2013 Volume 46 Issue 11 Pages 868-873
症例は44歳の女性で右上腹部痛を主訴に入院となった.CTで肝下面,胆囊左側に腫瘍内出血を伴う13 cm大の腫瘤を指摘された.十二指腸の消化管間質腫瘍を疑い,腫瘍摘出術,胆囊摘出術,肝部分切除術,胃・十二指腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査では後腹膜原発の悪性線維性組織球腫と脂肪肉腫を伴う骨外性骨肉腫の診断であった.骨肉腫に対する補助化学療法を施行したが,術後1年目に胃前庭部に再発し,幽門側胃切除術,肝部分切除術を施行した.さらに,1年7か月後に膵頭部上縁に再発し,腫瘍摘出術を施行した.さらに,1年3か月後に肝S4に再発し,肝左葉切除術を施行した.初回手術後7年で再発は認めていない.2回目までは骨外性骨肉腫を主体とする悪性腫瘍の再発であったが,3,4回目は低分化肉腫であった.現在,初回手術から7年経過するが再発なく経過している.
後腹膜腫瘍は全腫瘍患者の0.2%とまれな疾患であるが,悪性の頻度は高く約80%と報告されている1).摘出術が標準治療ではあるが,再発も多く,治療に難渋することが多い.
今回,我々は4回の摘出術で長期生存を得られた,骨外性骨肉腫が主体を占める後腹膜悪性腫瘍の1例を経験したので報告する.
症例:44歳,女性
主訴:右上腹部痛,発熱
既往歴:特記事項なし.
現病歴:右上腹部痛,発熱のために近医受診し,腹部CTで肝下面・胆囊左側に13 cm大の腫瘤を指摘され,精査加療目的で当院に紹介となった.
入院時現症:右季肋部に圧痛を伴う約10 cm大の腫瘤を触知した.反跳痛,筋性防御はなかった.
血液検査所見:WBC 12,000/μl,CRP 5.9 mg/dlと炎症反応を認めたが,そのほかに特記すべき所見なし.
入院時腹部CT所見:単純CTで,肝下面・胆囊左側に13 cm大の腫瘤があり,腫瘤内部の一部には出血を疑う高濃度域を認めた.造影CTでは胆囊動脈・胃十二指腸動脈が栄養血管とする,辺縁に造影効果を認める十二指腸原発の消化管間質腫瘍と判断した(Fig. 1).
CT of the tumor shows a ring-like contour enhancement (arrowheads), and a high density lesion suggestive of intratumoral hemorrhage (arrow).
入院後経過:入院後に絶食・輸液管理を行ったが,腹痛が増強した.腫瘍内出血の増悪と判断し,緊急手術を行った.
手術所見:上腹部正中切開にて開腹.肝右葉から内側区域下面に小児頭大の腫瘤を認めた.腫瘤は胆囊と一塊となっており,胃幽門部前面から十二指腸下行脚前面は腫瘤に浸潤されていた.胆囊摘出術,肝臓・胃・十二指腸の部分切除術を伴う腫瘍摘出術を施行した.
摘出標本所見:腫瘤は境界明瞭な径13×12×5.5 cmの黄白色調な充実性腫瘍で,内部には出血壊死を認めた(Fig. 2a~c).
The resected tumor showing an irregular surface (a). The inside of the tumor bled and necrotized (b, c). The tumor was composed of mainly atypical spindle cells accompanied by cartilaginous differentiation, osteoid formation (d, H.E. stain ×20), inflammatory malignant fibrous histiocytoma (e, H.E. stain ×20), and lipoblast-like form (f, H.E. stain ×40).
