The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Solid-Pseudopapillary Neoplasm Which Recurred Five Times
Shinjiro KobayashiKazumi TenjinKouhei SegamiHiroyuki HoshinoMasafumi KatayamaSatoshi KoizumiYasushi AriizumiTakehito Otsubo
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2016 Volume 49 Issue 4 Pages 293-300

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Abstract

症例は84歳の男性で,25年前膵体部に巨大な囊胞性病変に対し脾温存尾側膵切除術を施行され,病理組織学的検査所見でsolid-pseudopapillary neoplasm(以下,SPNと略記)と診断された.その後初回手術から7年,10年,11年,20年後に再発を繰り返し,その度に腫瘍切除術を施行された.4度目の手術から2年後(初回手術から22年後)に食後の腹部膨満感を訴え精査を施行,膵断端近傍に多房性分葉構造の約10 cm大の腫瘤と,膵体部に径1 cmの囊胞性腫瘤を認めた.SPNの再発と診断し膵体部切除,腫瘍摘出,脾臓摘出術を施行した.病理組織学的検査所見では形態学的に均一な上皮性腫瘍細胞が偽乳頭状に配列しており,免疫染色検査でβ-catenin,CD10に陽性でSPNに矛盾のない所見であった.本症例のように局所再発を繰り返した症例の報告は検索しえたかぎりなく,極めてまれと思われたので報告する.

はじめに

Solid-pseudopapillary neoplasm(以下,SPNと略記)は結合性が弱く,形態学的に均一な上皮性腫瘍細胞が充実性あるいは偽乳頭状構造を形成する腫瘍で,若い女性に好発する1).ごくまれに数年で死亡する高度悪性転化症例もあるが2),基本的にSPNは再発転移を来しても予後良好で3)4),2010年のWHO分類では低悪性度腫瘍に位置づけられている5).今回,我々は明らかな腫瘍の遺残や術中散布がないにもかかわらず,5回の局所再発を繰り返した男性のSPN症例を経験し,臨床経過についてもまれと思われたので報告する.

症例

患者:84歳,男性

主訴:腹部膨満感

既往歴:高血圧にて内服治療中.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:25年前の59歳時,腹部膨満感を主訴に当院を初診し左上腹部に径10 cm大の巨大な囊胞性腫瘤を指摘された(Fig. 1A).術前には病理組織学的検査は施行されなかったが,画像診断で膵尾部原発の神経内分泌腫瘍が疑われたので脾温存尾側膵切除術を施行,術後病理組織学的検査所見で均一な上皮性腫瘍細胞が偽乳頭状に配列しておりβ-catenin,vimentin,CD10の免疫染色検査に陽性でありSPNと診断された(Fig. 1B).その後定期的な外来経過観察はされておらず,初回手術から7年後に上腹部の圧迫感を主訴に当院を再診,局所再発を指摘され腫瘍摘出術が施行された(Fig. 2).当時の記録では,腫瘍は後腹膜に局所再発し,膵断端との連続性はなかったと記載されており,病理組織学的検査所見では剥離面陰性であった.しかし,さらにその3年後(初回手術から10年後)に再々発を来し,再度腫瘍切除が行われた.その後は転居に伴い転医となったが,初回手術から11年後と20年後にも再発しており,20年の間に4回の再発をいずれも左上腹部に繰り返して腫瘍摘出術を施行されていた.4度目の再発から2年後,すなわち初回手術から22年後に食後の腹部膨満感が出現し他医を受診したところ左上腹部に腫瘍性病変を指摘されたので当院に紹介となった.なお,当院で行った初回および第2回と第3回目の手術に関わった主治医は異動となっており,詳細な確認は困難であったが,手術所見の記録では腫瘍の遺残や囊胞の術中散布はなく,術後病理組織学的検査所見でも剥離面は全て腫瘍細胞陰性であった.

Fig. 1 

A) CT reveals a cystic lesion in the pancreatic tail (arrow). B) CT shows calcification in the cystic lesion (arrow). C) The tumor cells are uniform with small and oval nuclei, and form a pseudopapillary pattern. D) Immunohistochemically, the tumor cells are positive for a β-catenin.

