The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Aorto-Esophageal Fistula Rescued by Endovascular Aneurysm Repair after Surgery for Esophago-Gastric Junctional Cancer
Yasuhiro ShimizuJun KimuraHirochika MakinoAtsushi IshibeHirotoshi AkiyamaChikara KunisakiItaru Endo
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2019 Volume 52 Issue 10 Pages 564-571

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Abstract

症例は49歳の男性で,進行度IIIの食道胃接合部癌に対して,DCS療法2コース施行後に開腹下部食道胃全摘術,Roux-en Y再建を施行した.術後5病日に食道空腸吻合部の縫合不全を来し,同日吻合部ドレーンより血性排液を認めた.術後10病日に多量の吐血を認め,出血性ショックに陥ったため,同日緊急手術を施行した.吻合部背側の下行大動脈に約10 mmの穿孔を認め,ガーゼパッキングで止血した.術後11病日に大動脈ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair;以下,EVARと略記)を施行し,以降再出血は認めなかった.術後12病日に胸部食道切除,唾液瘻造設術を施行し,6か月後に空腸を用いた食道再建術を施行した.術後,縫合不全を認めたが,約3か月後に瘻孔閉鎖術を行い退院となった.EVARは通常大動脈瘤治療に使用されているが,上部消化管術後の大動脈食道瘻に対しても有用であると考えられた.

Translated Abstract

A 49-year-old man underwent total gastrectomy with lower esophageal resection and Roux-en Y reconstruction after 2 courses of DCS therapy for stage III esophagogastric junctional cancer. Suture failure of the esophago-jejunostomy occurred on postoperative day (POD) 5, and bloody drainage was observed from the anastomotic drain on the same day. On POD10, a large amount of hematemesis was noted, resulting in hemorrhagic shock, so emergency operation was performed. A perforation of about 10 mm in the descending aorta on the dorsal side of the anastomosis was found, and hemostasis was achieved with gauze packing. On POD11, endovascular aneurysm repair (EVAR) was performed, and no bleeding was observed. Esophagectomy was performed on POD12, and esophageal reconstruction using the jejunum was performed 6 months later. After the operation, suture failure was observed. However, about 3 months later, the fistula closed and the patient was discharged. Although EVAR is usually used for the treatment of aortic aneurysm, it can also be used for aorto-esophageal fistula after surgery for upper gastrointestinal tract.

はじめに

大動脈食道瘻は,非常に進行した食道癌症例や食道癌術後再発症例などで起きやすく,出血を来すと救命困難であることが多い1).一方,大動脈ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair;以下,EVARと略記)は大動脈瘤に対する治療として積極的に施行されており,良好な成績が報告されている2).今回,我々は食道胃接合部癌術後縫合不全による大動脈食道瘻に対してEVARを施行し救命した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

患者:49歳,男性

主訴:嚥下困難

既往歴:特記事項なし.

現病歴:嚥下困難を自覚し,近医で施行した上部消化管内視鏡で腹部食道から噴門部にかけて腫瘍性病変を認めた.同部位からの生検で中分化腺癌が検出され,精査・加療目的に当院紹介受診となった.

身体所見:身長170 cm,体重67 kg,その他特記事項なし.

上部消化管内視鏡検査所見:腹部食道から噴門部にかけて潰瘍浸潤型の腫瘍を認めた(Fig. 1a).

Fig. 1 

a: Endoscopic findings: Illegal infiltrative type tumor was recognized from the abdominal esophagus to the cardia portion. b: Enhanced CT showed wall thickening with contrast effect at the same site.

腹部造影CT所見:同部位に造影効果を伴う壁肥厚を認めた(Fig. 1b).

