2013 Volume 46 Issue 8 Pages 586-593
症例は59歳の男性で,2008年12月,右腎細胞癌にて右腎摘出術を施行された.2010年12月,CTで右肺結節と胆囊腫瘤を認めた.腎細胞癌肺転移の診断でインターフェロンα治療を施行したが,胆囊腫瘤は徐々に増大傾向であった.2011年11月,急性胆囊炎を発症した.造影CTで胆囊頸部に動脈相で強く造影され,平衡相でwashoutされる35 mm大腫瘤が認められ,腎細胞癌胆囊転移を疑った.肺転移巣が安定しており,胆囊炎のため手術適応とし,原発性胆囊癌を否定できなかったため拡大胆囊摘出術を施行した.胆囊頸部に60 mm大の脆弱で軟らかい腫瘤が認められ,病理組織学的検査所見は腎細胞癌胆囊転移であった.また,腫瘍表面に血腫が付着し,胆囊内に血性胆汁が充満しており,腫瘍からの出血が疑われた.腎細胞癌は多彩な臓器に転移することが知られており,胆囊転移の報告もあるが,文献的報告例は48例のみである.
転移性胆囊癌は非常にまれな疾患である1).腎細胞癌は多彩な臓器に転移することが知られており2),胆囊転移の報告もあるが,剖検例で0.58~1.4%との報告がある程度である3)~5).今回,我々は出血を伴い,急性胆囊炎を発症した腎細胞癌胆囊転移の1例を経験した.
患者:59歳,男性
主訴:右季肋部痛
既往歴:30歳,高血圧.
家族歴:特記すべき事項なし.
現病歴:2008年12月,右腎細胞癌(clear cell carcinoma,T1bN0M0-I期)に対して右腎摘出術を施行された.2010年12月,CTで右肺上葉結節と胆囊腫瘤を認めた.肺結節は腎細胞癌肺転移と診断され,インターフェロンα治療を施行し,安定していた.胆囊腫瘤に関しては胆囊転移の可能性も考慮してインターフェロンα治療で経過観察していたが,徐々に増大傾向であった.2011年11月,右季肋部痛を主訴に急性胆囊炎を発症した.保存的治療で軽快後,胆囊炎再発予防および胆囊腫瘍の治療目的で当科紹介となった.
入院時身体所見:163 cm,58 kg.Performance status(以下,PSと略記):0.右側腹部に腎摘手術創痕あり.
入院時検査所見:貧血,炎症データの上昇,肝胆道系酵素の上昇は認められなかった.腫瘍マーカーであるCEA,CA19-9はいずれも正常範囲内であった.
腹部エコー:胆囊の腫大と,頸部から体部にかけて37 mm大の内部エコー不均一な腫瘤が認められた.胆囊結石は認められなかったが,胆囊内の液体が高エコーであり血液の混入が疑われた.
腹部造影CT所見:胆囊は腫大し,胆囊頸部に動脈相で強く造影され,平衡相でwashoutされる35 mm大腫瘤が認められた.また,胆囊床浸潤が疑われた(Fig. 1).

A) Non-enhanced CT, B) Enhanced early-phase CT. Abdominal enhanced early-phase CT shows an enlarged GB and a well-enhanced 35 mm tumor (arrows) in the GB.
単純MRI所見:胆囊の著明な腫大が認められた.胆囊頸部にT2強調像で不均一な低信号を呈する38 mm大の腫瘤が認められた.
以上の所見より,腎細胞癌の胆囊転移を最も強く疑った.肺転移巣が安定しており,胆囊炎治療の目的で手術適応とした.鑑別診断として原発性胆囊癌の可能性を否定できなかったために,胆囊床切除・リンパ節郭清を伴う拡大胆囊摘出術の方針とした.
手術所見:逆L字切開にて開腹した.腹水,腹膜播種は認められなかった.胆囊は腫大し,胆囊頸部に弾性軟な腫瘤が触知された.胆囊床切除と胆囊癌に準じたD2リンパ節郭清を施行した.
切除標本肉眼所見:胆囊頸部から体部にかけて60 mm×30 mm×20 mm大の脆弱で軟らかい腫瘤が認められ,腫瘍の肝臓浸潤が認められた.胆囊内に結石は認められず,血性胆汁が充満し,腫瘍表面には40 mm×20 mm大の血腫が付着しており,腫瘍からの出血が疑われた(Fig. 2).

Macroscopic appearance of resected GB reveals a 60 mm×30 mm×20 mm nodular type soft tumor (arrows) with blood clotting (arrowheads) in the neck to the body of the GB. The GB is filled with hemobilia.
