The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Squamous Cell Carcinoma of the Ascending Colon
Yuji KimuraShinya OhtsukaKazuhide IwakawaManabu NishieRyousuke HamanoHideaki MiyasouYousuke TsunemitsuMasaru InagakiHiromi IwagakiHiroshi Sonobe
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2014 Volume 47 Issue 9 Pages 551-557

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Abstract

症例は58歳の女性で,右下腹部痛を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡検査で上行結腸に腫瘍を指摘され,当科に紹介となった.腹部造影CTで上行結腸に造影効果を伴う全周性の壁肥厚像を認め,上行結腸癌の診断で,結腸右半切除術およびリンパ節郭清(D3)を行った.切除標本では結腸に4 cm大の潰瘍限局型腫瘍を認め,病理組織学的検査により腺癌成分を伴わない中分化型扁平上皮癌と診断された.また,腸管傍リンパ節に転移を認めた.術後補助化学療法としてtegafur・uracil(UFT)/leucovorin(LV)療法を6か月施行した.術後16か月が経過し,無再発生存中である.大腸原発の悪性腫瘍で扁平上皮癌が発生することはまれで,その発生部位のほとんどは肛門管,下部直腸であり,結腸原発の頻度は極めて低い.今回,我々は上行結腸に発生した扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.

はじめに

結腸原発扁平上皮癌は極めてまれな疾患で,発見時すでに腫瘍が局所に強く浸潤していたり,遠隔転移を来していたりといった進行例が多く,また化学療法が奏効した報告は少なく,確立された治療指針がないのが現状である.そのため,腺癌に比べて予後は不良とされている1).今回,我々は上行結腸に発生した扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.

症例

患者:58歳,女性

主訴:右下腹部痛

既往歴:55歳時に肺非定型抗酸菌症.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:1か月前より右下腹部痛を自覚し,近医を受診した.下部消化管内視鏡検査で上行結腸に腫瘍を認め,手術目的に当科紹介となった.

入院時現症:眼瞼結膜に軽度の貧血を認めた.腹部理学的所見は平坦,軟であった.右下腹部に鶏卵大,弾性硬でやや可動性のある腫瘤を触知した.

入院時血液検査所見:RBC 3.77×106/μl,Hb 10.3 g/dlと軽度の貧血を認めたが,生化学検査には異常は見られず,腫瘍マーカーはCEA 1.10 ng/ml,CA19-9 18.89 U/mlと基準範囲内であった.

下部消化管内視鏡検査所見:上行結腸に内腔をほぼ狭窄し,表面に白色物質が付着した腫瘍性病変を認めた(Fig. 1).正面視は困難で,内視鏡の通過も不可だった.前医での生検による病理組織学的診断は,低分化腺癌の疑いだが,壊死組織が多く断定はできないとの報告であった.

Fig. 1 

Colonoscopy reveals an irregularly surfaced tumor in the ascending colon.

注腸造影検査所見:上行結腸に不整な狭窄像を認めた.

造影CT所見:上行結腸に造影効果を伴う不整な壁肥厚像を認めた.腸管傍リンパ節の腫大を認めたが,明らかな肝転移は認めなかった.肺野にも明らかな結節影は認めなかった(Fig. 2).

以上より,上行結腸癌と診断し,開腹手術を施行した.

Fig. 2 

The abdominal CT scan demonstrates wall thickening in the ascending colon with some swollen regional lymph nodes.

手術所見:上行結腸に硬い腫瘤を触知し,腫瘍と考えられた.肝臓に転移は認めず,腹水,腹膜播種も認めなかった.根治術が可能と判断し,結腸右半切除術およびリンパ節郭清(D3)を施行した.

切除標本所見:上行結腸に4×3 cm大で半周性の潰瘍限局型腫瘍を認めた.腫瘍の表面は不整で壊死性変化を伴っていたが,明らかな瘻孔は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

The resected specimen shows a type 2 tumor measuring 4×3 cm, with necrotic tissue at the ascending colon.

術前の上部消化管内視鏡検査および胸部CTで異常所見は認めておらず,また術後から十分に回復した後に,耳鼻咽喉科,婦人科に紹介の上で精査を行い,他臓器に扁平上皮癌がないことを確認した.他臓器の扁平上皮癌からの転移は否定的で,上行結腸原発と判断した.

病理組織学的検査所見:HE染色では,腫瘍部は胞体が広く大型で異型の強い細胞がシート状に配列する像を呈しており,その中心部で角化物質の増生を認めた.正常粘膜部は全て腺上皮で,扁平上皮は認めなかった.郭清したリンパ節は腸管傍リンパ節に転移を認めた(合計1/20).免疫組織学的染色検査ではCK5/6が陽性,CK20は陰性で,腺癌成分の混在は認められず,中分化型扁平上皮癌と診断した(Fig. 4).大腸癌取扱い規約(第7版)に準じA,type2,40×30 mm,scc,ss,int,INFb,ly1,v0,n1,であり,進行度はStage IIIaと最終診断した.

