The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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SPECIAL REPORT
Tips for Concise and Clear Operation Record
Keiichi OkanoYasuyuki Suzuki
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2020 Volume 53 Issue 4 Pages 390-397

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Abstract

手術記録は外科医療において診療情報として必須であり,かつ外科医にとってイラストを含めた良い手術記録を書くことは,術者本人の手術を向上するためにも極めて重要である.さらに,わかりやすい手術記録を作成することにより,その患者に関わる全ての医療者の手術に対する理解が深まり,良質な医療につながる.手術記録を作成するときの工夫としては,手術内容は簡潔になるべく短い文章で記載する.用いた手術器械,糸などはできるかぎり具体的に記載しておく.時系列的な手技記載だけでなく,患者特有の所見,遭遇した予定外の局面とその対応,手術の工夫点なども記録する.手術イラストの役割は,一見でその手術を容易に理解できることであり,効果的に用いる必要がある.また,術中写真は実際の術野の状況を正確に知るためには有用である.これらを有効に組み合わせて,読む人に伝わるわかりやすい手術記録を書くことが重要である.

Translated Abstract

はじめに

手術記録は外科医療において診療情報として必須であり,かつ外科医にとってきれいなイラストを含めた良い手術記録を書くことは,術者本人の手術を向上するためにも極めて重要である.さらに,わかりやすい手術記録を作成することにより,その患者に関わる全ての医療者の手術に対する理解が深まり,良質な医療につながる.つまり,自分のための記録ではなく,他の人にその手術内容が伝わってこそ手術記録の意義がある.

特に肝胆膵領域や高難度手術においては手術のバリエーションが多く,手術記録の重要性は高い.一方,働き方改革が叫ばれる現代において,手術記録は多忙な外科医にとって負担となっているようにも思われる.フォーマットを用いて文章,イラスト,術中写真を有効に組み合わせ,なるべく時間をかけず効率的に,わかりやすい簡潔な手術記録を書く工夫も重要となる.

本稿ではこれらのポイントとコツを実際の膵尾部癌に対する膵体尾部切除術の手術記録をもとに述べる.

手術記録の実際

1. 表紙(Fig. 1

フォーマットを用いて必要な情報を記載する.施設名などが記載された手術記録の雛形を作成しておき,患者情報(生年月日や手術日は西暦が望ましい),術前・術後診断,TNMステージ(癌取扱い規約とUICCの最新版),術式,術者,助手(フルネームで),麻酔種別,手術・麻酔時間,出血量,輸血の有無(量)などは最低限記載する.NCD入力に必要な情報や手術にいたるsummaryもあれば良い.

Fig. 1 

The front cover of the operation record. The front cover should include the patient’s ID, name, date of birth and operation, preoperative/postoperative diagnosis (TNM Stage), type of surgical procedure, names of the operating surgeon and assistants, operative time, and intraoperative blood loss.

2. 手術内容記述(Fig. 2

簡潔に短い文章で記載する.場面毎にまとめ,用いた手術器械,糸などはできるかぎり具体的に記載しておく.また,膵体尾部切除においては器械による膵切離圧縮時間も重要である.肝切除ではPringle手技の時間や回数も必ず記載する.

Fig. 2 

The operative description sheet. The operative description must be concise and clear. This should be a step-by-step account of the operation including positioning of the patient, incision, approach, anatomical variations, and unexpected events during the procedure.

時系列的な手技記載だけでなく,その患者に見られた特有の所見や遭遇した予定外の困難な局面とその対応,手術の工夫点なども記録する.予定通りに行ったことは“型のごとく”でもよく,むしろその患者特有の所見などを詳細に記載すべきである.

3. 手術イラスト

よい手術イラストは,手術所見に関する文章を補助し,一目でその手術を容易に理解できる.イラストは数多く必要ないが,皮膚切開,術野の全体像(Fig. 3),切除後・ドレーン位置(Fig. 4)などは必須である.術野の全体像は最も重要であり,悪性腫瘍であれば,癌の主座とその広がり,周囲臓器や血管との関連について一目でわかるようなイラストを心がける.

