The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
SPECIAL REPORT
How to Create an Operation Record with Presence and the Systematization of the Documents
Emi AkizukiIchiro Takemasa
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 53 Issue 2 Pages 198-204

Details
Abstract

手術記録に求められることは「臨場感にあふれ,正確かつ簡潔な記載」と「記録のシステム化」である.「臨場感にあふれ,正確かつ簡潔な記載」のために手術記録は5項目で構成している.①正確な「患者情報」,②正確だがシンプルでわかりやすい「シェーマ」,③手術のリアリティを伝える「術中写真」,④手術のクオリティがわかる「摘出標本」,⑤冗長ではない「手術記事」.特に③④は手術のリアルな証拠となる重要な項目である.さらに,当教室では「記録のシステム化」のために手術記録はFileMaker® Proを使用し作成・管理・保管している.ソフトウェアのデータベース機能により,手術記録作成時に登録した情報を癌登録やNCDと連携させ業務を効率化している.作成した手術記録はPDFで出力し書類として使用している.私たちは手術記録を通して手術の質と治療成績の向上を追求し,現在,そして未来の患者さんにより良い手術を提供することを目指している.

はじめに

手術記録の役割は一つではない.紹介元を含めた他施設や他診療科・医療スタッフとの情報共有,疾患および手術の基礎データ,手術手技の学習と定型化のためのツール,自施設の手術成績の証明,など複数挙げられる.

手術記録を作成する際に求められることは第一に『臨場感にあふれ,正確かつ簡潔な記載』である.手術記録の構成は,正確な「患者情報」,正確だがシンプルでわかりやすい「シェーマ」,手術のリアリティを伝える「術中写真」,手術のクオリティがわかる「摘出標本」,冗長ではない「手術記事」,の5項目としている.目指すのは,あとから手術記録をみた人がまるで手術に参加したかのように手術を理解できることである.

さらに,多忙な外科医の日常業務を効率化するために手術記録の作成とデータを一括管理できる『記録のシステム化』は精度の高い手術記録を教室員全員で維持するための肝となる.そのために手術記録にはFileMaker® Proソフトウェア(FileMaker, Inc., Santa Clara, CA, USA)を使用しテンプレートを作成し管理している.FileMaker® Proはデータベース機能を有しており,手術記録作成と同時に入力したデータからデータベースを作成できる.テンプレートに癌登録やNCDと連携した単語登録と個人情報の入力を設定することで,各種登録に応用可能なデータベースも作成できる.のちの手術レビューの際には共通のキーワードからの検索も容易であり手術成績の検証も即座に行うことができる.作成した手術記録はPDFで出力し書類として使用している.

このように多くの役割を果たすことができる当教室の手術記録を紹介する.

手術記録の変遷

当教室においても2016年以前は表紙のみを定めた紙媒体の手術記録を使用していた.手書きであり,患者情報や術前・術後診断,術式に使用する用語は日本語(例;S状結腸癌),英語(Sigmoid colon cancer),略語(SCA),ばらばらであった.シェーマや文章,摘出標本に関する記載は個々の外科医にゆだねられ,結果として完成した手術記録は完成度・ボリュームもさまざまであった.

また,手術記録の管理は手術記録の原本とコピーのファイリングを主とし,診療科/患者カルテ/臓器別チーム/外科医ごと,と複数のコピーとファイルによる煩雑なものであった.さらに,手術記録の管理用データベースだけでなく,手術成績のフィードバックのための疾患別データベース,癌登録やNCD登録ではまた別のデータベースを作成して登録を行っていたため重複する業務も多く,非効率的であり,多忙な外科医にとって大きな負担となっていた.

そこで,統一した書式・構成を使用して作成・管理・保管を一元化し,さらにデータベース作成も容易な手術記録を作成するために2016年から手術記録を電子化した.

臨場感にあふれ,正確かつ簡潔な記載

手術記録の書式は①患者情報,②シェーマ,③術中写真,④摘出標本,⑤手術記事,の順に各1枚,計5枚で構成している.

