The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Primary Hepatic Neuroendocrine Carcinoma
Fumi HaradaKazunori NojiriTakafumi KumamotoRyutaro MoriRyusei MatsuyamaKazuhisa TakedaKuniya TanakaNoritoshi KobayashiItaru Endo
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2017 Volume 50 Issue 1 Pages 9-17

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Abstract

症例は69歳の女性で,上顎洞癌に対する化学放射線療法後に行ったPET-CTで肝腫瘍を指摘され当科紹介受診となった.血管造影下CTでは肝S6に35 mm大の腫瘤を認め,動脈相で辺縁に造影効果を認め門脈相で低濃度であった.直腸癌の既往があり,画像所見と合わせ直腸癌異時性肝転移の術前診断のもと,腹腔鏡下肝S6部分切除術を施行した.病理組織学的には既往の直腸癌,上顎洞癌のいずれの組織型とも異なっていた.免疫組織学的検査でsynaptophysin,chromogranin A,CD56が陽性であり,神経内分泌癌と診断した.術後早期に肺・肝再発し,5th lineまで薬物療法を行ったが,術後1年7か月で死亡した.肝原発神経内分泌癌は非常にまれな疾患で,その治療対策を講じるためにはさらなる症例の蓄積が必要である.

はじめに

神経内分泌癌は消化管や膵臓においてはしばしば認めるが,肝原発症例は非常にまれである.また,悪性度が高く予後不良であるといわれている1).今回,我々は他臓器悪性腫瘍の既往があり転移性肝癌との鑑別に難渋した肝原発神経内分泌癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:69歳,女性

主訴:なし.

既往歴:62歳時 直腸癌(低位前方切除術,病理組織学的診断;moderately differentiated adeno­carcinoma,mp,n0).

現病歴:2011年2月から4月に当院耳鼻咽喉科で上顎洞癌(poorly differentiated squamous cell carcinoma)に対して化学放射線療法(S-1 80 mg/日,放射線照射70.2 Gy)を施行した.2011年12月に経過観察目的で撮影したPET-CTで肝S6に集積を認め,肝悪性腫瘍が疑われ当科を受診した.

入院時現症:意識清明,身長158 cm,体重42 kg.腹部は平坦,軟で,肝臓・脾臓は触知せず,圧痛は認めなかった.下腹部正中に手術痕を認めた.

入院時検査所見:肝胆道系酵素の上昇は認めず,ICG R15 2.94%,Child-Pugh分類A,liver damage Aであった.腫瘍マーカーはCEA 5.13 ng/dl,CA19-9 44 U/mlと軽度上昇していた(Table 1).

Table 1  Laboratory findings on admission
Hematology Biochemistry
​WBC 4,100​/μl ​TP 7.1​ g/dl
​Hb 12.5​ g/dl ​Alb 4.3​ g/dl
​Plt 25.3×104​/μl ​T-bil 0.4​ g/dl
​AST 18​ IU/l
Tumor markers ​ALT 16​ IU/l
​CEA 5.13​ ng/dl ​ALP 166​ IU/l
​CA19-9 44​ U/ml ​LDH 191​ IU/l
​SCC 1.0​ ng/ml ​BUN 10​ mg/dl
​PIVKA-II 18​ mAU/ml ​Cr 0.69​ mg/dl
​Na 143​ mEq/l
Coagulation ​K 4.5​ mEq/l
​PT (INR) 1.05​ ​Cl 104​ mEq/l
​APTT 25.5​ sec ​CRP 0.25​ mg/dl
ICGR15 2.94​%

肝臓dynamic造影CT所見:肝S6に25 mm大の境界不明瞭で,動脈相,門脈相,平衡相のいずれも低吸収を示す腫瘤を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Liver dynamic CT. a; arterial phase, b; portal phase, c; delayed phase. The tumor shows low intensity and its borderline is unclear in each phase (arrowheads).

肺や肝臓以外の腹腔内臓器には異常を認めなかった.

PET-CT所見:肝S6にSUVmax=9.5の集積を認めた(Fig. 2).その他の部位に集積は認められなかった.

Fig. 2 

PET-CT. SUV max of the tumor in S6 of the liver is 9.5 (arrowhead).

血管造影下CT所見:肝S6にCT during arteriography(CTA)ではring enhancementを伴い(Fig. 3a),CT during arterial portography(CTAP)では内部不均一で境界不明瞭な38 mmの低濃度腫瘤を認めた(Fig. 3b).リンパ節転移や遠隔転移は認めなかった.

Fig. 3 

CT angiography. A tumor with ring enhancement is demonstrated in S6 of the liver in the arterial phase (a; arrowhead). The tumor shows low intensity and its borderline is unclear in the portal phase (b; arrowhead).

また,上下部消化管内視鏡検査では明らかな異常を認めなかった.

