岡,2018)。

次に,生産林分に該当する人工林の作業級内配置を検討するにあたり,人工林の林地生産力を考慮する必要がある。というのも,人工林由来の針広混交林1林分を0.01haオーダーの小区域に分けた場合,その樹種組成と構造は,地形や斜面位置などの立地特性,および林冠木との競合に強く影響されるからである(Inoue et al., 2008;Kunisaki and Kunisaki, 2008)。興味深いことに,こうした地形や林冠木との競合による影響は針葉樹の地位指数により指標化できるようであり,複数のスギ,ヒノキ林を対象としたデータセットで,地位指数と侵入広葉樹の本数密度または断面積との関係を調べると,有意な負の相関が認められる(國崎・川村,2000;小谷,2011a;Noguchi et al., 2011;吉川・國崎,2014;相浦ら,2017)。また,0.84haのスギ若齢林標準地を0.02haの小区画に分けた場合でも,斜面方位別でのスギ上層木樹高と侵入広葉樹の本数密度との関係に,有意な負の相関が認められる(Kunisaki and Kunisaki, 2008)。地位指数は林冠閉鎖までに要する時間(國崎・川村,2000)または林冠閉鎖度(Fish et al., 2006)を反映すると考えられるものの,地位指数と林冠閉鎖までの期間や林冠閉鎖度との関係を因果推論的に調べた研究はない。地位指数の推定や地位指数推定モデルを用いた研究は森林計画学分野の主要課題の一部であり,さらなる研究が期待される。さて,侵入広葉樹の本数密度あるいは断面積を推定するための説明変数としての地位指数に着目すると,混交林化は広葉樹が侵入しやすい,つまり地位指数の低い人工林で行うのが容易である。そのため,作業級内の各人工林の地位指数を推定し,広葉樹林からの距離が50m未満で,かつ地位指数の低い壮齢林から先行して択伐を施す案が考えられる。この際,GISにより地位指数,広葉樹林からの距離,林齢などの情報を組み合わせつつ(竹添・龍原,2009;小田ら,2010;光田,2020),雑草木の繁茂で目的樹種の優占度が低い状態(佐藤,2021)になることを避けるために択伐区が面的に連続しないようにしながら,林分配置の目標林型を設定することが望ましい。こうした作業を行政関係者や林業技術者が簡単に実行できるよう,方法論を確立・普及することも重要であろう。

3.森林作業法の設計

現在の作業級を林分配置の目標林型に誘導するには,作業級内の個別林分を対象とした育林プロセスだけでなく,主伐をいつ,どこで行うのかを決めるルール,つまり収穫規整(井上,1974)が必要不可欠となる。育林プロセスと関連づけながら作業級内での育林作業や収穫規整を仕組み化したのが森林作業法である(今田,2005)。混交林化を指向する択伐作業級なので,回帰年(井上,1974)を何年にするか,点状択伐と帯状・群状択伐のどちらを選定するか,伐区の時空間配置をいかに分散させるかなどを考慮しながら,森林作業法を設計する必要がある(溝上,2007;溝上,2020)。しかし,混交林化を指向した森林作業法に関する研究は国内では見られない(今田,2005;伊藤,2018)。一方で,現実には県による針広混交林化の事業で点状択伐された林分が各地に多数造成されている。加えて,国有林や森林整備センターによる針広混交林化の事業などで,群状択伐された林分も全国各地に造成されている。こうした既存の林分における伐区内の侵入広葉樹の状況を,標高,過去の土地利用,近接広葉樹林からの距離,地位指数,伐区面積,育林履歴などと関連づけて調査・解析することは,混交林化を指向した現実的な森林作業法の設計に先立ち,重要になる。なぜなら,個別林分を対象とした育林プロセスにおける時系列(1年単位での林分状況や育林作業の有無)を作業級内の空間軸方向(作業級内の異なる林齢の林分群)に転化する方式(今田,2005)で設計された,試作段階に等しい森林作業法のままでは,予想以上の雑草木の繁茂に伴う新たな刈り払い作業の追加,予想以上の生枝下高の上昇を踏まえた枝打ちの省力化や,ニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカとする)の生息密度増加に伴う目的樹種の食害対策の追加といった現実的な課題に対応できないからである(Imada et al., 2005;南木ら,2018;村田ら,2019)。混交林化における想定外を減らすために,既存の択伐地における混交林化の実態を景観レベルで解析する研究の展開が望まれる。