1枚目の「患者情報」では癌取扱い規約に準じた術前・術後診断のほかに術前治療の内容も記載する.手術情報として術式や術者・助手のフルネーム,手術時間,出血量,輸血の有無,記録の形態などの基本情報を記載する.長時間手術では手術のパーツ別の時間も記載し,手術レビュー時の参考としている.これらの情報はのちのデータベースの基礎となるので正確な記載を徹底している.

2枚目の「シェーマ」(Fig. 1)のキーワードは正確・簡潔・臨場感である.手術を正確に再現すること,解剖学的に正確であること,しかし,わかりやすくシンプルで簡潔に限られた紙面におさまること,ひとめで手術の概要と臨場感を伝えられることが大切であり,イラストのリアルさやアート性は重要ではない.

Fig. 1 

Schema for laparoscopic low anterior resection.

定型的な手術であれば模式図で表現し,腹腔鏡手術ではポート配置やプラットホームの種類,切離や剥離の手順とコンセプト,郭清範囲,主要な血管切離部位や腸管切離位置,再建後の図,といったおおよそ基本となる構成を記載する.また,腫瘍の状態や解剖学的特徴,その症例に特徴的な場面についても記載する.定型外手術では手術の手順がわかる模式的な図により手術の流れも表現する.

作画の方法は,手書きや電子化など外科医により異なるが,各手術の臨場感を表現するために構図や色彩にも各外科医が創意工夫を凝らしている.

3枚目は手術記録にリアリティを与える「術中写真」(Fig. 2)である.特に腹腔鏡手術の手術記録作成時には手術映像を見返し,手術開始時の腹腔内所見,主要な血管切離,剥離面の陰性化および神経温存の状態がわかる写真をキャプチャする1).手術映像からキャプチャした術中写真を使用することで郭清の精度や剥離面をひとめで評価することができる.これにより手術のクオリティが評価されるので,よい写真をキャプチャするためにより出血の少ない術野展開,正確な郭清,定型化された視野を強く意識することとなり手術技術の向上にも大きく貢献する.

Fig. 2 

Captured photographs from the operation video (laparoscopic low anterior resection).

4枚目は手術のクオリティがわかる「摘出標本」である.特に大腸癌では検体の剥離面の評価としてcomplete mesocolic excision(CME)2)/total mesorectal excision(TME)3)の完遂率が重要であるため,標本に腸間膜が付着したままの状態の4方向の写真と剥離面の評価を記載し,手術の精度を評価することをルーチンに行っている(Fig. 3).さらに,検体整理後の病理診断提出時の検体写真と取扱い規約によるsurgical findingsの記載も必須である.摘出標本の写真は手術のリアルな証拠となるため,非常に重要である.

Fig. 3 

Photograph of the operatively extracted specimen. The visceral mesorectal fascia is maintained and judged as TME complete.

5枚目の「手術記事」では症例ごとの特徴やその手術に特異的な点,手術時に工夫した点など,シェーマや術中写真を補足する情報を簡潔に記載する.術中のトラブルやトラブルシューティングについては行った手技も含めて具体的に記載する.使用したデバイスや糸などについても記載する.

(記載例)

1.全身麻酔下に載石位で手術を開始した.

2.小開腹・ポート挿入(Fig. 1);臍部を3.5 cm小切開し,E・ZアクセスTM100 mを装着した.腹腔内を観察し,肝転移・腹膜播種,腹水がないことを確認した.左下腹部に12 mm,左上腹部および右上下腹部に5 mmポートを挿入した.

3.腫瘍位置確認(前日に腫瘍肛門側にICG局注しマーキング);近赤外蛍光観察を用いて,腫瘍肛門側のマーキングを腹膜翻転部尾側に確認した.

4.内側アプローチ(Fig. 2)(Photo. 1);岬角尾側から内側アプローチを開始した.膜はうすく,組織は粗,脂肪は脆弱かつ易出血性であり丁寧に剝離操作を行った.直腸固有筋膜をメルクマールに,左右下腹神経及び左右腰内臓神経を温存して剥離を進めた.

5.D3郭清(Fig. 3)(Photo. 2, 3, 4);近赤外蛍光観察でICGが集積したリンパ節を郭清範囲に含めてIMA根部まで授動,根部より5 mm末梢側でエンドクリップTMII MLを使用しダブルクリッピングした後に切離した.続けてS状結腸間膜の背側授動を外側へ進めた.IMA切離と同じレベルでICV・LCAもクリッピングし切離した.さらに下行結腸・S状結腸外側の腹膜を切開し,剥離層を内側アプローチと連続させた.

