The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Successful Surgical Resection of a Lung Metastasis Originating from Pancreatic Cancer
Hideo TomiharaHidenori TakahashiHiroaki OhigashiKunihito GotohShigeru MarubashiMasahiko YanoYasuhiko TomitaOsamu Ishikawa
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2014 Volume 47 Issue 2 Pages 132-138

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Abstract

症例は69歳の男性で,膵頭癌[15 mm,TS1,cT3,(CH(–)DU(–)S(–)RP(+)PV(–)A(–)PL(–)OO(–))N0M0,cStage III]に対し,gemcitabine併用術前化学放射線療法後に膵頭十二指腸切除を施行した.術後病理組織学的診断は中分化型腺癌pT1N0M0,pStage Iであった.周術期に術後肝潅流化学療法(肝動脈・門脈より5-FU 250 mg/日×28日)を施行した.術後87日目より補助療法のgemcitabine(1,000 mg/m2,計44回)を施行した.術後約31か月目にPETを施行したところ,右肺S3に15 mm大の腫瘤性病変を認め,肺転移もしくは原発性肺癌が疑われ,肺病変の切除(右肺上葉切除)を施行した.原発巣と肺病変の病理組織像が類似していること,肺病変の中心に壊死像を認めること,免疫組織学的所見などから,膵癌の肺転移として矛盾しないと診断した.

はじめに

近年の集学的治療の進歩により浸潤性膵管癌の切除成績は向上してきたが,いまだに多くの症例が術後再発する1).原発巣切除後の再発巣や遠隔転移巣に対する外科的切除は,大腸癌や肝癌・胃癌などでは,その有用性が報告されているが2)~4),膵癌切除後の再発・転移巣に対する外科切除の意義は十分に明らかとはなっていない5).膵癌根治術後の肺転移に関しては,切除例の報告は散見されるが,術後長期経過の報告は少ない6)~12).今回,膵頭部癌に対し術前化学放射線療法後に膵切除を施行し,その後に認められた孤立性肺転移に対して切除術を施行,肺切除術後5年にわたって無再発生存中の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:69歳,男性

主訴:特記事項なし.

既往歴:54歳 胆囊結石症に対し胆囊摘出術.63歳 高血圧症.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:66歳時に膵頭部癌[15 mm,TS1,cT3,(CH(–)DU(–)S(–)RP(+)PV(–)A(–)PL(–)OO(–))N0M0,cStage III,膵癌取扱い規約第7版](Fig. 1A)に対しgemcitabine併用術前化学放射線療法[放射線照射:3次元原体照射(2 Gy×25回,Total 50 Gy),化学療法:gemcitabine(1,000 mg/m2)×3/4週,3 cycle]による術前化学放射線療法13)を施行後に膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断は中〜低分化腺癌.TS1,pT1,CH(–)DU(–)S(–)RP(–)PV(–)A(–)PL(–)OO(–)N0M0,pStage I,組織学的効果判定Evans classification IIbであった(Fig. 1B).周術期に肝潅流化学療法を施行した(肝動脈・門脈より5-FU 250 mg/日×28日)14).以降,術後補助療法としてgemcitabine(1,000 mg/m2,計44回)による全身化学療法を施行した.膵切除術後31か月目の経過観察目的の腹部造影CTで局所(膵断端近傍)に脂肪織濃度の若干の上昇を認め,また初回手術以降血液検査で腫瘍マーカーCEA値が5~6 ng/mlで経過していたがCEA 7.5 ng/mlと軽度上昇を認めた.局所再発の可能性を疑い精査目的に(18)f-fluorodeoxyglucose(FDG)PET-CTを施行したところ,局所にFDGの集積を認めず,局所再発は否定的であったが,右肺S3にFDG集積を伴う腫瘍性病変を認めた(Fig. 2A).

Fig. 1 

A: An abdominal computed tomography shows the pancreatic head cancer, measuring 15 mm in diameter (white arrow). B: Histopathological examination of the resected pancreatic cancer shows moderate~poorly differentiated adenocarcinoma (H.E. staining, original magnification, ×100).

Fig. 2 

A: Positron emission tomography examination showed 2-[18F]-fluoro-2-deoxy-D-glucose accumulation (standardized uptake value max: 3.163) in the segment 3 of the right lung (green arrow). B: A thoracic computed tomography showed a tumorous lesion with spiculation, 15 mm in diameter, on the border with the mediastinum (white arrow).

