The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Mullerianosis of the Sigmoid Colon
Yoshiko AikawaSoichi TanakaHiroki MoriTakachika OzawaSatoshi MatsudaNoritaka OdaKenichiro Arai
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2020 Volume 53 Issue 3 Pages 257-263

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Abstract

症例は41歳の女性で,5年前,他院で子宮内膜症の手術歴があった.便潜血陽性の精査目的に当院を受診した.精査でS状結腸に狭窄を認め,便通異常の原因と診断した.臨床的には子宮内膜症,病理所見(生検)では大腸癌を疑い,手術を施行した.病理検査の結果,粘膜下層と筋層には子宮内膜症の所見を,粘膜層と粘膜固有層には卵管内膜症の所見を認め,ミュラー管症と診断された.

Translated Abstract

A 41-year-old woman presented with rectal bleeding and inability to defecate. Gastrointestinal endoscopy revealed an epithelial tumor involving the sigmoid colon with obstruction. Based on the diagnosis of sigmoid colon carcinoma, surgery was performed. Pathologic evaluation of the surgical specimen revealed intestinal endometriosis. A detailed examination was performed using an immunostaining technique, and mullerianosis of the colon was diagnosed.

はじめに

子宮内膜症endometriosisとは,子宮内膜ないし子宮筋層以外の部位に子宮内膜組織,すなわち子宮内膜腺と子宮内膜間質が存在する状態である1).一方,卵管内膜症endosalpingiosisは,卵管上皮に似た良性の腺管上皮が異所性に存在する状態である1).子宮内膜腺,卵管型腺管に頸管腺を加えた良性のミュラー管型上皮が2種類以上混在する状態をミュラー管症mullerianosisという2).今回,我々は腸管に発生したミュラー管症の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:41歳,女性

既往歴:36歳 子宮内膜症手術(左卵巣チョコレート囊胞核出,骨盤内内膜症組織片切除)

現病歴:2013年9月,健診で便潜血陽性を指摘され,精査目的で紹介受診となった.1年前から排便時出血と排便異常を自覚していた.生理周期による症状の増減は認めていなかった.

術前検査:

〈下部消化管内視鏡検査所見〉 S状結腸に10 mm大の上皮性腫瘍を認めた(Fig. 1).屈曲部の病変でスコープコントロール不良のため,全景観察は困難であったが,粘膜面に腫瘍性の変化を認めた.さらに腸管の可動性が不良で同部位から口側へのスコープの通過は不可能であった.病変からの生検の結果(Fig. 2),不整腺管構造を認めたが,検体量が少なく,group 4の診断となった.

Fig. 1 

Colonoscopy revealed an epithelial neoplasm at the sigmoid colon. It was so complete stenosed that the scope could not pass [Low mobility of the intestinal tract prevented the scope from passing through] and we could not make a detailed observation.

Fig. 2 

Biopsy specimen HE ×5. We recognized irregular duct structures. There were no endometrial stromal ingredients, and we diagnosed this as group 4.

〈CT colonography所見〉 S状結腸に全周性の狭窄像を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

3D CT colonography. A complete stenosis was observed at the sigmoid colon.

〈腫瘍マーカー〉 CEA 0.4 ng/ml,CA19-9 4.4 U/ml,CA125 29.5 U/ml

〈血液検査所見〉 異常所見なし.

術前精査の結果,鑑別診断として,①腺腫,②腺癌,③異所性子宮内膜症を考えた.生検材料の病理結果で,子宮内膜症に特徴的な内膜間質成分を認めなかったことより,通過障害を伴う,②腺癌を一番に考え,手術の方針とした.

手術:2013年9月,腹腔鏡下S状結腸切除術,D3リンパ節郭清を施行した.

術中所見では,左卵巣の腸管への生理的癒着を認めたが,S状結腸の主病変と婦人科臓器との癒着は認めなかった.その他にも,腹腔内に内膜症性の変化を認めなかった.

摘出標本所見:病変は,粘膜面に肉芽腫様の隆起成分を2か所認め,同部位の直下は同心円状に硬結を触知し,粘膜下に腫瘍成分を有する,粘膜下腫瘍を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

Surgical specimen. A submucosal tumor was observed, and granulation tissue-like masses were detected in two areas in the mucosal side.

病理組織学的検査所見:HE染色:病変は,粘膜固有層から漿膜下層に存在した.粘膜下層から漿膜下層には子宮内膜間質を伴う腺管構造を認めた.一方,粘膜固有層・粘膜層には,内膜間質を伴わない乳頭状の腺管構造を認めた.免疫染色①(CDX2):腸管型上皮に陽性を示す染色法である.病変部は陰性であり,腸管型上皮由来の病変とはいえなかった.免疫染色②(ER):婦人科領域などの細胞に陽性を示す染色法である.病変部は陽性であり,内膜腺などを含むホルモン受容体陽性の腺管であることが分かった(Fig. 5).免疫染色③(CD10):子宮内膜間質などに陽性となる染色法である.粘膜下層から漿膜下層の病変には陽性細胞を認めたが,粘膜固有層の病変には認めなかった(Fig. 6, 7).