6.直腸授動・切離(Photo. 5, 6);直腸左側から右側,背側の順に直腸固有筋膜をメルクマールに左下腹神経を確実に温存して直腸剥離・授動を進めた.腹膜翻転部の腹膜を切開し,CS観察下に腫瘍肛門側縁から3 cmのマージンを確保し腹膜翻転部で直腸間膜処理を行った.生食1 Lで直腸洗浄後にSigniaTMトライステイプルTM2.0リンフォース(Purple,60 mm)1回で直腸を切離した.

7.結腸切離(腹腔外操作);腫瘍口側から10 cmのマージンを確保し結腸間膜を処理した.Purstring鉗子を用いて結腸切離しEEATM28のアンビルを装着した.

8.腹腔内生食1 L洗浄後に止血を確認した.ICGを静注し吻合腸管血流評価を行った(血流良好).

9.DST吻合(Fig. 4)(Photo. 7, 8);腸間膜のねじれがないことを確認し,EEATM28Tri-Stapleを使用してDST吻合を行った.CSで吻合部を観察し,吻合部出血(−),Leak test(−)を確認した.

10.ドレーン留置(Fig. 5);左下腹部ポート創から仙骨前面に19Fr Blakeドレーンを留置した.腹腔内にガーゼ遺残がないことを確認し,ガーゼカウントを確認した.ポートを抜去し,刺入部腹壁出血がないことを確認した.

11.閉創;右下腹創は2-0VICRYL®で腹膜筋層をZ縫合した.正中創は0PDS II®で腹膜筋層を結節縫合した.皮下を生食洗浄し皮膚は4-0PDS Plus®で真皮縫合し,手術を終了した.

手術記録のシステム化

手術記録はFileMaker® Proソフトウェアで作成・運用している.全手術で統一の書式を使用するが,データベースが重要となる癌の手術では取扱い規約ごとに「患者情報」のテンプレートを設定している.また,手術記録システム担当者は定期的にバックアップをとり,データ保全をしている.

FileMaker® Proソフトウェアのテンプレートに術前診断・術後診断,手術時間・出血量,術者・助手,術式などの書式と用語を設定し,手術記録作成時にはデフォルトで設定された単語をドロップダウンで選択し各情報を入力する.FileMaker® Proソフトウェアにはデータベース機能があり,一括でデータ管理が可能であるだけでなく,用語が統一されているのでキーワードによる症例の検索も容易である.癌登録,NCDと連携しているので,各種登録もそのまま効率的に行うことができる.同時に臨床情報のデータベースとしても使用しており,正確なデータ収集が手術記録作成と同時に可能である.

また,PDFで手術記録を出力し書類として使用している.診療情報提供やカルテ保存などの日常臨床のほかに術後報告や学会発表などのプレゼンテーションにも使用しているが,書式が統一されることで必要な情報の確認が容易となり,字のうまいへたによる判読のストレスもない.書類が必要な際は随時印刷できるためコピーのような画質の劣化もなく,常に美しい手術記録を紹介元や他科への情報提供に使用することができる.

手術記録のレビュー

週1回の術後報告で全ての手術記録が提示される.手術記録を通して手術を振り返り,手術の反省点や次回手術への改善点の確認を科全体で共有する.また,若手の教育として手術記録の修正・改善の指導も併せて行っている.

結語

「臨場感にあふれ,正確かつ簡潔な手術記録」を作成することは自己研鑽にもつながり,手術手技の学習と定型化のステップとなる.「記録のシステム化」により業務が効率化され,データ管理や登録,手術成績の集計や自施設のクオリティ評価も容易となる.さらに,結果として第三者にも理解しやすく,情報共有しやすい手術記録が完成する.

このように,オペレコを極めることが手術の質と治療成績の向上につながる.私たちは手術記録を通して,現在,そして未来の患者さんにより良い手術を提供することを目指している.

利益相反:なし

FileMaker®は,米国および/またはその他の国における Claris International Inc. の登録商標です.

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top