The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Primary Squamous Cell Carcinoma of the Stomach Diagnosed by Immunohistochemistry of p40
Satoshi NakamuraTatsuya YamadaMasafumi KurosumiHidetsugu HanawaDaiji OkaKazuhisa EharaTakashi FukudaYoshiyuki KawashimaHirohiko SakamotoYoichi Tanaka
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2015 Volume 48 Issue 1 Pages 16-22

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Abstract

症例は84歳の男性で,心窩部痛,食思不振を主訴に受診した.上部消化管内視鏡検査で,胃前庭部に全周性の3型腫瘍を認め,生検で扁平上皮癌が疑われた.胸腹骨盤部造影CTで,明らかな遠隔転移や,他臓器の癌からの転移を疑わせる所見はなく,胃原発の扁平上皮癌あるいは腺扁平上皮癌と診断し,幽門側胃切除,D2郭清,大網切除,胆摘,Roux-en-Y吻合術を施行した.切除標本のHE染色では,腺癌成分はなく,中分化の扁平上皮癌の像を呈し,免疫染色検査でもp40陽性であることから胃原発扁平上皮癌と診断した.病理組織学的検査所見は,大きさ40×35 mm,pT3(SS),int,INFb,ly0,v2,pN0であり,Stage IIAと診断した.胃原発扁平上皮癌は,胃癌全体の0.09%と極めてまれであり,診断にp40の免疫染色検査が有用であった1例を報告する.

はじめに

胃原発の扁平上皮癌は,癌巣の全てが扁平上皮癌成分から構成され,腺癌成分を含まない,極めてまれな組織型である1).そのため,胃原発扁平上皮癌の確定診断には,詳細な病理組織学的検討が必要である.一方,最近では他臓器の癌で抗p40抗体を用いた免疫組織化学的検索が,扁平上皮癌と腺癌の鑑別に有用であることが報告されている2)~4).今回,我々はp40を用いた免疫染色検査が診断に有用であった胃原発扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.

症例

症例:84歳,男性

主訴:心窩部痛,食思不振

既往歴:外傷性頭蓋内血腫,緑内障,高血圧

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:心窩部痛と食思不振を自覚し,近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で,胃前庭部に3型腫瘍を指摘され,生検で扁平上皮癌と診断され,精査加療目的で当院へ紹介された.

初診時現症:身長158 cm.体重41 kg.特記すべき理学所見なし.

血液生化学検査所見:白血球数10,550/μl,CRP 1.8 mg/dlと軽度高値を認めた.腫瘍マーカーはCEA 6.2 ‍ng/ml,SCC 2.2 ng/ml,CYFRA 9.7 ng/mlと軽度高値であった.

上部消化管造影検査所見:胃前庭部小彎に周堤を伴う潰瘍性病変を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal X-ray shows an ulcerative lesion on the lesser curvature of the gastric antrum.

上部消化管内視鏡検査所見:胃前庭部小彎主座の3型腫瘍を認めた.腫瘍により幽門は狭窄していたが,内視鏡の通過は可能で,十二指腸球部への浸潤は認めなかった(Fig. 2).生検で,扁平上皮癌あるいは腺扁平上皮癌を疑う所見を認めた.

Fig. 2 

Gastrointestinal endoscopy shows type 3 tumor with stenosis.

胸腹骨盤部造影CT所見:胃前庭部に長径40 mm超の造影効果を伴う壁肥厚像を認めた.周囲の脂肪濃度が上昇しており,漿膜露出が疑われた.胃小彎側に短径7 mm大のリンパ節を1か所認め,転移が疑われた.明らかな遠隔転移や,他臓器の癌からの転移を疑わせる所見は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Contrast enhanced abdominal CT shows wall thickening of the gastric antrum (a) and swollen lymph nodes in the lesser curvature of the stomach (b).

以上の所見から,胃原発の扁平上皮癌または腺扁平上皮癌,L,Less,Type 3,cT4a(SE),cN1,cM0,cP0,cH0,cStage IIIAと診断し,手術を施行した.

手術所見:腫瘍は胃前庭部小彎が主座で,漿膜露出は明らかではなかった.腫瘍近傍のリンパ節は軽度腫大し,転移を疑う所見であった.明らかな肝転移や腹膜播種はなく,術中の迅速腹腔洗浄細胞診はClass IIであった.手術は,幽門側胃切除,D2郭清,大網切除,胆囊摘出,Roux-en-Y再建を施行した.

切除標本所見:胃前庭部小彎に40×35 mmの3型腫瘍を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

The resected specimen shows a type 3 tumor, 40×35 mm in size, on the lesser curvature of the gastric antrum.

病理組織学的検査所見:HE染色では,腫瘍細胞は敷石状の胞巣を呈して増殖する部位が主体で,個細胞角化や細胞間橋形成の所見を認めた(Fig. 5).一部索状を呈する低分化な部位があり,低分化腺癌との鑑別が必要であったが,明らかな腺管形成を呈する腺癌成分は認めなかった.また,低分化な部位を含め,腫瘍細胞の大部分がp40とp63の免疫染色検査で陽性を呈した.以上の所見から,中分化型の扁平上皮癌と診断した(Fig. 6).最終診断は,L,Less,Type3,40×35 mm,pT3(SS),int,INFb,ly0,v2,pN0(0/41),pPM0,pDM0,M0,P0,CY0,H0,pStage IIA(胃癌取扱い規約第14版5))であった.