Fig. 2 

The recurrent tumor in the upper left abdomen (arrow).

血液生化学的検査所見:異常所見は認めず,CEAおよびCA19-9も正常値であった.

腹部超音波検査所見:膵断端近傍に隔壁を有する内部が均一な10 cm大の囊胞性病変を認めた.

腹部CT所見:左上腹部に多房性分葉状構造を呈する約10 cm大の低吸収に描出される囊胞性病変を認めた.壁および隔壁構造は造影されたが,内部は造影効果を認めなかった.また,膵断端近傍の膵体部にも径1 cm大の囊胞性病変を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

A–D) Abdominal CT shows a cystic tumor in the upper left abdomen (arrows) and at the remnant pancreas (arrowheads).

MRI・MRCP所見:腫瘍はT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈していた(Fig. 4A, B).MRCPでは腫瘍と膵管との明らかな交通は認めなかった.

Fig. 4 

A) T1-weighted MRI shows a slightly hypointense mass in the upper left abdomen (arrow). B) A hyperintense mass shadow is shown on T2-weighted imaging (arrow). C) T2-weighted MRI reveals a hyperintense mass shadow at the remnant pancreas (arrowhead). D) MRCP did not detect communication between the cystic lesion and the pancreatic duct (arrow).

以上の画像所見と,それまでの臨床経過からSPNの再発と診断し手術を施行した.

手術所見:腫瘍は胃後面と癒着していたが,境界明瞭であり剥離可能であった(Fig. 5).術前画像所見で指摘されていた膵体部の腫瘍も肉眼的に確認できた.二つの腫瘍は接してはいたが連続しておらず後腹膜と残膵内に別々に存在していた.これまでの再発時の手術では脾動静脈および脾臓が温存され続けていた.過去4回の手術所見には脾動静脈や脾臓と腫瘍との癒着や位置関係などの詳細な記載はなかったが,これらを温存しようとするがゆえにmarginを十分に確保できていなかったのではないかと考え,今回は根治手術を目指すために剥離面に腫瘍の遺残がないように脾臓も摘出する方針とした.門脈直上にて膵臓を切離し,膵癌に準じた剥離層,すなわち上腸間膜動脈の左側を露出して神経叢は温存しながらリンパ組織も切除側に含めていき,Gerota筋膜に至るように後腹膜組織を剥離しながら脾動静脈および脾臓と一括で腫瘍を摘出した.

Fig. 5 

Intraoperative findings show a soft and round tumor 10 mm in diameter (arrowhead) on the side of the remnant pancreas (arrow) in the upper left abdomen.

病理組織学的検査所見:膵断端部と膵体部内の 二つの腫瘍はいずれも表面平滑な球状で,内部には混濁茶色の液体が充満していた(Fig. 6A).組織的には均一な上皮性腫瘍細胞が偽乳頭状に配列しており,免疫染色検査でβ-catenin,vimentin,CD10に陽性でSPNに矛盾のない所見であった(Fig. 6B, C).

Fig. 6 

A) The cystic lesion in the upper left abdomen shows marked hemorrhagic changes. B) Also the cystic lesion at the remnant pancreas shows marked hemorrhagic changes. C) The tumor cells are uniform with small and oval nuclei, and form a pseudopapillary pattern similar to the previous tumor. D) Immunohistochemically, the tumor cells are positive for a β-catenin.

術後は経過良好で術後14日目に退院し,外来にて経過観察中であるが本論文記載中の3年6か月現在再発は認めていない.

考察

膵SPNは1959年Frantzによって比較的予後良好な膵腫瘍として初めて報告された6).その後,papillary cystic tumor,solid and papillary neoplasm,solid and cystic tumor(SCT)などさまざまな呼称をされてきたが,1996年のWHO分類7)でようやくsolid pseudopapillary tumorと統一され現在はsolid-pseudopapillary neoplasmと名称変更されている.低悪性度腫瘍に位置づけられているが5),依然として発生起源や生物学的悪性度など解明されていない点も多い.