血液検査所見:血液生化学検査所見には異常を認めなかった.腫瘍マーカーに関しては,CEA 7.5 ng/ml,CA19-9 8 U/ml,CYFRA 2.2 ng/mlとCEAのみ軽度上昇を認めた.

PET-CT所見:縦隔に接して右肺S3にFDGの集積亢進を伴う15 mm大の腫瘍性病変を認めた(standardized uptake value(SUV)max 3.2).他部位には有意なFDGの集積はなかった(Fig. 2A).

胸部造影CT所見:縦隔に接して右肺S3に周囲にわずかにスリガラス影を伴う15 mm大の結節を認めた.他肺野には異常所見を認めず,縦隔,肺門にリンパ節の腫大はなかった(Fig. 2B).

腹部造影CT所見:肝臓,局所,腹膜など腹腔内に明らかに転移を示唆する所見を認めなかった.

以上の検査結果より,膵癌肺転移,もしくは原発性肺癌の可能性が疑われた.原発性肺癌としては切除可能病変であり,また膵癌肺転移としても,①原発巣切除後長期間無再発であり(31か月),②他部位に明らかな再発を認めないことから外科的切除の方針とした.

手術所見:右肺上葉切除を施行した.原発性肺癌の可能性を考慮し,縦隔リンパ節郭清も施行した.

病理組織学的検査所見:腫瘍は最大径18 mmの境界明瞭な黄色充実性病変として認めた.HE染色で原発巣と転移巣を比較すると,転移巣は腺管構造が明瞭ではなく,原発巣より低分化であった.また,転移巣では中心壊死を認め,内部に不規則な構造を示す異型上皮細胞を認めた.中心壊死は転移巣にしばしば認められる所見であるが,膵切除後に施行していた補助化学療法(gemcitabine)による修飾の可能性も否定できない所見であった.免疫染色検査では,CK7陽性,CK20陰性であり,肺由来を示唆するsurfactant-apo-protein,thyroid transcription factor-1(以下,TTF-1と略記)に関しても陰性であった.CEA・CA19-9は一部で陽性を示し,これらは原発巣(膵)の免疫染色検査所見と一致した.以上の結果から膵癌の肺転移として矛盾しないと診断した(Fig. 3A~F).

Fig. 3 

A, B: Histopathological examination of the resected lung tumor showed poorly differentiated adenocarcinoma with necrotic changes (H.E. staining, original magnification, (A) ×40 and (B) ×100). C, D, E, and F: Immunohistochemical stainings of the lung tumor (original magnification, ×100) indicated: positive staining for CK7 (C), negative for thyroid transcription factor-1 (D) and CK20 (E), and partly positive staining for CA19-9 (F).

肺切除後,全身化学療法(gemcitabine 1,000 mg/m2)を約2年間継続し,その後は経過観察とした.現在肺切除術施行後約5年,原発巣切除後約7年が経過するが,明らかな再発を認めず経過観察中である.

考察

集学的治療の進歩により膵癌切除成績は向上しつつあるが,長期成績はいまだ満足のゆくものではなく1),Katzら15)は集学的治療により中長期の生存が得られた症例では,術後数年経過してからの遠隔再発が目立つと報告した.通常,膵癌の転移再発に対して外科切除が適応となる場合はまれである.Shrikhandeら5)は,膵癌の肝転移,腹膜播種巣の切除後のmedian survival timeはそれぞれ11.4,12.9か月と報告し,これらは切除不能再発膵癌に対する化学療法の成績とほぼ同等であり16),膵癌転移巣切除の意義が十分あるとはいえない.膵癌の転移再発に対しては,転移再発巣が孤立性や微小転移の場合であっても,全身疾患としてとらえられ,通常外科切除は適応とならず,全身化学療法が治療の主体と考えられてきた.

その一方,膵癌の肺転移に関しては,多発の場合は外科切除の適応とされないが,単発巣に対して切除が奏効した報告が散見される.Ryanら17)は,18年間で700例の膵癌根治切除後に430例の再発を認め21例に対し再発巣切除を施行した.再発巣切除を施行した21例の生存期間を解析したところ,単発の肺転移巣切除例の生存期間中央値は92.3か月であり,肝再発切除例(生存期間中央値32.5か月)に比べて良好であった.また,初回手術後に20か月以上のdisease-free interval(以下,DFIと略記)を経た後に出現した転移巣に対して切除を行った場合と,DFIが20か月以下の再発症例に切除を行った場合を比較すると,前者の方が有意に予後良好であったとしている(生存期間中央値:92.3か月vs 31.3か月).以上から彼らは膵癌再発巣切除の良い適応となるのは,単発の肺転移例でDFIが20か月以上経過した症例と結論づけている.当センターでも,1)肺転移巣が術前画像評価において完全切除が見込めること,2)転移巣が肺内に限局しており肺外には存在しないこと,3)原発巣の局所コントロールが良好であること,4)原発巣切除後の無再発生存期間が一定期間以上(概ね2年)であること,を満たす症例に対し積極的に肺切除を施行している.

