2020 Volume 53 Issue 2 Pages 139-146
症例は74歳の男性で,左腎盂腎癌術後,follow up CTで肝S7転移が疑われ,肝生検で神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)と診断した.肝S7病変へラジオ波熱凝固療法(radiofrequency ablation;以下,RFAと略記)を施行するも,9か月後に肝再発(S4:2か所,S5:1か所)を認め,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)を施行した.1年6か月後に両病変の増大を認めたため,S5へRFAを施行した.S4の2か所はRFAが困難であり,外科的切除の方針となり腹腔鏡下肝S4部分切除術を施行した.術後病理診断はWHO分類のNET G1に相当した.NETは,消化管や膵臓などに発生することが多く,肝原発のものは非常にまれである.
Neuroendocrine tumors (NETs) of the gastrointestinal tract, pancreas, and liver are very rare. We report a case of primary hepatic NET. The patient was a 74-year-old man who had undergone left renal pelvis carcinoma surgery, in whom liver metastasis in segment 7 was detected by follow-up CT. We performed a liver biopsy and a NET was diagnosed. We performed radiofrequency ablation (RFA) on segment 7 of the liver. Nine months later, he had a recurrence of liver cancer (segment 4: two sites, segment 5: one site), for which we performed transcatheter arterial chemoembolization. Eighteen months later, both lesions enlarged, and we performed RFA on segment 5. The two sites in segment 4 were difficult to treat by RFA, therefore a laparoscopic liver partial resection was performed. The postoperative pathological diagnosis was NET G1 according to the WHO Classification of Tumours of the Digestive System.
神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)は膵臓や消化管,肺においてしばしば認める1)2).肝臓はNETの転移が最も多い臓器であるが3),肝原発のものは非常にまれである4)5).今回,我々は肝原発神経内分泌腫瘍(primary hepatic neuroendocrine tumor;以下,PHNETと略記)の1例を経験したので報告する.
患者:74歳,男性
主訴:特記事項なし.
現病歴:左腎盂腎癌に対して左腎盂尿管摘出術後であった.術後3年目に肝S7転移が疑われ(Fig. 1),当院消化器内科で肝生検を行い,NETと診断した.肝S7病変へラジオ波熱凝固療法(radiofrequency ablation;以下,RFAと略記)を施行するも,9か月後に肝再発(S4:2か所,S5:1か所)を認め,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;以下,TACEと略記,薬剤にエピルビシンとリピオドールを使用)を施行した.1年6か月後にはこれらの病変の増大を認めたため,S5(径1 cm)へRFAを施行したが,S4の2か所はRFAが困難なため切除を目的に当科紹介となった.
Abdominal plain CT. The tumor is indicated by areas of hypointensity and is clearly demarcated in S7 of the liver. The diameter of the tumor is 2 cm (arrow).
既往歴:69歳時 左腎盂腎癌に対して左腎盂尿管摘出術,高血圧.
身体所見:身長154 cm,体重57 kg,眼球・眼瞼結膜に貧血や黄染なし.腹部平坦・軟,圧痛なし.ADLはPerformance Status:0と良好であった.造影剤アレルギー歴を認めた.
血液検査所見:肝炎ウイルスは陰性で,腫瘍マーカーや肝胆道系酵素に異常を認めなかった.Child-Pugh分類:Grade A(5点),肝障害度Aであった.ICG 15分値3.7%と正常であった.
腹部CT所見:造影剤アレルギーがあり,単純CTのみ施行した.肝S4に1 cm大の境界明瞭な低吸収域病変を2か所呈していた(Fig. 2).肝S5病変は,単純CT上では不明瞭であった.
Abdominal plain CT (a, b). The two tumors exhibit low intensity regions clearly demarcated in S4. Both tumors are 1 cm in diameter (arrows).
腹部MRI所見:肝S4の腫瘍はT1強調で低信号,T2強調で高信号であった.肝S5にT1強調で高信号,T2強調で低信号の部位を認めたが,RFA後の変化と考えられた(Fig. 3).