臨床経過:診断的腹腔鏡を施行し,胃癌,UE,type 3,60 mm,T4a(SE),N1,H0,P0,CY0,M0 Stage IIIA(胃癌取扱い規約第14版)と診断した.術前DCS療法:DOC(20 mg/m2),CDDP(30 mg/m2),S-1(120 mg/body)を2コース行った.総合効果判定はPRで,開腹下部食道切除胃全摘術,D2郭清,Roux-en Y再建を施行した.食道空腸吻合は経口アンビルと25 mm circular staplerを用いて,double stapling techniqueで行った.病理診断は,UE,yType 3,60×38 mm,por2>tub2,ypT2(MP),ly2,v0,ypN2(3/24),pPM0(8 mm),pDM0(120 mm),pRM0,ypStage IIBでR0切除であった.術後4病日に吻合部造影を施行したところ,腸管外への造影剤の流出を認め,縫合不全と診断した(Fig. 2).ドレナージは吻合部ドレーンより不完全ながらも行えており,同日より絶食および抗菌薬で保存的加療を開始した.術後5病日に吻合部ドレーンより260 ml/日の血性排液と下血を認め,Hb 6.6 mg/dlまで低下を認めた.CTでは明らかな動脈瘤の形成は認めず,一部吻合部周囲の腸管壁のCT値の上昇と壁肥厚を認め吻合部潰瘍による出血を疑った.上部消化管内視鏡も検討したが,縫合不全もあり内視鏡操作による吻合部の損傷を危惧し施行せず,その後輸血により貧血は速やかに改善しドレーン排液も少量で貧血の進行もなく経過した.

Fig. 2 

a: Upper gastrointestinal contrast examination revealed leakage cavity (white arrow) located on the back of anastomosis (black arrow). b: schema: (1) right anastomotic drain, (2) left anastomotic drain, (3) left thoracic drain.

術後10病日に突然多量の吐血を認め,意識レベルJCSIII-200,血圧60 mmHg,脈拍130回/分,Hb 4.9 mg/dlと出血性ショックに陥ったため,同日緊急手術を施行した.開腹すると,腹腔内には大量の血腫を認め,断裂しかかった吻合部の背側の下行大動脈に約10 mmの穿孔を認めた.大動脈クランプを行い同部位の縫合止血を試みたが,組織が非常に脆弱で困難であった.大動脈クランプが長時間に及び,これ以上の手術操作は危険と判断し,穿孔部にgelatin resorcinol formaldehyde glueを塗布しガーゼパッキングで一時止血を得て,ICUで全身管理を開始した.手術時間は263分,出血量は7,900 mlであった.手術翌日に撮影した造影CTで下行大動脈前面に仮性動脈瘤を認め(Fig. 3),止血目的に同部位にEVARを施行した(Fig. 4).CT上穿孔部位は腹腔動脈の中枢側11 cmに描出されており,その部位をcoverしつつ腹腔動脈にかからないように末梢側にステントグラフトをdeployし,続いて2 cmのoverlapが得られ左鎖骨下動脈にかからないように中枢側にもう1本ステントグラフトをdeployした(Fig. 4).以後,再出血は認めず,EVARに伴う合併症も認めなかった.

Fig. 3 

Enhanced CT showed a pseudoaneurysm on the anterior surface of the aorta (white arrow) and gauze on the further front (black arrow).

Fig. 4 

a: 3D CT: We performed EVAR with TAG® 20 mm×2. The two stents were positioned to overlap by 8 cm covering the pseudoaneurysm (white arrow) to prevent rebleeding. Black arrow points CA (celiac artery). b: schema.

EVAR施行翌日に感染制御目的に胸部食道切除,唾液瘻造設術を施行した.右開胸で手術を開始し,胸部食道を頭側よりで切離した後に右胸腔前後面にドレーンを留置した.その後,腹部操作に移行した.大動脈穿孔部はステント拡張に伴い約3 cm程度に拡大しており,腹腔内にステントが露出している状態であった.周囲組織で被覆を検討したが,炎症や変性が強く被覆困難であり,さらなる組織損傷を危惧し断念した.吻合部はほぼ断裂しており,下部食道を腹腔側から抜去し,挙上空腸は色調の良好な部位で切離し栄養路として腹壁に挙上した.大動脈穿孔部の左右にドレーンを留置し,頸部操作に移行し,食道の切離断端を粘液瘻として挙上した.その後全身管理およびリハビリテーションを積極的に行い,栄養状態・全身状態が整った6か月後に胸壁前経路で空腸を用いた食道再建術を施行した.手術時には穿孔部は周囲組織に被覆されており,栄養経路として空腸にWitzel法で腸瘻を造設した.術後縫合不全を認めたが,約3か月後に瘻孔閉鎖術を行い,食事摂取可能となり自宅退院した.術後1年後に脳転移が出現し,病巣に対してガンマナイフによる治療を行ったが効果は限定的であり,術後1年半で永眠された.