鑑別診断として上顎洞癌の肝転移や肝内胆管癌も完全には否定できず,播種の危険性を考慮し経皮的肝生検は施行しなかった.最終的には,原発巣がmp,n0ではあるものの直腸癌異時性肝転移の術前診断で肝切除の方針とした.

手術所見:腹腔鏡下で手術を施行した.術中超音波では肝S6の腫瘤以外に他病変は認めなかった.術前の方針通り腹腔鏡下肝S6部分切除術を施行した.また,胆囊管からの胆道造影のため胆囊摘出術を併施した.

肉眼所見・病理組織学的検査所見:腫瘍は肉眼的には30×27×25 mm大の灰白色充実性で,中心に出血壊死を認めた.核腫大とクロマチンの増量を伴う腫瘍細胞が胞巣を形成して増殖しており,既往の直腸癌,上顎洞癌とも組織型が異なっていた.腫瘍中心部には出血壊死を伴い,また被膜浸潤を認めた(Fig. 4a~c).免疫組織学的にはsynaptophysin,chromogranin A,CD56が陽性で,Ki-67は90%以上の腫瘍細胞で陽性と極めて高値であった(Fig. 5).以上から,最終的に肝原発神経内分泌癌(Grade 3)と診断した.

Fig. 4 

Macroscopic and histopathological findings of the resected specimen. The tumor cells have enlarged nuclear and condensed chromatin (a, b). Necrosis can be seen at the core of the tumor (a).

Fig. 5 

Immunopathological examination. Synaptophysin (a), chromogranin A (b) and CD56 (c) were positive. Ki-67 was positive among over 90 percent of tumor cells (d).

術後経過:合併症なく軽快退院したが,術後1か月のPET-CTで肺転移が疑われた(Fig. 6).術後2か月で撮影した肝MRIで多発残肝再発を認め,cisplatin+etoposideの投与を開始した.一時stable disease(SD)であったが術後7か月目で残肝再発巣の増悪を来し,化学療法をcisplatin+irinotecanに変更した.3コース終了後には肺転移巣,肝転移巣ともに増大し,塩酸gemcitabine+cisplatinに変更したがGrade 4の血小板減少が出現し中止せざるをえなかった.その後,当院倫理委員会の承認を得て悪性神経膠腫の治療薬であるtemozolomideの投与を開始し,一旦は肝転移巣の縮小がみられたが再増大した.5th lineとして術後1年2か月からcapecitabine+oxaliplatin(XELOX)+bevacizumab療法を行ったが奏効せず,術後1年6か月の時点からbest supportive careの方針とした.全身状態が悪化し術後1年7か月で死亡した.

Fig. 6 

PET-CT. No lung metastasis can be seen in the preoperative PET-CT (a). However, a metastatic lung tumor appears in the first postoperative month (b).

考察

2010年に改訂されたWHO分類で神経内分泌腫瘍は核分裂像とKi-67指数に基づきneuroendocrine tumor(以下,NETと略記)とneuroendocrine carcinoma(以下,NECと略記)とに分類された.すなわち核分裂像が20個/10HPF,Ki-67指数が20%を超えるとNECと診断され,それ以下のものはNET(Grade 1,Grade 2)となる.NETは高~中分化型,低悪性度である一方NECは低分化型,高悪性度で予後不良である.肝原発のNECは極めてまれで,PubMedで1950年から2014年において「liver」と「neuroendocrine carcinoma」,医学中央雑誌で1977年から2014年において「肝」と「神経内分泌癌」をキーワードに検索すると報告例は自験例を含め51例(会議録除く)のみであった(Table 2, 31)~34).無症状で検診や他疾患のフォロー中に偶発的に発見された症例が19例(37.3%)と多く,自覚症状は腹痛を14例(27.4%),黄疸,全身倦怠感をそれぞれ4例(7.8%)で認めた.転移に関する記載のある44例のうち14例(31.8%)で同時性他臓器転移を有し,転移部位は肺が最多で7例,ついでリンパ節が6例,骨が3例,その他,膵臓,脳,副腎なども少数で認めた.治療は肝切除が24例(47.1%)に施行されており,切除不能な症例では化学療法単独が9例(17.6%),肝動脈化学塞栓療法(TACE)が4例(7.8%),放射線療法単独,化学放射線療法がそれぞれ1例ずつで施行されていた.Ki-67陽性率については自験例を含め9例で記載があり,中央値は57.5%であった.また,核分裂像は6例で言及されており,中央値は18/10HPFであった.肝NECに対しては,現在のところ外科的切除が根治を期待できる唯一の治療法であるにもかかわらず,肝切除を施行した25例のうち8例(33.3%)で再発しており,全例が術後6か月以内の再発で極めて悪性度が高いと考えられた.再発例は全て残肝再発を認め,腸間膜,肺,脳,骨への転移や腹膜播種が併存する症例もあった.報告例のうち転帰の記載がある26例における生存期間中央値は14か月であった.

