The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CLINICAL EXPERIENCE
Prognosis of 17 Patients under 30 Years Old with Abdominoperineal Resection for Severe Anorectal Crohn Disease
Nao ObaraKazutaka KoganeiKenji TatsumiRyo FutatsukiHirosuke KurokiKyoko YamadaKatsuhiko AraiAkira SugitaTsuneo Fukushima
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2018 Volume 51 Issue 3 Pages 245-252

Details
Abstract

30歳未満で難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を施行したクローン病17例の臨床経過と予後を検討した.適応となった病態はのべ症例数で,直腸肛門狭窄12例,難治性痔瘻9例,直腸瘻4例,直腸膣瘻2例,骨盤内膿瘍2例,直腸尿道瘻1例,直腸周囲膿瘍1例,aggressive ulceration 1例,痔瘻癌1例であった.これらの病変により,全例,日常生活や就労・就学に支障を来していた.術後は前述の症状は全例で改善し,術前から未就労であった2例は未就労のままであったが,15例(88%)が就労,就学が可能となった.術後合併症は14例(82%)に認め,のべ症例数で人工肛門関連合併症8例,正中創SSI 5例,会陰創治癒遅延3例,性機能障害(術直後)2例,癒着性イレウス2例であった.クローン病の難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術は術後合併症があるものの,自覚症状の改善とQOLの向上に有効であり,若年者に対しても考慮すべき治療の選択肢と考えられた.

はじめに

クローン病に合併する直腸肛門病変のうち,内科的治療やseton法をはじめとする局所外科治療で改善しない難治性病変は直腸切断術を含む人工肛門造設術の適応である1).近年,内科的治療の進歩にもかかわらず,患者数や長期経過例の増加に伴い,若年でも直腸切断術を要する症例が増加している.

目的

難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を施行したクローン病症例のうち,30歳未満で手術をうけた若年症例の臨床経過と予後を明らかにするため,以下の検討を行った.

対象と方法

当科で2001年から2016年8月までに,30歳未満でクローン病に合併した難治性直腸肛門病変に対し直腸切断術を施行した17例を対象とし,直腸切断術前の状態,直腸切断術の適応となった病態とそれによる症状,術後の直腸肛門病変による症状,合併症を含めた予後についてretrospectiveに検討した.

結果

1. 症例の概要

男性が多く,クローン病発症時年齢は平均16歳(7~21歳)で,全例に大腸病変があった.直腸切断術施行時年齢は平均25歳(16~28歳)で,クローン病発症から直腸切断術までの期間は平均で112か月,最短57か月と長期経過例が多かった.直腸切断術後の観察期間の平均値は65か月(18~183か月)であった(Table 1).

Table 1  Clinical characteristics of 17 patients
Sex Male 12 : Female 5
Site of CD Ileocolitis 12 : Colitis 5
Average age at onset of CD (years) 16 (7–21)
Average age at APR (years) 25 (16–28)
Average duration from onset of CD to APR (months) 112 (57–210)
Postoperative monitoring after APR (months) 65 (18–183)

2. 直腸切断術前の治療

内科的治療が全例に行われ,seton法,切開排膿,痔瘻根治術,直腸肛門狭窄拡張などの局所外科治療がそれぞれのべ10例に行われた.腸管病変に対する手術既往は11例にあり,全例1回であった.難治性直腸肛門病変に対する人工肛門造設術(直腸温存)は4例(S状結腸双孔式人工肛門造設術2例,回腸双孔式人工肛門造設術1例,S状結腸単孔式人工肛門造設術1例)に行われていた(Table 2).