病理組織学的検査所見:腫瘍の最大割面では類骨形成,石灰化を伴い骨に分化した像や腫瘍性軟骨形成,破骨細胞様多核細胞を認め,骨肉腫が主体であった(Fig. 2d).骨肉腫成分が主体であったが,炎症性の悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma,以下,MFHと略記)(Fig. 2e)や,ごく一部には脂肪肉腫成分も認められた(Fig. 2f).胃・十二指腸・胆囊への直接浸潤は認めたが,腫瘍の最大割面で胃・十二指腸・胆囊の成分は認めず,腫瘍の原発は後腹膜と診断した.
術後経過:退院後,他院で骨肉腫に対してイホスファミド(2,000 mg/m2,day 1~5),ドキソルビシン(20 mg/m2,day 1~3),カフェイン(1,200 mg/m2,day 1~3)による化学療法(1コース3週間)を施行されたが,術後1年の腹部CTで胃前庭部前面に3 cm大の不整形腫瘤を認めた(Fig. 3).局所再発と診断し,再手術を施行した.腫瘍は胃前庭部から肝外側区域を浸潤し,幽門側胃切除術ならびに肝部分切除術を施行した.摘出した腫瘍は径34×20 mmで,組織像は初回手術と同様に骨肉腫を主体とした組織像であったが,一部にはMFH様の成分を認めた.腫瘍は胃の漿膜下組織,固有筋層や肝実質へ浸潤していた.また,脂肪肉腫の成分は認められなかったため,MFHを伴う骨外性骨肉腫の再発と診断した.再手術から1年7か月(初回手術から2年7か月)の腹部CTで膵頭部上縁に3 cm大の腫瘍が出現し(Fig. 4),後腹膜腫瘍の再々発の診断で腫瘍摘出術を施行した.摘出した病変は径35×30×25 mmの充実性腫瘍で,形質細胞浸潤を伴う核異型の強い炎症細胞が主体の組織像であった.免疫組織化学染色検査では,EMAとvimentinは陽性であったが,CD3,CD30,CD68,CD79a,actin,S-100,CD34,desmin,cytokeratin 7,cytokeratin 20は陰性であった.また,Ki-67は腫瘍の80%以上で陽性であった.骨肉腫,脂肪肉腫に特徴的な所見に乏しく,低分化肉腫と診断した.再々手術から1年4か月(初回手術から3年11か月)の腹部CTで肝S4下縁に造影効果を伴う2 cm大の腫瘍を認めた(Fig. 5).再々々発の診断で,肝左葉切除術を施行した.径20 mmの境界明瞭な腫瘍で,組織学的には3回目と同様に低分化肉腫であった.また,紡錘形から多形成細胞が,結節状から索状配列を示す増殖像があり,炎症細胞の浸潤を伴うMFHの組織像も認めた.
CT shows an irregular mass located between the lateral segment of the liver and antrum (arrowhead).
CT shows a mass located between the common hepatic artery and the superior border of the pancreas head (arrowhead).
CT shows an enhanced mass located in the medial lobe of the liver (arrowheads).
患者は初回手術から7年,最終手術から3年1か月の現在,再発なく経過している.
後腹膜悪性腫瘍は,時に多彩な組織像を呈することがある.本症例は,初回手術時の病理所見は骨外性骨肉腫が主体で,炎症性MFH様所見や脂肪肉腫の成分も含まれる,いわゆる悪性間葉腫(malignant mesenchymoma)であった.しかし,悪性間葉腫の診断名は臨床病理学的に実体がないことから,主体となる病理組織像を診断名とする方針を2002年にWHO International Agency for Research on Cancer(IARC)が示し2),現在では悪性間葉腫の診断名は使用されていない.本邦でも医中誌Web ver. 5で1983年~2012年11月までに「後腹膜」,「悪性間葉腫」を検索すると,「悪性間葉腫」の診断名は2007年までは使用されていたが,それ以降の使用はなかった.本症例も初回手術時には骨肉腫成分が主体であることから,MFHと脂肪肉腫を伴う骨外性骨肉腫と診断した.
