The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Meckel’s Diverticular Adenocarcinoma Incidentally Detected and Resected during Surgery for Ascending Colon Cancer
Daisuke IitakaYusuke TakashimaFumiaki OchiSusumu NakashimaJunshin FujiyamaToshikazu KatoMasamichi BambaMamoru Masuyama
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2020 Volume 53 Issue 5 Pages 449-455

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Abstract

症例は76歳の男性で,ふらつきのため当院に救急搬送された.著明な貧血と腹部造影CTで上行結腸癌とその背側の膿瘍を認めた.経皮的に膿瘍ドレナージし,腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.術中に小腸間膜に播種結節を認めたため他部位の小腸を検索したところ,Meckel憩室を認め同時切除した.Meckel憩室には腫瘍を認め,術後病理検査でMeckel憩室腺癌と診断された.周囲には異所性膵組織を認め腫瘍との連続性や免疫染色検査から異所性膵組織から発生した腺癌であると診断された.術後,腹膜播種・肝転移を認め化学療法を施行したが術後2年3か月でBSCの方針となった.Meckel憩室の腺癌は極めてまれであり本邦では自験例をあわせて21例の報告のみである.今回,我々は免疫染色検査を用いて病理組織学的に異所性膵組織が発生母地であることを確認したMeckel憩室腺癌の症例を経験したので報告する.

Translated Abstract

A 76-year-old man was emergently brought to our hospital because of dizziness. He was given a diagnosis of severe anemia, ascending colon cancer, and abscesses on the dorsal side, on contrast-enhanced abdominal CT. Percutaneous abscess drainage was performed, followed by laparoscopic right hemicolectomy. During the surgery, disseminated nodes were noted in the mesentery of the small intestine. Therefore, other regions of the small intestine were examined, revealing Meckel’s diverticulum, which was simultaneously resected. A tumor was found in Meckel’s diverticulum and we diagnosed Meckel’s diverticular adenocarcinoma based on postoperative pathological examination. Ectopic pancreatic tissue continuously surrounding the tumor and immunostaining findings led to a diagnosis of adenocarcinoma originating from ectopic pancreatic tissue. After surgery, chemotherapy was performed for peritoneal dissemination and hepatic metastasis. However, at 2 years and 3 months after surgery, the patient started to receive BSC. Adenocarcinoma is uncommon among patients with Meckel’s diverticulum, with only 21 cases, including ours, reported in Japan. We herein report a case of Meckel’s diverticular adenocarcinoma originating from ectopic pancreatic tissue, histopathologically detected by immunostaining.

はじめに

Meckel憩室内に発生する腺癌は極めてまれ1)であり,本邦では自験例を含めて21例の報告があるのみである.本疾患は解剖学的な特性から症状を呈しにくく進行例になって発見される症例が多い.今回,我々は上行結腸癌手術時に偶発的に発見し切除したMeckel憩室腺癌の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:76歳,男性

既往歴:十二指腸潰瘍(保存治療)

家族歴,内服歴:特記事項なし.

現病歴:2016年4月頃よりふらつきを自覚していた.同年6月に歩行困難となり当院に救急搬送された.来院時腹痛も認めた.

来院時現症:意識清明であった.身長159 cm,体重42 kg,BMI 16.6であった.理学所見は右下腹部に圧痛および腹膜刺激症状を認めた.

血液生化学検査所見:炎症反応の上昇(WBC 10,200/μl,CRP 18.5 mg/dl)と著明な貧血(Hb 4.1g/dl,Hct 16.5%)を認める.また,CEAも高値(13.5 ng/ml)であった.肝腎機能を含めその他に異常を認めなかった.

画像所見:腹部造影CTでは上行結腸の壁肥厚とその背側の膿瘍形成を認めた(Fig. 1a).明らかな遠隔転移や他部位疾患は認めなかった.注腸透視では上行結腸に全周性の腫瘤を認めた(Fig. 1b).

Fig. 1 

(a) Abdominal CT findings with contrast. Intra-abdominal abscess near the ascending colon tumor (white arrow). (b) Water contrasted study showed the colonic stenosis.

下部消化管内視鏡検査所見:上行結腸に全周性の腫瘤を認めた.生検では中分化腺癌と診断された.

以上の所見より,上行結腸癌穿通による腹腔内膿瘍および貧血と診断した.

入院後経過:入院後RCCを合計8単位輸血した.膿瘍の縮小を期待して抗菌剤治療(MEPM)していたが縮小に乏しく,第5病日にエコーガイド下に穿刺排膿しチューブ留置とした.第11病日に食事を再開し第20病日に手術を施行した.