Table 2  Preoperative treatment for anorectal complications
Number of patients
Medical treatment
 5-ASA 17
 TPN 2
 ED 8
 Antibiotics 2
 Steroids 9
 Immunosuppressives 6
 Biologics 6
Surgical treatment
 Stoma creation 4
 Seton drainage 6
 I&D (Incision & drainage) 4
 Stricture dilatation 2
 Fistulotomy 1

3. 直腸切断術の適応

のべ症例数で,直腸肛門狭窄が12例,難治性痔瘻が9例,直腸瘻が4例,直腸膣瘻が2例,骨盤内膿瘍が2例,直腸尿道瘻が1例,直腸周囲膿瘍が1例,aggressive ulcerationが1例,痔瘻癌が1例であった(Table 3).

Table 3  Anorectal complications of 17 patients
Case Complex fistula Anorectal stenosis Rectal fistula Rectovaginal fistula Rectourethral fistula Perirectal abscess Pelvic abscess Aggressive ulceration Fistula cancer
1 + +
2 + +
3 +
4 + +
5 + + +
6 +
7 +
8 + + +
9 + + +
10 +
11 +
12 + +
13 + + +
14 + + +
15 +
16 +
17 + + +
Total 9 12 4 2 1 1 2 1 1

術前の主な症状はのべ症例数で,肛門痛11例,腹痛9例,頻便・漏便5例,発熱4例,下血2例,会陰部瘻孔からの尿漏出1例,肛門部腫瘤1例であった.これらの症状により,食事摂取困難,座位困難,外出困難,頻回の入院(8か月で3回)などがありQOLが低下し,就労・就学など社会生活に支障を来していた.

直腸切断術時の人工肛門造設部位は,回腸13例,横行結腸3例,S状結腸1例であった.

4. 術後経過

術後は前述の症状は全例で改善した(Table 4).

Table 4  Postoperative improvement of clinical symptoms
Symptom Number of patients Improvement (%)
Before APR After APR
Abdominal pain 9 0 100
Anal pain 11 0 100
Incontinence 5 0 100
Fever 4 0 100
Melena 2 0 100
Urine discharge from fistula 1 0 100
Perianal mass 1 0 100

術後合併症(Table 5)は観察期間中に14例(82%)に認め,のべ症例数で,人工肛門関連合併症が8例(傍人工肛門瘻孔6例,傍ストマヘルニア1例,人工肛門周囲膿瘍1例,傍人工肛門壊疽性膿皮症2例),正中創SSIが5例,会陰創が6か月以上完全に治癒しなかった会陰創治癒遅延が3例,性機能障害が2例,癒着性イレウスが2例であった.性機能障害の2例のうち,1例は一時的に射精障害を認めたが,内科治療で改善し射精可能となったため,現在は加療も行っておらず,もう1例は勃起・射精障害を認め,内科治療で勃起障害は改善したが,retrograde ejaculationは残存した.2例とも排尿機能障害は認めなかった.

Table 5  Postoperative complications
Complication Number of patients Incidence (%)
Delayed perineal wound healing 3 17
Stoma-related complications 8 47
 Peristomal fistula 6 35
 Peristomal hernia 1 6
 Peristomal abscess 1 6
 Peristomal pyoderma gangrenosum 2 12
SSI 5 30
Sexual dysfunction 2 12
Adhesive intestinal obstruction 2 12

もともと未就労であった2例(未就労の原因は不明)を除く15例で,術後に就労,就学が可能となり,就労,就学までの期間は,13例は術後6か月以内で,残りの2例はそれぞれ術後7か月,22か月であった.

痔瘻癌を合併した1例は,術後病理組織学的検査でmuc,type 2,65×45 mm,P,INFb,A,PN0,ly0,v1,pN0,PM0,DM0,RM0,pStage IIであった.術後補助化学療法を施行,直腸切断術後12か月で局所再発のため再手術を行ったが,断端陽性で放射線化学療法を継続して,直腸切断術後45か月で死亡した.

痔瘻癌合併例を除く16例中7例(44%)で術後に再手術を要し,手術理由はのべ症例数で,人工肛門関連合併症が6例(人工肛門周囲瘻孔2例,人工肛門口側狭窄2例,人工肛門周囲膿瘍2例,傍人工肛門ヘルニア1例),他の腸管病変の再燃が5例であった.