混交林化では,侵入広葉樹を採食するシカ(島田・野々田,2009;田村,2014;當山ら,2022)への対処は極めて重要であり,シカの生息密度が高い地域では,シカ対策を森林作業法に取り入れることは不可避である。シカの個体数調整を除くと,防鹿柵の設置や忌避剤散布といった対策が基本になると考えられるものの,防除効果は地域や方法によって異なり(岡田ら,2015;雲野ら,2015;酒井,2018;大場,2019),効果的な対策実施に向けて課題は残る。シカを始めとする野生動物との共存を見据えた混交林化の技術開発研究が必要である。

4.目的とする機能や事業成果の定量的評価

林分配置の目標林型を設定し,森林作業法を設計したら,次に行うのが,目的とする機能に関する指標値の推定である。これは,田中(2020)の言う調査→評価→予測→計画→実行→照査における照査で参照すべき目標状態を定量的に設定するためである。木材生産機能の発揮を主目的とした森林組織計画であれば,林分配置の目標林型に達した段階における作業級の標準年伐量(井上,1974)にあたる目標年伐量を推定する(今田,2005)。これに対し,混交林化を指向する場合には,林分配置の目標林型に達した段階の作業級について,主目的とする水土保全機能や生物多様性保全機能に関する指標値を推定することになる。現在ではなく将来の作業級について指標値を推定するので,指標を目的変数とするモデルを準備しておく必要がある(西川,2004;光田ら,2009;光田,2020;Yamaura et al., 2021)。水土保全機能は水源かん養機能(洪水防止機能,水資源貯留機能,水質浄化機能),表土流出防止機能,土砂災害防止機能などを総称している(森林基本計画研究会,1997;太田,2005;田中,2020)。いずれの個別機能に関する指標のモデルを準備するにしても,作業級という景観レベルで指標値を正確に推定するにあたり,モデル開発の土台となる現地での精密観測に基づく基礎研究や,入手しやすい説明変数によるモデルを開発する応用研究を含めて,解決すべき研究課題は少なくない(竹下,1991;津脇・高山,2006;小松,2010;池田ら,2012;谷,2018;飯田ら,2019;恩田・五味,2021)。また,生物多様性保全機能に関しても,景観・種・遺伝子レベルでの多様性と多層の概念であることに加え,種の多様性に限っても植物,昆虫,鳥類,哺乳類など対象となる生物種が非常に多く,混交林化に関連して,いかなる指標を選定すべきかを決めるだけでも容易でない(岡部・小川,2011;長池,2014)。しかし,本来的には混交林化を指向する森林計画の実行段階に先立ち,水土保全機能や生物多様性保全機能に関する適切な指標を選定し,その指標値を推定できるモデルを開発しておくことが重要なはずである(光田ら,2009;宮本,2010;Yamaura et al., 2021)。正確で精度の良い推定を重視する研究者にとって,推定の正確度や精度の向上が容易でないモデルの開発に関わることは大変悩ましい状況ではあるものの,森林水文学,生態学,森林利用学,森林計画学の研究者間の連携が強く望まれる。

