The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Intrahepatic Cholangiocarcinoma in a Bile Duct Adenoma
Hidetaka SugiharaAkira ChikamotoShin-ichi AkaboshiHiroyuki KomoriMasayuki WatanabeTakatoshi IshikoHiroshi TakamoriToru BeppuKen-ichi IyamaHideo Baba
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2013 Volume 46 Issue 5 Pages 356-361

Details
Abstract

症例は51歳の女性で,健診で肝腫瘍を指摘され当院紹介となった.腹部造影CTで肝S4/8に動脈相で辺縁に造影効果のある低吸収域を認め,混合型肝癌もしくは肝内胆管癌と診断し,肝内側区域+肝S8亜区域切除術を施行した.切除標本では,腫瘍の辺縁部には核異型に乏しい胆管腺腫が存在し,中心部には核異型が強い肝内胆管癌が存在していた.腺腫と癌の移行部を認め,胆管腺腫内から発生した肝内胆管癌と診断した.また,p53染色では胆管腺腫に相当する核の染色は乏しく,肝内胆管癌に相当する核は強く染色された.肝内胆管癌の発生形式において,病理組織学的および遺伝子異常の双方の点から大腸癌領域などでいわれているadenoma-carcinoma sequenceを経由して胆管腺腫が癌化した可能性が考えられる.

はじめに

胆管腺腫は胆管細胞上皮由来であるまれな良性腫瘍であり1),また癌化に関する報告も少なく,その臨床病理組織学的特性については不明な点が多い2)~6).今回,胆管腺腫内に発生した肝内胆管癌の1例を経験したので報告する.

症例

患者:51歳,女性

主訴:なし

既往歴:帝王切開.

家族歴:母 肺癌.

現病歴:健診にて肝腫瘍を指摘され,前医で精査を行い,混合型肝癌もしくは肝内胆管癌の診断で手術目的にて紹介入院となった.

血液検査所見:AST 163 IU/l,ALT 269 IU/lと軽度肝機能異常を認めた.その他の血液一般,生化学検査では異常を認めなかった.腫瘍マーカーはCEA,CA19-9ともに正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:肝S4/8に辺縁不整な2 cm大の低吸収域を認め,動脈相で辺縁に造影増強効果を認め,平衡相で淡く造影された(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal CT demonstrates a low-density area located in segments 4 and 8 of the liver. The marginal region of the tumor is enhanced strongly in the early phase and slightly in the late phase, but the central region is not enhanced in either phase (arrows).

CT during hepatic arteriography(以下,CTHAと略記)/CT during arterial portography(以下,CTAPと略記)所見:腹部CTと同様に肝S4/8に腫瘍を認め,CTHAでは辺縁に不整な濃染像を認め,CTAPでは欠損像を呈した(Fig. 2).

Fig. 2 

CT during hepatic arteriography (CTHA) shows the tumor enhanced strongly in the marginal region. CT during arterial portography (CTAP) shows the defected tumor (arrows).

以上の結果より,混合型肝癌もしくは肝内胆管癌の診断で,肝内側区域+肝S8亜区域切除術を施行した.

手術所見:逆L字切開にて開腹.肝臓は腫大し脂肪肝の所見であった.術中超音波検査にて術前の診断のように肝S4/8に腫瘤を認め,またその他の区域には腫瘍のないことを確認し,肝内側区域+肝S8亜区域切除を施行した.

切除標本所見:切除された肝臓は280 gで13×10×5 cm.腫瘍は3.1×2.9×2.4 cmで腫瘤形成型,被膜を有さず,浸潤傾向は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Cut surface of the liver showing the tumor measuring 3.1×2.9×2.4 cm, poorly-circumscribed and non-encapsulated.

病理組織学的検査所見:腫瘍の中心部は核異型の強い腺管の増殖を認め,腺管構造が不整であり,肝内胆管癌と診断した.腫瘍の辺縁部は核異型に乏しく,腺管構造が保たれており,胆管腺腫に相当した.また,胆管腺腫と肝内胆管癌の移行部も認められた(Fig. 4).免疫染色検査においてp53染色では胆管腺腫に相当する核の染色は乏しく,肝内胆管癌に相当する核は強く染色され,腺腫と癌の移行部付近では,腺腫に相当する核に比べ癌に相当する核は染色性が強い傾向にあった.また,腺腫に比べ癌の方が広い範囲で染色されていた.

Fig. 4 

A low-power view of the whole tumor lesion is shown (A). It is composed of ICC (B), BDA (C), and transition between BDA and ICC (D, arrows) (H&E; ×100).