手術所見:臍に約3 cmの小切開を加え,同部位から5 mmポートおよび12 mmポートを1本挿入した.また,左側腹部および恥骨上より5 mmポートをそれぞれ挿入した.気腹下に腹腔内を観察すると,術前CTのごとく上行結腸に腫瘍を認め腹壁に浸潤していた.腹壁浸潤部を切除するように型のごとく腹腔鏡下結腸右半切除術,D3郭清(血管処理はICA根部およびMCA右枝)を施行した.再建時に回腸末端より約10 cm口側に播種結節を1か所認めたため,全小腸を腹腔外に導出して検索した.先の播種結節よりさらに約20 cm口側にMeckel憩室を認めたため同部位まで切除することとした.Meckel憩室は色調や硬度などは特に有意な所見を認めなかった.他部位に明らかな播種結節を認めなかった.再建は機能的端々吻合にて行った.手術時間は286分,出血量は480 mlであり術中にRCC 2単位を輸血した.

切除標本肉眼所見:上行結腸には60 mm大の腫瘍を認め,環周率は100%であった(Fig. 2a).Meckel憩室の先端にも約1 cm大の腫瘤を認めた(Fig. 2b, c).

Fig. 2 

Macroscopic view. (a) Ascending colon tumor. (b) Meckel diverticulum adenocarcinoma. (c) The resected 10 mm-sized Meckel diverticulum adenocarcinoma (white arrow).

切除標本病理組織学的検査所見:上行結腸癌は深達度SEの中分化腺癌でリンパ節転移は陰性であった(pT4aN0).Meckel憩室癌は中分化から乳頭管状腺癌で深達度はMPであった.また,播種結節にも結腸由来の悪性所見を認め結腸癌はpStage IVと診断した.Meckel憩室内には異所性膵組織もみられ,腫瘍との連続性を認めたため異所性膵よりの発癌と考えた(Fig. 3).また,上行結腸癌との鑑別のためサイトケラチン(以下,CKと略記)7および20免疫染色検査を行ったところ,上行結腸癌ではCK7(−)/CK20(+)の所見であったが,Meckel憩室癌ではCK7(+)/CK20(−)であり重複癌と考えられた(Fig. 4).

Fig. 3 

Microscopic view of Meckel diverticulum. HE stain. Ectopic pancreatic tissue in the carcinoma.

Fig. 4 

Immunohistochemistry (CK7, CK20) in the colon cancer and Meckel diverticulum adenocarcinoma. (a) (b) Colon cancer. CK7(−)/CK20(+). (c) (d) Meckel diverticulum adenocarcinoma. CK7(+)/CK20(−).

術後経過:術後の経過は良好であり術後10日目に退院となった.術後1年1か月で単発の肺転移を認め,これを切除した.病理所見では大腸癌由来のものであった.さらに,術後1年6か月で多発肝転移,腹膜播種を認めbevacizumabとFOLFOX療法施行したが,10コース施行にても病勢コントロールは困難でBSCの方針となった.

考察

Meckel憩室は胎生期の卵黄腸管の遺残による先天性小腸憩室で1809年にドイツのMeckelによって報告された.発生部位は回腸末端より約50~100 cm口側で腸間膜付着部対側に多いとされる2).発生頻度は剖検中1~2%で男女比は2:1と男性に多い3).Meckel憩室は小児~学童期に出血,感染,閉塞などの合併症を引き起こすことが多いが,Yamaguchiら1)の600例の検討によると腸閉塞・腸重積が約50%,憩室炎が12.7%,出血が11.8%,穿孔が7.3%であり,腫瘍は3.2%と報告されている.Weinsteinら2)はMeckel憩室腫瘍106例を集計し,その内悪性腫瘍が80例であり,内訳は肉腫35例(44%),カルチノイド29例(36%),癌腫16例(20%)と報告されており1),Meckel憩室癌は極めてまれな疾患と考えられる.自験例では腹腔鏡下上行結腸癌手術中に小腸間膜に播種結節を認め,全小腸を腹腔外に導出して検索したところ偶発的にMeckel憩室を発見し切除した.

医学中央雑誌で1983年から2018年12月の期間で,「Meckel憩室」,「癌」,「会議録を除く」をキーワードとして検索し,その関連文献を含め検索したかぎり,Meckel憩室腺癌の報告は自験例を含めて21例であった(Table 14)~23).症状は腹痛,嘔吐,腹部腫瘤,腹部不快感,下血など非特異的なものが多く,術前診断は困難である.また,解剖学的位置より狭窄症状を来しにくく,高度に進行して初めて症状が出現する症例が多い.このため早期に診断がされることはまれであり,自験例のように偶然に発見されることも多い.Meckel憩室腫瘍と術前診断された症例は2例のみでその内1例はカプセル内視鏡による診断であったが,カプセル内視鏡や小腸内視鏡も徐々に普及しているとはいえ一般化しておらず,術前診断は困難である.Meckel憩室の診断には99mTCシンチグラフィが一般には用いられるが,剖検例の約50%において異所性組織を認めない24)ことから診断率は高いとはいえない.