考察

大動脈食道瘻は後縦隔に位置する食道と大動脈が何らかの要因で瘻孔を形成した病態であり,その瘻孔を介して大出血を来すこととされている.食道切除後の合併症として発生し,その止血はおろか救命すら非常に困難といわれており1),Maroneら3)は大動脈食道瘻患者の60%が在院死したと報告し,またAkashiら4)は47例中22例が6か月以内に死亡したと報告している.Okitaら5)は,食道切除後の大動脈食道瘻の症例22例のうち生存例は3例のみと報告している.救命された症例はいずれも速やかな手術が施行されており6)7),大動脈食道瘻に対しては迅速な診断と対処が救命に必須であると考えられる.また,その症状の特徴として,前兆出血として吐下血を伴うことが多く,前兆出血後数日から1~2週間後に致命的な大出血が多いと報告されている8)

大動脈食道瘻の原因として,縫合不全による炎症の波及9)や吻合部潰瘍の直接穿破10)などが挙げられるが,staple lineと大動脈間の慢性的な機械的刺激が原因となったという報告もある5)11).いずれも後縦隔のリンパ節郭清により食道挙上胃管吻合部や食道空腸吻合部と下行大動脈が直接接触することが一因と考えられる.術前化学療法を施行した症例など縫合不全が危惧される症例では,手術の際に両者間に大網や腸間膜を介在させるなどの工夫も本症を予防するために効果的と推察される.また,自験例では縫合不全による炎症波及が誘因と考えられ,縫合不全と診断された時点でより強力なドレナージが必要であったと考えられる.そのためにドレーンの位置調整あるいは追加,さらに経瘻孔的ドレナージが有効であった可能性もあり,自省すべき点と考えられる.

また,前述のとおり上部消化管術後の吐下血に遭遇した際には本疾患を念頭におくことが重要であり,造影CTや血管造影などの積極的な検査が望ましい.画像診断で確証が得られれば,手術による瘻孔切除や後述するEVARにて緊急処置を行うことができる.自験例のように,術後早期の縫合不全症例では,前兆出血の段階で造影CTや血管造影で出血が必ずしも描出できるとは限らない.画像所見で診断に至らなくても,本症を念頭に置き,感染コントロール,抗潰瘍薬の投与,血圧コントロールなどできるかぎりの保存的治療に努め,本出血に迅速に対応できる準備を整えることが重要である.

治療としては,緊急手術で穿孔部の直接縫合を行う以外に,EVARの有効性が報告されている5)6)11)~14).EVARは大動脈瘤の治療として1990年代より海外で導入され始め,2000年以降本邦においてもその報告が増えており,良好な成績が報告されている2).主な合併症として,(1)エンドリーク,(2)側枝閉塞,(3)グラフト感染が挙げられる.感染性動脈瘤に対してはグラフト感染が危惧されるため,原則的に相対禁忌とされているが15),近年感染性動脈瘤に対しても手術より有効であったとの報告が散見され16),本症例のように感染を伴う大動脈瘻に対しても有効である可能性はある.

消化管術後の大動脈食道瘻に対してEVARを施行した症例の報告は極めて少ない.医学中央雑誌にて1964年から2018年10月の期間で「大動脈食道瘻」,「大動脈ステント内挿術」,およびPubMedにて1950年から2018年10月の期間で「endovascular aneurysm repair」,「aortoesophageal fistula」,などのキーワードで検索し,調べうる範囲では自験例を含めて8例の報告を認めるのみであった(Table 15)6)11)~14).症例の平均年齢は63歳,いずれも男性で,原発巣は食道6例,胃2例で,全例胸部中部食道より肛門側であった.進行癌は3例で術前化学療法を3例で施行されていた.術式はRoux-en Y再建が5例,胃管再建が2例,空腸置換が1例,食道空腸吻合1例であった.大動脈食道瘻の原因は縫合不全や膿瘍などによる炎症波及が6例,吻合部のstaplerによる大動脈への直接刺激が2例であり,出血時期は術後平均23日,自験例を含めて手術による止血を試みた後にEVARを施行した症例が2例であった.EVAR後の合併症として再出血が1例,ステント感染が1例でいずれも周術期死亡を来していたが,自験例を含む6例ではEVAR後の経過は良好であった.手術により直接縫合を行った後の再出血症例6)や止血術後経過中に動脈瘤が形成された症例5)に対してもEVARの有効性が報告されており,その高い出血制御能より手術で制御不能な症例に対しても有効であると考えられる.しかし,EVAR後に再出血やステント感染を来した症例の予後は不良であった.EVAR後の再出血は全身状態の悪化も伴い制御が困難と考えられ,またステント感染は敗血症に陥る可能性が高く,いずれも致命的になりうる.EVARを施行するにあたり,これらを防ぐように対策を講じることが重要であると考えられる.