Fig. 4 

Pathological studies (H.E. staining) show moderately differentiated squamous cell carcinoma without components of adenocarcinoma. Immunohistochemical analysis reveals a positive staining for CK5/6 and negative staining for CK20.

術後経過:合併症なく経過は良好で,第13病日に退院した.大腸扁平上皮癌の術後補助化学療法として定型化されたものはなく,通常の腺癌に対する化学療法レジメンが扁平上皮癌に有効である証拠はないことを本人と家族へ十分に説明を行った後,患者本人が内服の補助療法を強く希望されたためtegafur・uracil(以下,UFTと略記)/leucovorin(以下,LVと略記)療法を6か月施行した.現在術後16か月が経過し,腫瘍マーカーのSCCは1.5 ng/ml未満で上昇はなく,画像上も明らかな異常所見は認めず,無再発生存中である.

考察

結腸原発の悪性腫瘍は組織学的に腺癌が最も多く,扁平上皮癌が発生することは極めてまれである.Williamsら2)は大腸原発扁平上皮癌の診断の臨床的な必須条件として,(1)正常の扁平上皮と連続性がないこと,(2)他臓器に発生した扁平上皮癌の転移・浸潤でないこと,(3)初発部と思われる部位に扁平上皮で覆われる瘻孔を認めないこと,(4)腺癌成分を認めないこと,を挙げている.本症例はこれらの条件を全て満たしており,結腸原発扁平上皮癌と診断した.

大腸原発扁平上皮癌の組織発生機序としては,(1)通常型腺癌で扁平上皮化生が起こり,さらに腺扁平上皮癌から腺癌成分が消失する,(2)胎生期遺残細胞から発生する,(3)大腸粘膜腺細胞が扁平上皮化生し,癌化する,(4)大腸粘膜増殖帯に存在する未分化基底細胞が異常分化する,など諸説が挙げられている1)2).大腸原発の扁平上皮癌の報告例に早期癌はなく全てが進行癌であること,伊藤ら3)が腺扁平上皮癌において病理組織学的に腺癌部分と扁平上皮癌部分との間に移行像がみられると報告していることから,(1)の説が有力と推察されるが,決定的な証拠はなく,現在まで定説といえるものはない.

Comerら1)は扁平上皮癌あるいは腺扁平上皮癌の発生頻度は全大腸悪性腫瘍の0.025~0.05%と報告している.本邦においては,西村ら4)による第54回大腸癌研究会アンケート調査報告によれば大腸・肛門悪性腫瘍のうち扁平上皮癌の頻度は0.2%とされ,その発生部位のほとんどは肛門管,下部直腸であり,結腸原発はその中の10%にも満たず,さらに少数である.医学中央雑誌で「結腸癌」,「扁平上皮癌」をキーワードに1983年から2012年12月までの期間で検索したところ,本邦では会議録を除いて8件の症例報告が認められ,自験例を含め9例で検討を行った(Table 15)~12).年齢は37歳から72歳(平均55歳)で,男性が5例,女性が4例であった.既報告例では術前検査における扁平上皮癌の特異な所見は記載されていなかったが,本症例は下部消化管内視鏡検査において,腫瘍の表面に角化成分と思われる白色物質が付着した所見を認め,扁平上皮癌の特徴の一つと考えた.生検により術前に扁平上皮癌の診断がついたものは3例あったが,本症例のように腫瘍自体の壊死傾向が強く,生検で診断できなかった症例もみられ,結腸扁平上皮癌は生検で診断を得られない場合もあることを念頭に置くべきと思われた.癌の局在は上行結腸が6例,S状結腸が2例,横行結腸(脾弯部)が1例で上行結腸が多かった.肉眼型は2型が6例,3型が2例,4型が1例であった.腫瘍長径は大きいものでは100 mmを超えているものがあり,小さいものでも自験例の40×30 mmであった.癌深達度はSSが5例,SEが1例,SIが3例で,全例がSS以深に達しており,また8例が腸管内腔の狭窄を来す程度にまで進行した状態であったため,腹痛や便秘といった症状が多くみられた.発見時に既に領域リンパ節転移は5例でみられ,肝転移は4例,腹膜播種は2例でみられた.結腸原発扁平上皮癌は,発見時には腫瘍がある程度大きくなっており,局所浸潤や遠隔転移を来した進行例が多い傾向にあった.標本組織の分化度は高分化が3例,中分化が4例,低分化が2例であった.高分化であっても腫瘍の進行が強く予後不良な症例もあり,逆に低分化であっても根治術後に長期生存が得られていた症例もあり,結腸扁平上皮癌分化度と予後についての結論付けは症例数が少ないため難しいと思われる.