Fig. 3 

The overview of the surgical field. The anatomical location and extent of the tumor in the surgical field should be visualized clearly.

Fig. 4 

The picture and figure of the surgical field after resection. Intraoperative photography could support the recognition of the actual surgical field.

膵体尾部癌においては膵背側における切離ラインが極めて重要であるが,イラストであればaxial imageで切離ラインをわかりやすく示すことが可能である(Fig. 5).

Fig. 5 

The axial image of the resection line. The illustration of the axial image is useful to understand the surgical dissection layer for malignant tumors.

色づけの有無は作成者の判断でよいが,色彩があればより理解しやすくなる.

4. 術中写真(Fig. 4

術野の実際の状況を知るためには重要であり,効率的に使うことで手術記録の作成時間を短縮できる.ポイントとなる術野写真は残すようにする.緊急手術においても穿孔や汚染の状況,外傷による損傷程度など,術中写真があれば臓器摘出がない場合においても有用な状況証拠となる.

また,写真にイラストを組み合わせることにより解剖学的な理解を補うことができる(Fig. 4).

術中エコーが重要な場合にはスキャンして簡潔な説明をそえて添付する(Fig. 6).

Fig. 6 

The key pictures of intraoperative sonography. The essential images of intraoperative sonography with brief comments to support the understanding of the surgical anatomy of the tumor.

5. 摘出標本写真(Fig. 7

特に癌の手術において重要であり,癌取扱い規約とともに含まれていることにより,手術の内容やコンセプトを理解しやすくなる.

Fig. 7 

The pictures of the surgical specimen. Clear pictures of the surgical specimens are important to understand the oncological concepts of the surgery.

よい手術イラストを書くために

わかりやすい手術記録を作成するうえで一つの鍵になるのは,美しいイラストではないかと考える.美しさとは芸術的な美ではなく,手術イラストにおいては,必要な所見が一目で理解することができる実用的な美であり,読む人に“伝わる”ことが最も重要である.しかしながら,最初からこのような手術イラストが描ける人はまれではないだろうか.

どのようにして習得するかは人によって異なるが,最も有効な方法は,よいお手本を“真似る”ことだと思われる.私自身も上手な先輩のイラストやイラストレイテッド外科手術1),ネッター解剖学アトラス2)などを手本にして,何度も繰り返し描くことによって少しずつ自分の思うイラストが作成できるようになってきたと思っている.最近では手術記録の書き方に関する成書3)も出されているので,これらを参考にして“真似”つつ,自分自身のスタイルを築き上げていくことが良いのではないだろうか.はじめは時間がかかるかもしれないが,繰り返すことによりその時間は短縮され,簡潔でわかりやすい手術記録が書けるようになると思われる.

実際には,私はシャープペンシルを用いて下書きをしたのちに,水性ペン0.5 mm幅(SAKURA MICRON PIGMA 05など)でラインを描き,下書きのラインを消した後に色鉛筆で色彩をつけている.手術の疲れや術後の業務も多く残されていると思われるが,手術記録やイラスト(できれば下書きだけでも)は記憶の新しい当日か翌日までには作成することが望ましいと考える.

まとめ

文章,イラスト,術中写真をうまく組み合わせてわかりやすい手術記録を作成することにより,患者に関わる全ての医療者の手術内容に対する理解が深まり,良質な医療につながる.大切なことは読む人に伝わることであり,また良い手術記録を書くために工夫・努力することにより術者本人の手術が向上していくことである.

利益相反:なし

文献
  • 1)  篠原 尚.イラストレイテッド外科手術―膜の解剖からみた術式のポイント―.第3版.東京:医学書院;2010.
  • 2)  Netter FH,相磯 貞和訳.ネッター解剖学アトラス.第6版.東京:南江堂;2016.
  • 3)  消化器外科編集員会.新 手術記録の書き方.消化器外科.2019;42:489–900.
 

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