考察

肝内胆管腺腫は胆管細胞由来のまれな良性上皮性腫瘍であり,臨床症状を示すことはほとんどなく剖検時や手術時に偶然発見されることが多い.その発生頻度はEdmondsonによると肝原発性腫瘍の1.3%といわれ,佐々木によると4,000剖検例中に2例,またCraigらによると50,000剖検例中に5例であったとされている1).通常単発で,被膜下に存在し,白色調を呈し,境界明瞭で被膜を有さない結節である.病理組織学的には,小型胆管の集簇的増生と線維性間質から成っていて,核異型性に乏しく核分裂もない.また,リンパ球や好中球の浸潤をみることが多い7).本症例においては,腫瘍の辺縁部では核異型に乏しく,核分裂像のない小型腺管の増殖がみられ,病理組織学的特徴を兼ね備えており,肝内胆管腺腫の典型例と考えられた.一方,腫瘍の中心部では,核異型の強い腺管の増殖を認め,腺管構造が不整であり,肝内胆管癌の典型例と考えられた.

肝内胆管腺腫が癌化することはまれであり,1983年から2012年3月までの医学中央雑誌と1950年から2012年3月までのPubMedにて,「胆管腺腫」,「肝内胆管癌」もしくは「bile duct adenoma」,「intrahepatic cholangiocarcinoma」で検索した結果,報告例は5例のみであった(Table 12)~6).Hasebeら3)は肝内胆管腺腫と肝内胆管癌が一つの腫瘍内に存在し,病理組織学的に腺腫から癌への移行像を特徴としていることで胆管腺腫内から肝内胆管癌が発生したと推論したが,本症例でも同様のことがいえ,胆管腺腫内から肝内胆管癌が発生した可能性があると考えた.

Table 1  Characteristics of 5 cases of intrahepatic cholangiocarcinoma in a bile duct adenoma
No. Author Year Age Sex Llocation Resection Follow up Survival time
1 Bornfors2) 1984 80 M left liver lobe autopsy
2 Hasebe3) 1995 59 M S6 segmentectomy survival 19 months
3 Kuroda4) 1997 54 F S4, S5 segmentectomy unknown
4 Takahashi5) 2010 76 M S5 right hepatectomy unknown
5 Pinho6) 2012 56 F S4, S2 segmentectomy unknown

大腸領域においてはAPC遺伝子,K-RAS遺伝子,p53遺伝子,DCC遺伝子などの遺伝子異常が蓄積した結果,正常大腸粘膜が低異型性腺腫から高異型性腺腫,粘膜内癌,浸潤癌へと癌化するという,adenoma-carcinoma sequence(以下,ACSと略記)による発癌の機序が考えられている8)9).また,膵臓領域でも同様に,K-RAS遺伝子,p16遺伝子,p53遺伝子,BRCA2遺伝子などの遺伝子異常が蓄積した結果,正常膵管内上皮が膵上皮内腫瘍性病変(以下,PanINと略記)となり異型性を増していき(PanIN-1,-2,-3),そして浸潤癌へと癌化するという,ACSによる発癌の機序が考えられている10)

胆道の癌化に関しては,膵胆管合流異常症や原発性硬化性胆管炎などが挙げられる.前者は膵液の逆流による炎症や胆管上皮の障害によるものとされ11),後者は線維化を伴った持続する炎症によるものとされ12),いずれも持続する炎症が癌化に関与するとされている.一方,胆管腺腫から肝内胆管癌への発癌形式として,Hasebeら3)は病理組織学的に腺腫から癌への移行像を認めたことから胆管腺腫から肝内胆管癌が発生するというACSによる発癌の機序についての仮説を提唱している.

胆道癌における遺伝子異常についてK-ras遺伝子,p53遺伝子,MDM2遺伝子などが関与しているとの報告がされているが,胆道癌に関しては初期病変を得ることは非常に困難であることから,多段階的な癌の発生の解明は他領域と比べると困難であるとされている13).本症例において,他領域で癌化に関わるとされているp53遺伝子異常についての検討を行ったところ,p53染色において胆管腺腫に相当する核の染色は乏しく肝内胆管癌に相当する核は強く染色されており,また腺腫部よりも癌部の方がp53染色の範囲が広がっていた.このことは腺腫の時期よりp53遺伝子変異が生じはじめ,腺腫の発育とともにその関与が大きくなることを示唆している.河村ら14)は同一標本内でp53遺伝子が発現している範囲面積をみた場合,大腸腺腫から大腸癌へと進むにつれてp53染色の範囲が広がる傾向がみられ,それが腺腫からの多段階発癌を表現していると考えており,このことから本症例においてもp53遺伝子異常の結果として胆管腺腫から肝内胆管癌へと癌化している可能性が考えられた.

以上より,病理組織学的検査所見・遺伝子学的検査所見の双方での観点から,胆管腺腫から肝内胆管癌を発症するメカニズムとしてACSによる発癌の機序が考えられると結論づけた.しかし,本症例でもK-ras遺伝子,MDM2遺伝子などp53遺伝子以外での遺伝子学的検査は行っておらず,多段階発癌における遺伝子異常の解析としては必ずしも十分とはいえない.胆管癌における発癌の機序として,染色態度や遺伝子異常などいまだ確定的なものはなく,その機序については今後の症例蓄積による詳細な病理組織学的・遺伝子学的検討が必要であると考えた.

利益相反:なし

文献
 

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