病理組織学的検査所見:腫瘍は胆囊壁を主座とし,胆囊床浸潤が認められた.胞巣状,ないし一部充実性の構造を呈して増殖する腫瘍細胞が認められ,細胞質は淡明でPAS染色陽性の細顆粒を有するclear cell carcinomaであり,腎細胞癌原発巣と同様の所見であった(Fig. 3).免疫染色検査ではCK7陰性,CK20陰性であった.また,非腫瘍部では胆囊上皮はほぼ脱落し,高度の壁肥厚が認められた.リンパ節転移は認められなかった.以上より,腎細胞癌の胆囊転移と最終診断した.

A) The GB tumor invades the gallbladder bed of the liver (arrows) (HE stain, loupe). B) Histological findings of the GB tumor indicate clear cell carcinoma having clear cytoplasma which were similar to the original tumor of the kidney (HE stain, ×20).
術後経過:インターフェロンα治療を再開し,肺転移病変は1年stable disease(以下,SDと略記)を保っている.
転移性胆囊癌は非常にまれな疾患である.Chan1)の報告では胆囊摘出術7,910例中,転移性胆囊癌は36例(0.46%)のみであった.本邦に関しては,医学中央雑誌で「胆囊転移」をキーワードに1983年~2011年にかけて検索すると,文献上の報告は50例のみであった.その原発腫瘍は腎細胞癌20例,胃癌9例,悪性黒色腫6例,肝癌5例,乳癌3例,大腸癌2例,肺癌2例,膵癌1例,悪性胸膜中皮腫1例,胸腺カルチノイド1例と腎細胞癌が最多であった.
腎細胞癌は多彩な臓器に転移することが知られており,診断時に25~30%の症例で遠隔転移を有し,肺(50~60%),骨(30~40%),肝臓(30~40%),脳(5%)の順に多く,甲状腺,膵臓,骨格筋,皮膚・軟部組織などにも認められる2).異時性転移に関してはKavoliusら6)が278例について報告しており,肺(57%),骨(19%),リンパ節(11%),脳(8%)の順に多く,123例(44%)が複数臓器転移であった.胆囊転移は非常にまれであり,剖検例で0.58~1.4%との報告がある3)~5).
医学中央雑誌で「腎細胞癌」,「胆囊転移」をキーワードに1983年~2011年,またPubMedで「renal cell carcinoma」,「gallbladder metastasis」をキーワードに1950年~2011年にかけて検索したところ,腎細胞癌胆囊転移の文献的報告例は自験例も含めて49例であった(Table 1)7)~49).不明例1例を除き,13例(26.5%)が同時性転移,35例(71.4%)が異時性転移であり,うち22例(44.9%)が5年以上と長期間経過してからの転移であった.
| No. | Author | Age/Gender | Presentation of gallbladder metastasis | Cholecystitis | Other site of metastasis | Operative procedure | Outcome |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Botting (1963) 7) | 66/M | 2y | (–) | (–) | SC | ND |
| 2 | Terashima (1990) 8) | 61/M | Syn | (–) | Bone | EC | 2m death |
| 3 | Satoh (1991) 9) | 71/M | Syn | (–) | Pancreas (resected at once) | EC | 1y7m alive |
| 4 | Golbey (1991) 10) | 84/F | 13y | (+) | (–) | SC | ND |
| 5 | Fullarton (1991) 11) | 43/F | 27y | (–) | Pancreas, Kidney (Tyroid-post resec.) |
SC | ND |
| 6 | Nagler (1994) 12) | 77/M | 5y | (–) | (–) | EC | ND |
| 7 | Coşkun (1995) 13) | 52/M | Syn | (–) | Bone | SC | ND |
| 8 | Pagano (1995) 14) | 62/M | Syn | (–) | Lung (resected at once) | SC | 3y alive |
| 9 | King (1995) 15) | 64/M | Syn | (–) | (–) | SC | 2y2m alive |
| 10 | Fujii (1995) 16) | 69/M | Syn | (–) | Adrenal gland | EC | 4m alive |
| 11 | Finkelstein (1996) 17) | 75/M | 5y | (+) | (–) | SC | ND |
| 12 | Lombardo (1996) 18) | 77/M | 5y | (–) | (–) | EC | ND |
| 13 | Kakimoto (1996) 19) | 53/M | 4y | (–) | Lung | LC | 6m alive |
| 14 | Furukawa (1997) 20) | 41/M | 3m | (–) | Lung, Chest wall (resected at once) |
SC | ND |
| 15 | Spawasser (1997) 21) | 46/M | 3y | (–) | (–) (Lung-pst resec.) | SC | 4y dead |
| 16 | Uchiyama (1997) 22) | 64/M | 3y | (–) | Kidney | SC | 8m alive |
| 17 | Celebi (1998) 23) | 73/M | Syn | (–) | Lung | SC | 1m death |
| 18 | Kechrid (2000) 24) | 55/F | 8y | (–) | Kidney, Adrenal gland (reseted at once) | SC | 2y6m death |