Abdominal MRI (a, b: T1-weighted image, c, d: T2-weighted image). The two tumors show low intensity areas in T1-weighted images, and high intensity areas in T2-weighted images in S4 (arrows). Following RFA high intensity areas in T1-weighted images, and low intensity areas in T2-weighted images in the liver S5 were observed (arrowheads).
FDG-PET所見:肝S4の病変以外には異常集積を認めなかった.
上部・下部消化管内視鏡検査所見:異常は認めなかった.
以上より,PHNETと診断し腹腔鏡下肝S4部分切除術を施行した.
手術所見:肝臓は辺縁整,正常肝の所見であった.腹水貯留やリンパ節腫大,腹膜播種はなかった.肝表面からは腫瘍は確認できず,術中超音波を用いて腫瘍位置を確認し肝S4部分切除術を施行した.手術時間127分,出血量は5 ml以下であった.
切除標本肉眼所見:重さ20 g.周囲との境界明瞭な10×8 mm大,9×7 mm大の白色充実性腫瘍を認めた(Fig. 4).
Macroscopic findings of the resected liver. The white solid tumors are 10×8 mm and 9×7 mm in size, and are well circumscribed.
病理組織学的検査所見:2病変ともに同様の組織像で,小型でN/C比の高い異型細胞が,索状・島状構造を形成しながら増殖していた(Fig. 5).周囲脈管への浸潤はみられず,肝切離面は陰性であった.免疫染色検査ではsynaptophysin,CD 56が陽性,chromogranin Aは一部陽性であり,MIB-1 indexは1.2%であることから,NET G1と診断した.
Histological findings of the resected specimen (a: HE stain ×200). There is increased proliferation of atypical small cells with a high N:C ratio forming both a funicular structure and island structure. Immunopathological examination (b: synaptophysin ×200, c: chromogranin ×200, d: MIB-1 ×200). Synaptophysin and CD56 were positive, chromogranin A was partially positive. MIB-1 index was 1.2%.
術後経過:術後経過は良好で術後7日目に退院となった.現在術後2年6か月であるが,無再発で経過している.
NETは,全身に広く分布する神経内分泌細胞由来の腫瘍である.2010年のWHO分類では,NETを核分裂像数,Ki-67/MIB-1 indexに基づく細胞の増殖動態を指標にNET G1,NET G2,NEC(neuroendocrine carcinoma)G3に大きく分類された6).2017年には膵原発NETに関しては分類が改定され,組織型から低分化型と高分化型に分類することでNETとNECに分け,NECからNET G3を分離することになった7).病期分類に関しては,消化管原発NETはWHO 2010分類,膵原発NETはWHO 2017分類(NET G1,NET G2,NET G3,NEC)に準じて分類されている.PHNETの病期分類はまだ定まっていない.今後はPHNET,消化管原発NETも膵原発NETの分類に準じて決定されていくであろうと予想される.
NETは低~中悪性度の高分化型の腫瘍であるが,NECは悪性度の高い低分化型の腫瘍であり予後不良である.NETの原発部位は,膵臓や消化管などの消化器や肺がほとんどであり,肝原発のものは極めてまれである.PHNETは1958年にEdmondson8)によって初めて報告され,NET全体に占める割合は0.3%とされており,非常にまれな腫瘍である5).肝臓は膵臓や消化管原発のNETからの転移が多く除外が必要である.今回の症例では全身精査で肝臓以外に原発巣と考えられる所見がないためPHNETと診断した.
PHNETの発生機序は明確にはされていないが,さまざまな仮説がある.以下の四つの仮説が提唱されている.
①肝内胆管上皮,肝内胆管周囲の付属腺管内に存在する神経内分泌細胞の悪性転化
②肝臓の幹細胞や未分化な細胞から発生した癌の分化
③肝細胞癌や胆管細胞癌が増殖する過程でNETへの分化
④異所性膵組織や副腎組織からの発生
などの説がある9).本症例については肝細胞癌や腺癌からの分化を示す所見や肝内胆管に近接する所見もないことから,肝臓の幹細胞や多分化能をもつ未分化な細胞から発生した可能性があると推測した.