Table 1  Reported cases of adenocarcinoma of Meckel’s diverticulum in Japan
No Author Year Age Sex Preoperative diagnosis Histological type Ectopic tissue Chemotherapy Outcome
1 Yamaguchi4) 1989 55 M high CEA level tub1 stomach unknown 9 months die
2 Okuno5) 1989 34 M diverticuloma pap stomach CDDP, MMC, 5-FU 13 months alive
3 Takahashi6) 1991 43 M abdominal tumor asc nothing nothing 7 months alive
4 Sugie7) 1991 46 M small intestinal tumor tub nothing CDDP, 5-FU, OK432 18 months alive
5 Kusumoto8) 1992 54 M small intestinal tumor tub2 stomach CDDP, 5-FU 6 months alive
6 Takagi9) 1992 70 F mesentric tumor tub1 stomach unknown 3 months alive
7 Hiramatsu10) 1993 62 F small intestinal diverticuloma tub1~undifferenciated adenocarcinoma stomach unknown 9 months die
8 Kobayashi11) 1996 58 M ileus por nothing MMC intraperitoneal administration 12 months die
9 Oshiro12) 1999 69 M mesentric tumor tub2 unknown 5-FU+CDDP 18 months alive
10 Narumi13) 2007 55 M ileus tub2 nothing S-1 26 months alive
11 Yamada14) 2008 61 M urachal tumor tub1 stomach UFT→CDDP+S-1, PTX 15 months die
12 Matoba15) 2008 62 F small intestinal diverticuloma tub1 stomach nothing 60 months alive
13 Sato16) 2009 58 M Meckel’s carcinoma adenocarcinoma stomach nothing unknown
14 Sugito17) 2010 43 M small intestinal cancer tub1 stomach S-1+CDDP 8 months alive
15 Ishigami18) 2010 69 F ovarian tumor tub2 stomach S-1+CDDP 54 months alive
16 Muto19) 2010 42 M ileus adenocarcinoma stomach S-1 alive
17 Okumura20) 2015 69 M small intestinal tumor tub1 stomach, pancreas nothing 14 months alive
18 Maeda21) 2018 55 M ileus adenocarcinoma nothing S-1+PTX
→CDDP+CPT-11
17 months die
19 Sakoda22) 2018 91 M peritoneum por pancreas nothing 4 months die
20 Chinen23) 2018 57 F small intestinal GIST pap, tub nothing capecitabine 6 months alive
21 Our case 76 M ascending colon canenr tub2 pancreas bev+FOLFOX 24 months alive

asc: adenosquamous cell carcinoma, pap: papillary adenocarcinoma, tub: tubullar adenocarcinoma, tub1: well-differentiated adenocarcinoma, tub2: moderately-differentiated adenocarcinoma, por: poorly-differentiated adenocarcinoma

Meckel憩室には,胃粘膜や膵組織など異所性組織の迷入がみられることが知られている4).癌の発生母地としてこれらの異所性組織が関与するかについては以前より議論されてきた.Grayら25)は異所性迷入組織がMeckel憩室癌の発生母地であるという説を唱えている.一方で癌と異所性迷入組織を同時に認めない症例も多く,Ewerthら26)は迷入組織がすでに癌に置き換わっている例や炎症などで破壊されてしまっている例も少なくないとしており,癌の発生母地について推察するのは困難であると述べている.平松ら10)は,Meckel憩室癌の発生母地を推測するうえで重要なのは迷入組織と癌組織の移行部を確認することが重要であると述べている.自験例でも異所性膵組織が認められ,癌組織との移行性も確認できたことから,癌の発生母地を異所性膵組織と診断した.CK(サイトケラチン)やMUC(ムチンコア蛋白)は,免疫染色検査にてその起源となる上皮成分の推定に有用であるとされており18)27),特にCK7とCK20の両者の組み合わせはしばしば腺癌などの鑑別に用いられる.自験例では上行結腸癌との鑑別にCKの免疫染色検査を施行した.上行結腸癌ではCK7(−)/CK20(+)である一方,Meckel憩室癌はCK7(+)/CK20(−)であり起源が異なることを確認できた.

Meckel憩室に発生した腫瘍の治療には手術療法が第一選択となる.リンパ節転移も多いことから結腸癌に準じ腸管切除とリンパ節郭清が行われるが,報告数の少なさから腸管切除範囲,リンパ節郭清範囲に関しては一定の見解がない.また,進行例や非根治術例が多いため化学療法が重要となると考えられるが,こちらに関しても定まった治療法はない.これまでの報告では憩室癌の発生母地が異所性胃粘膜であるため胃癌に準じた化学療法が行われていた.自験例は異所性膵組織を発生母地と考え,また術中所見として播種結節を認めたため術後化学療法を勧めたが,本人希望で施行しなかった.肝再発時には病変が結腸癌由来か異所性膵組織由来のMeckel憩室癌由来か判断できなかったために結腸癌,膵癌の両疾患で使用されるオキサリプラチンベースの化学療法を選択した.膵組織由来のMeckel憩室癌は自験例を含めても2例しかなく,化学療法を施行したのは自験例のみしかない.自験例ではBev+FOLFOX療法を選択したが病勢コントロールは困難であった.

腹腔鏡下上行結腸癌手術中に偶発的に発見し切除したMeckel憩室腺癌の1例を経験した.自験例では腹腔鏡下手術の際に播種結節の検索のために通常施行しない小腸の検索を行い,偶発的にMeckel憩室を発見し根治切除できた.

利益相反:なし

文献
 

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