本邦において,膵癌根治術術後に孤立性の肺転移切除例の報告は,医学中央雑誌で1983年〜2012年の期間において「膵癌術後」,「肺転移」,「肺切除」をキーワードとして検索したところ,単発性肺転移に対する切除例は自験例を含め9例の報告が6)~12)あった(Table 1).原発巣の病期(pStage)はStage IからIVbとさまざまであり,膵癌根治術術後から肺転移出現までの期間は8か月から6年までで平均43.8か月であった.9例中8例が,初回手術後のDFIが20か月以上であった.肺切除術後5か月で再発を認めた保田ら9)の報告例を除く7例が無再発であったが,観察期間は肺切除術後6か月から5年(平均18.3か月)と比較的短期間である.肺切除の意義に関しては,より長期間の経過観察をもとに分析していく必要がある.

Table 1  Resection of solitary lung metastasis from pancreatic cancer: case reports in Japan
No. Author
(Year)
Age/Sex Location Operation Pathological stage of the primary tumor The lung metastasis RFI*5 from the 1st Operation (Months) DFI*6 from the
2nd Operation
(Months)
1 Sakurai
(2004) 7)
63/F head PD T2N0-Stage II 22 mm 48 4/NR
2 Shimada
(2005) 6)
76/F*1 head  PD*3 T3N3-Stage IVb 23 mm 61 24/NR*7
3 Enomoto
(2008) 8)
79/F head PD T1N0-Stage I 20 mm 8 6/NR
4 Yasuda
(2009) 9)
75/M*2 body  DP*4 T2N0-Stage II 25 mm 48 5/R*8
5 Yasuda
(2009) 9)
81/M head PD T4N1-Stage IVa 45 mm 51 6/NR
6 Emoto
(2010) 10)
79/F head PD T4N0-Stage IVa 34 mm 72 12/NR
7 Takano
(2010)11) *9
68/F body DP T3N0-Stage III 8 mm 37 36/NR
8 Yoshizu
(2011) 12)
78/F head PD T1N0-Stage I 20 mm 39 12/NR
9 Our case 66/M head PD T1N0-Stage I 18 mm 31 60/NR

*1 F: Female, *2 M: Male, *3 PD: Pancreatico-duodenectomy, *4 DP: resection of the tail of the pancreas, *5 RFI: recurrent-free-interval, *6 DFI: disease-free-interval, *7 NR: no recurrent, *8 R: recurrent, *9 One of four cases described in this report was the case of solitary lumg metastasis from pancreatic cancer

膵癌の肺転移が切除対象となるためには他の部位に転移再発を認めないことが大前提である.膵癌再発パターンとして,多く症例で膵切除後短期的に局所・肝に再発を来す18)ため,遠隔期の肺再発を切除するためには,これら局所・肝再発が十分に抑制されていることが必要である.当センターでは進行膵癌に対し,局所再発の抑制を目的に術前化学放射線療法を施行してきた.また,肝再発抑制を目的に根治切除後に肝潅流化学療法を施行し,良好な治療成績を報告してきた13).本症例は,上述の集学的治療により局所,肝臓,あるいは腹膜再発など肺以外の部位に明らかな転移再発を認めなかったこと,原発巣切除から長期間無再発生存していたこと(31か月),また切除可能な原発性肺癌の可能性が否めなかったことから,肺病巣に対し積極的に切除を施行した.結果的に術後病理組織学的検査所見から膵癌の肺転移と診断した.現在,肺切除後5年無再発,原発巣切除後7年生存の良好な成績を得ている.Katzら15)は膵癌切除後5年以降は肝臓・局所再発よりも肺再発の方が多いと報告している.肺転移に対する外科治療の機会を逃さないためには,特に長期経過例に対しての胸部CTなどによる肺転移のスクリーニングなどが重要である.

利益相反:なし

文献
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