PHNETの画像所見としては,単純CTでは低吸収域,造影CTで腫瘍の辺縁部で造影効果を認め.中心部は壊死を反映して造影されないことが多い10).MRIではT1強調像で部分的に高吸収域を伴う低吸収域,T2強調像では不均一な高吸収域を示すものが多い11).さらに進行したものであれば壊死性変化・石灰化を伴う12).しかし,このような画像所見はPHNET以外の原発性,続発性肝腫瘍にもしばしば認める非特異的所見であり,画像所見のみで診断をつけることは困難であり,肝生検や手術,病理解剖で診断をつけることが多い.本症例の画像も,造影剤アレルギーで造影CTは行えていないものの,上記画像所見に合致するものであったが,画像診断のみでは診断には至らず,肝生検にて確定診断に至った.また,Severiら13)はFDG-PETを施行し,NET G1で57%,G2で66%に集積を認めたとの報告をしており,感度は高くはないが,肝病変に集積を認めた症例において,他臓器原発の除外に有効である可能性がある.さらに,ソマトスタチン受容体シンチグラフィも本邦では2015年より保険収載され,CTやFDG-PETで同定困難な病変に対しても有用と報告されている14).
病理組織学的特徴には高異型度の神経内分泌細胞(N/C比が高く,小~大型で染色質に富む円形~紡錘形の核,核分裂が多い)から構成され,壊死巣や偽ロゼット様構造を伴う充実結節状胞巣やシート状胞巣で,線維毛細血管性の間質を伴い,充実性に増殖する特徴がある.診断には免疫染色検査も有効である3)15).本症例においてはsynaptophysin,CD56が陽性,chromogranin Aは一部陽性であり,MIB-1 indexは1.2%であることから,WHO分類に基づきNET G1と診断した.
治療としては外科治療が第一選択になる.Zhangら16)の報告では,PHNETに対して58例の肝切除術が施行され,5年生存率は80%,生存期間中央値148か月であったが,非切除症例の5年生存率は33%,生存期間中央値54か月であった.その他にQuartey4)の報告では,116例のうち98例に肝切除が施行され,5年生存率は75%であり,Hibiら17)はPHNETおよび転移性NETに対して21例の肝切除を施行し,5年生存率は73%と報告している.それぞれの報告の予後に大きな違いはなく,根治切除を行うことでPHNETの予後は比較的良好な傾向にある.非切除例に関してはTACE,RFA,エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy;PEIT),化学療法を用いて治療を行っているのが現状である18).切除不能例でも減量手術を行い,長期生存を得た報告もある19).化学療法ではエベロリムス,スニチニブ,ストレプトゾシンの有効性が示され,本邦で保険承認が得られている20).
医学中央雑誌で,WHO分類が改訂された2010年から2018年12月までの期間で「肝原発」,「神経内分泌腫瘍」,「神経内分泌癌」をキーワードに検索したところ,会議録を除き16例の報告を認めた.本症例を加えた17例の報告をTable 1にまとめた9)19)21)~34).全ての症例はWHO 2010分類に準じており,NET G1が3例,NET G2が4例,NECが9例であった.NET G1,G2は6例が手術を施行され,RFAを組み合わせたものは1例であり,いずれも再発なく経過している.NECと比較してNET G1,G2は比較的予後は良好であり,外科切除困難な症例ではTACEやRFAが有効な治療となる可能性があるが,報告はまだ少ない.本症例ではRFAやTACE,外科的切除を組み合わせた治療を行っている.初回S7病変に対しては,深部に位置し2 cm程度と小さな病変であった.切除するには手術侵襲度も大きく,手術希望がなかったためRFAを行ったが,全経過を通じて同部位に再燃はみられず,腫瘍は遺残なく焼灼できたと判断した.9か月後にはS4とS5に計3個の肝再発がみられた.初回治療から比較的早期に再発を認めたが,S7病変の再発はなく,RFAにて局所制御を得ていたものと考えた.本邦の報告例で肝内転移を伴う症例は7例あり,7 cm以上の腫瘍が大半であったが,最小なものは3 cmと比較的小さな腫瘍でも肝内転移を来していた28).グリソン鞘近傍の腫瘍では,RFAにより肝内散布を引き起こす頻度が高いとの報告もある35).本症例の初回S7病変はグリソン鞘から離れており,また,再発病変に関しては,原発巣がないため,肝内転移による肝再発と推測した.S5病変はTACEでは治療効果は不十分であったが,RFAを行い再発なく経過している.肝細胞癌に対する熱凝固療法の適応は腫瘍径3 cm以下,腫瘍数3個以下が基準だが36),転移性腫瘍に対して明確な推奨基準は存在しない.大腸癌肝転移に関していえば,腫瘍径が3 cmと5 cm以上の症例で,RFAによる生存期間(中央値)に有意差を認めた報告がある37).