骨外性骨肉腫は1941年Wilson3)により最初に報告されたまれな悪性間葉系腫瘍であり,Allanら4)は軟部組織肉腫のうち1.2%と報告している.好発年齢は50歳から60歳の中高年で,男女比は1.9:1で男性に多く5),好部位は大腿臀部を主体とする下肢が47%,上肢が21%で,後腹膜は17%と報告されている6).誘発因子として13~30%で外傷の既往,4~13%で放射線照射歴が挙げられている6).骨外性骨肉腫の病理組織学的特徴として,腫瘍中心部で骨化巣が成熟して周辺ほど未熟な骨化形態を呈する,いわゆる逆帯状効果(reverse zoning effect)がみられる7).一方,MFHの病理組織学的特徴として,紡錘細胞と組織球様細胞を含む多形成を示し,花むしろ状配列(striform pattern)を呈することが多い8).
一般に骨軟部腫瘍では組織学的悪性度によらず局所再発した腫瘍の予後は不良であることが知られている9).悪性間葉腫の予後について,Stout10)は腫瘍の構成成分の中でも悪性度の高い成分に依存すると報告している.骨外性骨肉腫の予後は不良で5年生存率は10~37%と報告されている5)11).さらに,腫瘍径が5 cm以上になるとより予後不良であるとされる12).杉野ら13)は本邦の後腹膜原発骨外性骨肉腫の平均生存期間は22.8か月で,全例が局所再発あるいは遠隔転移で死亡していると報告している.Leeら5)によると再発は全て3年以内に発症し,遠隔転移は65%に認め,そのなかでも肺が81%と最多であった.本症例では肺への遠隔転移は認められなかったが,局所再発を繰り返した.後腹膜の骨外性骨肉腫の再発についての報告は散見されるが,再発病理像に関しての報告は少ない.後腹膜原発の脂肪肉腫においては,再発の過程で脱分化を来し,予後不良であるとされる14).本症例では,初回手術時は骨外性骨肉腫が主体であったが,MFH,脂肪肉腫成分も認められていたことから,この腫瘍が脱分化型脂肪肉腫の可能性も考えられた.高率に再発すると推測され,厳重な経過観察を行い,切除不能となる前に再切除を行うことが可能であった.
後腹膜悪性腫瘍に対する治療法は外科的切除で根治的に局所制御が行えることが最良である.本症例は初回手術後に化学療法を施行されたが,骨外性骨肉腫に対する化学療法は通常,骨肉腫に有効であるとされるシスプラチン,イホスファミド,ドキソルビシンが選択され,奏効率45%と報告されてはいる15).本症例でも,イホスファミド,ドキソルビシン,カフェインによる化学療法を行ったが,術後1年で再発した.2回目の手術の摘出標本で骨肉腫成分,さらにその後の摘出標本でMFH様成分などの初回摘出標本内に存在していた組織像を認め,化学療法のみではコントロールできなかったと考えられた.骨外性骨肉腫に対する化学療法の効果については,さらなる検討が必要である.一方,本症例では2回目と3回目の再発部位は初回手術時の原発巣から近く,局所再発であった.局所再発の予防としては,十分なsurgical marginを確保した切除が重要であり,浸潤部位の十分な合併切除が望ましいと考えられる.しかし,後腹膜は近接する臓器が多く,surgical marginの確保が困難な場合が多い.本症例でも十分なsurgical marginの確保のために浸潤部位の合併切除を施行したにもかかわらず,局所再発を来した.4回目の手術で完全切除となり無再発生存を得られているが,3回目までの手術では十分なsurgical marginが得られていなかったと考えられた.
本症例では,厳重な経過観察による再発腫瘍の早期発見,そして積極的な摘出手術を繰り返し,初回手術から7年,最終手術から3年1か月の現在,再発なく生存している.後腹膜悪性腫瘍は早期発見が困難であり,また再発を繰り返すことから予後不良である.しかし,繰り返す外科切除で長期生存が得られ,今後もさらなる症例の集積が必要であると考えられた.
利益相反:なし