考察

クローン病では経過中に高率に直腸肛門病変が合併し,その頻度は,59.4~92.8%2)~5)とされている.直腸肛門病変は若年で発症することも多く,クローン病の初発症状としても重要である6).クローン病の直腸肛門病変は多発性,難治性,再発性であることが特徴であり2)5),長期経過の中でQOLにかかわる重要な因子である.肛門機能の温存を考慮した治療が第一選択であり,内科的治療や局所外科治療が基本となる.

これらの治療で症状が改善せず,QOLが著しく低下している場合には,直腸切断術を含む人工肛門造設術が必要となる.

クローン病に合併した直腸肛門病変に対する人工肛門造設率は,本邦では,10.6~37%2)~5),欧米では,20~62%7)~12)と報告されており,難治性直腸肛門病変の頻度は少なくとも直腸肛門部病変合併例の10%以上と推定される.

難治性直腸肛門病変に対する人工肛門造設術後,直腸肛門病変による症状の改善は63.8~100%3)11)13)14)に得られ,有用である.一方,造設した人工肛門の閉鎖率は本邦では20%3),欧米では26~76%11)14)~17)とされ,閉鎖後の再造設率が本邦では73%13),欧米では17~33%11)14)15)である.また,人工肛門造設後に直腸切断術を要した頻度は本邦では24~60%3)13),欧米では15~52%11)14)~17)である.

難治性直腸肛門病変に対して造設した人工肛門造設術後に最終的に人工肛門を閉鎖できたのは,本邦では9.5%13),欧米でも22%15)であり,人工肛門造設のみでは難治性直腸肛門病変自体の治癒は期待できず,80~90%の症例では永久人工肛門となると考えられる.

人工肛門造設術のみを行った症例では,空置した残存直腸に配慮が必要で,空置腸管に癌を発生した症例の報告もあり13),癌に対する考慮も必要である.クローン病に合併する癌は,欧米では右側結腸に多いのに対し,本邦では左側結腸,特に直腸肛門部に多い18).クローン病に合併した癌に対する有効なサーベイランス方法は確立されていなかったが19),厚生労働省炎症性腸疾患研究班で直腸肛門管癌に対するサーベイランス法が作成されつつある20).癌の確定診断には病理組織学的検査が必要で,直腸肛門部病変を伴った症例では疼痛や狭窄により,直腸指診,直腸肛門鏡や大腸内視鏡検査は困難である.大腸内視鏡検査で早期に発見された例や切除標本に早期癌が発見された例があるものの,MRIは進行癌の発見は可能な場合があるものの早期発見に寄与せず9),一般的には早期発見は困難である.

以上の背景などから,クローン病に合併した直腸肛門管癌は進行癌が多く,予後が不良である21).また,クローン病に合併する直腸肛門部癌はクローン病発症後長期経過例に多い21).今回,30歳未満で直腸肛門管癌を合併していた症例を経験しており,若年者でも直腸肛門病変発症後長期経過例では十分に注意が必要である.これらの理由から,人工肛門を造設しても結果的に直腸肛門が機能しないのであれば発癌前の切除を考慮するとの意見もあるが21),現状では症例数が少なく一般的なコンセンサスが得られていない.

クローン病の難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を要する症例は,クローン病発症から直腸切断術まで長期経過例が多く22),今回の検討でも平均112か月,最短57か月であった.24%には人工肛門が造設され,その他,内科的治療や局所外科治療も行われていた.適応となった病態は直腸肛門狭窄が最も多かった.

直腸切断術は病変自体が切除され症状改善に有用であるが22),術後合併症が問題となる.合併症には会陰創治癒遅延,腹腔内膿瘍,人工肛門関連合併症,性機能障害などがあげられている1)22)

会陰創治癒遅延の発生率は35%23),42%22)とされ,また,会陰創に分泌物を排出する瘻管を形成するperineal sinusの発生率は8%22),23%24)との報告されている.また,今回の検討症例にはなかったが,当科の直腸切断術施行例には会陰創小腸瘻の合併もあり,その頻度は6.1%で,注意を要する25)

腹腔内膿瘍の発生率は,8.3%22),17%23)と報告されている.

