2019 Volume 52 Issue 10 Pages 605-610
症例は39歳の男性で,骨盤内solitary fibrous tumorに対して腫瘍膀胱前立腺合併切除,代用膀胱造設術を施行された.術後12日目より腸閉塞を発症し,精査の結果,腹腔内に遊離された左尿管を原因とする内ヘルニアと診断したため,同22日目に再手術を施行した.術中所見では,左傍結腸溝に突出した左尿管がヘルニア門となり,同部位に小腸係蹄が陥入していた.内ヘルニアを解除し,尿管を大網で被覆して手術を終了した.術後経過は良好で,再手術後32日目に退院した.尿管が原因となった,極めてまれな内ヘルニアの症例を経験した.
We encountered a 39-year-old man who was given a diagnosis of solitary fibrous tumor and underwent radical cystoprostatectomy and urinary tract change (preparation of a neobladder). A small bowel obstruction appeared on postoperative day 12; intestinal radiography and abdominal CT revealed that the obstruction was caused by the left urinary tract. We re-operated on postoperative day 22 to release the obstruction. In the operative view, the left urinary tract was exposed to the left colic gutter and looped. One meter of small intestine had invaginated into the loop, but no significant bowel ischemia or gangrene was found. After releasing the internal hernia, we covered the exposed urinary tract with omental fat to prevent hernia recurrence. The postoperative course was uneventful. An internal hernia caused by the urinary tract is very rare.
内ヘルニアは術後起こりうる腸閉塞の一つであるが,手術操作で剥離した尿管が原因となった内ヘルニアの報告は非常に少ない1)~3).今回,尿路変向を伴う泌尿器科術後に尿管が原因となって内ヘルニアを来した,まれな1例を経験したので報告する.
患者:39歳,男性
主訴:嘔吐,食事摂取困難
既往歴:特記事項なし.
術前経過:健診での右水腎症を契機に,16 cm大の骨盤内腫瘍を指摘され,当院泌尿器科に紹介となった.精査の結果,solitary fibrous tumorの診断となり,腫瘍膀胱前立腺合併切除の方針となった.手術は経腹アプローチで行われ,骨盤内腫瘍を膀胱や前立腺とともに摘出した後,Hautmann型代用膀胱による尿路変向術が施行された.尿管と代用膀胱の吻合部の緊張を緩和するため,尿管は両側とも尿管膀胱移行部から中枢側へ約20 cmにわたり後腹膜から剥離された.中枢側左尿管の剥離に際しては,S状結腸を外側から授動してアプローチした.代用膀胱近傍の両側尿管は,吻合部を含めて,ダグラス窩周囲の腹膜で後腹膜化されたが,S状結腸間膜外側の左尿管の後腹膜化は行われなかった.術後4日目から食事を開始したが,同12日目から嘔吐が頻回となり,術後腸閉塞の診断で当科に依頼があった.同14日目にイレウス管を挿入し間欠持続吸引を開始したが,腸閉塞の改善は認められなかった.精査の結果,左尿管によって形成されたループに小腸係蹄が陥入し,内ヘルニアを形成していると考えられたため,同22日目に再手術を施行した.
再手術前の血液検査所見:WBC 16,100/μl,Hb 12.3 g/dl,Plt 96.6×104/μl,CK 67 U/l,CRP 1.55 mg/dl.
再手術前腹部単純X線所見:小腸拡張を認めた.左尿管ステントは蛇行して,ステントの先端は腎盂から逸脱していた(Fig. 1).

X-ray examination reveals a dilated small intestine and a tortuous left urinary stent (arrows).
イレウス管造影および造影後の腹部単純CT所見:イレウス管留置部の小腸は拡張していた.尿管ステントが挿入された左尿管と交差する部位で腸管が狭小化し,交差部より肛門側で再度小腸の拡張を認めた(Fig. 2A~C).造影後の単純CTでは,イレウス管先端から数cm肛門側の小腸係蹄が腹腔内に突出した左尿管で形成されたループに陥入しており,閉塞起点となっている(Fig. 2D).

A–C: Abdominal CT performed after intestinal radiography reveals that the enhanced small intestine has entered the posterior space of the left urinary tract (arrowheads). D: The three-dimensional CT reconstruction reveals that the left urinary tract (arrowhead) forms a loop that causes a bowel obstruction.
以上より,後腹膜から遊離された左尿管によって形成されたループに小腸係蹄が陥入して内ヘルニアを形成したと考えられたため,再手術を施行した.
手術所見:前回手術痕に沿って下腹部正中切開で開腹した.前回手術の癒着を剥離して,左尿管を同定した.左尿管は左傍結腸溝で腹腔内に突出してループを形成していた(Fig. 3).形成されたループをヘルニア門として,約1 mの小腸係蹄が陥入していた.陥入した小腸は骨盤内や恥骨に癒着していたため,癒着を剥離した後,陥入小腸を引き出して内ヘルニアを解除した.陥入小腸に虚血を認めなかったため,切除せずに温存した.腎盂から逸脱した尿管ステントの位置を修正し,腹腔内に起立した左尿管を元の位置に戻した.周囲に大網を縫着して尿管を被覆し,手術を終了した.