吉田ら21)の報告では,PHNETに対して肝切除と2 cmの肝内転移病変に対してRFAを併用し,術後2年無再発で経過している.本症例も2年6か月と長期間にわたり無再発で経過している.全病変の腫瘍径は3 cm以下であり,腫瘍径を考慮したうえで,十分に腫瘍を遺残なく焼灼することができればRFAも有効な治療であることが示唆される.今回,外科的切除を行ったS4病変は胆囊に近く,また,肝表面の病変であったため,RFAにより癌細胞を撒き散らす可能性も考慮し,RFAは困難と判断し外科的切除を選択した.腫瘍病変の大きさや局在位置にあわせてRFAや外科的切除を使い分けることでより治療効果を高めることができると思われる.しかし,手術以外はまだ明らかなエビデンスが得られていないため,手術以外の治療法に関しては症例を蓄積し検討することが必要である.
No. | Author | Year | Age | Sex | Size (cm) | Intrahepatic metastasis | MIB-1 index | Treatment | Grade | OS | Recurrence | Outcome |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Yoshida21) | 2013 | 38 | F | 13 | (+) | 4% | Operation, RFA | G2 | 24m | None | Alive |
2 | Yamazaki22) | 2013 | 45 | F | 14 | (−) | 10% | Operation | G2 | 12m | None | Alive |
3 | Ogino23) | 2013 | 65 | M | 3 | (+) | 45% | Chemotherapy | G3 | 6m | Liver | Dead |
4 | Ome9) | 2014 | 74 | F | 4 | (−) | 50% | Operation | G3 | 4m | Liver | Alive |
5 | Kawasato24) | 2014 | 80 | M | 2 | (−) | 70% | TACE | G3 | 14m | Lymph node | Dead |
6 | Kojima25) | 2014 | 70 | M | 8 | (+) | 85% | None | G3 | — | — | Dead |
7 | Kimura26) | 2014 | 57 | F | 2 | (−) | 1%< | Operation | G1 | — | None | Alive |
8 | Murata27) | 2015 | 82 | M | 10 | (−) | 90% | Operation | G3 | 5m | Liver | Dead |
9 | Sakae28) | 2015 | 40 | F | 3 | (−) | 1.4% | Operation | G1 | 36m | None | Alive |
10 | Onishi29) | 2016 | 57 | M | 6 | (−) | 72% | Operation | G3 | 8m | Liver | Dead |
11 | Sando30) | 2016 | 76 | F | 7 | (−) | 5% | Operation | G2 | 8m | None | Alive |
12 | Matsumoto31) | 2017 | 77 | M | 7 | (+) | <30% | Operation | G3 | 3m | Liver | Dead |
13 | Harada32) | 2017 | 69 | F | 3.5 | (−) | 90% | Operation | G3 | 19m | Lung, Liver | Dead |
14 | Kugiyama33) | 2018 | 40 | M | 12 | (+) | 10% | None | G2 | — | — | — |
15 | Sasaki19) | 2018 | 55 | F | 10 | (+) | 1%< | Operation | G1 | 24m | None | Alive |
16 | Manabe34) | 2018 | 84 | F | 15 | (−) | 90%< | Operation | G3 | 24m | None | Alive |
17 | Our case | 74 | M | 2 | (+) | 1.2% | Operation | G1 | 30m | None | Alive |
今後はさらに化学療法の進歩に伴い,化学療法を組み合わせてから腫瘍縮小を得て,切除を試みるような治療も有効な可能性があり,さらなる集学的治療戦略の構築が期待される.
利益相反:なし