一方で,すでに混交林化事業に取り組んでいる例も多く,計画実行後のモニタリングによる照査(光田ら,2009;田中,2020)として,その事業成果を定量化することが求められている(國崎,2016b)。例えば,県の超過課税による森林整備事業では,住民や企業等から追加で徴収した税金を活用することから,混交林化の成果を納税者にわかりやすく説明する責任がある。こうした混交林化事業では,整備に費やした金額や整備面積,あるいは整備面積に基づく便益の貨幣換算などを事業成果として使用する場面が見受けられる。しかし,金額は投入(インプット),整備面積は産出(アウトプット)であり,これらは事業成果(アウトカム)ではない(長崎屋,2005;山田,2019)。また,整備された人工林のいくつかに固定標準地を設定し,林業試験場(森林技術センター)の研究者がモニタリングした結果を事業成果として活用する県も散見される。しかし,これは多数の施工地の中から標準的な事例のごく一部を把握したに過ぎず,多額の予算を投入して整備した広大な森林に関する事業成果とみなすには心許ない。ただ,県職員も多忙を極めており,事業成果の指標を新たに検討・開発するのは難しく,仮に広域で森林を調査するとしても,それに費やせる時間や労力は限られているようである。一つの実例を紹介したい。筆者は,岩手県の超過課税による森林整備(いわての森林づくり県民税における,いわて環境の森整備事業)に関する委員会に当該事業の開始直後(2006年度)から関与し,点状択伐による混交林化の事業成果の公表を主張してきた。事業当初(第1期である2006~2010年度)には,整備に投入した金額や産出された整備面積のみが公表される状況であった。その後,第2期(2011~2015年度)には,施工地審査のために林業事業体が提出した標準地調査データ(植栽木の樹種,林齢,胸高直径)を特別に提供してもらい,緊急に整備すべき過密林が施工地として選定されていることを定量的に確認した(國崎,2013)。しかし,混交林化の目的である水土保全機能や生物多様性保全機能の改善に関して,標準地調査データから事業成果を抽出することはできなかった。2014年度には過去8年間の混交林化事業による公益的機能の便益を貨幣換算することが委員会に示されたものの,これは実質的に整備面積の言い換えに過ぎない。そのため,2014年度の委員会で事業成果の公表の必要性を継続的に議論し,当時の委員会事務局を担当する県職員に部内調整に奔走してもらうことで,2015年度に単純無作為抽出法に基づく100林分の林内景観写真の撮影を岩手県に実施してもらうに至った。そして,各林分の写真と林齢や間伐率などの属性データを用いて,点状択伐された人工林における下層植生の回復と低木層への発達状況を解析し,択伐から5~8年が経過した段階で,100林分のうち71林分が異齢複層混交林に誘導されたことを確認した(國崎,2016b)。その後,第3期(2016~2020年度)には2015年度と同じ林分で再び林内景観写真を撮影してもらい,択伐から9~13年が経過した段階を解析した。アカマツ(Pinus densiflora),カラマツ林にはイタヤカエデ(Acer mono),シナノキ(Tilia japonica),ハリギリ(Kalopanax septemlobus),ホオノキ(Magnolia obovata)など多様な高木種が侵入し,低木層発達は順調である一方,スギ林には鳥散布型種子を持つコシアブラ,ホオノキ,ミズキなどの高木種が見受けられるものの,侵入広葉樹全体の本数密度はアカマツ,カラマツ林より低く,低木層の発達が停滞していることを明らかにした(國崎,2022)。単純無作為抽出法に基づく情報収集により,混交林化事業の中間的な成果(長崎屋,2005)を公表できたことは一定の前進であるものの,異齢複層混交林の階層構造に関する情報が果たして水土保全機能や生物多様性保全機能の改善を反映する指標なのかは未だ検証されていない。むしろ,伊藤・光田(2007)が指摘する「制御すべき「構造」と期待すべき「機能」とが混同されている」状況そのものと言えるかもしれない。最近ではUAVや地上レーザースキャナによる情報収集が一般化しつつある(田中,2020)。人海戦術で林内景観写真を撮影する時間と労力があれば,水土保全機能や生物多様性保全機能に関する基礎データをUAVや地上レーザースキャナで収集し,そのデータから指標値を推定することが可能かもしれない。こうした事業成果に関する簡便な指標の開発にあたって,森林計画学会員のさらなる活躍を強く期待したい。

謝 辞

編集委員からは原稿修正の方向性について助言頂いた。査読者各位からは,有用な論文をご教示頂くとともに,本総説を改善する上で有効なコメントを多数頂いた。ここに記して深甚の謝意を表する。

引用文献

(2024年2月9日受付)

(2024年4月30日受理)

(2024年6月28日J-STAGE早期公開)

References
 
© 森林計画学会
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