Table 1  Reported 9 cases of squamous cell carcinooma of the colon
Case Author/Year Age/Sex Chief complaints Location Type Length (mm) Depth n H P Stage Differentiation Prognosis
1 Nishimura5)1985 37/F abdominal pain A 3 120×110 ss (–) 0 0 II well 17​M dead
2 Nishi6)1992 43/M constipation S 4 120×90 si / 0 1 IV well 8​M dead
3 Yoshida7)1994 51/M general fatigue T 2 55×50 si 1 (+) 1 0 IV well 1​M dead
4 Morita8)1995 57/F abdominal pain A 2 / se (–) 0 0 II poor 24​M alive
5 Meguro9)1997 60/M abdominal pain A 2 40×40 ss 2 (+) 3 0 IV poor 1​M dead
6 Takebayashi10)1998 67/M constipation S 2 86×85 si (–) 0 0 II moderate 2​M dead
7 Sumi11)2005 51/M abdominal pain A 2 50×40 ss 2 (+) 3 0 IV moderate 2​M dead
8 Aizawa12)2006 72/F constipation A 3 150 ss 1 (+) 1 3 IV moderate 5​M dead
9 Our case 58/F abdminal pain A 2 40×30 ss 1 (+) 0 0 IIIa moderate 16​M alive

治療は腺癌と同様に外科的切除が第一選択であり,遠隔転移のない4症例のうち3症例は根治術が施行され,これらは1年以上の生存が得られていた.1例は癌が後腹膜,尿管へ浸潤し,後腹膜腔に大きな膿瘍を形成していた症例で,外科的剥離断端が陽性となり,術後は厳しい経過を辿っていた.根治術後の補助化学療法が行われていたのは,本症例を含めて2例であった.この内1例は領域リンパ節転移は陰性であったが局所浸潤が強かったこと,組織型が特殊であることが考慮され,5-fluorouracil(以下,5-FUと略記)の静脈内注射が行われていた.本症例は領域リンパ節に転移あり,補助化学療法の適応であったが,結腸扁平上皮癌に定型化された治療法はないため,本人と家族に詳細な説明を行った後にUFT+LV療法を行った.5-FU静脈内注射の1例は24か月,本症例は16か月の無再発生存を得たが,結腸扁平上皮癌にこれらの補助療法が本当に有効であったのかどうかは議論が分かれるところであろうと思われる.

切除不能進行再発例は,確立された治療法がないのが現状であるため,その予後は数か月(1~8か月)と厳しいものであった6)7)9)11)12).また,発見時に腫瘍が大きく内腔閉塞を来した症例が多いため,腸閉塞予防目的に原発巣切除が施されるが,局所浸潤も強く他臓器合併切除を要すため,術後膿瘍などの合併症の発生により局所部位の治療に難渋することになり,結果的に化学療法などを行えるまでの全身状態の回復に時間がかかり,その間に新たに転移巣が出現したり,転移巣が増大したりと癌の進行を制御できなかった症例もみられた10)

放射線療法は,本邦では西村ら5)が腹腔内局所再発に対して行い,再発腫瘍の縮小ならびに貧血の改善が得られたと報告しており,また海外でもComerら1)やSchneiderら13)が放射線療法により局所再発や転移巣が縮小したことを報告している.一般的に扁平上皮癌は腺癌に比し放射線の感受性が良いこともあり,放射線療法は局所制御を行う上では選択肢の一つになり得ると思われる.切除不能進行再発例に対する化学療法としてはJuturiら14)が5-FU,LV,cisplatinの投与が肝転移に対して奏効したと報告しているが,本邦では西村ら5),目黒ら9),会沢ら12)により5-FU単独投与,5-FU/cisplatinといったレジメンが施行されていたものの奏効した報告は認められなかった.肛門癌の扁平上皮癌では5-FUやmitomycin C(以下,MMCと略記)が有効とされているが,欧米を含めても結腸扁平上皮癌に対し,MMCを用いた化学療法が行われた報告例は見当たらなかった.また,現在の切除不能進行再発大腸癌に対する標準療法であるFOLFOX,FOLFIRIや,あるいは近年有効性が報告されているbevacizumabなどの分子標的薬を用いた化学療法が結腸扁平上皮癌に対して行われた報告はなかった.

結腸扁平上皮癌は進行した状態で発見されること,化学療法などで予後を改善する有効な手段がないことが予後不良な要因である.しかし,本症例のように根治手術ができた症例であれば,ある程度の予後も期待できるものと思われた.結腸扁平上皮癌は発生機序の解明や治療法の確立が今後の課題と思われ,さらなる症例の集積が必要と考えられた.

利益相反:なし

文献
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