Fig. 5 

a: HE staining ×1. Two lesions were seen. One was found in the lamina propria, and the other from the submucosal layer to subserosal layer. b: CDX2 staining (Intestinal epithelia is stained.) ×1. The lesion did not stain, therefore it was found not to be an intestinal epithelia lesion. c: ER staining ×1. The lesion was comprised of estrogen-receptor-positive cells.

Fig. 6 

a: Submucosal to subserosal layer (ER staining ×5). We found duct structures and stromal ingredient. There was evidence of typical endometriosis. b: Submucosal to subserosal layer (CD10 staining ×10). Endometrial stromal cells were stained using CD10.

Fig. 7 

a: Lamina propria (HE staining ×40). We observed ciliated epithelial cells. b: Lamina propria (ER staining ×10). We recognized ER positive duct structure could be seen, but not in the stromal ingredient. c: Lamina propria (CD10 staining ×10). There were few endometrial stromal cells.

粘膜下層から漿膜下層の病変には内膜腺と考えられる腺管と内膜間質と考えられる所見を認め,典型的な異所性子宮内膜症endometriosisの所見であった(Fig. 6).一方,粘膜固有層には間質成分に乏しい軽度の異型を伴う腺管構造を認めた.Adenoma様の腺の密在や線毛細胞がみられ,卵管上皮様の所見であった.さらに,周囲に内膜の間質成分を認めず(Fig. 7),卵管内膜症endosalpingiosisと診断した.以上より,本症例は子宮内膜症と卵管内膜症の像が混在したミュラー管症の診断となった.

考察

ミュラー管症とは,ミュラー管由来の病変であり,子宮内膜由来の子宮内膜症,卵管由来の卵管内膜症,子宮頸管由来の頸管内膜症のうち,2種類以上が混在する状況である.1996年にYoungら2)が初めて報告して以来,現在に至るまでに20例以下の報告しかない.ほとんどが膀胱内への発生の報告3)で,その他の部位では,尿管4)5),卵管間膜6),鼠径リンパ節7),脊髄8)への発生の報告がある.1977年から2015年までの期間で,「ミュラー管症」,「mullerianosis」をキーワードに医学中央雑誌,PubMedで検索しえたかぎり,腸管へのミュラー管症発生の報告はなく,本症例が初の報告である.ミュラー管症の治療法としては,通常の子宮内膜症の治療と同様,ホルモン療法,外科的切除の報告がある3).尿管のミュラー管症から発生したと考えられる腺癌,腺肉腫の報告もある9)

卵管内膜症とは,組織学的に卵管上皮に似た良性上皮が異所性に存在する状態である10).我が国では1991年に東矢ら11)が報告したのが初めてであるが,それ以前には概念自体が存在しておらず,子宮内膜症と混同されていたり,異所性腺管とされていたものもあると考えられるため,実際の発生頻度については不明である.好発部位は子宮,卵管漿膜,ダグラス窩,大網,骨盤リンパ節であり,腸管への発生の報告は1977年から2015年の期間で医学中央雑誌での報告は認めず,同期間でPubMedで検索すると,2件の症例報告12)13)を認めるのみであった.本症例は,粘膜固有層には,卵管上皮に類似した腺管構造(adenoma様の腺の密在,線毛細胞,基底近くのリンパ球様の細胞が散見)を認め,卵管内膜症の所見であった.一方,粘膜下と筋層には,子宮内膜腺と内膜間質の両成分を認め,子宮内膜症の所見であった.以上の所見から,本症例では,2種類のミュラー管型上皮が同一病変内に認められたため,ミュラー管症と診断された.

卵管内膜症の発生機序については,通常の子宮内膜症と同様,明確な機序は不明だが,卵管上皮の移植(implantation)と腹膜中皮の化生(metaplasia)の二つの説がある10)11).本症例では,子宮内膜症手術(左卵巣チョコレート囊胞核出,骨盤内内膜症組織片切除)歴があり,卵巣囊胞核出時に通常の子宮内膜上皮とともに卵管上皮が移植された可能性も示唆される.

本症例は,通常の子宮内膜症であれば,粘膜病変を認めないが,卵管内膜症に伴う上皮性腫瘍部が併存していたため,大腸癌との鑑別が困難であった.さらなる鑑別を行うためには免疫染色検査が有用であったが,狭窄所見を伴う病変であり,外科的切除を選択した.術前に免疫染色検査を行うことで,内膜症である診断の元で手術に臨めば,郭清範囲を縮小できた可能性もあるが,内膜症を基盤とした悪性腫瘍発生の可能性11)14)15)もあり,大腸癌に準じた郭清を伴う腸管切除はやむをえなかったと考える.

本邦での腸管へのミュラー管症発生の報告はなく,本症例が初の報告である.本症例は,内膜症としては2度目の発症であり,再発も含めて注意深い経過観察が必要である.

利益相反:なし

文献
 

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