SPNは膵外側へ膨張性に成長する球形の腫瘍で,典型的には厚い被膜を有する充実性の腫瘍であるが,内部に出血や壊死を伴って囊胞性に変化することが多い.よって画像所見では充実性成分と囊胞性成分が混在する厚い被膜の腫瘍として描出される.腫瘍内部の血流は乏しいため漸増型の造影効果を示し,MRIではこれらの成分の違いがより明確になるといわれている8).組織学的には分化方向の不明な腫瘤と位置づけられており,免疫組織学的検索において神経内分泌系・膵外分泌系の分化を疑う所見を示す.そのため,膵内分泌腫瘍や腺房細胞腫瘍との鑑別にしばしば苦慮するが,CD10や,vimentin,β-catenin染色において核に陽性反応を示すことが診断の決め手になるとされる9)~11)

一般的に膵SPNは若年女性に好発する腫瘍であり,男性例は9.3~13.2%と報告されている12)13).長谷川ら14)が 本邦のSPN男性例34症例の詳細な検討を報告しているが,年齢は7~78歳,占居部位は頭部が最多で17例(50.0%)であり,女性で多い尾部は32.3%であった.腫瘍径は平均5.8 cmで石灰化を51.5%に認め,囊胞成分を伴わない腫瘤を45.5%に認めた.本症例は,膵尾部に発生し,大型であるために内部壊死は起こしていたが,石灰化は伴わず,男性例としては典型的な要素が少ないと考えられた.

これまでにSPNの症例を集積した臨床病理学的検討の報告が散見されるが,再発率は0~8.9%と高くはなく15)~19),現在のところSPNの悪性基準は確立していない.かつては,明らかな神経周囲浸潤,脈管侵襲,周囲組織への浸潤を認める場合には高悪性度とされていた5).また,Nishiharaら20)は転移した3例と非転移19例を比較し,リンパ節や他臓器に転移を認めた3例の核分裂像はそれぞれ4,9,10 mitoses/20HPFであったのに対し,転移を認めなかった19例では1例を除き3 mitoses/20HPF未満であったと報告している.しかし,近年では,これらの臨床病理学的特徴を呈していても予後や転移の有無と相関しないことが多いので,2010年WHO分類3)ではこれらの因子に関係なく全てのSPNは一律に低悪性度腫瘍として扱うことになった.腫瘍の完全切除が施行されれば根治を期待できるとの報告も多く21)~23),他臓器や周囲血管への浸潤などの局所進展,リンパ節転移や肝転移を認める悪性例においても,可能であれば合併切除により長期生存が望めるとされている4).しかし,初回手術から10年以上経過したのちに再発する症例もあることから長期的な経過観察が必要である24)25).吉岡ら13)が本邦報告302例を集計しているが,再発は16例で認められていた.再発部位としては肝臓が最も多く10例であり,局所再発は3例のみに認めていた.

本症例では,検索しえた当院での3回の手術においては病理学的に断端陰性であり,手術所見に術中の囊胞損傷の記載はなかった.再発期間も7年,3年,1年,9年,2年とさまざまであり,5回の再発のうち2回は直近の手術から5年以上経過していた.1977年から2014年10月までの医中誌Webで「solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)」または「solid and cystic tumor(SCT)」と,「再発」をキーワードとして検索した結果,本症例のように局所に再発を繰り返した症例の報告は検索しえなかった.生物学的な悪性度から再発した可能性もあるが,腫瘍細胞の完全切除ができていなかったために再発した可能性も否定できない.SPNに対する根治のためには十分にmarginを確保し,囊胞成分がある場合には囊胞を損傷して腫瘍成分を腹腔内に散布しないように心がける必要があると考えられた.

本症例では明らかな腫瘍の遺残や術中散布がないにもかかわらず,5回の局所再発を繰り返した.これまでの再発時の手術では脾動静脈および脾臓が温存され続けていたことが,同じ部位に再発を繰り返した可能性があることから,今回は膵癌に対する脾合併膵体尾部切除に準じた術式を施行した.

利益相反:なし

文献
 

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