Table 1  Cases of EVAR performed in esophageal-aortic fistula cases after upper gastrointestinal surgery
No Author Year Age Gender Disease Location Stage NAC* Surgery** Reconstruction Reason for aortaesophago fistula Period of bleeding Period of EVAR Complication of EVAR Survival at discharge
1 Sato6) 1999 54 M Esophageal cancer Lt Esophagectomy gastric tube reconstruction inflammation due to leakage POD46 POD145 alive
2 Mok12) 2004 67 M Esophageal cancer Mt + Esophagectomy Roux-en Y inflammation due to leakage POD27 POD27 alive
3 Nagao11) 2004 59 M Gastric cancer UE IIIA Esophagectomy+TG Roux-en Y mechanical stimulation caused by stapler POD18 POD18 rebleeding Death (POD32)
4 Okita5) 2005 65 M Esophageal cancer Lt I Esophagectomy Roux-en Y mechanical stimulation caused by stapler POD24 POD136 alive
5 Nishimura13) 2008 77 M Esophageal cancer Lt I Esophagectomy+PG jejunal interposition inflammation due to leakage POD18 POD18 alive
6 Matono14) 2011 55 M Esophageal cancer Mt III + Esophagectomy gastric tube reconstruction inflammation due to abscess POD24 POD24 infection of stent Death (POD84)
7 Matono14) 2011 77 M Esophageal cancer Lt I Esophagectomy gastrojejunostomy inflammation due to leakage POD18 POD18 alive
8 Our case 48 M Gastric cancer UE IIIA + Esophagectomy+TG Roux-en Y inflammation due to leakage POD10 POD11 alive

*: neoadjuvant chemotherapy, **: TG: total gastrectomy, PG: proximal gastrectomy

ステントの留置本数は全例で1本のみであったが,自験例では組織が脆弱で仮性動脈瘤の径が大きかったため,2本のステントをoverlapさせ穿孔部位をカバーするように留置した.組織の状況や動脈瘤の径に応じてステントの本数・位置をデザインすることが再出血を防ぐ有効な手段と考えられるが,複数本のステントを留置する場合は留置範囲が長くなるため側枝閉塞には注意が必要と考えられる.

また,ステント感染予防目的の抗生剤投与は,培養結果を参考に6か月投与した症例の報告6)12)があるが,投与期間に一定の見解がないのが現状である.感染性動脈瘤・食道瘻に対するEVAR後に4週間以上の抗菌薬投与が予後改善に寄与すると報告されており17),自験例においてもCRPが陰転化するまで4週間以上にわたり抗菌薬投与を行うことでステント感染を防ぎえた.また,抗生剤投与に加え,EVAR後に速やかに外科的ドレナージを行ったこともステント感染予防に寄与したと考えられる.しかし,自験例では外科的ドレナージの際に腹腔内でステントが露出した状態であり,周囲組織を用いたステント被覆が困難であった.ステント感染予防に大網を用いて人工血管を被覆することが有効であった症例の報告もあり18),可能であれば人工血管の被覆が必要と考えられた.

EVARは,以前は胸部および腹部大動脈瘤に対してのみ保険適応であったが,近年一部のステントグラフトにおいて仮性動脈瘤や大動脈穿孔・損傷にも適応となった.EVARは低侵襲であり,出血制御能も高く,今後さらなる応用がなされ,その利益を享受できる患者が増えることを期待したい.一方で,EVAR挿入後の長期予後は現時点では不明瞭であり,その予後の報告が待たれる.

利益相反:なし

文献
 

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