| 19 | Ueki (2001) 25) | 69/F | 1y | (–) | (–) | SC | 7y alive |
| 20 | Aoki (2002) 26) | 63/M | 27y | (–) | (–) | SC | 6y alive |
| 21 | Aoki (2002) 26) | 80/M | 8y | (–) | (–) (Lung-post resec.) | SC | 2y alive |
| 22 | Gakiya (2002) 27) | 68/M | Syn | (–) | (–) | SC | 1y alive |
| 23 | Limani (2003) 28) | 64/M | 1y | (–) | (–) | LC | ND |
| 24 | Park (2003) 29) | 48/M | 2y | (–) | (–) (Bone-post resec.) | SC | ND |
| 25 | Miyagi (2003) 30) | 53/M | 10y | (–) | (–) | LC | 11m alive |
| 26 | Tokuyama (2004) 31) | 67/M | Syn | (–) | Lung, Bone (parotid gland-post resec.) |
SC | 2y6m death |
| 27 | Shirakura (2004) 32) | 64/M | Syn | (–) | (–) | LC | ND |
| 28 | Pandey (2006) 33) | 46/M | 11m | (–) | (–) | SC | 1y4m alive |
| 29 | Takebayashi (2006) 34) | 76/M | 7y | (–) | (–) | SC | 1m death |
| 30 | Takebayashi (2006) 34) | 60/F | 8y | (–) | Liver (Lung/Brain-post resec.) |
EC | 3m death |
| 31 | Ishizawa (2006) 35) | 73/M | 5y | (–) | (–) | SC | 2y alive |
| 32 | Hellenthal (2007) 36) | 39/M | Syn | (–) | (–) | SC | 2y6m alive |
| 33 | Ricci (2008) 37) | 72/F | 16y | (–) | Pancreas | LC | ND |
| 34 | Nojima (2008) 38) | 61/M | Syn | (–) | (–) | SC | 10m alive |
| 35 | Sand (2009) 39) | 48/F | 5y | (+) | Pancreas, Kidney | SC | 2m alive |
| 36 | Patel (2009) 40) | 64/F | 6y | (–) | (–) | LC | ND |
| 37 | Kawahara (2010) 41) | 73/F | ND | (–) | Lung | SC | ND |
| 38 | Kyogoku (2010) 42) | 63/M | Syn | (–) | (–) | EC | 2y10m alive |
| 39 | Shoji (2010) 43) | 50/M | 3y | (–) | Adrenal gland | SC | 8m alive |
| 40 | Fang (2010) 44) | 45/M | 1y | (–) | Lung | SC | 2y4m death |
| 41 | Fang (2010) 44) | 65/F | 1y | (–) | Psoas muscle | SC | 7m death |
| 42 | Fang (2010) 44) | 54/M | 7y | (–) | (–) | SC | 2y3m alive |
| 43 | Fang (2010) 44) | 51/M | 6y | (–) | Kidney | SC | 3y1m alive |
| 44 | Ichikawa (2011) 45) | 74/F | 6y | (–) | (–) (Lung-post resec., Bone-post RT) |
SC | 5m alive |
| 45 | Kora (2011) 46) | 74/M | 7y | (–) | Lung | LC | 9m alive |
| 46 | Fujisaki (2011) 47) | 67/F | 13y | (+) | Bladder, Pancreas, Bone, Kidney |
SC | 5m death |
| 47 | Hayano (2011) 48) | 64/M | 7y | (–) | Lung, Adrenal gland | SC | 2y alive |
| 48 | Decoene (2011) 49) | 47/F | 16y | (–) | (–) (Bone/Ovary-post resec.) | LC | ND |
| 49 | Our case | 59/M | 2y | (+) | Lung | EC | 7m alive |
Syn: synchronous, ND: not described, post resec.: post resection, post RT: post radiation therapy, LC: laparoscopic cholecystectomy, SC: simple cholecystectomy, EC: extended cholecystectomy
49例のうち急性胆囊炎を発症した報告は自験例を含め5例10)17)39)47)であり,胆囊出血を伴った胆囊炎の報告は2例目10)であった.原発性胆囊癌では10~30%が急性胆囊炎で発症し,胆石,腫瘍浸潤,転移リンパ節,壊死物質,出血などによる胆囊管閉塞が原因とされる50)51).自験例では急性胆囊炎発症時に胆囊出血の診断には至らなかったが,摘出した胆囊内に血性胆汁の充満と腫瘍に付着する大きな血腫が認められた.腫瘍浸潤による胆囊管閉塞や胆囊結石は認められず,腫瘍出血もしくは血腫による胆囊管閉塞が無石性胆囊炎の原因として疑われた.腎淡明細胞癌は血流豊富な腫瘍であり,自験例では腫瘍の増大に伴って出血リスクが高まったと考えられた.