クローン病の人工肛門関連合併症の頻度は,直腸切断術や人工肛門造設のみの症例を含め36.8%と報告され26),陥没,脱出,人工肛門周囲膿瘍,瘻孔形成,傍人工肛門壊疽性膿皮症,人工肛門口側狭窄などがある.これらの合併症により人工肛門再造設を要する率は,人工肛門造設後10年で37%と報告されている26).長期経過例ではその発生が問題となる.

直腸切断術では骨盤内自律神経損傷による性機能障害の可能性がある.クローン病での直腸切断術における発生率を検討した報告はなかったが,同じ炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎の大腸全摘術では男性の3%に認めた報告がある27).当科での全年齢を対象とした性機能障害の頻度は1.4%(2/136例)であり,今回の若年者の2例であった.2例中1例は現在改善しており,長期の性機能障害の頻度は(retrograde ejaculation)6%(1/17例)である.本合併症は,特に若年者にはQOLの著しい低下を来すことから,手術時には十分に留意する必要がある.

今回の検討では,クローン病の難治性肛門病変に対する直腸切断術は,30歳未満の若年者であっても,術後合併症があるものの,癌合併例以外では自覚症状の改善とQOLの向上に有効であり,術前未就学・未就労例を除く全例で社会復帰可能であった.

クローン病の難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術の有用性に関する報告はこれまでにも散見されるが22)28),良性疾患であるクローン病症例に永久人工肛門を造設することに否定的な考え方もあり,本邦では,直腸切断術は人工肛門造設後にも改善しない難治性直腸肛門病変のためQOLが著しく低下している症例と直腸肛門癌の合併症例に対して行われるのが一般的であった1).特に若年者においては,医師側からも患者側からも永久人工肛門の受け入れが困難であった.

一方,欧米では,以前から難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術の有用性に関する報告があり29),人工肛門のみを造設する方法は骨盤内感染や全身状態不良のため直腸切断術がすぐに行えない症例や直腸切断術が受け入れられない症例に適応があるとする報告もある30).また,難治性肛門病変と大腸病変を有する場合には早期から直腸切断術を考慮すべきという報告や31),狭窄を有する場合の人工肛門造設術には注意が必要であるという報告もある32)

クローン病患者において,腸管病変と同様に直腸肛門部病変に対する根治的治療は存在しない.近年,生物学的製剤などの内科的治療の進歩は目覚ましいものがあるが,直腸肛門病変に対する効果はいまだ一定の見解はなく7)10),生物学的製剤登場前後で難治性直腸肛門病変に対する人工肛門造設率は変わらないという欧米の報告もある14)

人工肛門造設のみを行った症例の20%以上が最終的に直腸切断術が必要で,約90%の症例が永久人工肛門となり,若年でも空置した腸管に癌を発生した症例があることから,当科では,クローン病に合併する難治性直腸肛門病変を有する症例に対しては,現在,年齢に関係なく,術前に十分に説明し,同意が得られた場合には,人工肛門のみを造設するのではなく,直腸切断術を行う方針としている.

以上から,クローン病に合併した難治性直腸肛門病変で著しくQOLが低下している若年者に対し,直腸切断術は考慮すべき治療の選択肢と考えられた.今後は長期予後を含めたさらなる検討が必要である.

なお,文献は,医学中央雑誌(1977~2016年)では「クローン病」,「直腸肛門病変」,「直腸切断術」,「人工肛門造設術」を,PubMed(1950~2016年)では,「Crohn’s disease」,「anorectal complication」,「abdominoperineal resection」,「fecal diversion」をキーワードとして検索した.

利益相反:なし

文献
 

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