Fig. 5 

Microscopic findings of the tumor reveal individual cell keratinization (arrows) and presence of intercellular bridge formation (H & E).

Fig. 6 

Immunohistochemistry for p40 (a) and p63 (b) reveal a positive reaction, and most of the nuclei of carcinoma cells show strong staining.

術後経過:合併症なく,術後12病日に退院した.pT3(SS),N0のため,術後補助化学療法は施行せず,術後12か月が経過した現在,無再発で生存している.

考察

胃原発の扁平上皮癌は1983年の第40回胃癌研究会アンケート調査6)では全胃癌の0.09%を占めると報告されており,極めてまれな組織型である.さらに,胃癌取扱い規約第12版(1993年)1)で,「癌がすべて扁平上皮癌成分から構成されるもので,非常にまれな組織型である.一部に腺癌成分があれば,腺扁平上皮癌としなければならない.また,食道胃接合部の扁平上皮癌は,確実に胃から発生したという証拠がない限り,胃の扁平上皮癌としてはならない.」と,より厳格な定義に改訂されたため,現在のこの定義に合致する胃原発扁平上皮癌はより少ないものと推測される.医中誌Web(Ver. 4)を用いて,1983年から2012年まで,「胃扁平上皮癌」で検索した結果,手術後,病理組織学的検討がなされ,現在の定義に合致した報告は,本症例を含め53例であった7)~52).男女比は44:9で男性に多く,年齢は平均65歳(29~84歳),病変の主たる占居部位は,U領域が32例(60%)と多かった.早期癌の報告は2例(6%)のみと少なく,43例(81%)がss以深と進行した状況で診断されていた.自験例は,比較的まれなL領域を主座とし,報告例の中では最高齢(84歳)であった.

胃原発扁平上皮癌の組織発生に関しては,①胃粘膜の異所性扁平上皮由来25)52),②胃粘膜の扁平上皮化生由来37)44),③胃粘膜未分化基底細胞由来46)50),④腺癌の扁平上皮化生由来24)28)との仮説がある.腺癌成分を含まないことが扁平上皮癌の定義となったため,これまで支持されていた腺癌の扁平上皮化生由来という仮説は妥当ではないと考えられる.自験例では,腫瘍周囲に扁平上皮化生や異所性扁平上皮の所見を認めず,上記の仮説を適応すると,組織発生は胃粘膜未分化基底細胞由来の可能性が考えられる.

胃原発扁平上皮癌の確定診断は,その定義上,生検のみでは不可能で,切除標本の詳細な病理組織学的検討が必要となる.自験例では,生検で扁平上皮癌成分を認めたが,切除標本のHE染色では,腺癌と鑑別が必要な低分化な部位が存在したため,抗p40抗体による免疫組織化学検索を追加し,胃原発扁平上皮癌の診断に至った.現在,扁平上皮癌のマーカーとして,抗p63抗体が広く用いられているが,抗p63抗体は,肺癌症例の検討報告2)~4)で,腺癌に対しても18~31%の陽性率を示すとされ,扁平上皮癌の鑑別診断における特異度が60~82%と低いことが問題とされる.p63p53遺伝子ファミリーの一つで,TAp63とΔNp63の二つのアイソフォームを発現する2).扁平上皮癌では,高頻度にΔNp63が発現し,一方で,腺癌やリンパ腫などの非扁平上皮系腫瘍では,まれにTAp63が発現する.抗p63抗体は,二つのアイソフォームに共通のコアドメインを認識するモノクローナル抗体であるため,TAp63が発現した非扁平上皮系腫瘍に対しても陽性となり,特異度が低くなる2)~4).今回,診断に用いた抗p40抗体は,p63アイソフォームのうち,ΔNp63のみに存在するΔNドメインを認識する抗体であるため,より扁平上皮癌に特異的となる.Bishopら2)は,抗p40抗体による免疫組織化学的検索が,肺の扁平上皮癌と腺癌やリンパ腫の鑑別に非常に有用であると報告している.抗p40抗体は,肺扁平上皮癌の98%の症例で,腫瘍細胞の50%以上の範囲が陽性となり,一方で,肺腺癌の3%の症例で陽性となるものの,陽性となる腫瘍細胞は全体の1~5%と極めて限局的な範囲であったとしている.そのため,抗p40抗体で陽性となる腫瘍細胞が全体の5%を超える症例を扁平上皮癌と定義すると,肺腺癌と肺扁平上皮癌の識別は,感度,特異度ともに100%になるとしている2).自験例では,HE染色で腺癌と鑑別を要する低分化な部位があったが,抗p40抗体による免疫組織化学的検索で陽性を示したことから,同部位が低分化な扁平上皮癌成分であると判断することができ,胃原発の扁平上皮癌と診断した.また,低分化な部位を含め,腫瘍細胞全体が抗p40抗体で陽性となり,Bishopら2)が肺癌症例で示した扁平上皮癌の基準も満たす結果であった.p40による免疫染色検査は,肺癌以外の癌腫にも応用され始めているが,胃原発扁平上皮癌に用いた報告は自験例が初めてである.胃原発の扁平上皮癌の診断において,他臓器におけるものと同様に抗p40抗体による免疫組織化学検索は有用である.

利益相反:なし

文献
 

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