Table 2  Summary of reported cases of neuroendocrine carcinoma
Case​ % Case %
Gender Synchronous metastasis​
 M 35​ 68.6  Present 14​ 27.5
 F 16​ 31.3  Absent 30​ 58.8
Age (y.o)  ND 7​ 13.7
67​ (8–84) Details of Metastasis* (n=14)
Symptom*  Lung 7​ 50.0
 None 19​ 37.3  Lymph node 6​ 42.9
 Abdominal pain 14​ 27.4  Bone 3​ 21.4
 Jaundice 4​ 7.8  Pancreas 2​ 14.3
 General fatigue 4​ 7.8  Liver 1​ 7.1
 Abdominal mass 3​ 5.9  Adorenal grand 1​ 7.1
 Anorexia 2​ 3.9  Bone marrow 1​ 7.1
 Weight loss 1​ 1.7  Diaphragm 1​ 7.1
 Edema 1​ 1.7  ND 3​ 21.4
 Liver dysfunction 1​ 1.7 Histopathology mean (range)
 Liver Abscess 1​ 1.7  Ki-67 (n=9) 57​.5%​ (30–90)
 Nausea 1​ 1.7  Mitosis (n=6) 18/10​HPF (2–98)
Treatment*
 Operation 24​ 47.1
 None 9​ 17.6
 Chemotherapy 9​ 17.6
 TACE(I) 4​ 7.8
 Radiation 1​ 1.7
 Chemoradiation 1​ 1.7
 ND 4​ 7.8

ND=not discribed, *=overlapping

Table 3  Outcome in reported cases of primary hepatic NEC
Case %
Recurrence after operation (n=25) Present 8​ 32​.0
Absent 12​ 48​.0
ND 5​ 20​.0
Details of recurrence (n=8, overlapping) Remnant liver 8​ 100​
Lung 2​ 25​.0
Lymph node 1​ 12​.5
Bone 1​ 12​.5
Brain 1​ 12​.5
Peritoneal dissemination 1​ 12​.5
Outcome Alive 21​ 41​.2
Died 25​ 49​.0
ND 5​ 9​.8
 
Median survival time 16​.0 months
1-year survival rate 54​.8 %
5-year survival rate 24​.9 %

ND=not discribed

肝原発NECの画像所見は,超音波上は不均一な高エコー腫瘤として描出され,単純CTではlow density,造影CTでは腫瘍の中心にlow densityを伴い周囲は造影されることが多いといわれる19).しかし,画像所見のみでの診断は困難とされており,大多数の症例では切除標本や剖検でNECと確定診断される.肝臓は他臓器原発NECの転移好発部位であるためそれらを除外する必要がある.本症例ではCT angiographyでring enhancementを認め,mp,n0とそれほど進行していないものの直腸癌の既往を有していたことから転移性肝癌と術前診断したが,摘出検体の病理組織学的所見ではNECの診断であった.転移性NECの可能性も考慮したが,術前のCTやPET-CTおよび上下部内視鏡検査で他臓器病変は認めなかったことを踏まえ,肝原発神経内分泌癌の最終診断に至った.超音波ガイド下fine needle aspiration(FNA)生検や肝生検で確定診断を得た報告例もあり9)14)24),切除不能例で画像検査のみでは診断に難渋する場合はこれらの方法も診断の一助となる可能性がある.

本症例は術前のPET-CTで原発巣以外には集積を認めなかったにもかかわらず術後1か月と極めて早期に再発を来している.Ki-67が90%以上の細胞に陽性で非常に細胞増殖能の高い腫瘍であったことを考慮すると,画像では検出不能な微小転移が術前から存在した可能性が高い.National Comprehensive Cancer Network(NCCN)やNorth American Neuroendocrine Tumor Society(以下,NANETSと略記)Consensusのガイドラインでは切除可能なNECに対しては術後補助化学療法の施行が推奨されている35)36).過去の報告では肝原発NECの再発症例全てが術後6か月以内に再発している5)15)16)22)26).消化器領域のNECの中でも特に高悪性度の肝原発病変では診断した時点で既に全身疾患と捉えるべきで,可能なかぎり術後早期での補助化学療法が必要と考える.

化学療法は術後補助療法および進行再発治療ともに組織学的に類似性を示す肺小細胞癌に準じたレジメンが推奨されており,具体的にはcisplatin(carboplatin)+etoposideもしくはcisplatin+irinotecanが挙げられている35)36).NANETS Consensus Guidelinesによると,消化管由来の転移性NECに対するcisplatin+etoposideの奏効率は41.5~67%程度とされ36),肝原発NECの再発に対しても同様の治療が望ましいと考えられる.しかし,前述のレジメンに抵抗性を示した場合に現状では十分な効果を得られる薬剤がないことが課題である.現在当院では悪性神経膠腫に適応されるtemozolomideを使用した臨床試験を実施しているが,その効果を論じるためには今後の症例の蓄積が必要である.生存期間の延長のためにはさらなる有用なレジメンの開発が急務である.

利益相反:なし

文献
 

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