The operative view. A: The left urinary tract is exposed to the level of the left colic gutter and is looped. A total of 1 m of the small intestine has invaginated the loop. B: After release of the internal hernia. The sigmoid colon is placed in the abdominal midline by the left hand of the assistant (*). The double-headed arrows indicate the head-to-tail direction and C the cranial direction.
術後経過:術後麻痺性イレウスが遷延したが徐々に軽快した.代用膀胱の自己管理の習得を待ち,術後32日目(初回手術後54日目)に退院となった.
内ヘルニアは体腔内の陥没部や裂孔部に臓器が入ることと定義されており,腸閉塞の原因の0.01~5%を占めるとされている4).術後内ヘルニアの原因は,消化管切除吻合に伴う腸間膜の欠損5),消化管再建に伴い形成された間隙6),術後の癒着によって形成された索状物などが報告されているが,自験例のように尿管を原因とした内ヘルニアの報告は極めてまれである.
内ヘルニアの診断に関して,以前は腸閉塞として手術を施行され,術中所見から診断に至ることが多かったが,近年ではCTなどの画像検査にて,closed loopの形成,腸間膜血管の収束像,腸管のcaliber change などの所見をもとに術前診断が可能になってきている7).自験例においては,イレウス管造影後の単純CTおよび3D再構築画像が診断に有用であった.明らかな腸管虚血や腹膜炎症状を来していない自験例のような場合,一連の画像検査が手術適応の判断において,重要と考えられた.
内ヘルニアの治療は,ヘルニア門の同定と腸管の整復,不可逆性の虚血腸管に対する腸管切除,ヘルニア門の閉鎖あるいは開放や切離による再発防止からなる8).自験例は,腹腔内の癒着剥離後に腸管を整復し,腹腔内に突出してヘルニア門を形成していた左尿管を大網で被覆して後腹膜上に固定した.本手技は,後腹膜線維症による尿管狭窄に対する術式の一部として,omental wrapping9)との名称で報告されている.大網の被覆によって内ヘルニアの再発を予防できるだけでなく,尿管と周囲組織の癒着も予防できる利点がある.
医学中央雑誌で1990年から2017年の期間で「尿管」,「腸閉塞」をキーワードに検索したところ,手術操作によって遊離された尿管による腸閉塞の報告は,本邦では自験例を含めて4例(会議録を除く)を認めるのみであった(Table 1)1)~3).自験例以外は,いずれも婦人科疾患で骨盤内郭清を伴う子宮全摘術を施行されており,尿路変向後の報告は,本邦では自験例が初であった.腸閉塞解除後の尿管については,自験例以外の症例では海外の文献も含め,尿管を大網や腸間膜で後腹膜上に被覆,あるいは周囲の結合織に縫着させて後腹膜上に固定することで,再発防止を図っていた1)~3)10)11).
| No | Author | Year | Age/Sex | Previous operation | Operative procedure | Outcome |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Ishikawa1) | 2014 | 50/F | Radical hysterectomy Bilateral salpingo-oophorectomy Pelvic lymph node resection |
Release of the internal hernia Covering the bilateral urinary tract with mesenteric fat |
Discharged on postoperative day 7 |
| 2 | Tomiie2) | 2014 | 32/F | Laparoscopic total hysterectomy Pelvic lymph node resection |
Partial resection of the small bowel Separation and re-anastomosis of the right urinary tract and securing the tract to retroperitoneal fat |
Discharged on postoperative day 10 |
| 3 | Okahata3) | 2018 | 45/F | Radical hysterectomy | Release of the internal hernia Fixing the right urinary tract to retroperitoneal fat |
Discharged on postoperative day 18 |
| 4 | Our case | 39/M | Radical cystoprostatectomy Urinary tract change (neobladder) |
Release of the internal hernia Covering the left urinary tract with omental fat |
Discharged on postoperative day 32 |
自験例は左尿管による絞扼が強固ではなかったため,腸管壊死が避けられ,さらに尿管ステントが留置されていたことで,尿路閉塞による水腎症も来すことなく,術前に十分な画像評価を行う時間的余裕があった.結果として正確な術前診断をもとに,尿管を温存することができ,尿管再建に伴う手術時間の延長や術後の尿管狭窄などのリスクを回避できたことは幸いであった.自験例の発生原因として,剥離された左尿管長が余剰であったことに加え,術後に左尿管ステントが腎盂から逸脱したことで,後腹膜から剥離された左尿管が腹腔内に起立し,ヘルニア門を形成しやすくなった可能性が考えられた.また,ヘルニア門を形成した部位の左尿管は,初回手術時に後腹膜化されておらず,この点も内ヘルニア形成に関与した可能性がある.本疾患はまれな病態ではあるものの,予防法として,再建時の尿管長が余剰にならないように留意することと,可及的に剥離した尿管を後腹膜化もしくは被覆しておくことが重要であると考えられた.
尿路変向や後腹膜リンパ節郭清などの既往のある症例の腸閉塞においては,腹腔内に遊離した尿管が絞扼起点となっている可能性があることに留意すべきである.
謝辞 本報告にあたり,泌尿器科手術に関してご指導下さった,慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室松本一宏先生に深謝いたします.
利益相反:なし