腎細胞癌胆囊転移の診断に関しては原発性胆囊癌との鑑別が問題となる.画像上は造影CTで早期から強く濃染される特徴を有するが,胆囊腫瘍の組織採取は困難であり確定診断は難しい.腎細胞癌の治療中もしくは既往のある場合は,胆囊転移の可能性を疑うことが重要と考えられる.自験例では治療経過,CT所見より転移性胆囊癌を疑った.
転移巣に対する外科的治療の適応に関して,腎癌診療ガイドライン2011年版ではPSが良好で転移巣が切除可能な場合は推奨している.また,Kavoliusら6)は異時性転移病変の切除後の予後因子として単発臓器転移と無再発生存期間を挙げている.Table 1において,転移巣が胆囊単独の20例は転移巣切除後,不明例8例と術後呼吸不全による死亡1例を除き11例全例が生存していた(観察期間中央値31.5か月,範囲1~84か月).Chungら52)は腎細胞癌胆囊転移33切除例のコホート調査を行い,胆囊単独転移13例のうち追跡可能であった8例全例が無再発生存(観察期間中央値1.1年,範囲0.1~6年)と報告しており,胆囊単独転移の場合は外科的治療の良い適応と考えられた.
一方,Table 1において,胆囊を含む複数臓器転移を伴う29例は胆囊転移巣切除後,不明7例を除く22例中13例(59%)が生存していた(観察期間中央値15.6か月,範囲1~37か月).Chungら52)の報告では,胆囊を含む複数臓器転移がある20例のうち,胆囊転移巣切除後追跡可能であった14例中8例(57%)が生存しており(観察期間中央値2年,範囲0.2~11年),胆囊転移巣切除の妥当性を報告している.自験例では肺転移を合併していたがインターフェロン治療によりコントロールされていたこと,一方で胆囊腫瘤は増大傾向であり,胆囊炎を合併したことを理由に手術適応とした.転移性腎細胞癌に対するインターフェロン治療の奏効率に関しては,他臓器転移と比較して肺転移で高いことが報告されている53).
術式に関しては,Table 1に示す49例では,腹腔鏡下胆囊摘出術8例,単純胆囊摘出術33例,拡大胆囊摘出術8例とさまざまであった.自験例では肺転移を合併していたが,インターフェロン治療でSDを維持していた.Négrierら54)はインターフェロンを含むサイトカイン治療による転移性腎細胞癌の予後規定因子をPS1以上,無病期間2年以内,複数臓器転移,炎症所見,貧血と報告しており,自験例のようにPS0,無病期間2年以上であり,炎症所見や貧血を認めず,予後規定因子が0~1個の場合,治療開始後の生存期間中央値は42か月と良好である.一方,原発性胆囊癌においては,根治度が重要な予後規定因子であるとする報告があり55),非治癒切除例では3年生存例を認めず,予後不良である.自験例においては原発性胆囊癌を否定できず,胆囊床浸潤が疑われ,T3以深ではリンパ節転移陽性例が79%と高い報告があること56),リンパ節郭清の安全性が担保されていることを理由に,局所における癌の遺残を避けるべく,胆囊癌を考慮した胆囊床切除,D2リンパ節郭清を施行した.
転移性腎細胞癌と胆囊腫瘍を合併する場合,胆囊摘出術の術式選択は難しいが,サイトカイン治療により転移性腎細胞癌の予後が期待できる場合には,原発性胆囊癌を考慮した術式が選択肢となりうる.
稿を終えるにあたり,病理所見についてご指導いただいた獨協医科大学越谷病院病理部山岸秀嗣先生に深謝致します.
利益相反:なし